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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第3部 始祖の祈祷書
  第4章 三つ巴の探り合い

魔法学院の東の広場、通称『アウストリ』の広場のベンチに腰掛け、ルイズは一生懸命に何かを編んでいた。

春の陽気が、いつしか初夏の日差しに変わりつつある今日だが、ルイズの格好は、春の装いとあまり変わらない。

この辺は夏でも乾燥しているのだった。

アルビオンから帰ってきて十日ばかりが過ぎていた。

今はちょうど昼休み。

食事を終えたルイズはデザートも食べずに広場へやってきて、こうやって編み物をしているのだった。

ときおり、手を休めては『始祖の祈祷書』を手に取り、白紙のページを眺めて、姫に相応しい詔を考える。

周りでは、他の生徒がめいめいに楽しんでいる。

ボールで遊んでいる一団がいた。

魔法を使い、ボールに手を触れずに木に吊り下げた籠に入れて、得点を競う遊びだ。

魔法バージョンのバスケットボールみたいなものである。

ルイズはその一団をちらっと眺めたあと、切なげに溜息をついて、作りかけの自分の作品を見つめた。

はたから見るとその様子は、一幅の絵画のようだった。

ルイズはほんとに、黙って座っているだけで様になる美少女なのである。

ルイズの趣味は編み物である。

小さい頃、魔法がダメならせめて器用になるように、と母に仕込まれたのであった。

しかし、天はルイズに編み物の才能は与えなかったようである。

ルイズは一応、セーターを編んでいるつもりであった。

しかし、出来上がりつつあるのはどう贔屓目に見ても捻じれたマフラーである。

というか複雑に毛糸が絡まりつつあったオブジェにしか見えない。

ルイズは、恨めし気にそのオブジェを眺めて、再び溜息をついた。

あの、厨房で働くメイドの顔が目に浮かぶ。

彼女が、ウルキオラに紅茶とケーキを振る舞っているのをルイズは知っていた。

あの子はご飯が作れる。

キュルケは美貌がある。

じゃあ、自分には何があるのだろう。

そう思って、趣味の編み物に手を出してみたのだが……、あまりいい選択ではなかったようだ。

そんな風に作品を眺めて軽い鬱に入っていると、肩を誰かに叩かれた。

振り向くと、キュルケがいた。

ルイズは慌てて、傍らにおいた始祖の祈祷書で『作品』を隠した。

「ルイズ、何してるの?」

キュルケはいつもの小ばかにしたような笑みを浮かべ、ルイズの隣に座った。

「み、見ればわかるでしょ。読書よ、読書」

「でも、その本真っ白じゃないの」

「これは『始祖の祈祷書』っていう国宝の本なのよ」

ルイズは説明した。

「何でそんな国宝をあなたが持ってるの?」

ルイズはキュルケに説明した。

アンリエッタの結婚式で、自分が詔を詠みあげること。

その際、この『始祖の祈祷書』を用いることなど。

「なるほど」

キュルケはそう言って始祖の祈祷書のを見つめた。

「ところで、さっきまで何を編んでいたの?」

ルイズは、頬をバラ色に染めた。

「な、何を編んでなんかないわ」

「編んでた。ほら、ここでしょ?」

キュルケは、さっと始祖の祈祷書の下から、ルイズの作品を取り上げた。

「か、返しなさいよ!」

ルイズは取り返そうとするが、キュルケに手で頭を押さえつけられてしまった。

「こ、これなに?」

キュルケはぽかんの口を開けて、ルイズの編んだオブジェを見つめた。

「セ、セーターよ」

「セーター?ヒトデのぬいぐるみにしか見えないわ」

「そんなの編むわけないじゃないの!」

ルイズはキュルケの手から、やっとの思いで編み物を取り返すと、恥ずかしそうに俯いた。

「あなた、セーターなんか編んでどうする気?」

「あんたに関係ないじゃない」

「いいのよルイズ。私はわかってるわ」

キュルケは、再びルイズの肩に手を回すと、顔を近づけた。

「ウルキオラになにか編んでいるんでしょう?」

「あなたってほんとにわかりやすいのね。好きになっちゃったの?助けてもらったから?」

ルイズの目を覗き込むようにして、キュルケは尋ねた。

「す、好きなんかじゃないわ。あんな奴…す、好きなのはあんたでしょ?」

「あのねルイズ。あなたって嘘つくとき、耳たぶが震えるの知ってた?」

ルイズははっとして耳たぶをつまんだ。

すぐに、キュルケの嘘に気付き、慌てて手を膝の上に戻す。

