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第二章

「まずい、こんなの食う奴の気が知れないとか喚くんだよ」
「店の中でか」
「ああ、そうしてな」
「店の中で暴れるのかよ」
「大暴れするんだよ」
「そりゃ最低の客だな」
「まずいものを出す方が悪いっていう理屈でな」
 そうするというのだ。
「そういう奴がいるらしいぜ」
「日本人は礼儀正しい紳士が多いって聞いたがな」
「全員が全員そうじゃないさ」
 中にはこうした輩もいる、これはどの国の人間も同じだ。
「そうした奴もいるさ」
「そうなんだな」
「それでそうした奴でもか」
「ああ、唸らせてやるさ」
 にやりと笑ってだ、カルロスはフェリペにその右腕を拳にさせて誇らしげに掲げながら言ってみせたのだった。
「俺の料理の味にな」
「言うものだな」
「それは御前のところの酒もだろ」
「ああ、選んでるぜ」
 美味い酒ばかりをとだ、今度はフェリペがにやりと笑って言った。
「とっておきのをな」
「そうだろ、御前は酒だな」
「居酒屋だからな」
 それだけに、というのだ。
「最高の酒を用意してるぜ」
「そうだよな」
「御前が飲んでるその酒もな」
「このワインもだよな」
「ああ、最高の酒だよ」
 まさに、というのだ。
「実際に美味いだろ」
「確かにな、これならな」
 カルロスは実際にそのワインをチーズと一緒に飲んでいた、赤いそれを。
 そうしつつだ、フェリペに対してにやりと笑ってこう言った。
「言うだけはあるな」
「そうだよな」
「この酒ならな」
 まさに、というのだ。
「スペイン一の居酒屋だぜ」
「そう言わせるだけの自信があるさ」
「そうだな、酒は俺が今いる店にも勝ってるさ」
「ただ、料理はだよな」
「御前の料理も悪くないさ」
 フェリペのそれもというのだ、だがだった。
「けれどな」
「料理ならっていうんだな」
「俺が一番だな」
「スペインでか」
「いや、世界でだよ」
 そこまでの域に達しているというのだ。
「俺の目の前にその日本人が出て来てもな」
「暴れさせないんだな」
「ああ、そうしてやるさ」
「その腕今度確かめさせてもらうぜ」
「美味過ぎて他のものが食えなくなるぜ」
 いつもこう返すカルロスだった、そして実際にだった。
 フェリペはカルロスの家に行って彼が作ったその料理を実際に食べてみてだ、いつも驚いてこう彼に言っていた。
「またな」
「腕を上げただろ」
「前以上にな」
「そうだろ、世界一だろ」
「本当にそうかも知れないな」
「馬鹿、そこでその通りだって言えよ」
「御前の料理は世界一ってか」
 今はスペイン料理だ、その肉や野菜を使ったそれを食べつつだ。フェリペはカルロスに応えるのだった。
「そう言えって言うんだな」
「本当のことをな」
「その自信は相変わらずだな」
「それだけのものがあるからな」
 こう言うというのだ。
「御前もそう思うだろ」
「だからそうかも知れないって言っただろ」
「その通りだって言えよ」
「いやいや、言うだろ」
「上には上か」
「それが世の中だからな」
 それで、というのだ。 
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