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寄生捕喰者とツインテール

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現れた予兆

 アルティメギル基地のとある部屋。


 そこには、スワンギルディが一心不乱に鍛錬に励んでいた。……変態の彼等にしては珍しく、普通に剣を振る鍛錬である。

 スワンギルディの顔には、先刻までは無かった筈の覇気が取り戻されており、また明確な目標が出来た事が窺える。


 何故彼は覇気を取り戻す事が出来たのか……それは少し前までさかのぼる。






 クラーケギルディとの諍いを止め基地の中へと足を踏み入れたリヴァイアギルディは部下達を一旦解散させて、スパロウギルディへと基地の構造を聞いて行くなかで、それとは別にもう一つ問いかけた。


「ドラグギルディが使っていた部屋は何処だ? スパロウギルディ隊長よ」
「……何故、ドラグギルディ様のお部屋を?」



 その疑問を口にしたのはスワンギルディ。スパロウギルディの後ろから一歩進みでて、リヴァイアギルディへ面と向かっていう。

 リヴァイアギルディはニヤリ笑うと、高笑いしながら言い放った。



「なーに、情けない敗北者の部屋でも見てひとしきり笑ってやろうと思ってな! 負け犬を嘲笑い英気を養う為よ!」



 誤魔化す事も無く言われたセリフにスワンギルディは体を震わせるも、スパロウギルディは顔を伏せたまま何も言おうとしない。

 やがてドラグギルディの部屋を教えられそこへ向かおうとしたリヴァイアギルディの方を、我慢できなくなったかスワンギルディががっしりと掴んで引きとめた。


「今の言葉、御取消しを」
「……何?」
「スワンギルディ!?」



 スパロウギルディの制止も耳に届かぬと、スワンギルディは怒りをたぎらせてリヴァイアギルディを睨み据える。



「ドラグギルディ隊長は立派い戦い殉職されました。観た者こそおらずとも立派な散り際であったと―――」
「ほざくなよ若造めが!!」



 瞬時に巻き付けている一本の触手を……何度見ても股間から生えているようにしか見えない触手を、一気に解いて抜きはらって、スワンギルディを跳ね飛ばしてしまった。



「うぐぁっ!?」
「敗れた者を何時までも語り、敗戦を美談で取り繕う暇があるのならば剣の一本でも振るう事だな。アイツと同じ負け犬になりたくなければな!!」



 触手をしまって背を向けたまま、リヴァイアギルディは高笑いと共に去っていく。それを聞いたスワンギルディは再び怒りを覚えると同時に、自分がドラグギルディに恥をかかせる一端を担ってしまった事を悔い、震えていた。

 スパロウギルディはそんなスワンギルディの方を叩くと、リヴァイアギルディの方を指差した。


「よく見てみるがいい……リヴァイアギルディ様の“本心”を」
「! あ、あれは……!!」



 スワンギルディは目にした。

 動作にこそ余裕があふれてはいるが……彼の股間の触手は彼自身の握りつぶさんばかりに力み、震えているのを。

 顔で嗤って股間で泣いて……何か名台詞を侮辱された気になるが、そこには戦士の表に出さぬ悲しみがあった。
 ……本人達がどれだけシリアスでも、やっぱり馬鹿にされた気がするのは拭えない。彼らには本当に悪いのだが。



「悲しくない筈あるまいよ、ましてや本気で笑う事など出来ようものか……他人に厳しく、また自分に厳しくあれ。リヴァイアギルディ様はそういうお方だ」
「……リヴァイア、ギルディ様……」



 崇拝していた大将の旧友、彼の奥に秘めた感情を読み取れなかった自分の未熟さに、死湾ギルディはまた悔しさで震える。

 ……だが、今度は震えっぱなしでは終わらず、拳を握り立ち上がった。



「スパロウギルディ様、ドラグギルディ様が受けた五代究極試練の内一つ、如何か受けさせて頂きたい。一年掛かりますが……完遂して見せましょう」
「なに……スケテイル・アマ・ゾーンをか!? 死ぬぞ! 冗談抜きで死んでしまう!!」



 ちょっと前にも解説した、透明な箱に梱包されて自分の頼んだ品が送られてくる、無駄に仰々しさを増そうとして逆に失敗している名前を持つ、しかし精神的羞恥心的には全然洒落にならない試練を、スワンギルディはやり遂げると口にしたのだ。

