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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  049 スレイプニィルの武踏会 その1

SIDE 平賀 才人

夏休みが終わった。……だがしかし、終わりがある様に始まりもある。……まぁ無駄な修飾を付けずに、簡潔に云うのなら──学院での授業が再び始まった。

……トリステイン魔法学院には夏休みの宿題──所謂〝夏休みの友〟やら〝夏の生活〟みたいなものは無いらしく、宿題に後を追われる事もなく──宿題を終わらせる事が出来なかった者特有の悲壮感を持つ生徒も居なく、生徒の各々は悠々自適と実家等で羽を伸ばしてきたらしい。

「今日の舞踏会、楽しみね」

「だな。……さてさて一体俺は誰に〝なる〟ことやら」

ルイズのどことなく楽し気な呟きに口少なに応える。……このトリステイン魔法学院では年に2回の大きな催しがあり、その日は割と大きなパーティーが開催される。数ヶ月前の〝フリッグの舞踏会〟なんかもそうだし、今日に行われる〝スレイプニィルの舞踏会〟なんかも先に述べた〝大きな催し〟になる。

……ちなみに〝スレイプニィルの舞踏会〟は新入生の歓迎パーティーの意味合いとして行われた〝フリッグの舞踏会〟とは少々違った催しとなっている。……“真実の鏡”と云う覗きこんだ者の心の奥深くに存在する、〝その人間の最も憧憬を抱いている姿〟に変身させるマジック・アイテムで〝変身(おめかし)〟をするらしい。……専らルイズやユーノから又聞き情報だが…。

(まぁ、多分〝あの人〟だろうなぁ…)

〝その人間の最も憧憬を抱いている姿〟…。それを色々考えた末、十中八九誰に変身するかは予測が出来た。……が、それはそれとてこの〝スレイプニィルの舞踏会〟を楽しみにしていたりする。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……疲れた…」

「お疲れ、サイト」

「お疲れ様です」

俺の吐くように零れた呟きにルイズとユーノが労ってくれる。舞踏会が始まってから、ユーノを始めとしてルイズ…それから他の女子生徒のダンスを相手した後、なんだか精神的に疲れたのでテラスで一息吐く事にした。

……俺が変身したのはやはりと云うべきか、かのアルビオンの名君にして俺の親友である、ウェールズ・テューダーだった。……ちなみにルイズがカトレア様で、ユーノは意外や意外。マチルダさんだった。……他の貴族子女はアンリエッタ姫が多かったか。

閑話休題。

――~♪ ~~♪ ~~~♪

「っ! 来たかっ! サイト、〝解呪〟を! 今すぐ!」

「あ、ああっ! ……“ディスペル”!」

ユーノとルイズでテラスにて歓談をしていると、普段のチャイムとは違う鐘の音が聞こえた。……俺はユーノの叫びとも取れる言葉で、ほぼ反射的に〝解呪〟の虚無魔法を、一小節だけの──ほぼ無詠唱での〝解呪〟を唱える。

「……ちょっ、なんなのよ〝これ〟は!?」

「ルイズ、よく聞いて。……これは多分、この魔法学院にある“眠りの鐘”を使っての襲撃で、狙いは恐らくサイトか──」

「私ってことね?」

――「ええ、概ねその通りよ」

ほぼ同時のタイミングで次々と昏倒していくホールの人々を見て、尋常ではない状態にパニクっているルイズに、ユーノが現状をルイズにも判りやすく説明しようとしていると、いきなり聞き覚えの無い声に声を掛けられた。……その声の方向を見遣れば、今度は逆に見覚えの〝ある〟ローブを羽織り、フードを深く被っている人形(ヒトガタ)が在った。

「……やはり効かなかったようね。……相変わらず忌々しいっ…」

ぎりり、と歯軋りが、深く被られているフードの向こうから聞こえた。……その人形(ヒトガタ)はフードを深く被っているので眼や表情こそ見えないが、その態度や声音からは俺への敵愾心はありありと感じ取れる。

(……こいつ、どこかで…)

身に覚えの無い敵愾心を不審に思いながらも記憶を探る。

(……あ、思い…だした!)

「……お前、ラグドリアン湖の水の精霊から“アンドバリの指輪”を盗んだメンバーの1人だな。……名前は確かシェフィールドだったか?」

「へぇ、そこまで判るんだ。……正解よ。私の名前はシェフィールド。確かに“アンドバリの指輪”も私が盗んだわ。……〝あれ〟どこにやったの? クロムウェルとか云うオモチャに持たせたっきり、〝私の〟下に未だに帰ってきてないんだけど」

「……まるで自分の物の様に言うんですね」

人形(ヒトガタ)──シェフィールドは鼻を鳴らしながら俺の問いに肯定の意を示し、シェフィールドの言葉に違和感を抱いのであろう…。……ユーノがツッコむ。

……更に、ダメ押しとばかりにもう1つ確信した事もある。

(“アンドバリの指輪”を盗んだのこいつ。更にはクロムウェルとの関連も自吐している。……なら、こいつは十中八九レコン・キスタのメンバーか。……それなら話は早い──)

