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妻が最初に作るもの

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第三章

「美味しいよ」
「気に入ってくれた?」
「最高だよ、何ていうかね」
「何か?」
「いや、香音ちゃんの料理って」
 その料理の味は、というのだ。
「何か懐かしいね」
「どうしてそう思うの?」
「ううん、味付けがね」 
 それが、というのだ。
「いいね」
「大海さん東京よね」
「そうだよ、東京生まれだよ」
 生まれも育ちもだ。
「こっちだよ」
「だからね」
「東京の味付けにしたんだ」
「それがいいって思って」
「そうなんだ、それでこの味なんだ」
「ゴーヤチャンプルだけれど」
 沖縄料理だ、しかしそれでもというのだ。
「味付けはね」
「東京のなんだね」
「そう、それがよかったみたいね」
「有り難いよ、それに御飯も」
 それもだった、主食のそれも。
「いいね」
「コシヒカリにしたの」
「僕コシヒカリ派なんだよ」
 米はそれだ、大海は。
「だから余計にね」
「気に入ってもらえたのね」
「お味噌もね」
 味噌汁のそれもだった。
「東京のそれで」
「お味噌もそうしたから」
「いいね、これならね」
「これなら?」
「幾らでも食べられるよ」
「有り難う、けれどね」
 幾らでも食べられると言われて喜ばない作った人間はいない、それは香音も同じだ。しかし大海、夫である彼のことを気遣ってこう言った。
「食べ過ぎにはね」
「注意だね」
「そのことは気をつけてね」
「困ったな、そう言われてもさ」
「美味しいから?」
「食べ過ぎてしまうよ」
 そうなってしまうというのだ。
「ついついね」
「食べてしまうのね」
「美味しいからね」
 実際に箸を進めていく大海だった、そして三ヶ月後。
 彼は部屋で香音にだ、苦笑いでこう言った。
「明日からランニングするから」
「ううん、ちょっとね」
「二十キロもだからね」
 でっぷりとなってしまった顔での言葉だ。
「いや、食べ過ぎたよ」
「だからいつも言っていたのに」
「そrでも美味しいからね」
「東京の味が?」
「そう、香音ちゃんの料理がね」
 それがあまりにも、というのだ。
「いいから」
「だからなのね」
「食べ過ぎてね、美味しい料理も考えものだよ」
「もう、オーバーね」
「オーバーじゃないよ」
 それどころか、というのだ。
「本当のことを言ったまでだよ」
「そう言うのね」
 こうしたやり取りを笑ってしてだった、実際に大海は次の日からランニングをはじめた。その彼を笑顔で観ながらだった。
 香音はこっそりと携帯に連絡を入れた、そして相手にこう言うのだった。
「大海君太り過ぎちゃいました」
「そうでしょ、あの子はね」
「本当に東京の味が好きなんですね」
「そうよ、それも昔ながらのね」
「お義母さんが作られるみたいな、ですね」
「そうなのよ、実際にね」
 そうだというのだ。
「和風の、それも昔ながらの東京のね」
「その味が好きなんですね」
「だから香音さんにもアドバイスしたけれど」
 料理の味付けは東京風に、というのだ。もっと言えば江戸風だ。 
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