「と、とにかく、あんたになんかあげないんだから。ウルキオラは私の使い魔なんだからね」

キュルケはにやっと笑って言った。

「独占欲が強いのはいいけれど、あなたが今心配するのは、私じゃなくってよ?」

「どういう意味よ」

「ほら……、なんだっけ。あの、厨房のメイド」

ルイズの目が吊り上った。

「あら?心当たりがあるの?」

「べ、別に……」

「今、ヴィストリの広場に行ったら、面白いものが見られるかもよ?」

ルイズはすくっと立ち上がった。

「好きでもなんでもないんじゃないの?」

楽しげな声で、キュルケが言うとルイズは、「ちょ、ちょっと運動するだけよ!」と怒鳴って、ヴィストリの広場に駆けだした。




ウルキオラは、昨日と同じようにヴィストリの広場にある椅子に座り読書をしていた。

図書室でタバサに勧められた本である。

『イーヴァルディーの勇者』という本である。

ウルキオラも自分のルーンと同じ名だったので、読んでみることにした。

なんでも、有名な本らしい。

既に半分ほど読み終えていた。

ウルキオラは、俺の存在とはまるで違うなと思いながら読み続けている。

まず、この本の主人公は人間である。

ウルキオラは虚なので、種族の時点で異なっている。

そして、この主人公は魔法を使うことができない。

ウルキオラは霊力を持ち合わせているので、魔法と同じようなことができる。

似ている点といえば、剣を持ち戦うことと、この世界では平民であることぐらいである。

そんな風に、読書していると、シエスタが紅茶の入ったポットとカップ、ケーキをお盆に乗せてやってきた。

先ほどまで、向かいの椅子にシエスタが座っていたのだが、「お飲み物を持ってきますね」といって走り去って行ったのだ。

シエスタはお盆をテーブルの上に置き、椅子に腰かけた。

ポットに入った紅茶を、カップに注ぐ。

そして、ウルキオラの前に、ケーキと一緒に置いた。

「お待たせしました~」

シエスタは満面の笑みで、ウルキオラに言った。

ウルキオラは本から視線を外さずに、紅茶の入ったカップを手に持った。

一口啜ってテーブルに戻す。

そんなことを二、三回繰り返した。

「あ、あの」

シエスタは俯きながら言った。

ウルキオラは本から視線を離し、シエスタを見つめる。

「なんだ?」

「その、最近ウルキオラさん厨房に来ないじゃないですか……どうしてかなー、と思って」

シエスタはもじもじしながら答えた。

その仕草は、はたから見るととても可愛らしい。

しかし、ウルキオラがそんな感情を抱くわけもなく、再び紅茶を啜った。

「最近、ルイズに無理やり食堂に連れて行かれるからな」

「そうだったんですか?最近私、先生方のテーブルの給仕ばっかりしていたから、気づきませんでした。じゃあ、余計なお世話でしたか?」

シエスタは、しゅんと項垂れた。

「そんなことはない。こうして紅茶を持ってきてくれるのはありがたいことだ。これからも頼む」

シエスタはウルキオラの言葉に、ばっと顔を上げた。

「本当ですか?」

「嘘を言ってどうする」

シエスタの顔が輝いた。

「じゃあ、これからも持ってきますね!」




テーブルの上に、ケーキと二つのカップ、それにポットが置かれている。

ウルキオラはケーキをフォークで崩し、口に運んだ。

甘い味がウルキオラの口に広がる。

「おいしいですか?」

シエスタが、尋ねてくる。

「ああ」

ウルキオラはそっけない返事をした。

しかし、嘘ではなかった。

「えへへ、嬉しいです。それ、私が作ったんです」

シエスタは、はにかんだ表情で言った。

「そうか」

「ええ、無理言って、厨房に立たせてもらったんです。でも、こうやってウルキオラさんが食べてくれたから、お願いした甲斐がありました」

ウルキオラは、昨日のシエスタの言葉を思い出した。

その本意を聞いてみようと思った。

しかし、その前にシエスタが口を開いたので聞くことができなかった。

「あのね?私の故郷も素晴らしいんです。タルブの村っていうんです。ここから、そうね、馬で三日くらいかな……。ラ・ロシェールの向こうです」

ウルキオラはケーキを口に運びながら、相槌を打った。

「ほう」

「何にもない、辺鄙な村ですけど……、とっても広い、綺麗な草原があるんです。春になると、春の花が咲くの。夏は、夏のお花が咲くんです。ずっとね、遠くまで、地平線の向こうまでお花の海が続くの。今頃、とっても綺麗だろうな……」

