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神為る土地で~名も無き創世剣~

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01

 カーテンの隙間から入ってくる朝日が目を射て、二室(にむろ)鈴斗(すずと)は目を覚ました。見下ろせば、ソファーの上に、足を上に、頭を下にという奇想天外な格好で寄りかかっている自分。さらに床には、散乱したプリントの山。

 ――――どうやら寝落ちしてたらしいな。

 昨日の夜中に資料を整理しようと思ってソファーに寄りかかり、そのまま眠ってしまっていたらしい。

 これからこのプリント達を集め直し、再度整理しなければならないのだと思うと気が滅入ってうめいてしまうが、仕方ない。自分の責任だ。体を起こすと、べきべきという小気味良い音が鳴る。それを聞きつつ、散乱した書類を集め、整えていく。

 そう言えば、昨日自分は資料整理を午前中にやってしまおうと思っていたはずだ。なぜそれが夜中になってしまっていたのか――――

 そこで思い出す。

 ――――ああ、そう言えば、もうこのボロアパートの住人は俺だけではないのだ。

 と。

 とん、とん、とん、という軽い足音がする。振り返れば、隣の部屋の扉を開けて、一人の少女が入ってくるところだった。

 年齢は10歳ほどか。綺麗な少女だった。

 雪のように白い、きめ細やかな肌。四肢はまだ未発達だが、将来は相当な上物になるだろう。青にも緑にも見える碧色の瞳は、寝起きだからか眠そうに半分とじられている。

 何より目を引くのは、星のように煌めく艶やかな髪。今は肩ほどまでに切りそろえられているが、()()()はそれが腰ほどまで届く美麗なロングヘアであったことを二室は知っていた。

「おはよう、TZ。眠れたか」
「……寝れた」

 こくり、と首を縦に振る少女――――TZ。それを聞いて、二室も精一杯の笑顔を浮かべる。

「そうか。ならいい……すぐに朝食の支度をする。待ってろ」
「……ん」

 同居人にしては固い会話を交わし、二室はキッチンへと引っ込む。

 一応長い間一人暮らしをしてきたこともあって、自分では多少は料理ができると思っている。誰か客が来た場合は、一般的な味で良ければ振る舞えるだろう。

 だが。

 まさか――――

「昔殺した女のために、料理を作るとは思わなんだ」

 そう。

 昨日出会ったばかりの白銀の少女、TZは――――かつて《女神殺し》と恐れられた《伝承者》、二室鈴斗が殺した、《女神》自身の生まれ変わりだというのだ。

 事態は、今から数えて20時間ほど前にさかのぼる。



 ***



 その日、二室は、とある事情で集めていた情報を整理する目的で、大量の資料を広げていた。どれもすでに一度目を通したため、内容は記憶している。が、なまじ数が膨大であるためにどれがどれだか分からなくなりやすいし、何よりミスなのか故意なのかは知らないが中身が完璧にかぶっている者さえあった。

 そう言う資料を処分したり、内容ごとにファイリングしたり。基本的に一日中暇な二室は、それを今日の仕事として一日をつぶすことに決めていた。

「さて……どこから手を付けますかね……」

 ソファーの上に山積みにされたプリントの枚数は、述べ2000を超える。大抵が『とある事象』に関するレポートや走り書きなどの写しであるが、参考にならないものや明らかに憶測であろうものまで含まれていて、うち1000枚ほどは無駄な資料であることが分かっている。

 ――――取りあえずは、要る資料と要らない資料に分けるか。

 そう決めて、プリントの山に手を伸ばした、その時だった。

 ――――ピンポーン……

 と、インターフォンが声を上げたのは。

 実に珍しい事だった。二室が間借りしているぼろアパートには、住民がほとんどいない。大家も存在して存在していないようなものなので、訪ねてくるものとなるとさらに少ない。

 そもそも二室自身の交友関係が恐ろしく狭い。知人、と呼べるような人間など、四、五人ほどしかいないだろう。

 そんな中で、彼らが頻繁にこちらを尋ねてくるかといえばそうではない。大半は遠くに住んでいるし、唯一近隣に住んでいる人物の元にはこちらから赴くことが多かった。

 それに全員、来るときには連絡をよこす。サプライズをしかけるような奴らではないと思うので、多分絶対に連絡が来る。

 そして今日は、その連絡は来ていない。携帯端末の着信履歴やメールボックスを見るが、一件も反応がない所を見れば、間違いないだろう。

 だとすれば……押し売りセールスマンか何かだろうか。宅配便だろうか。前者なら無視し、後者ならやっぱり無視して、後から店の方に取りに行く。

 ならいい。無視しよう。

 そう決め込んで、もう一度資料整理の作業に戻ったのだが。

 ――――ピンポーン……

 再びベルが鳴る。

 まだ帰っていなかったのか。しつこいセールスマンだな、と思いつつ、視線を資料の山に戻す。まずはこっちの山から崩すか……いやいや内容量から見ればこっち……などと悩んでいると。

