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豹頭王異伝

作者:fw187
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邂逅
  聖王の候補者

「再言しますが第三王位継承権者、ベック公ファーン即位の可能性も考慮すべきと考えます。
 レムスと私と貴方は共通の祖父、前聖王アルドロス3世の直系。
 パロ聖王家の三兄弟、アルディス王子から青い血を受け継いでいます。
 アル・リース王家、アルシス王家は相性が悪く諍いを繰り返している。
 パロ再建の旗手には自ら臣下に下った第三勢力、アルディス王家の長男こそ相応しい。

 人の痛みを知り、人々の信頼も厚い第三の男が即位しても良いと思うのですが。
 そんなに、無茶苦茶な事を言いましたかね?
 決断を躊躇うのも無理はありません、結論は先に延ばして構いません。
 不肖の弟みたいに脱走されては困りますから、無理強いはしませんよ。
 スカールにも叱られましたが、くねくねと無駄口を叩いてばかりで話が進みませんね。
 パロ中興の祖となる聖王に即位の要請とは別に、お願いがあります。

 草原の民を率い援軍に馳せ参じた私達の親戚、アルゴスの黒太子は危篤状態です。
 治療の術は無いと思われていましたが、古代機械なら何とか出来るかもしれません。
 パロの誇る医療技術と魔道も通用せず、光の船に運び奇跡に頼る他の術は見当たりません。
 ウィレン越えを共に成し遂げた貴方に、草原の民を率いる頑固者の説得を頼みたいのです」
 黒竜戦役の際に天山ウィレン山脈を踏破した盟友、ベック公ファーンが眼を剥いた。

「何だって、スカール殿が!?
 それは是非とも、私から貴方にお願いしたい位だ!
 だが何も知らぬ私に、スカール殿や草原の民を説得する自信は無いな。
 私より貴方から直接、話をして貰った方が良いのではないか?」
 パロ第1位の心理学者は瞬時に表情を曇らせ、心痛を面に昇らせ聖王家の武人に応えた。

「私が草原の信義を踏み躙ったと怒り、スカールは聞く耳を持たぬのです。
 黒太子スカールに友と呼ばれた者は私の知る限り、沿海州のカメロン提督と貴方しかいません。
 魔道の類に本能的な反感を抱く草原の民、グル族へ言葉巧みに説明しても逆効果にしかならぬ。
 以前クリスタル逗留の際、わが友と呼んだ武人ファーンの言葉なら耳を傾けると思うのです」

「そんな事まで知っているのか、油断も隙も無いな!
 横言を言ってる場合ではない、スカール殿を救わなければ!!
 私で役に立てるかどうかわからないが、出来る事は何でもやらせて貰う。
 グル族には面識がある、話は聞いて貰えると思う。
 貴方の言う通りにするが、古代機械や黒魔道に関する説明は無理だ。
 スカール殿には何と伝えれば良いだろう、ナリスに同行して貰う事は可能かな?」

 率直に驚嘆の感情を吐露する従兄弟、想定通りの反応を満足気に賞味する闇と炎の王子。
 上級魔道師ヴァレリウスの冷たい視線、無言の抗議も予想通り完全に無視。

「有難う、ベック。
 私と貴方を回復させた治療を受けてほしい、とそれだけ伝えてくだされば充分です。
 後は貴方の思いをそのまま口にして貰えれば、必ず通じると思います。
 石の都に住むパロの民を信用しない草原の自由な魂にも、貴方の誠実さは通じるでしょう。
 パロ聖王家の血を伝える者は僅か5人、貴方が還って来てくれて私も肩の荷が下ります。
 3千年も続く王家になど生まれるものではありませんね、親愛なる従兄弟殿」


 ナリスの従兄弟とは思えぬ誠実な武人、ベック公ファーン帰還の翌日。
 ケイロニア軍が数日前の激戦地、廃墟と化した無人の街ダーナムに進出。
 北の勇者達は市街に入った直後、幻覚に襲われ大混乱に陥った。
 当直の魔道師6名が直ちに念波を統合、魔力を増幅する。

 グイン直属の上級魔道師ギール、下級魔道師、見習い魔道師も気と念を強化。
 休憩中の班も星型の魔法陣を描き、白い星と青い星が共鳴。
 催眠暗示波は部分的にしか解除できず、睡眠中の班も叩き起こす。
 三重の星型魔法陣が輝き、漸く強力な催眠術の相殺に成功。

 幻覚が消え、ケイロニア軍の秩序が回復した直後。
 を操る竜の門、クリスタルで無辜の民を虐殺した怪物が現れた。

 上級魔道師ギールの遠隔心話が届き、ヴァレリウスに戦況を報告。
 鮮明な画像と思念波、心話を中継し聖王家の実質的な最高指導者に伝達。
 士気の阻喪を誘う竜頭人身の敵に怯まず、心理的衝撃と恐慌状態に耐え懸命に応戦。
 北の勇者達は魔剣を秘める豹頭王の鼓舞、采配を得て精神的動揺を強引に抑え込む。

(いよいよ正念場だな、ケイロニア軍の別動隊は襲われていないか?
 グイン直率の部隊に続き黒魔道の奇襲が想定される、注意を怠らぬ様にと伝えて。
 ゾンビー程度なら助かるが、竜の門を繰り出す可能性も皆無とは言い切れない。
 見習い魔道師と睡眠中の班も動員、魔力を共鳴させ結界を展開。
 状況次第では、援軍を送る必要があるかもしれない)

(竜の怪物は、矢に眼を貫かれ生命活動を停止!
 幻覚の源となる催眠暗示波、異質な気と念も総て消滅しました!)