シエスタは思い出に浸るように、目を瞑って言った。

「私、一度でいいから、あのお花の海の上を飛んでみたいな」

シエスタは空を見上げて言った。

「そうだ!」

シエスタは、胸の前で、手を合わせて叫んだ。

ウルキオラは驚いて、本から視線を外した。

「どうしたいきなり」

「ウルキオラさん、私の村に来ませんか?」

「何故だ」

「あのね、今度お姫様が結婚なさるでしょう?それで、特別に私たちにお休みが出ることになったんです。でもって、久しぶりに帰郷するんですけど……。よかったら、遊びに来てください。ウルキオラさんに見せたいんです。あの草原、とってもきれいな草原」

「ああ」

ウルキオラは相槌をすると、紅茶を啜った。

「シエスタ」

「はい?なんでしょ?」

いきなりウルキオラに名前を呼ばれたので、シエスタはきょとんとした。

「昨日の言葉はどういう意味だ?」

ウルキオラは先ほどの思ったことを聞いてみようと思った。

「昨日…の?」

「一番素敵なのは俺だといったろう?あれは、どういう意味だ」

ウルキオラの言葉にシエスタは顔を真っ赤にした。

それから、もじもじしながらウルキオラをちらちらと見た。

「あ、あれは……その…」

「昨日、一日中考えていたがまったくわからなかった。デルフに聞いても何も答えないしな」

ウルキオラはデルフの切っ先部分の鞘を叩きながら言った。

シエスタは何かを決心したかのような顔をした。

そして、テーブルに身を乗り出し、真っ赤な顔をウルキオラに向けた。

「こ、こういう意味です!」

そう言ってシエスタはウルキオラの唇に自分の唇を近づけた。

ウルキオラは目を見開いた。

理由を聞いているのに、いきなり接吻されたので、驚いてる。

やがて、ウルキオラの唇からシエスタの唇が離れた。

シエスタの顔は茹で上がった蛸みたいに、真っ赤に染めあがっていた。

「シエスタ…?」

ウルキオラはシエスタを見て、一言呟いた。

すると、シエスタの後ろに見慣れた桃色がかったブロンドの髪の少女が目に入った。




「ルイズ」

ウルキオラの言葉にシエスタは後ろを振り向いた。

そして、慌てて立ち上がり、ルイズにペコリと頭を下げた後、そそくさと走り去ってしまった。

「どうした?」

ウルキオラはこれまた感情の籠っていない声で言った。

「な、何してんのよ。あんた」

ルイズの声は震えていた。

おまけに体も震えている。

「紅茶を飲んでいるだけだが?」

ウルキオラはそんなルイズの様子を気にも留めずに、紅茶を啜った。

ルイスがウルキオラの座る椅子に近づいてくる。

そして、目の前のテーブルをバンっと叩き、ウルキオラを睨みつけた。

「キ、キ、キ……」

ルイズは体が震えているせいか、うまく口が開かなかった。

「木?木がどうかしたのか?」

ウルキオラは周りの木を見回した。

しかし、別に何もない。

ウルキオラは再びルイズに視線を移した。

すると、ルイズは目から、涙がポロリと落ちた。

「何故、泣いている?」

ウルキオラはルイズが泣いている理由が全く分からなかった。

「もういい」

ルイズはきっとウルキオラを睨んだ。

「何がいいんだ?」

ウルキオラは尋ねた。

「クビよ」

「なんだと?」

「あんたなんかクビよ!私の使い魔なんかじゃないわ!」

ウルキオラもさすがにこの言葉にカチンときた。

「勝手に召喚しておいて、クビとは横暴にもほどがあるんじゃないのか?」

ウルキオラはルイズをじっととした目で見つめた。

「うるさい!うるさい!うるさ~い!クビよクビ!あんたなんかその辺で野垂れ死んじゃえばいいのよ!」

ルイズは涙でぐちゃぐちゃになった顔で言った。

「わかった」

ウルキオラは冷徹な声で言った。

「あんたなんか、大っ嫌い!!」

ルイズはそう言って、足早にウルキオラの元から去って行った。




ルイズは、部屋に戻ると、ベッドの上に倒れこんだ。

毛布を引っ掴み、頭から被った。

ひどい、とルイズは思った。

「今日だけじゃないわ。昨日もあそこでああやってあの子といちゃいちゃしてたんだわ。あんなことしてたんだわ。学院長に椅子とテーブルを頼んだのもきっとそのためだわ。許せない」