 ――――ピンポンピンポンピピピピピピピピンポー……ン

「だぁぁぁぁッ!! うるさいぞ! 己は小学生か!!」

 来客がインターフォンを連打するモノだから、もううるさくて敵わない。ドアを明け払って、その不躾者の顔を拝もうとして……

 絶句する。

 先ほどの自分の発言が、あながち間違いではなかったからだった。

 
 ドアの前には、10歳前後の銀色の髪の美少女……というよりは美幼女が立っていたのだ。背丈は二室の二分の一程度しかないだろう。彼女はその碧眼で、じぃっ……とこちらを見上げて。

「……《女神殺し》」
「……ッ!! お前、知っているのか……?」

 二室の『かつての名』を呼んだ。


 《覚醒遺伝計画》というものがある。『神為らぬ者(ヘレティック)』と呼ばれる科学者たちが、神話伝承や民話の英雄や神々の権能や技能を、一般大衆に無作為に与え、何らかの目的を以て野に放った計画だ。知らず知らずの間に被験者になっていた人々は、与えられた英雄や神格の性格や権能、時には記憶すら引き継ぎ、人類を超える。彼らは《伝承者(サクセサー)》と呼ばれることになった。

 そんな彼らの中には与えられた権能の元の持ち主の記憶に引っ張られ、かつて『己』が成し遂げた伝説を再現しようと暴走する輩まで出てきた。

 《女神》と呼ばれた《伝承者》もその一人である。銀色の長髪、想像上の竜のような角と尾、傲慢な態度、ある特異な《覚醒遺伝》から来る強力な異能、そして美貌を兼ね備えた彼女は、一時世界最強の伝承者として君臨した。

 だがそんな彼女も、あるときを以て滅びを迎えた。《女神》たる彼女の”伝承”に対抗する、もう一人の《神》が、彼女を殺害したのである。

 その下手人が、他でもない二室自身。十年近く前、まだ幼かった頃の事。高校一年生の夏の事。もう一人の”最強”として知られた《伝承者》が、表舞台から姿を消した日の事。

 だからもう、その名前の持ち主が自分であることを知っている人など、そうそういない、と思っていたのだが――――
 
 これは一体、どういう事なのか。

「お前は……何者だ?」

 外見はどう見ても十歳前後の少女である。将来は大輪の花を咲かせそうな美幼女であるが、それとこれとは関係ない。どう考えても、あの《女神失墜》事件よりも後に生まれた人間だ。それに、こんな知り合いはいなかったし、こいつの親も多分知り合いにはいない。

 だから、自分の事を知っているなんてありえない――――そう思っていたのだが。

「……ティアマト。お前は――――」

 少女は自分の名を言い、次いで二室に権能が《覚醒遺伝》しているとおぼしき《ソイツ》の名を言った。それは、二室以外の人間では、《女神》以外ではたった一人しか知らない名前。

 その名前を出されたら、事情を察せざるを得ない。

 こいつは――――十年前に、二室自身が殺した《女神》……メソポタミアの母なる女神《ティアマト》の《伝承者》と、同一人物だ。一柱の神格や英雄の権能が同時に別々の人間に覚醒遺伝(AA)疾患することはあっても、その場合は他人の記憶などは引き継がない…妙に親近感は湧くらしいが…。

 故に、この少女は、あの女と同一人物なのだ。

 なぜだ。何が起こっている。確かに殺したはずだ。生きていたのか。だとしたらなぜ幼女に。というかやつはこんな半分寝ているようなぶつ切れの喋り方ではなく、もっと、そう、マシンガンのような喋り方だったはず――――

 等々と、二室が悶々としていると、少女が答えた。

「生まれ変わった」
「……あり得ない……」

 あまりにも奇想天外すぎる事態に、頭を抱えざるを得ない。

 だが今更、そんなことを呟いても無駄だ、と、即座に考え付いた。なぜならば――――あの日。自分にAA能力が出現した瞬間に、既に日常など崩れ去ったからだ。

 あれ以来、ずっと”奇想天外”は続いていた。これもきっと、その続き。

 一体何が起こるのかと、二室が身構えたその時。

 ぐぎゅるる~

 といった可愛らしい音がした。少女のお腹が鳴った音だった。

「お腹すいた……ご飯」

 ちょっとまて。何で命令されなければならないのだ。

 呆れて物も言えない二室。

「はやく」

 急かす様に見上げる、《女神(旧敵)》の生まれ変わりを名乗る少女。

 それを受けて二室は、面倒なことに成った――――と、頭をかくのであった。


 しかしこの時、二室には知る由もなかった。

 まさかこれが、新たな動乱の幕開けの一ページでしかないことを。

 
 

 
後書き
 今回は一応のヒロイン登場回。
 二室に覚醒遺伝している神格の名前は、この時点で察しがついた方も多いと思います。同時になぜヒロインが『TZ』なんて変な名前なのかも。

 もっと上手く明かす手腕がほしいなぁ。 
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