「何よ、あなた! こんな事してタダで済むと思ってるの!? 大体──っ?」

「“ラリホー”…。……悪いなルイズ、こいつには幾つか聞きたい事が有るんだ。その間少しだけ眠っててくれ」

ルイズの言う事も御尤もの事だが、現状では些かややこしくなりそうだったので、出の早い──長ったらしいルーンを必要としない【ドラクエ】式の魔法で、未だに現状を掴み切れてないであろうルイズを手早く眠らせる。

「……小煩い主を眠らせたか。今のこの場合〝では〟賢明な判断だったと言っておくわ…。……ちなみに更に賢明になりたいなら、その場から動かない方が良いわよ?」

「……理由を聞いても?」

俺に眠らされ、糸が切れた操り人形様にテラスの床に臥せそうになるルイズを俺が優しく抱き止めると、シェフィールドは含みを持たせる様なニュアンスを混ぜて言う。……俺はそんなシェフィールドの真意を探ろうと、シェフィールドの神経を逆撫でにしない様──言葉を選びながら慎重に訊ねる。

「……このホールの至るところに火石を核とした爆弾の様な代物が仕掛けてあるわ。……出来る事なら、私は〝大量〟殺人犯にはなりたくないの。それに、こんな些細な事で〝あの方〟にも手を煩わせたくはないし…。……さぁ会話もこれでおしまい。二人共目を瞑りなさい。声も出さない事ね。……このホールを阿鼻叫喚の惨状にしたかったら話はまた違ってくるけど」

「「………」」

ユーノとアイコンタクトを取り、互いに頷いて俺は──恐らくユーノも目を閉じる。……“答えを出すもの(アンサートーカー)”で軽く調べてみたが、本当にこのパーティーホールを爆破出来る程度の爆弾が仕掛けて在ったからである。

……もちろん、のうのうとシェフィールド(テロリスト)の言葉になんてタダで従ってやる訳でもない。……シェフィールドには判らない様、出来るだけ早く無色透明の〝霧〟をホールへと撒き、ホールを──ワケも判らず未だに眠りこけている舞踏会の参列者達を守る。

(……この気配、タバサ?)

ホールに〝霧〟を撒いていると、割と知っている気配が現れた。……タバサはシェフィールドが〝居た〟場所に近付くと、そこで留まる。……小声でよくは判らないがタバサはシェフィールドから指示を仰いでいる様に感じた。

(……『──から、貴女は栗毛の方を抑えなさい。……生死は問わないわ』…?)

今出来る方法で情報を集めようと、仙術で聴力を強化。前半はあまり聞こえなかったが、後半ははっきりと聞き取る事が出来た。……聞き逃せないワードも聞こえた〝栗毛〟…。恐らくはユーノの事だろう。

(ん…?)

違和感。その違和感の正体を考えてみる。

(タバサの気配しかない…?)

漸く違和感の正体に気付く。タバサは間違いなくそこに存在しているシェフィールドから指示を仰いでいる。……だがそこには、タバサの気配しか無かった。つまり、〝シェフィールドの気配はそこには存在していない〟──即ちシェフィールドはそこに存在していないことになる。

(……落ち着け落ち着け。少なくともあのシェフィールドに〝影〟は在った──気がするし、ルイズとユーノも、反応からしてシェフィールドの事を認識していた)

……それは、物理的な干渉が難しそうな幽霊とかホラー・オカルトの類いでは無いという事である。……尤もファンタジーを〝ファンタジー〟足らんとする最有力概念の、〝魔法〟や〝メイジ〟なるモノが往来に存在しているハルケギニアでホラーやオカルトなど、そんな事を気にしても馬鹿らしい事ではあるが。

(……まぁ、十中八九〝アルヴィー〟──“スキルニル”だな)

……と、シェフィールドの正体──と云うよりは謎について、色々と推測していると──

「……さて…と…。そろそろ私は撤退するわ。……サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール──貴方のご主人様は私が預かるわ。追いたければ追って来るがいいんじゃないかしら。……ああ、そうそう。云うまでも無い事だとは思うけど1人で来る事。さもなければ愛しのご主人様に一生治らない傷が付くかもしれないわね」

「……っ!?」

目を閉じているからよくは判らないが、抱き止めていたルイズが何者か──否、〝何か〟に引ったくられる。先程のシェフィールドの言を含めるならば、恐らくその正体はシェフィールドだと容易に推測出来る。

「〝7番〟はここで待機。……あぁ、〝栗毛〟の彼女が追って来る様なら足止めしなさい。……後それと、これは〝置き土産〟よ」

――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

シェフィールドの言葉の後に、パチンッ、とフィンガースナップの様な音が聞こえた。

……その数秒後だった。連鎖する地響きの様な爆発音が聞こえたのは。

「……ルイズ…?」

地響きの後、目を開ける。……そこにルイズの姿は無かった。

SIDE END 
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