ルイズは唇をかんだ。

あのとき確かめようと思った気持ちは、嘘で塗り固められていたのだ。

涙がぽろっと溢れて、頬を伝った。

「何よ、なんなのよ…」

自分に言い聞かせるように、ルイズは何度も呟いた。




ウルキオラがルイズの使い魔をクビになってから、三日が過ぎた。

ヴェストリの広場の片隅で、見慣れないテーブルと椅子を見つけたのは、ヴェルダンデを捜していたギーシュだった。

ギーシュは何故、こんなところにテーブルと椅子があるのだろう、と思った。

そして、その椅子にはウルキオラが座っていた。

「ギーシュか」

「何をしているんだい?こんなところで」

ギーシュはウルキオラの座る椅子に近づいた。

すると、ウルキオラの横から愛する使い魔がぴょっこり出てきた。

「ヴェルダンデ!ここにいたのか!」

ギーシュはすさっ!と立膝になり、巨大モグラに頬ずりした。

モグモグ、と巨大モグラは嬉しそうに鼻をひくつかせた。

「お前は相変わらずだな、ギーシュ」

ウルキオラはギーシュを軽蔑した目で見つめている。

「当り前だろう。主人と使い魔は切っても切り離せない存在なのだ」

ギーシュはそんなウルキオラの目を全く気にせずに大声で笑いながら言った。

巨大モグラもまんざらでもない様子である。

「そうか」

ウルキオラはどこか遠くを見つめるような目で言った。

そんなウルキオラの様子をギーシュは怪訝に思った。

「ルイズと何かあったのかね?」

ギーシュの言葉にウルキオラは目を見開いた。

「どうしてそう思う」

「ルイズが最近授業に出ていないのでね。何かあったのかと思ったのさ」

ギーシュはそういいながら、ウルキオラの向かいにあった椅子に腰かけた。

「そうか」

「何があったんだい?喧嘩でもしたのかい?」

ウルキオラはギーシュに相談することにした。

あんだけ女癖が悪いギーシュなら、何かわかるかもしれないと思ったからだ。

「実はな……」

ギーシュはウルキオラに変に信頼されたとは思いもせずに、ウルキオラの話を真剣に聞いていた。




さて一方、こちらはルイズの部屋である。

この三日間、ルイズは、気分が悪いといって授業を休んでベッドに潜り込み、もんもんとしていた。

考えているのはクビにした使い魔のウルキオラのことである。

部屋の片隅を見ると、ウルキオラが座っていた椅子がある。

それを見てると、ルイズは悲しくなった。

そんな風にしていると、ドアがノックされた。

ウルキオラが戻ってきたのだ、と思った。

悲しみが喜びに変わる。

それから喜びに怒りを感じる。

なんで喜んでるのよ、私。

なによ、今さら戻ってきたって入れてあげないんだから。

ドアがガチャリと開いた。

ルイズはがばっと跳ね起きて、怒鳴った。

「ばか!今さら……、え?」

入ってきたのは、キュルケであった。

燃えるような赤毛を揺らし、キュルケはにやっと笑った。

「私で、ごめんなさいね」

「な、なにしに来たのよ」

ルイズは再びベッドに潜り込んだ。

つかつかとやってきて、キュルケがベッドに座り込んだ。

がばっと毛布をはいだ。

ルイズは、ネグリジェ姿のまま、拗ねたように丸まっている。

