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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第3部 始祖の祈祷書
  第1章 アンリエッタの決断

トリステインの王宮は、ブルドンネ街の突き当たりにあった。

王宮の門の前には、当直の魔法衛士隊の隊員たちが、幻獣に跨り闊歩している。

戦争が近いという噂が、2、3日前から街に流れ始めていた。

隣国アルビオンを制圧した貴族派『レコン・キスタ』が、トリステインに侵攻してくるという噂だった。

よって、周りを守る衛士隊の空気はピリピリしたものになっている。

王宮の上空は、幻獣、船を問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックも激しかった。

いつもなら難なく通される仕立て屋や、出入りの菓子屋の主人までが門の前で呼び止められ、身体検査を受け、ディティクトマジックでメイジに化けていないか、『魅了』の魔法等で何者かに操られていないか、など、厳重な検査を受けた。

そんな時だったから、王宮の上に1匹の風竜が現れた時、警備の魔法衛士隊の隊員たちは色めきたった。

魔法衛士隊は3隊からなっている。

3隊はローテーションを組んで、王宮の警備を司る。

一隊が詰めている日は、ほかの隊は非番か訓練をしている。

今日の警護はマンティコア隊であった。

マンティコアに騎乗したメイジたちは、王宮の上空に現れた風竜目掛けて一斉に飛び上がる。

風竜の上には5人の人影があった。

しかも風竜は、巨大モグラをくわえている。

魔法衛士隊の隊員たちは、ここが現在飛行禁止であることを大声で告げたが、警告を無視して風竜は王宮の中庭へと着地した。

桃色がかったブロンドの美少女に、燃える赤毛の長身の女、そして金髪の少年、眼鏡をかけた小さな女の子、そして白い服を着て、頭に白い仮面を被り、腰と背中に剣を差している男だった。

マンティコアに跨った隊員たちは、白い仮面を被った男が只者ではない事を感じていた。

霊圧を抑えていたが、消すことはできないのだ。

マンティコアに跨った隊員たちは、着陸した風竜を取り囲んだ。

腰からレイピアのような形状をした杖を引き抜き、一斉に掲げる。

いつでも呪文が詠唱出来るような態勢をとると、ゴツイ体に厳しい髭面の隊長が、大声で怪しい侵入者たちに命令した。

「杖を捨てろ!」

一瞬、侵入者たちはむっとした顔になったが、彼らに対して青い髪の小柄な少女が首を振って言った。

「宮廷」

一行はしかたないとばかりにその言葉に頷き、命令されたとおりに、杖を地面に捨てた。

「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」

一人の、桃色がかったブロンドの髪の少女が、とんっと軽やかに竜の上から飛び下りて、毅然とした声で名乗った。

「私はラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものじゃありません。姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」