(脆すぎるな、竜の門はもっと強力な筈だろう?
 部下を生贄として禁断の黒魔道、竜の死骸兵《ドラゴン・ゾンビ》を造り出す魂胆か?
 昨夜は普通人のゾンビーだったから火で退治出来たが、竜騎士の死骸兵には打つ手が無い。
 グインの事だから既に察していると思うが念の為、ギールに確認させよう。
 竜の騎士を斃した後の死骸、屍は破片に至るまで全て炭化させ粉々に砕き地面へ埋める。
 埋めた場所は結界で封印、下級魔道師5名が交代で監視し翌朝まで警戒せよ。

 ファーンを今夜中に運び、スカールと明朝には対面して説得して貰わないと。
 明日の夜には私も立ち合い、古代機械に治療を開始させよう。
 残念だが今夜は、イシュトと話し込む余裕は無いな。
 済まないが眠り薬でも仕込んで、早目に御就寝を願うとするか。
 何を嬉しそうな顔をしているのだね、ヴァレリウス君?)
 パロ解放の為に行動する各部隊には幸いな事に、魔道の奇襲が加えられる事は無かった。

 広大な死の砂漠ノスフェラスの彼方、東方の大国キタイから現れた無慈悲な異形の戦士。
 パロ聖王国の真っ只中に突如として現れ、無辜の民を虐殺し何処かへ消え失せた竜の門。
 一旦は身を潜めた竜王の配下が何故、イーラ湖畔ダーナムの廃墟に現れたかは不明であるが。
 幸いな事に魔道の免疫が薄い新生ゴーラ軍、パロ義勇軍は怪異に襲われず前進と後退を実施。
 パロ北方国境で竜の門と対面の際は相手が遁走の為、小競り合いを演じた経験しか持たぬ僭王。
 サウル老帝の幻影が後継者に指名した赤い街道の盗賊、ゴーラ王イシュトヴァーンが吼えた。

 神聖パロ王国の解消を宣言した第2王位継承権者アルド・ナリス、北の王と並ぶ中原の風雲児。
 予知能力者を自称する魔戦士は底知れぬ不安を鎮める為か虚勢を張り、クリスタル急襲を宣言。
 中原の平和を護る有志連合の最右翼、魔都の解放者と各国に認知させる絶好の機会と主張。
 ケイロニア軍に一蹴された汚名を雪ぎ、ゴーラ軍の名誉を掲げる大舞台と唱え強情を張る。
 鋭い洞察力を秘めた豹頭の戦士グイン、パロ随一の詐欺師はあっさりと真相を看破。
 己の体面に拘り突っ張る猪武者は運命共同体の盟友、口車の天才に押し留められた。

「差し出がましい事とは百も承知だが、私にも出番を貰えないかな?
 正確には私の部下達、魔道師軍団の価値を認めさせる格好の機会を逃す訳には行かない。
 パロの特技を最大限に高く売り付け、対等の立場で同盟を結ぶ交渉材料を確保したい。
 もちろん私自身には何も出来ないし、危険に身を晒す心算は全く無いよ。
 ケイロニア軍だって新生ゴーラ軍と同様、魔道に対処する心得は皆無だからね。
 グインに貸しを作って置けば後々、何かと都合が良いと思わないか?」

 ダーナムの生存者は町長以下全員、エルファへ避難していた。
 ゴーラ軍が南下した以上、マルガからの援軍は望めない。
 イシュトヴァーンの統率する武装集団が進軍する先は、必ず流血の巷と化す。
 国王軍が体勢を立て直し攻め寄せて来る直前、ダーナム市民は断腸の思いで街を離れたが。
 神聖パロ王妃リンダの要請を待たず、パロ北西部中心都市エルファの人々は行動を起こした。
 ダーナムの避難民を市民総出で受け入れ、同胞に暖かい救いの手を差し伸べている。

 人々の行動には魔道師の放った遠隔感応波、マリウスの歌声も預かっていたかもしれぬ。
 負傷者には薬を与え治療を施し無償で食糧や衣服、己の家を提供し安眠出来る環境を整えた。
 エルファ周辺の住民が一致協力して、ダーナムの避難民を懸命に介抱する一部始終を。
 ワルスタット選帝侯ディモス、ケイロニア軍の別働隊を率いる指揮官が見ていた。

 太陽神ルアーの如き美貌を備える隣国の領主、ハゾスの親友は直ちに伝令を走らせた。
 ワルスタット侯の命を受け領民は備蓄の食糧、各種の支援物資を直ちに発送。
 グインの留守を預かる忠臣、ランゴバルト選帝侯ハゾスの許にも伝令は到着。
 ディモスの要請を受けた明敏な盟友、ハゾスも大帝の許可を得て行動に移る。

 フリルギア選帝侯ダイモスの協力を得て、北の都サイロンから食糧や医療品を発送。
 ケイロニア南西部フリルギア街道を経て、数多の救援物資は直接エルファに到着。
 エルファの市長は適切な援助に感謝し、ケイロニア軍の為に無償で便宜を図ると宣言。
 炊き出しに追われる住民も愁眉を開き、北の勇者達を歓迎する空気が醸成された。 
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