 スパロウギルディが必死に止めるのも否定して、スワンギルディは虚空を見上げた。その顔には……数分前までは無かった、覇気がみなぎっていた。


「あなたの意思は、……私が継ぎます……ドラグギルディ様」






 スワンギルディが覚悟を決めたその時と同時。




 リヴァイアギルディは故・ドラグギルディの部屋を訪れていた。

 死ぬ時は後型も無く消え去ってしまうエレメリアンに、墓標を建てるといった習慣は存在しない。


 世界へと変えることを受け入れ散っていく、潔いと言えばそれまでだが、しかし別れが悲しくない訳ではない。

 現にMドラグギルディの部屋には手向けのフィギュアやゲームは置いてある……肝心の遺影も墓標も存在していないが、それらが墓標となっているかのようだ。

 置いてある供物代わりであるそれらの量は半端では無い。ドラグギルディがどれだけの人望を得ていたか、とてもよく分かる。


 積み上げられた科で造られた墓標の頂点、そこにリヴァイアギルディは一つ物を置いた。



 それは酒……ではなく花……でもなく―――――おっぱいマウスパッドであった。周りが周りだけに予想はできるが、実際ちょっとガクッときてしまう。彼等は酒の味も鼻の匂いも感じられないので、それ以外に供物が無いのも当然なのだが。


「せめてもの餞……受け取るがいい、旧友よ。そして、ツインテール以外の……巨乳にも目を向けてみるといい。それが心の安らぎとなる事を祈ろう」



 幼女好き+ツインテール好きが死んでも胸に目を向けるかは疑問だが、リヴァイアギルディは目を閉じて黙祷した。

 そして部屋を後にしい道程のあった場所へと足を運ぶと、そこには未だ傅いたままの彼の部下がいた。



「……クラーケギルディよりも高い戦果を上げるのだ。負けてはおられん……分かっているな」
「はっ!」



 リヴァイアギルディの懐刀である猛牛のエレメリアン・バッファローギルディは、ツインテイルズを倒す為、足音荒々しく出撃した。


 その足元の影にある筈の無い、“暗く青に近い色”を不自然に映しながら。
























 観束トゥアールという終始何がしたかったのか分からない転入生と、桜川尊という婚姻届を配りまくる事が常識とでも言うかのように語る教師を、自分のクラスに瀧馬が迎えた日……その日の放課後。


 ゴールデンウィークから数日開けてまたアルティメギルの構成員が攻め込んできた。


 攻め込んできた場所は屋外にあるグラビアアイドルのコンテスト会場であり、スタイルのいい水着姿の女性達が、あちらこちらで逃げ回っていた。
 逃げ惑う度に豊満な胸が跳ね躍り、恐怖など殆ど感じられない、作ったような怖がった顔のまま、戦闘員から逃げ続けている。

 何故に恐怖をもたらしていないのかというと、ラースが言うには属性力は単純感情種のエレメリアンの介入でもない限り、人間を殺してしまうと消え失せて手に入らなくなってしまうのだという。

 その上、どれだけ抵抗しても構成員戦闘員問わず、相手を捕まえるか気絶だけで済ませて放置しさらう事など一切しないので、死なないんだから大丈夫だしテイルレッドが来るから寧ろ楽しみ、などといった考えを持つ物が大半になってしまっているのである。



「……もし、単純感情種が現れたら……」

『危ないだろウナ。俺らは相手を殺しても属性力を手に入れられる……というより“殺した方が”より上質で上手い食事にありつけるんデナ。吸い取るだけで見逃してくれる奴の方が少ないんだよナァ』



 せめて危惧している事が近い内に起こらないことを祈りながら、グラトニーとラースは現場の建物の上で気配を殺し、左腕右足両方共で空気を吸い込みながら待機している。


 グラトニーがワープしてきてから数十秒遅れて現れたツインテイルズは現場を眺め、テイルレッドは溜息を吐きテイルブルーは胸に対する嫉妬があるのか殺気を強めていた。


 そんなブルーを見て、聞こえる筈も無いがラースが慰めの言葉を掛ける。



『安心しナヨ愛香の……じゃねェヤ、テイルブルー。あいつ等の殆どに巨乳属性(ラージバスト)はネェ。多くが造りモンだからヨォ』

「……へぇ……造り物」




 あのアイドル達のファンの方々には悪いから、この情報は黙っておこうとグラトニーはそう心に決めた。
 同時に要らない情報を流して混乱させたり、増長させない為に愛香へも伝えない事も。