隊長は口ひげをひねって、少女を見つめた。

ラ・ヴァリエール公爵夫人なら知っている。

高名な貴族だ。

「ラ・ヴァリエール公爵様の三女とな」

「いかにも」

ルイズは、胸を張って答えた。

「なるほど、見れば目元が母君そっくりだ。して、要件を伺おうか」

「それは言えません。密命なのです」

「では、殿下に取り次ぐ訳にはいかぬ。用件も尋ねずに取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」

困った声で、隊長が言った。

「なら、アンリエッタ姫殿下に『ルイズとその使い間が戻ってきた』と伝えろ。そうすればわかる」

風竜の上から、空中を歩きながら、ウルキオラがそういった。

隊長は、空中を歩いているウルキオラに驚愕したが、ウルキオラが言っていることももっともなので、そのようにすることにした。

「あいわかった。では、私が姫殿下にそのようにお伝えしよう」

「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げた。

「お前たちは、私が戻るまでこの者たちを見張っていろ」

「はっ!」




暫くすると、宮殿の入り口から、鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。

中庭の真ん中で囲まれているルイズの姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。

「ルイズ!」

駆け寄るアンリエッタの姿を見て、ルイズの顔が、薔薇を撒き散らしたようにぱぁっと輝いた。

「姫様!」

二人は、一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしりと抱き合った。

「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ。ルイズ、ルイズ・フランソワーズ……」

「姫様……」

ルイズの目から、ぽろりと涙が零れた。

「件の手紙は、無事、このとおりでございます」

ルイズはシャツのポケットから、そっと手紙を見せた。

アンリエッタは大きく頷いて、ルイズの手をかたく握り締めた。

「やはり、あなたは私の一番のお友達ですわ」

「もったいないお言葉です。姫様」

しかし、一行の中にウェールズの姿が見えないことに気づいたアンリエッタは、顔を曇らせる。

「ウェールズざまは、やはり父王に殉じたのですね」

ルイズは目を瞑って、神妙に頷いた。

「して、ワルド子爵は?姿が見えませんが。別行動をとっているのかしら?それとも……、まさか……、敵の手にかかって?そんな、あの子爵に限って、そんなはずは……」

ルイズの表情が曇る。。

変わりに、ウルキオラが言った。

「ワルドは裏切り者だった」

「裏切り者?」

アンリエッタの顔に、影がさした。

そして、興味深そうにそんな自分たちを、魔法衛士隊の面々が見つめていることに気づき、アンリエッタは説明した。

「彼らは私客人ですわ。隊長殿」

「さようですか」

アンリエッタの言葉でアンリエッタと共に戻って来た隊長は、納得するとあっけなく杖を収め、隊員たちを促し、再び持ち場へと去っていった。

アンリエッタは再びルイズに向き直る。

「道中、何があったのですか?……とにかく、私の部屋でお話ししましょう」




アンリエッタは、キュルケとタバサ、そしてギーシュにウルキオラ、ルイズを自分の居室に入れた。

小さいながらも、精巧なレリーフがかたどられた椅子に座り、アンリエッタは机に肘をついた。

「あの子爵が裏切り者とは、どういうことですか?ウルキオラさん」

アンリエッタは、ウルキオラに何かを求めるように言った。

ルイズとウルキオラは何を求めているのかわかった。

しかし、キュルケとタバサ、ギーシュはアンリエッタがウルキオラに何を求めているのかわからなかった。

ウルキオラは道中の状況を見せるため、目を抉りだした。

ルイズとアンリエッタは、初めてではなかったので、驚かなかった。

しかし、キュルケとタバサ、ギーシュはウルキオラの行動にぎょっとした。

「ダ、ダーリン!なにしてるの⁉︎」

「うわぁ!やめたまえよ!」

「…っ」

キュルケとギーシュは大声を上げ、タバサは目を閉じた。

「黙っていろ。じきに分かる」

ウルキオラの目がゴポッと音を立て、取り出された。

そして、取り出した目を手の中に握り、潰した。

「『共界眼』」

ウルキオラの目が四散した。

すると、5人の頭の中に直接映像が流れた。

キュルケたちが合流したこと。

『女神の杵』亭で脱獄したフーケと、白い仮面の男、傭兵に襲撃されたこと。

