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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第9話:酒は飲んでも飲まれるな

 
前書き
新年明けましておめでとうございます。
開けたら閉めましょう。礼儀です。 

 
(グランバニア城下・BARヴェテラーノ)
ピピンSIDE

私は妻がアレなので、恐妻家だと思われている。
その為、私がプライベートで飲みに行く事は皆無だと勘違いされている。
だがそんな事はなく、(ドリス)も気難しい事を言わず結構自由な家庭を満喫している。

私と結婚する前に妻は学芸大臣を務めてたのだが、その時にリュカ様が彼女を怒らす事が多々あり、その印象から鬼嫁的なイメージが定着してる。
本人は然程気にしておらず『放っとけば。思いたい奴は思わせとけば良いのよ』と、リュカ様と同じ血筋らしい事を言って笑ってる。

だから今日も、城下のBARに部下を数人誘ったのだが『奥さんは大丈夫なんですか?』と心配された。
仕事場も自宅もグランバニア城内なので、『まぁ……一応断りを入れてくるよ』と部下を安心させてから城下へ繰り出した。

このBARヴェテラーノは、元グランバニア軍のカーネル殿が経営してるBARだ。
私が入隊した時に、中隊長として上官であらせられたお方なのです。
今でも頭が上がらす、今の世であれば私などより軍務大臣に相応しい人物なのです。

ですが、リュカ様が正式に政に加わる以前は、宮中も軍も貴族が幅をきかせており、平民には出世しづらい状況だったのです。
その為カーネル中隊長も早々に退役し、第二の人生を歩み出しました。

最初はグランバニア城内の片隅に、客が5人入れば満席になる様な居酒屋を経営してたんですが、城下を拡張する為に城壁の外への出店者を募り、その結果この店が生まれました。
今では客を50~60人は入れる事が出来、店員も常時10~13人は居る大型店に様変わり。

しかも、この店の拡張に手を貸したのはリュカ様で……
まだ無尽蔵にあった土地を二束三文で入手させ、サラボナのルドマン殿とのパイプを結ばせ酒などを格安で購入できる様にした。
なので料理も酒も旨いのに、安月給の兵士に有難い金額で酔える店に仕上がったのだ。

しかも元軍人だけあって客の大半を占める兵士達とも気が合い、楽しい一時を満喫できるから有難い。
この店が()いている時が無いのも、そんな理由があるからだ。
だって大臣の私が来店しても「おい、お偉いさんだからって贔屓しねーぞ! 店内は混み合ってるんだから、あっちの端っこで飲みやがれ(笑)」とカーネル殿が豪快に笑い、我々を本当に端っこに案内するのだから。

今日は部下を労う為にきたので、別の店でも私は構わなかったのだが、私の秘書官を務めているレクルトが『ヴェテラーノに行きましょうよ』と、この店を指名した。
事前に話してあった事だが、今度行われる予定の闘技大会を軍務省管轄にした事で、今まで以上に仕事量が増えると予想される。

その為に今のうちに頼りになる部下達を労い、信頼感を向上させようと考えてたので、部下のリクエストに応えこの店に訪れた。
私が現在戴いてる給料であれば、もっと高い店でも問題ないのだが、それ程この店は人気だと言う事だろう。

人集りが出来ている店内のカウンター席を横目に、私は秘書官のレクルト・補佐官のスピーア……その他アシスタント等3人を伴い奥の席へと腰掛ける。
アルバイトだと思われる若い女性店員に、酒と料理の注文をして暫く待つ。
すると直ぐに酒だけは届けられ、部下達との乾杯を交わした。

「それにしても……ウルフさんは凄い出世ですよね」
今年21歳になるレクルトが、同じ様な肩書きのウルフ君を思い出し、羨ましそうに呟いた。
軍務大臣の秘書官か、国王陛下の秘書官かで違いは大きくあるだろうけど、年が近い事もあって親しい間柄らしく、嬉しい反面ジェラシーも感じてるみたいだ。

「確かに凄い出世だが、それだけ能力もあるって事さ……それにリュカ陛下の直属の部下だ。並の神経じゃ務まらないんだよ」
そう、リュカ様の直属なんて、胃薬をダース単位で購入しても足らないだろう。
あの(ドリス)が嘆いたほどだから……

「ですが閣下……それだけでは無いと思いますよ。だって彼の彼女は2人とも……」
スピーアが声を潜ませコネクションの強さを主張する。
私もその影響が無いとは言わない。だが……

「その事は口にするなスピーア。まだマリー様もリューノ様も、世間に身分を明かしてはいないのだ。知ってるのは上層部の極一部……」
私は声を潜め注意を促す……“解ってます”と口にはしたが、縁故出世に対して不満がある様子だ。

