| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

イリス ~罪火に朽ちる花と虹~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Interview1 End meets Start Ⅰ
  「世界に散らばる私の子どもたちよ」

 地揺れの影響が最も深刻だったのは、入社試験会場で試験官をしていたユリウスかもしれない。

「CS黒匣(ジン)ガード緊急停止! 待機中の受験生を1階へ誘導しろ!」

 試験官として迅速に指示を出すユリウス。指示を受けて動く部下たちは心中で「さすが室長」と感嘆していたりするのだが、ユリウス自身はそれどころではない。

(この非常事態なら試験が中止になることくらい、ルドガーなら分かるはずだ。それが戻らない……となると、多分道が塞がれたかで戻れなくなったんだ。早く行ってやらないといけないのに!)

 弟を思う余り焦りが募る。
 その焦りを鎮めるように、その「声」はユリウスの頭に直接響いた。



                   世界中の息子たちよ……



 最初は空耳かと思った。だが、周囲にいたエージェントが数名、ユリウスと同じように訝しんで周りを見回していることから、幻聴ではないようだ。

 ――後に知ることになるが、ユリウスと、そしてエージェント数名は、全員が骸殻能力者――クルスニク一族の者たちだった。




 地域新聞社「デイリートリグラフ」が構えるテナントビル。
 その大動脈、編集部のオフィスは忙しなかった。

 9割の社員が先の地揺れで散らばった原稿を拾い、または原稿が入ったデータ媒体に異常がないかチェックするのに必死だった。彼らにとってはすぐ来る明日に遺漏なく出さねばならない情報、大事な飯のタネなのだ。

 その中で一人だけ、開いた窓から身を乗り出して、灰色立ち込める天を仰ぐ少女がいた。

 吸い込まれるように、ひたむきに、少女は曇り空を仰ぎ見ていた。

 ――否。少女は、耳を傾けていたのだ。
 天を伝わり、血の同胞のみが聴くはずの、その声に。




                 世界中の息子たちよ
            私はあなたが殺されるのを見たくありません
             私はあなたが殺すのを見たくありません


                 世界中の娘たちよ
            私はあなたを守るために目覚めました
           私はあなたの魂を奪われぬために目覚めました


             世界に散らばる私の子どもたちよ
             私はあなたたちを愛しています
              私があなたたちを守ります
           私があなたたちを幸福な未来へ導きます





 ルドガーの目の前で土埃が晴れて、現れたモノは――人間でも精霊でもなかった。

 顔が、なかった。そこにいたモノには、顔がなかったのだ。
 つるりとした石膏のペルソナ。血の涙のような赤い筋が白い面を縦に両断している。

 骨は全てが金属のアームに置き換わった。皮膚が消えて上半身の骨格は剥き出しだ。特に両腕はもう肉の原型を留めていない。ただ工事重機のアームが地面近くまで垂れ下がるのみだ。胴体はもはや人工臓器らしきものが露出していて直視に堪えない。

 視覚的に救いなのは、背中は頭から尻まで甲殻に覆われて、向こう側を見通さずにすむ点か。

 髪の一房一房もコードに置き換わり、尖端に水晶刃を備えた武器となった。特に太いのが、頭から細いコードを束ねた円柱、繋ぎらしき円筒、工事用もかくやというウィンチと、三つ指にも似た捕獲アーム―― 一連のポニーテールだ。

 足は消えた。代わりに、甲殻と同じ素材の2本足で、しかも右足と左足でデザインが異なる。

 どう言い繕おうと、バケモノ、だ。


「………………………………イリス、なのか?」

 ソレに問いかける。
 ペルソナの口角が上がり、笑みが形作られる。ペルソナには表情機能があるらしい。

「イリスよ。コレがイリスの精霊態。蝕の精霊イリスの本性」

 答えた声はまぎれもなくイリスのものだ。コレはイリスなのだ。

「ふん。貴様など精霊を名乗るもおこがましい。世界を蝕む邪霊よ」

 頭上からクロノスが吐き捨てた。第三者のルドガーでさえむかつく気分にさせる声音と台詞だ。

「イリスからすれば、お前たち精霊こそ邪霊の名を冠すべきね。大自然を支配する権能を盾に取り、人類を管理下に置く傲慢なモノども」

 コードと化したイリスの髪が広がり、尖端を精霊軍団に向けた。精霊軍団もまた、再び属性に応じた一撃を撓めている。
 精霊軍団の攻撃が生み出す惨状は目の前にある通りだ。そこに同じ精霊らしきイリスの力がぶつかり合えばどうなるのか――

 じり、とルドガーの足は意思と無関係に下がっていた。

「大丈夫。貴方には傷一つ付けさせない」

 全属性の砲撃と、イリスが掌から発したエネルギーが激突した。

 ひどい眩しさに、ルドガーは腕で目を庇った。

 踏み止まっていられない。足が地面から浮いた。
 吹き飛ばされた。その後は覚えていない。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