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ひとかけらのエメラルド

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第一章

                  ひとかけらのエメラルド
 好きな宝石は何か、私は彼に不意に尋ねられた。
 その問いを受けてだ、私は彼に少しぶっきらぼうに答えた。
「何でもいいわ」
「何でも?」
「ええ、何でもね」
 こう答えた。
「宝石はね」
「興味はあるよね、宝石に」
「一応ね。けれどね」
「それでもなんだ」
「どれが好きかて聞かれると」
 それはだった、実際に。
「これといってね」
「ないんだ」
「どの宝石も好きよ」
「ダイアもトルコ石も」
「勿論他の石もね」
「そうなんだね、君は」
「ええ、若しかしてプレゼントしてくれるつもりかしら」
 このことはわざと微笑んで彼に尋ねた。
「そうしてくれるのかしら」
「そうだって言えばどうなのかな」
「喜んでよ」
 私は微笑みのまま彼に答えた。
「貴方からのプレゼントなら」
「そう言ってくれて何よりだよ。けれどね」
「けれど。何かしら」
「何かしらじゃなくて何でもいって言われるとね」
 これが、というのだった。
「かえって困るね」
「だから何でもいいのよ」
「本当に何でもいいんだね」
「ええ、それはね」
「それならちょっと考えておくよ」
 彼は真剣に考える顔になって私にこうも言ってきた。
「何をプレゼントするか」
「期待していていいのかしら」
「是非共。じゃあ一ヶ月後ね」
 その時にとだ、彼からそのプレゼントしてくれる日を言ってきた。
「楽しみにしておいてね」
「一ヶ月後っていうと」
 私はその一月後がどういう月かすぐに思い出した、その月には。
「私の誕生日じゃない」
「だからその日にね」
「随分と演出に凝ってるわね」
 微笑みをさらに深くさせてだった、私は彼に言葉を返した。
「貴方らしくない感じだけれど」
「そうかな」
「そう思うわ、けれど来月の誕生日に」
「うん、楽しみにしておいてね」
「そうさせてもらうわ」
 こう話してだった、そのうえで。
 私は暫く待った、その誕生日まで。とはいってもその間も私と彼は毎日会っていた。けれどお互いにだった。
 そのことについては言わなかった、何も。
 それでこの日もだ、私は夜彼と一緒に夜の街を歩いていた。
 繁華街はいつも通り賑やかだ、光も様々な色がある。
 その中の赤や青の光を見ても楽しかった、特に。
 緑の光を見てだ、私は微笑んで彼に言った。
「赤や青の光も好きだけれど」
「一番好きなのは」
「緑よ」
 こう彼にも答えた。
「私はね」
「君は他でもだよね」
「ええ、好きな色はね」
「緑だよね」
「落ち着く色だから」
 見ているだけでだ、よく言われることだけれど緑は木の色で目にもいい感じがする。それで私もこの色が好きだ。
 それでだ、彼にもいつも言っていた。 
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