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七夕のラプソディー

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第七章


第七章

「そういうことだからね」
「わかったわ。それじゃあ」
 母の今の言葉にも頷く麻美だった。
「御飯食べたらすぐにね」
「そうしなさい」
 そう話して御飯を食べ終えてすぐにお風呂に入るのだった。幸い入浴中に破天荒な来訪者は来なかった。その頃破天荒な来訪者となる男は何をしていたかというと。
 相変わらず全速力で自転車で駆けている。その速さは収まるところがない。 
 その右肩に派手に飾った大きな竹を持ったまま駆けていく。そして橋の上に来たところで。
「見えた!」
 いきなり叫びだしたのである。
「翼よ、あれが姫の灯だ!」
 翼なぞ持っていなくともそれが見えているのである。
「いざ、あの灯へ!」
 こう叫んでさらに足を速める。そして遂に。
 跳んだ。白い満月にそのシルエットが浮かぶ。自転車に乗り竹を持ったまま天高く舞うその姿がだ。月の中に映ったのであった。 
 そのまま跳び麻美の家に着いた。何と天を舞いそのうえで家の庭に着地したのである。
「まさか」
 ここで丁度お風呂から出て着替え終えた麻美は庭から聞こえてきた凄まじい衝撃音で察したのだった。
「来たのね」
「姫!」
 間違いなかった。この呼び掛けが何よりの証拠であった。
「何処におられる!姫!」
「姫じゃないわよ」
 まずはそう突っ込みを入れる彼女だった。何とか上着を着てスカートもはく。着たばかりなので服に乱れはないのか確かめたうえで庭の方に向かうのだった。
 するとだった。自転車に乗った彼がいた。その右肩には竹を持っている。
「姫、参上つかまつった」
「姫っていうとまさか」
「そう、今宵は七夕」
 やはり話の根拠はそこにあった。夜の庭に出て来た麻美に対して告げてきていた。
「だから織姫に対して」
「私が織姫なのね」
 それはもう嫌になるまでにわかった。言われずともだ。
「つまりは」
「その織姫に捧げるものは」
「何なの?彦星さん」
 呆れながらも彼を受け止めて合わせる麻美だった。
「それで」
「これを」
 自転車からゆっくりと降りてだ。そのうえで今まで右肩に持っていた竹を両手に持って。そのうえで麻美に対して捧げてきたのである。
「どうぞ」
「竹がプレゼントなの」
「小宵は七夕」
 またここでこのことを言う。
「だからこそこの竹を」
「私へのプレゼントなのね」
「嫌だったら」
「いいわよ」
 微笑んで彼に返すのだった。
「それ、弘樹君のお家から持って来てくれたのよね」
「左様」
 まさにその通りだと答える彼だった。
「持って来た。これを」
「弘樹君のお家から私のお家まで随分とあるけれど」
 彼女もよく知っていた。彼の家まで行ったことも何度かあるからだ。だからよく知っているのである。
「そこからわざわざ持って来てくれたんだし。私の為に」
「有り難う」
 微笑んで彼に告げた言葉である。
「持って来てくれてね」
「受け取ってくれるのか、これを」
「だから有り難う」
 この言葉に全てが集約されていた。
「私の為にね」
「かたじけない」
 このことを心から喜ぶ弘樹だった。
 
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