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女は皆そうする!?

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第六章


第六章

「私はいいから」
「それじゃあ」
 こうして政行は恵子自身でそのことを確かめたのであった。そして次の日。皆昨日のオペラの話をまたしていた。彼もそこに来たのである。
「ああ、浅原よ」
「御前はどう思うんだ?」
「俺かい?」
 こう登校してきた彼に対して皆で問うてきたのである。
「昨日のオペラな」
「コンナコトナラシナケレバのことだよ」
「コシ=ファン=トゥッテだよ」
 一人が間違えてもう一人が突っ込み返す。
「何か間違えやすいタイトルだけれどな」
「っていうか覚えにくいぞ」
 こんな話の後であった。話が再開された。
「まあとにかくな」
「昨日のあのモーツァルトのオペラな」
「あれどう思うんだ?」
 その話をするのであった。
「あれってよ。どうなんだ?」
「女って皆ああなのか?」
「御前はどう思うんだ?」
「そうなんじゃないかな」
 まずは微笑んでこう述べた政行だった。
「それはさ」
「おい、そうなのかよ」
「女ってやっぱりそうなのかよ」
「浮気者なのか?」
 皆彼の言葉を聞いて焦った様な顔になった。狼狽さえ見せている。
「男はああして振り回されて」
「悲惨な目に遭うのかよ」
「けれどそれだけじゃないよ」
 しかしここで政行は笑ってこうも言うのであった。
「それだけじゃね」
「えっ、それってどういうことなんだよ」
「それってよ」
 皆彼の今の言葉を聞いて今度は混乱した顔になった。
「それだけじゃないってよ」
「浮気するんじゃないのか?」
「浮気するのは男だって同じだし」
 彼はここでは昨日のフィガロの結婚のことを思い出していた。そのうえで皆に対して言っているのである。それはかなりはっきりとした言葉であった。
「それにさ」
「それに?」
「何だよ、それにって」
「女の子の中には一途なものもあるよ」
 こうも言うのである。
「ちゃんとね」
「浮気するんじゃないのか?」
「だからコレカラドウナッチマウンダって」
「コシ=ファン=トゥッテだよ。いい加減に覚えろ」
 同じ人間が間違えて同じ人間が突っ込みを入れている。どうも人によってはかなり覚えにくいタイトルのオペラであるようである。
「ああ、それでな」
「話を戻してな」
「ああ」
 この間違いは置いておかれてまた話されるのであった。
「女は皆そうする」
「そうじゃないのか?」
「だからそれは一面なんだって」
 政行はにこにことして皆にこう話すのだった。
「あくまでさ。一面だけなんだって」
「一面だけって」
「じゃあ浮気するのも一途なのも女ってことかよ」
「そうだよ。それは人と時と場合によっても違うしね」
 一つだけではないというのである。
「一概には言えないよ」
「そうなのか」
「そんなものか」
「そうだよ。断言はできないよ」
 こう達観した様な言葉で答えるのだった。
「中々ね」
「何か随分わかった様なことを言うな」
「?ひょっとして御前」
「昨日だけれどよ」
「まさか」
 皆ここで政行のことに築いたのだった。この辺りは中々察しがいい。
「清浦の家で」
「あいつと」
「それでか?」
「ははは、それはさ」
 これまでよりさらに強く笑っての言葉であった。
「まあ内緒ってことでね」
「ちっ、これだから彼女持ちはよ」
「顔だってつやつやしてるしよ」
「羨ましい奴だぜ」
 こう言ってさも羨ましそうに言う面々だった。実際にその言葉には嫉妬が混ざっている。
「まあそういうものなんだな」
「女は皆そうする」
「これって一面でしかないんだな」
 皆このことをあらためて確かめるのだった。
「つまりは」
「そういうことか」
「そういうことだよ。男だって同じだしね」
 またこう言う政行だった。
「だからね。そんなに決め付けることはないよ」
「そうか、それだったらな」
「それでな」
 こう割り切ることにした男達だった。そしてここで。
 政行を後ろから呼ぶ声がした。その声の主は。
「工藤」
「ああ、清浦」
 恵子だった。彼は笑顔でその声の方に振り向く。するとそこに彼女が立っている。
「いいかな」
「うん、何かな」
 笑顔で彼女の方に向かう。女は皆そうする、されど女は一途でもある、そうした矛盾することがわかった話であった。ささやかであるがかなりの大騒動もこれで終わった。


女は皆そうする!?   完


                 2010・1・14
 
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