二手に分かれたこと。

アルビオンへ向かう船で、空賊に襲われたこと。

その空賊が、ウェールズ皇太子だったこと。

ウェールズ皇太子に亡命を勧めたが、断られたこと。

アンリエッタへの伝言を預かったこと。

ワルドとルイズが結婚することになったこと。

しかし、ルイズが断ったこと。

すると、ワルドが豹変したこと。

そして、ウェールズを殺害したこと。

ウルキオラがルイズを守り、ワルドを撃退したこと。

映像が終わると、アンリエッタとキュルケ、タバサにギーシュは口をぽかんと開けたまま動かなかった。

アンリエッタはワルドの行動が、キュルケとタバサ、ギーシュは頭の中に映像が流れ、ウルキオラがなんなくワルドを撃退したことに驚いていた。

ルイズは俯き、真っ赤な顔をしている。

「これが、今回の任務の全てだ」

ウルキオラがそういうと、アンリエッタが震えた声で言った。

「あの子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」

アンリエッタは、かつて自分がウェールズにしたためた手紙を見つめながら、ポロポロと涙を零した。

「姫様……」

ルイズが、そっとアンリエッタの手を握った。

「私が、ウェールズ様のお命を奪ったようなものだわ。裏切り者を、使者に選ぶなんて、私はなんということを……」

ルイズは首を振った。

「ウェールズ皇太子は、もとよりあの国に残るつもりでした。姫様のせいじゃではありません」

「あの方は、私の手紙をきちんと最後まで読んでくれたのかしら?ねえ、ルイズ」

ルイズは頷いた。

「はい、姫様。ウェールズ皇太子は、姫殿下の手紙をお読みになりました」

「ならば、ウェールズ様は私を愛しておられなかったのね」

アンリエッタは、寂しげに首を振った。

「では、やはり……、皇太子に亡命をお勧めになったのですね」

悲しげに手紙を見つめたまま、アンリエッタは頷いた。

ルイズは、ウェールズの言葉を思い出した。

彼は頑なに「アンリエッタは私に亡命など勧めていない」と、否定した。

やはりそれは、ルイズが思った通り嘘であったのだ。

「ええ、死んでほしくなかったんだもの。愛していたのよ、私」

それからアンリエッタは、呆けた様子で呟いた。

「私より、名誉のほうが大事だったのかしら」

ルイズは、違うと思った。

名誉を守ろうとして、ウェールズはアルビオンに残ったわけじゃない。

彼は、アンリエッタに迷惑をかけないために……ハルケギニアの王家が、弱敵ではないことを反乱軍に示すために、アルビオンに残ったのだ。

「姫様、違います。皇太子は、姫様や、このトリステインを守るために、あの国に残ったんです。ウルキオラにそう言われました」

そう、ウルキオラが言っていたことを思い出しながら、ルイズは言った。

「私を守るために?」

アンリエッタはウルキオラに向かって言った。

「自分が亡命すれば、反乱軍が攻め入る格好の口実を得たことになる。それに、アンリエッタ自らウェールズに亡命を勧めたことがどこからか漏れれば、それこそゲルマニアとの同盟が白紙になる。ウェールズはそれを危惧していた。まあ、案の定、ワルドが裏切り者だったことを考えると、ウェールズの考えは理にかなっていた……ということだろう」

ウルキオラは淡々と答えた。

「現に、ワルドから『レコン・キスタ』に亡命の件が漏れることはない」

「ウェールズ様は…そこまで…私のことを…」

アンリエッタはその場に泣き崩れた。

ルイズはポケットから、アンリエッタにもらった水のルビーを取り出した。

「姫様…これ、お返しします」

アンリエッタは涙を拭い、首を振った。

「それはあなたが持っていなさいな。せめてものお礼です」

「こんな高価な品をいただくわけにはいきませんわ」

「忠誠には、報いるところがなければなりません。いいから、とっておきなさいな」

ルイズは頷くと、それを指にはめた。

その様子を見て、ウルキオラはウェールズの指から抜き取った指輪のことを思い出した。

右ポケットに入ったそれを取出し、アンリエッタに手渡した。

「ウェールズの指輪だ」

アンリエッタは、その指輪を受け取ると、目を大きく開けた。

「これは、風のルビーではありませんか。どうして……」

「ウェールズの亡骸から拝借してきた。お前が持っていたほうがいいだろうと思ってな」

ルイズはウルキオラが持っていることに驚いた。

そして、ウルキオラがそんなことをしたことにも驚いた。

アンリエッタは風のルビーを指に通した。

ウェールズが嵌めていたものなので、アンリエッタの指にはゆるゆるだったが……、小さくアンリエッタが呪文を呟くと、指輪のリングの部分が窄まり、薬指にぴたりとおさまった。

