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バレンタインは一色じゃない

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5部分:第五章


第五章

 実は彼女は何日も徹夜して作っているのだ。だからその憔悴はかなりのものである。その憔悴の結果を今彰浩に対して切ってきたのである。バレンタイン唯一にして最強の切り札を今。
「うん」
 そして。彰浩はそれを受けた。両手で彼女が差し出した大きな箱を受け取るのであった。
「もうここで開けていいかな」
「ええ、どうぞ」
 その笑みでの言葉であった。
「それですぐに食べてくれるかしら」
「わかったよ。それじゃあ」
 彼もそれを受けて箱に手をやる。それから開けると。中から様々な色のお菓子が出て来たのであった。
「お菓子!?」
「チョコレートか!?」
 クラスメイト達はそのお菓子を見て思わず目を顰めさせた。彼等だけでなく箱を開けた彰浩もその目を点にさせているのだった。その目で麻紀子に対して問う。
「あの、これって」
「チョコレートよ」
 しかし麻紀子はにこりとした笑みのままであった。見ればボンボンの様に小さく様々な形でもある。蝶もあれば小船もある。非常に凝っていると言えた。
「色で驚いているのね」
「うん、まあ」
 彰浩もそれを否定しなかった。しなかったというよりはできはしなかったのだ。
「そうだけれど」
「けれどこれはチョコレートよ」
 それでも麻紀子は言うのであった。
「食べてみればすぐにわかるわ」
「食べてみれば」
「味は折り紙つきよ」
 麻紀子は絶対的なまでの自信を彰浩に対して向けてきた。
「だから。安心して」
「わかったよ。それじゃあ」
 ここまで言われては彼も食べるしかなかった。やはりそれに加えて最初から覚悟を決めているのが大きかった。その覚悟のままでまずは兎の赤いチョコレートを手に取るのであった。そうしてそれを口の中に入れてみる。すると。
「あれっ」
「どうかしら」
「本当にチョコレートだ」
 そのことに意外といった顔を見せてきた。
「しかも中には乾燥させた林檎だね」
「そうよ。外見だけじゃないのよ」
 麻紀子の笑みが会心のものになっていた。
「このチョコはね。凝っているのは」
「そうだったんだ」
「他のも食べてみて」
 すかさず他のチョコレートも勧めてきた。
「さあ、どんどん」
「それってわんこそばだよね」
「だってどんどん食べてもらうから同じじゃない」
 麻紀子の反論ではこうなるのであった。
「まあどんどん食べて、本当にね」
「わかったよ。じゃあ次は」
「この白いチョコレートなんてどうかしら」
 見れば今度は白い猫の形をしている。白猫というわけである。
「ホワイトチョコだよね」
「そうよ。これはよく見るわよね」
「まあね」
 そう答えてからその白猫のチョコを手に取ってみる。間違いなくそれはホワイトチョコである。白い猫の顔までそこにちゃんと作られている。
「顔まであるんだ」
「さっきの兎と同じでしょ」
 確かにその通りである。兎にも顔が描かれているしこの猫に関してもそうである。こうしたところでもかなり凝っていると言えるのであった。
「これも」
「そうだね。それじゃ」
 麻紀子の言葉に応えながらまたチョコレートを手に取る。それを口に入れてみる。その中にあったものは。
「これは」
「シロップなのよ」
 今度はクッキーであった。
「それをホワイトチョコで包んでみたのだけれど」
「へえ、面白いね」
 食べてみればこれはかなりいい。シロップの味が口の中を支配してそれが甘ったるい。これもまたかなり美味しいものであった。
「そこの青い鯨はね」
「うん」
「パイナップルよ」
「ああ、それはわかるよ」
 何故パイナップルなのかは彼にもわかった。
「あれだよね、ブルーハワイからだよね」
「考えたけれどね。それにしたのよ」
 そういうことであった。
「それでオレンジのインコには」
「何かな」
「そのままオレンジ」
 今度はそれであった。
「黒い犬はそのままだけれどコーヒーを混ぜてみたのよ」
「全部色によって違うんだね」
「緑のツリーは悩んだのよ、一番」
 緑のチョコを指差して苦笑いを浮かべるのだった。
 
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