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吸血蝶

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第一章

                  吸血蝶
 ドミニカ共和国の首都サントドミンゴは観光地としても有名な街である、だが今この街には不気味な噂が広まっていた。
 夜に血を吸われてそれで死ぬのだ、それは現地の人も観光客もだ。
 そうした犠牲者が十人以上になると夜に出歩く者はいなくなった、そして次は野良犬や外に出ているペット、野生動物達がだった。 
 次々と血を吸われて死んでいった、この話を聞いて。
 作家のアーネスト=ミラー=ヘミングウェイは首を傾げさせてだ、弟であるレスターにキーウェストの自宅の中で猫達に囲まれモヒートを飲みつつ言った。
「俺の作風じゃないがな」
「興味を持ったんだな」
「ああ、面白い話だな」
 ヘミングウェイはモヒートを飲みつつだ、レスターに笑って言った。
「こいつは面白いホラーだ」
「そうだな、吸血鬼か」
「実はカリブにも吸血鬼はいるんだよ」
「そういえば吸血鬼の話は世界中にあるな」
 レスターは兄の言葉を聞いてこう返した、彼も作家でありそうしたことは調べたことがあるので知っているのだ。無論ヘミングウェイもだ。
「合衆国にも中南米にもな」
「それでカリブにもな」
「吸血鬼がいてか」
「ああ、それで人の血を吸うんだよ」
 ヘミングウェイは自分の傍に来た黒猫の額を指の先で触りつつ話した。
「夜にな」
「そうなんだな、しかしな」
 レスターもモヒートを飲んでいる、そうしながら兄に言った。
「今回の話はな」
「ああ、人だけじゃないからな」
 犠牲者は、というのだ。
「犬なり何なりとな」
「随分とやられてるぜ」
「普通の吸血鬼じゃないな」
「そうだな、じゃあ何だろうな」
「俺はホラーは書かない」
 ヘミングウェイはレスターににやりと笑ってだ、ここでこう言った。
「それは俺の書くジャンルじゃない」
「しかしだっていうんだな」
「このことについて興味はある」
「真実はどうなのか」
「ああ、だからな」
 それでだというのだ。
「ドミニカに行こうと思っている」
「それでこの事件の真相を突き止めるんだな」
「探偵になろうと思ってるがどうだ?」
「いいんじゃないか?確かに兄貴の小説のジャンルじゃないけれどな」
 レスターはその兄に笑って返した、モヒートを飲みつつ。
「少なくとも今それでサントドミンゴは困ってるしな」
「あそこは楽しい場所で楽しい人達が多い」
 カリブを愛する者としてだ、ヘミングウェイはここでは真顔になった。
「だからな」
「解決したいんだな」
「そうしたい、だから行って来る」
「よし、じゃあ俺もな」
 レスターは兄の今の言葉を聞いてだ、自身も名乗り出た。
「一緒に行かせてもらうな」
「ホラー小説でもいいんだな」
「そういうのもたまにはいいだろ、それに俺もな」
「サントドミンゴが好きだったな、そういえば」
「それにあの街の人達もな」
 ヘミングウェイと同じく、というのだ。
「好きだからな」
「だからか」
「ああ、俺も行かせてもらうぜ」
 こう名乗り出るのだった。
「それでいいな」
「そう言うと思ってたさ」
 これが兄の返事だった。
「じゃあ一緒に行くか」
「真相の究明、それに」
「ああ、俺達はアメリカ人だ」
 だからこそとだ、笑って言うヘミングウェイだった。
「吸血鬼でも何でも悪い奴を見付けたらな」
「人を困らせる様な奴はな」
 見付ければその時はというのだ。
「倒す」
「そうする、いいな」
「ああ、やってやろうぜ」
 兄弟でモヒートを飲み猫達に囲まれつつ笑って話す二人だった、そうして。  
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