「陛下の叔父である国務大臣の娘と結婚した私が言っても説得力無いかもしれないが、リュカ陛下は使えない奴に仕事を任せる様な人ではない。自分が楽になる為に率先して優秀な人物を登用するのが、あの人なのだからな」

不満はまだ解消してない様だが、良いタイミングで料理が届き気分が一新されたので、この話は終わりになった。
可愛いアルバイトの女性に礼を言いたい気分だよ。
しかし何処かで見た事ある様な女性なんだよなぁ……そんな事を口に出したら“ナンパか?”と言われそうなので黙っておくがね。

「それにしても、何時だって混んでる店だなぁ」
話題を変える為に店内を見渡し感想を述べ部下達に視線を向ける。
「そうですね……特に最近になって、客入りが増えたみたいですよ」
何かを知ってるのかスピーアが返答する。

「ほぅ……何でまた?」
良い事だと思うので別に問題点を探したかった訳ではないのだが、スピーアの言葉に裏がある様に感じ問い質してしまう。

「あれですよ……あのカウンター席の人集り」
私も入店して真っ先に目撃したのだが、若い連中がカウンター席に群がっており、時折歓声を上げているのだ。
何だかよく解らないが異様な雰囲気である事は間違いない。

「あれは何をしてるんだ?」
人が集まりすぎて中心地点で何が行われてるのか解らない。
中隊長殿も楽しそうに酒を出してるから、問題行為をしてる訳ではないのだろう。
だが気になってしまう人集りだ。

「知らないんですか閣下。あの中心地にはリュリュさんが居るんですよ。あの連中が酒を振る舞って貰ってるんですよ。俺も先週はシコタマ奢りましたからね……この店が低価格じゃなければ、俺は今月生活できてないですよ(笑)」

「何だそれは!?」
予想の遙か上空を飛行する返答に、スピーアの胸座を掴んで聞き返す。
「で、ですから……リュリュさんに酒を奢る為に……あの連中は群がってるんです」

「おいおいおい……それは如何なる理由で酒を振る舞ってるんだ? 絶対に下心大有りだろう!」
「そ、そりゃそうですよ……男が女に酒を奢るのなんて、その先の展開を夢見ての事でしょう。実際、俺もそれが目的で酒を飲ませ続けましたからね。いや~……でも酔い潰れないんですよ彼女。強い強い(笑)」

頭が痛くなってきた……
こいつ(スピーア)もあの連中も、それがどういう事なのか解ってないで酒を奢っている。
目の前の美女の美しさに脳が焼かれて、そんな事をしたらどうなるのか解ってない。

私は徐に立ち上がり、カウンター席の人集りまで近付くと、力任せに連中をかき分け、中心点で酒を一気飲みしてるリュリュの腕を掴んで引きずり出す。
「わ、わ、わ!? 何ですかピピン閣下!?」

空になったワインやウィスキーのボトルが5.6本目に入ったがリュリュは全く酔っておらず、何時もと同じ感じで話しかけてくる。
本当に強いんだな!

「大臣閣下。割り込みはズルいですよ……今日は俺達が「黙れ馬鹿者共!」
文句を言い出した若い兵士に、私は腹の底から放った大声で恫喝する。
喧噪に包まれていた店内は私の怒号で静まり返った。

「あの……何を怒ってるんですか?」
「兎も角リュリュ……こっちに来て座りなさい!」
元居た自分の席に彼女を座らせると、近くのテーブルから椅子を一つ手繰り寄せ、私もリュリュの隣に座る。

「あの連中が何故君に酒を飲ませてるのか解ってるのか?」
「えぇ……まぁ……自惚れかもしれませんけど、私が可愛いから……かな?」
その通りだ。この()は可愛い……妻を愛してる私でも、小首を傾げて伺う姿は心にトキメキを感じる。

「男はね、可愛いだけじゃ酒を奢らないんだよ。お菓子や小物をくれる事はあっても、酒を奢る時は別の感情も含まれてるんだよ」
私は優しくリュリュに言い聞かせながら、語尾は強くなりカウンター周辺の馬鹿共を睨み付ける。

「どういう事ですか、それは?」
リュリュは怪訝そうに眉を寄せ、私の言葉に疑問を投じる。
本当に解ってないのか? どうなってんだこの娘は!?