 ……知っておいても損しかない情報だ。



『ちなみにいらん事を言ウト、一番巨乳属性を持ってんのはあの牛野郎ダナ』

「……胸が無いのに一番持っているとはこれいかに……」



 筋肉によって盛り上がった胸は当然含まないのだが、属性力の化身でもある彼らなのだから巨乳でも何でもない牛の様なエレメリアンが一番今日乳属性を持っているのは妥当でもある。

 牛の様なエレメリアンも、属性力を感じ取り大いに落胆した様子で、戦闘員達へと指令を出した。



「やはり真の巨乳はおらぬか……見せかけばかり、嘆かわしき事よ! ならばまず手始めに奪うはツインテールぞ! かかれい!!」



 そうこうしている内に髪型をツインテールにしている女性達が優先的に狙われ、大勢の戦闘員に囲まれてしまった。

 ヘタリこんでこそいるのだが、どうみても演技でしかもカメラ映りまで気にしている。たしかに局のカメラはテイルレッドだけでなく彼女達も映しているが、随分悠長に構えているとグラトニーはかなり呆れた表情となった。

 ラースが漏らした溜息も、呆れの色を隠していない。


 ツインテイルズは結構必死なのかそれとも表情が読めないのか、結構本気で救出しようと彼女達へ向かっていくが、途中でバッファローギルディに阻まれた。




「行かせんぞツインテイルズ! このバッファローギルディが相手をする! 貴様らは強く、何人も敗れ去ったそうだが……巨乳属性を広める為、我が隊長の名誉の為! 命を賭す覚悟でいかせてもらう!!」
「ラ、巨乳属性……本当にあるんだなそんな俗っぽい属性って……」



 そうは言うが、個人個人の嗜好が属性力となる以上、別段あっても不思議ではない。

 と、今まで殺気だった目で女性達を見ていたテイルブルーが、勢いよくバッファローギルディへと目を向ける。



「巨乳属性……? つまりこいつを倒せば……巨乳属性の属性玉が手に入る……!?」
「ブ、ブルー?」



 目が獣が獲物を狙うソレになっているテイルブルーにレッドは怯えるが、肝心のバッファローギルディはそんな目線には気がつかず巨乳の良さを語り始めている。



『アホかあいつは……巨乳属性の属性力を取り入れよウガ、属性玉を手に入れよウガ、受け入れる器が無けりゃどうにもならねぇっテノ』

「……ブルーに器、無いの?」

『無イ』




 オブラートにも包まず躊躇する事も無く、ラースは堂々と言い切った。更に追い打ちとして、彼女には貧乳属性が存在している事も明かした。
 ラース曰く、貧乳を気にし過ぎなうえに母性がないのが原因らしい。



『それより早く行こウゼ。全然強くネぇし、熟成してもたかが知れてっカラ、右拳だけでOKヨ』

「了か――――」




「エクゼキュートウェエェエエエエイブゥゥゥッ!!!」

「乳とは―――――」

「よっしゃあ! 巨乳ゲットォ!!」
「ヒデェえッ!?」




「『…………』」



 グラトニーが承諾の言葉を言いかけるのと同時、テイルブルーは初っ端から必殺技を放って、バッファローギルディを爆散させてしまった。

 グラトニーも初っ端から必殺技級の技を叩き込む事はあるが、こっちは食事として必要だからであり、向こうはなまじヒーローとして活動している事と、グラトニーとは違い生きる事には関係ない私情と私怨込みでの必殺技なので、ハイエナの如く属性玉を探し凶悪な顔をしているのも含めて余計にタチが悪い。

 更に付け加えるなら、期待を背負い敗れる覚悟の上で出陣してきたバッファローギルディが、その覚悟も木端微塵に吹き散らされた事に同情せざるを得ないというのも、ヒドイ原因の一つにある。

 まあ、グラトニーにとっては食事にありつけなかった事の方が問題のようで、腹をさすって空しそうな表情で指を咥えている。


 ……瀧馬の黒歴史に、また一ページ刻まれた。




「……食べれなかった」

『ありゃしょうがねェヨ。それにいいじゃねェカ、どうせ巨乳にはなれないから報いは十分受けるシヨ』

「そういう問題かなぁ……」

『そういう問題にしトケ、大人しクヨ』



 渋々、本当に渋々ながらラースの言い分に納得して、眼下でまたもみくちゃにされかかっているテイルレッドを、テイルブルーがリボン状パーツが大きくなって出来た翼で飛びながら助け、しかし途中で万歳と両手を上げてテイルレッドを落とし、地面に人型のくぼみを作ったテイルレッドへ再び群がる人々を見ながら吐きまくりな溜息と共にワープするのであった。