「あなたが三日も休んでいるから、見に来てあげたんじゃない」

キュルケは呆れたような、溜息をついた。

さすがに良心が痛む。

まさか、食事の現場を見たくらいで、本当にクビにしてしまうとは思わなかったのだ。

喧嘩になって、二人の仲がちょっと離れればいいぐらいに思っていたのだが、ルイズの初心さ加減はキュルケの想像を超えていた。

「で、どーすんの。使い魔追い出しちゃって」

「あんたに関係ないじゃない」

キュルケは冷たい目で、ルイズを見つめた。

薔薇のような頬に、涙の筋が残っている。

どうやら泣いていたようだ。

「あなたって、馬鹿で嫉妬深くて、高慢ちきなのは知ってたけど、そこまで冷たいとは思わなかったわ。仲良く食事してたぐらい、いいじゃないの」

「それだけじゃないもん。あ、あの女と、キ、キ、キスしてたんだもん」

ルイズはポツリと言った。

「あらま、キスしてたの?」

ルイズは頷いた。

しかし、キュルケはあることに気付いた。

あのウルキオラが、感情の乏しいウルキオラが自らキスをするだろうか。

おそらく、いや、絶対にしないだろう。

キュルケは溜息をついた。

「あなた、ウルキオラが自らキスしたのを見てたの?」

ルイズは首を横に振った。

「なら、メイドの娘からキスしたんじゃないの?」

ルイズはあの時のことを思い出した。

確かに、テーブルに身を乗り出していたのはメイドの方だった。

ウルキオラではなかった。

ウルキオラはただ椅子に座っているだけだった。

「そ、それは……」

ルイズは黙ってしまった。

「ラ・ヴァリエール、あなたって、変な子よね。きちんと話を聞かずに、あれだけ助けてもらった人をクビに出来るんだもの」

ルイズは胸がチクリと痛んだ。

「ウルキオラは私が何とかしてあげる。初めは、あなたから取り上げるのが楽しくって仕方なかったけど、勝手に召喚されて、クビにされて、なんだか今は彼がかわいそう。彼はあなたのおもちゃじゃないのよ?」

ルイズはきゅっと唇をかんだ。

「でも、なんだかんだいってうウルキオラは優しいわよね、ルイズ」

「どういう意味よ」

ルイズは嗚咽のような声を出した。

「私がウルキオラだったら確実にあなたを殺してるわ。無能な主人ほどいらないものはないもの」

ルイズは何も言えなかった。

「使い魔はメイジにとってパートナーよ。それを大事にできないあなたは、メイジ失格ね。まあ、ゼロだから仕方ないのかもね」

キュルケはそう言って去って行った。

ルイズは悔しくて、切なくて、申し訳なくて、ベッドに潜り込んだ。

そして、幼い頃のように、蹲って泣いた。




ウルキオラは呆れていた。

ギーシュに相談したところ、初めのうちは、女心が分かっていないとか言ってきた。

そこには、少し感心した。

心にも色々あるのだ、と改めて気づかされた。

しかし、話が進むにつれ、だんだんと脱線してきた。

「僕はねー、モンモランシーにだって、あのケティーにだって何もしてないんだ。ケティは手を握っただけだし、モンモランシーだって、軽くキスしただけさ!それなのに……、それなのに……、僕はねー!」