「だから……リュリュは可愛いから……男はみんな、不埒な事を考えてるんだよ」
「不埒……ってエロ?」
そうだった、この娘はリュカ様の血が流れてるんだった。
エロ事はストレートに表現する家柄だった。

「そうエロだ」
「つまり、私は皆さんから“優しくすればヤらせてくれる安い女”と思われてるんですか?」
ポピー様は非常に賢いし、仲の良い彼女も賢いと思ってたんだけど、どうやら買い被りだったみたいだ。

「違う。もっと下劣なんだよ……お前に酒を奢ってた男共は、お前を酔い潰して宿屋に連れ込む算段だったんだ。酔い潰れて抵抗できなくして犯すつもりだったんだ!」
「まぁ下品下劣! そんな鬼畜な考えで私に近付いてたんですか?」
美しい瞳を大きく見開き、先週奢りまくったスピーアに視線を向け尋ねるリュリュ。

「あ、いや……お、俺は……そんなつもりは……」
見るからに嘘を吐いてる体で答えるスピーア。
「嫌ですわぁ殿方って。やっぱりお父さんの様な紳士以外は、論外でございますねぇ」
目の前に置いてあった私のビールを勝手に飲みながら、周囲の男共に軽蔑の目を向けるリュリュ。

「もう飲むな!」
まだ二口しか飲んでなかった私のビールは、リュリュに全部飲み干され無くなる。
この娘は一気飲み以外知らんのか? 酒の味わい方を知らんのか!?

「兎も角、今日はもう帰れ。そして明日の朝一に陛下へ報告だ」
「えぇぇぇ! お父さんに言っちゃうの? 別に問題なかったんだから今回は良いんじゃないの?」
「そ、そうですよ閣下! 何も陛下に報告しなくても……」

「そうはいかないんだよスピーア。リュリュは王家の血を引く者だ……そんなお方に対し、不埒で不届きな思いで近付くなんて、臣下としてあってはならないのだよ!」
私は殊更思い口調で言い放つ……周囲の者にも聞こえる様に。

「陛下はご自身を含めお血筋の方々への接し方に煩く言わない。言い換えれば友達感覚で付き合いをしろと仰ってる。だがそれは、敬意を忘れて良い訳ではない。冗談を言い合い毒舌をぶつけても、酒に酔わせてレイプして良いと言ってる訳ではない!」
広い店内に私だけの声が響き渡る。誰も何も言わない……言えないでいる。

「はぁ……今日だけで何人居るんだ? これから軍部も忙しくなると言うのに、大勢居なくなるなぁ」
ここに居る者は皆、かなり反省してるみたいだったのだが、ちょっと苛めたくなってしまいました。
全員吐きそうな顔してる(笑)

「俺達……クビですかね……?」
顔面蒼白なスピーアが消えそうな声で問いかける。
「そ、そんな……いくら何でもクビにはならないわよね?」
原因の中心人物たるリュリュは、責任を感じて戸惑ってる。

「クビ……と言うか、死刑?」
「「「えぇぇぇぇぇ!!!!」」」
静寂が支配してた店内を轟きが跳ね回る。

「当然だろ……王族をレイプしようと企んでたんだから。彼女(リュリュ)が酒に強かったから、最後まで完遂した者が居なかっただけで、今日私が気付かなければ何時か誰かがコンプリートしてたかもしれない。そんな事を聞いて、世の中の父親が上機嫌になると思ってるのか?」

彼女の父親が誰なのかを皆思い出したのだろう。
中には涙を流してる者も居るぞ。
リュリュは国王代理までも勤めた人物なのだ……なのに不埒な思いを滾らせるなんて言語道断。

「流石に一族諸共極刑というのは免除して貰う様嘆願するが、自尽が許されるとは思わない事だ」
「だ、ダメだよ……そんなのダメだよ! 私お父さんに謝るから……だから……」
やばい……言い過ぎたか? 私の腕にしがみつきリュリュが泣きながら懇願してくる。

「私も出来る限りの事はするが、陛下がどのくらいお怒りになるか……なんせ大切な娘が、欲望丸出し男共の魔手に落ちそうになったのだから」
何とかリュリュを落ち着かせつつ、まだまだ苛める事を止めない。

とは言え、収拾を付けなければならないので、リュリュに「今日は取り敢えず帰りなさい」と告げ、彼女を帰らせる。
そして私も、自分と部下の分の飲食代をテーブルに置き、店を後にする。
スピーア以外の部下には「また今度埋め合わせをするから」と告げ、今日の飲み会が台無しになった事を謝り……

絶望に打ちのめされてる連中の顔が、私の笑いを誘う。
勿論、連中の前で笑う事はしない……
私が味わった心労を少しでも理解させたいから、一晩生き地獄を体験するが良い。

ピピンSIDE END



 
 

 
後書き
作者は酒を飲みません。
何か矛盾する点が見受けられましたら、そっと優しく教えて下さい。

さて……今年も残すところ365日となりました。
皆さん良いお年をお迎え下さい。 
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