 ……否、ワープする『筈』だった。




 いくら待っても景色が変わらない事を怪訝に思ったか、グラトニーが少し顔を下へ傾けてラースへ問いかける。


「ラース? どうしたの……?」

『ふざけんナヨ……!? 何でここに居やガル……!』

「ねぇ、ラース?」

『奴ではねぇのは明白……ダガ、来るにしたって早過ぎるダロ……!?』


 声の音量を変えて行われた二度の問いかけには答えず、焦った様に言葉を紡ぎ続けるラースへと、グラトニーはより大きな声を上げた。


「ラース!」

『……相棒、声上げなくたって聞こえてルゼ、そんで何も言わずに飛び出す準備トケ』

「……え?」


 何時になく焦っているラースの声にグラトニーも戸惑い、幼くなっている事も合わさって獣のように視座を曲げ手を前にやった格好を解いて、立ちあがって首を傾げる。

 そして、テイルレッドが何とか人込みから抜けだし、時間差のワープによって消えていった、その瞬間――――



 バッファローギルディが居た場所から、ぬっと何かが姿を現した。


「! 何アレ……」

『ボサッとすんな相棒!! 早く飛びかカレ!』

「何を―――」

『早くしろオッ!!!』


 余りに切羽詰まった声が響き、グラトニーは反射的に空気を噴出させて眼下のコンテスト会場へと突貫した。

 そして視界に移る景色には……グラビアアイドルの背後から“喰いつこうとする”化け物の姿が……


「う、らああぁぁっ!!」
「えっ?」

〔ゴギョオオオオッ!?〕

『よッしゃ間一髪ダゼ!!』




 何とか喰い付く前に左手で掻っ攫い、投げ付けてコンクリートへ叩きつける。


 マジかに見たその化け物は、アルティメギル所属のエレメリアンとはまた違った雰囲気を漂わせていた。


 腕だけがいやに肥大化し、腰から下は球体状になっており下半身が無く、腕だけで体を支えているその異形は更に顔の口から上も切断された様に存在しておらず、牙の生えそろい若干突き出た上下両方の顎がより目立つ。
 体の色は青味がかった黒色で、腕は鮮やかな柿色という、コレまた一部が目立つ体色となっている。



「あれ? まだエレメリアンが居たのかな?」
「この子って、グラトニー?」
「エメレリアン食べちゃう子でしょ……なんか怖ーい……」
「もう一回テイルレッドちゃんが見れるんだ、ラッキーね!」
「モケーは何処?」



 呑気に話し始める彼女達を見て、ラースは恐らくグラトニー……瀧馬の前では初めて見せる『怒り』をみなぎらせて叫んだ。



『相棒! 殴り飛ばしてでもアイツらをどっかいかせやガレ!! カメラマンもだ例外はネェ!!』

「まさか……単純感情種……!?」

『詳しい事は後ダ! 早くしロッ!!』



 ここまできて漸くラースの焦っている理由に気が付いたグラトニーは、それでも殴り飛ばす事は出来ないと運ぶ為に考え始めた。

 正にその隙を狙ったかのように、正体不明のエレメリアンは体を沈ませ一人の女性へと突っ込んで行く。



「! くうっ!!」

〔グルルルルルォォォ……〕



 咄嗟に割り込んでエメレリアンの突進を食い止めるグラトニー。

 自分達に突っ込んできたのを見てもなお、危機感を殆ど待たずにちょこちょこと、アイドル達はテイルレッドを探しながら少しずつ離れていく。


 グラトニーがエメレリアンを投げ飛ばして彼女達の方へ向かおうとした時、突進を喰いとめられたエレメリアンは自分から距離を取ったかと思うと徐に地面へ拳を叩きつけ、


「地面がっ!?」

〔グォォォッ!!〕


 コンクリートをグバッと持ち上げて、思いっきりアイドル達の方向へ投げつけた。非難すらしていない彼女達は、唐突な危機を前に呆然としている。


『相棒ッ!!』

「……ッ!? ウオオォォッ!!」


 そのコンクリート塊を空気爆発により一気に追い越して、右拳を叩きつけ荒くバラバラに砕き割ったた。

 破片が飛び散り、彼女達数名の肌を掠める。


「……へ?」

「逃げる! 早く!!」


 更にエレメリアンが、濁った柿色の何かを纏ったコンクリート塊をマシンガンもかくやと連続で投げ付けてくる。侵略初日にリザドギルディが吹き飛ばした自動車よりも大きな塊がすっ飛んでくる様を見て、彼女達はようやく自分達に襲いかかる危険を悟ったか悲鳴を上げ始めた。