「はぁ…」

ウルキオラは思わずため息をついた。

こんなやつを頼った俺が馬鹿だった、と思っている。

ギーシュはワインをラッパ飲みした。

さめざめと泣いていた。

酔うと泣くタイプらしい。

「おんにゃはばか!」

ウルキオラはそんなギーシュを無視した。

そして、誰かが木の陰に居ることに気付いた。

「誰だ?」

木の陰から、人影がぬっと出て来た。

「キュルケか…どうした?」

キュルケは、微笑を浮かべて言った。

「楽しそうね。私も交ぜてくれない?」

「楽しそうだと思うなら変わってくれ」

ウルキオラはそう言って、席を立った。

ギーシュはこれ以上ないというほど酔っていて、振り向いてキュルケの姿を見ると、立ち上がり、キュルケに向き直った。

「そのでっかいおっぱい、見せてくれたら、入れてあげてもよい」

ギーシュはだっはっは!と笑いながら、腰に手を当てた。

ウルキオラはギーシュに向かって拳に軽く霊圧を溜め、虚弾を放った。

キュルケも返事をする代わりに、杖を引き抜き、呪文を詠唱した。

「酔いはさめて?」

「酔いはさめたか?」

キュルケとウルキオラがそう言うと、ギーシュは正座して頷いた。

周りの服は焼け焦げている。

火と衝撃で酔いを覚ます羽目になるとは思わなかった。

「じゃあさっさと出かける用意して」

ギーシュは首を傾げた。

「出かける用意?」

「そうよ。ねえウルキオラ」

キュルケは、ダーリンと呼ばずに、名前を呼んだ。

「なんだ?」

「あなた、一生こんなところで紅茶飲んでる気?」

「今夜、出て行こうと思っていたところだ。まあ、帰る手段はないがな」

ウルキオラは皮肉っぽく言った。

帰る手段?とキュルケとギーシュが、顔を見合わせた。

「俺の世界はこの世界ではない」

ウルキオラは言った。

「そ、そうなの?よくわからないけど、それはお気の毒に」

キュルケは悲しそうに俯いた。

「まあ、戻ってももはや俺の居場所はないがな」

ウルキオラは紅茶を啜りながら言った。

そういうと、キュルケがウルキオラに近づいた。

「なら、ゲルマニアで貴族にならない?」

「貴族…だと?」

キュルケは笑みを浮かべた。

「そうよ。お金さえあればゲルマニアでは貴族になれるのよ」

「金などない」

ウルキオラはそういうと、手に持った羊皮紙をウルキオラに叩きつけた。

「だから、探すんじゃないの」

「なんだこれ」

ギーシュはウルキオラの持つ羊皮紙を覗き込んで言った。

「宝の地図よ」

「宝ぁ?」

ギーシュはきょとんとした声を上げた。

「そうよ!私たちは宝を探しに行くのよ!そんで見つけた宝を売ってお金にする!」

キュルケはガッツポーズをする。

地図を見つめていたギーシュが、胡散臭げに呟いた。

「なあキュルケ、この沢山の地図、どう見ても胡散臭いんだけど……」

「そりゃ、ほとんどは屑かもしれないけど、中には本物が混ざってるかもしれないわよ?」

うむむむ、とギーシュは顎に手をやって、唸った。

「ウルキオラ、行きましょう!こんなとこで座ってたって仕方がないでしょ?」

ウルキオラはすることもなかったので、その話に乗った。

「わかった」

「そうこなくっちゃ!」

キュルケがウルキオラをぎゅっと抱きしめた。

そこに誰かが飛び込んできた。

「ダメですダメですダメですっ!」

「シエスタ?」

メイド服のシエスタだった。

どうやら、盗み聞きしていたらしい。

「ウルキオラさんが貴族になるなんてダメです!」

シエスタはウルキオラを引っ張った。

「あなた、好きな男の幸せを願わないの?」

キュルケにそう言われると、シエスタは、はっ!とした顔になり、ウルキオラを見つめた。

それから首を振る。

「貴族になるだけが幸せじゃないわ。私の村にいらして。そのお金でブドウ畑を買いましょう!」

「なんだと?」

「私の村では、良質なブドウが沢山取れるんです!素敵なワインを二人で作りましょう!銘柄はウルスタ!二人の名よ!」

キュルケとシエスタは、ぐいぐいとウルキオラを引っ張った。

二人の女の子の間で、「離せ」と言っているが聞きやしない。

ギーシュがつまらなそうに言った。

「ふん、宝なんて見つかるもんか」

「あらギーシュ。素敵なお宝を見つけてプレゼントしたら、姫様も見直すかもよ?」

ギーシュは立ち上がった。

「諸君、行くぞ」

「わ、私も連れてってください」

シエスタは叫んだ。

自分がついていなかったら、キュルケはウルキオラを派手に誘惑するに違いない。

「ダメよ、平民なんかつれてったら、足手まといじゃない」

「馬鹿にしないでください!わ、わたし、こう見えても……」

シエスタは、拳を握りしめて、わなわなと震えた。

「こう見えても?」

キュルケは、まじまじとシエスタを見つめた。

「料理が出来るんです!」

「「知ってるよ!」」

「知っている」

その場の全員が、シエスタに突っ込んだ。

「でも!でもでも、食事は大事ですよ?宝さがしって、野宿したりするんでしょう?保存食料だけじゃ、物足りないに決まってます。私がいれば、どこでもいつでもおいしいお料理が提供できますわ」

確かにその通りだった。

ウルキオラはともかく、ギーシュもキュルケも貴族なので、まずい食事には耐えられない。

「でも、あなたお仕事あるんでしょう?勝手に休めるの?」

「コック長に『ウルキオラさんの手伝いをする』って言えば、いつでもお暇は頂けますわ!」

厨房を切り盛りするコック長のマルトー親父は、ウルキオラのことが大好きだった。

多分、シエスタが言った通りになるだろう。

「わかったわ、勝手にしなさい。でも、言っとくけど、今から向かう場所は危険がいっぱいよ?怪物や魔物がわんさかいるのよ?」

「へ、平気です!ウルキオラさんが守ってくれるもの!」

そういってシエスタは、ウルキオラの腕をつかむ。

ウルキオラは、言っても離さないので、溜息をついた。

キュルケは頷くと、一同を見回した。

「じゃあ準備して。そうと決まったら出発よ!」 
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