アンリエッタは、風のルビーを愛おしそうに撫でた。

それからウルキオラの方を向いて、はにかんだような笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。ウルキオラさん」

寂しく、悲しい笑みだが、ウルキオラに対する感謝の念がこもっていた。

「あの人は、勇敢に死んでいったと。そう言っていましたね」

「ああ」

ウルキオラは頷いた。

アンリエッタは指に光る風のルビーを見つめながら言った。

「ならば、私は……、勇敢に生きてみようと思います」




王室から、魔法学院に向かう空の上、ルイズは黙りっぱなしだった。

ウルキオラはタバサが持ってきてくれた『鬼道全集』を開いていた。

そんな空気に耐えかねて、キュルケが口を開いた。

「まさか、あの子爵が裏切り者だったなんてね」

キュルケはウルキオラを、熱っぽい視線で見つめた。

「でも、ダーリンがボコボコにしてたわね…」

キュルケは、ウルキオラに見せられた映像を思い出しながら言った。

ウルキオラは、本から目を離さずに頷いた。

「本当にすごかったわ!さすがは『イーヴァルディー』ね!」

ウルキオラは、キュルケの言葉に本から視線を外し、キュルケを見つめた。

ルイズにタバサ、ギーシュも驚いた顔でキュルケを見つめた。

でも、タバサだけは驚き方が尋常ではなかった。

「そういえば、ワルドに決闘を申し込まれたとき、物陰に隠れていたな」

ウルキオラは冷静に答えた。

「あら、気づいてた?」

今度はキュルケが驚いた顔をした。

「まさか、気づかないとでも思ったか?まあ、まさか話を聞いていたとは思わなかったがな」

ウルキオラは再び本に視線を移した。

タバサは目を見開いて、ウルキオラに言った。

「イーヴァルディー……」

タバサのそんな様子を見て、ルイズとキュルケ、ギーシュは驚いている。

「ああ、イーヴァルディー。俺の左手に刻まれたルーンの名だ」

タバサはもっと詳しく知りたいと思ったが、ウルキオラが答えてくれないと察して、目線をそらした。

「そう……」

タバサはそれだけ言うと、ウルキオラと同じように本を読み始めた。

キュルケはそんなタバサの様子を見て、タバサを揺さぶった。

「ねえ、タバサ!あなた、イーヴァルディーに何か思い入れでもあるの?」

タバサはされるがままに、がくがくと首を振った。

そんな風にキュルケが暴れたおかげで、バランスを崩した風竜は、がくんと高度を落とした。

その時の揺れでギーシュがバランスを崩し、風竜の背中から落っこちた。

ぎぃやあああああああ、と絶叫を残し、彼は落下した。

相手がギーシュなので、誰も気にしないのを見たウルキオラが、本を閉じた後「ちっ」と舌打ちをして、風竜の上から飛び降りた。

「ウ、ウルキオラ!」

突然飛び降りたウルキオラに、ルイズはどこか寂しい顔をして言った。




ウルキオラがギーシュを抱えて地面にふんわりと降りた。

そこは草原の中を走る、街道であった。

ギーシュはウルキオラから落とされた後、立ち上がると、空を見て言った。

「彼女たちは、迎えには来てくれんのかね?」

ウルキオラは空を見上げた。

青空の中、風竜はぐんぐん遠ざかっていく。

「そうらしいな」

「なるほど。では歩こう。まあ、半日も…」

ギーシュがウルキオラに背を向け、街道を歩こうとしたが、ウルキオラに抱えられたため、言葉を途中でとめた。

「お、おい…ウルキオラ?まさかとは思うが…」

ギーシュはラ・ロシェール行きの時のことを思い出した。

「こっちの方が速い」

ウルキオラはそう言って地面を蹴り、物凄いスピードで空中を滑走する。

「ちょ、やめ…もう、ウンザリだぁぁぁぁぁ〜…」

ぽかぽかと太陽が照らす中、ウルキオラは魔法学院目指して飛んで行った。 
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