「い、いやぁっぁああああ!?」
「何なのよ!? 何なのよあれぇっ!?」
「テイルレッドっ、助けてぇ!」


「く……うらああっ!!」



 だがグラトニーの促しなど耳に入れず、唐突な恐怖について行けないのか悲鳴を上げるだけで彼女達は動こうとしない。


 バラバラに放たれたコンクリート塊を律儀に右拳で粉砕していては間に合わない……グラトニーはそう判断し瞬時に右足を振りかぶって、“風刃松濤(ふうばしょうとう)”で全てを切断。
 
 上下に分かたれた塊は、あらぬ方向へすっ飛んで行き、下にそれたモノは建物にぶち当たり砕けて倒壊、上側にそれたモノは煌びやかなステージを形が連想し難くなるほど粉々に吹き飛ばした。


 風刃の勢いは死なぬまま正体不明のエレメリアンへとぶつかるが、やはり威力が低い為かそれは彼に斬り込みを入れただけで大した傷は負わせていない。


〔ジョオオオオオオオオ!!〕

「……怒った」

『そりゃ怒るワナ。だが意識はこっちにそれタゼ』


 もう女性らは目に入っていないのか、エレメリアンはグラトニーへ向けて突貫してきた。

 グラトニーは後ろへ蹴り飛ばす形で飛び越えて回避と攻撃を行うと、勢いで自分が飛び上がった事を利用し左腕を下へ向ける。


「いけぇぇぇっ!!」

〔オオオオオオオオオ!?〕


 暴風により地面へ無理やり押さえつけられるエレメリアンは、サーストの時と違いダメージを深く負っていた。
 だが、すぐに倒れてくれる筈も無く腕を叩きつけて距離を取る。


〔ジョオオオッ!!〕

「うお―――ぐっ!」


 と同時にコンクリート塊が投げつけられてきた。

 大きさでいえば十tトラックに勝るとも劣らない。よく見るとその塊は建物を形成していた物のようで、今まで投げてきていたものよりも大分厚い。

 それへ向けて思いっきり左拳を叩きつけてグラトニーだが、濁った柿色の何かを纏った方は簡単には砕けず、対処しきれずに直撃をもらった。


「あれって……物を強化してる?」

『十中八九それだろウナ。でなきゃ当たり所が悪くテモ、コンクリートの塊一発で建物が崩れるカヨ』


 力が分かれば何のその、ならば近付いて殴ればいい。

 次々飛んでくる塊を避けながら肉薄しようとし……左側から飛んできたものを切断してグラトニーは驚いた。


「コレ風船!?」

『オイオイ、コンクリートみたいに地面に突き刺さっタゼ!? 何だコリャ!』


 しかも驚くべき事に、真っ二つになったというのに空気が抜けていないかの如く、風船は分断されても丸い形を保っていた。

 驚愕している間にも、食べ物から草から遊具から機材からコンクリートまで何でもかんでも投げ飛ばされてきて、しかもそれら全てがどれだけ軟な物でも当たった物の方を破壊しているばかりか、パフェでさえ落ちても形が一切崩れず中身もこぼれない。


『強化+物質固定って訳カ。力が勝リャ形は変られルガ、固定されたまんま動かないのは変わり無シト』

「だからどんなものでも凶器に……うわっ! ってマネキンと銅鑼焼き!?」

『まだまだ来ルゼ、変なモン来ても突っ込んデケ!!』

「ん! 了解!」


 左手で叩き落とし、右足で迎撃し、体を捻って避け続ける。距離が縮まる事に比例して段々と弾幕もあつくなっていくが、それでも確実に徐々に徐々に近づいて行く。

 周りは既にクレーターや破壊跡だらけの大惨事だ。


〔ギョオオオオッ!!〕

「! 今っ!!」

『オオ! 殴り飛ばしやがっタカ!』

〔ジョオゴオオッ!?〕


 またまた飛んできたコンクリートをグラトニーは避けずに殴り返し、性質を利用して逆に相手に当てて見せた。

 下方向へ向いた腕も利用して空気を噴出、そのまま勢いよく浮かび上がって近距離でエレメリアンの上を取る。


「落ちろおっ!」


 グラトニーは “風刃松濤” を腕の付け根目がけて撃ち放った。片腕を断って機動力を無くすつもりだ。
 対処が間に合わずモロに喰らったエレメリアンは転がるが、肝心の腕は皮一枚で繋がっている。動かない所を見るに断たれる寸前で固定化したらしい。


〔ギョォォ、ジョオオオオオオオ!!〕


 完全にキレたエメレリアンは怒りの咆哮を上げ、斬り飛ばされかけた右腕を無理矢理後方へ振りかぶって左腕で前方へ跳躍した。

 その速度はクラブギルディが相手の背後へ回る速度よりも格段に速い。


 だが……グラトニーはその速度をも上回り、逆に背後を取ったのだ。今更驚く事でも無い。

 その余裕から相手も実力ではかなわないと悟ったか、右腕と左腕を固定化されたまま右へ左へ跳ねながら、腕を風車の羽根のように曲げてジャイロ回転の突進を繰り出して来た。


「うぐっ! この!」

『中々に厄介な奥の手ダナ……ダガ!』

「うん!」


 跳ねまわり動きまわるエレメリアンを中途半端に迎撃しながら、グラトニーはさもキツそうにふるまって脚をわざと縺れさせる。


〔ジョギョォォォオオ!!〕

「にぃ……ひっかかった」

〔ギョゴッ!〕


 そこを逃さず狙ってきたエレメリアンへ“風刃松濤”続けざまにぶち当てて、振り上げた脚を振りおろし踏みつける。

 回転は強引に止められ、完全な隙を晒した。

 そのまま蹴りとばして直後グラトニーも跳躍。何も無くなった空中でエレメリアンは反撃が出来ず、真下へと向けられたグラトニーの左掌を、存在せぬ眼で睨みつけるのみ。


「“風砲暴(ふうほあかしま)”ァァッ!!」

〔ジョオオオオオォォォ――――――〕



 膨大な嵐を受け大地に螺旋を刻みながら、エレメリアンは本当に千切れとんだ右腕を残して後型も無く消え失せた。


 その左腕を美味しくなさそうに食べながら、グラトニーはラースへと問いかける。


「ラース、こいつって何で出てきたの?」

『属性力目当てダロ。それ以外考えられるカヨ。……ケド、どうも臭ェ』

「……原因は?」

『なんかソイツかラナ、“植えつけられた別の属性力”を感じたノヨ。もしかしたら偵察の為に動かされてたのかもしれネェ』

「出来るの?」

『相手が弱ければいいって訳じゃアないからいろいろ条件が面倒臭イシ、そもそもメリットが殆ど無ぇからやる奴は皆無だガナ』


 しかし、面倒臭いそれを態々やったという事は、即ちそうするメリットがあったという事に他ならない。
 本人が動けないのか、安全を優先したか、それともまだ準備段階なのか。


(『少なくとも“奴”じゃあネェ。ならソイツは一体何が目的なノカ……単に喰いたいだけってのもあるかも知れねェガ……』)


 膨れ上がってくる不安と漂うキナ臭さにラースは苦々しく思い、グラトニーも嫌な予感を覚えているのか険しい表情のまま、エレメリアンの腕を喰いきり今度こそワープするのであった。




















「『………Vai radniecisks bija tur』」




「む、今の前何か言ったか?」
「何も? 気の所為ではないか?」
「そうかもしれないな、最近テイルレッドを見ていないから……」
「ならば俺が秘蔵映像を見せようぞ! 勿論、後から至上の巨乳も含めてな!」
「おお! それはいい!」



 アルティメギル基地内を歩いていた二人のエメレリアンが、不意に立ち止まるもまた歩き出す。無い様はテイルレッドと巨乳アイドルの事ばかり。


「楽しみであるな、テイルレッドも!」
「然り然り!」




「『………………Ne jauniešiem arī mudināt……』」




 そして、その日何の脈絡も無く……二人のエレメリアンが忽然と姿を消したという。

 
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