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うみねこのなく頃に散《虚無》

作者:蛇騎 珀磨
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第二の晩 (2)

 白い部屋。ゲーム盤が置かれたテーブルとは別に、来訪者である魔女たちに設けられた席に収まる少女が2人。
 ローガンが用意したであろう、お茶とお菓子を口いっぱいに詰め込んでは笑いが絶えない様子。

 盤上も気になるが、戦人には先程の2人の答えが気になっていた。

 戦人の問いに『神様』と『悪魔』と答えた。その真意が気になる。
 そんな戦人の視線に気付いたのか、ベルンカステルが口を開いた。


「何? そんなに見つめても、ヒントはやらないわよ」

「......。なあ、なんで“悪魔”って答えたんだ? ラムダデルタは“神様”って答えたのに」

「本当のことだもの。彼は、私たちにとっては“悪魔”で“神様”よ」


 わけがわからなくなってきた、と頭を掻く。
 その答えには、口の中のお菓子を飲み込んだラムダデルタが対応した。


「いーい? 私たちは俗に、『航海者』と呼ばれているわ。様々な欠片を旅して廻る魔女のことを言うの。他にも観劇とか傍観とかいるけど、ローガンは更に上の『造物主』...つまりは、世界を造り出せる存在。元老院やその魔女たちからは“神”と呼ばれているのよ。
造物主はね、世界を造り出せるけど再び0に戻すことも出来る。だから彼は《虚無の魔導師》なんて呼ばれているの。『造物主』にして『航海者』。それがローガン・R・ロストなのよ」



◇◆◇◆◇◆◇◆



「っきし!」

「風邪かい?」

「長雨に打たれてたからな...。まあ、大丈夫だろう」


 誰だ。噂をしている奴は...。
 考えられるのは、あの3人くらいだな。


「ところで君は、いつお爺様と知り合いに?」

「これまた唐突な質問だな。男にモテても嬉しくないんだが」

「はぐらかさないで答えて」


 うーん...。イマイチ信用されてないな。
 譲治の顔には、完璧なまでの笑顔が貼り付いている。だが、その陰から漏れ出ているドス黒いオーラにSっ気を感じさせられた。


「言っても信じないだろう?」

「それは、聞いてから僕が決めることだ」

「......。............ん前だ」

「え?」

「50年前だ」


 信じてないな。
 笑顔の向こうのオーラが更にドス黒くなっていくのが分かる。

 この世界では本当のことなんだから仕方がないだろう。そんな顔をしたって、変わらないものもある。


「この腕を失くした時から、体の成長は止まったままだ。この髪も色素を失って、白いまま。...分かるか? この虚しさが。金蔵やベアトリーチェに出会ってなかったら、今の俺はいなかったかもしれない」

「狼銃......」


 あの時から感情も欠けたまま。怒りも悲しみも愛情も...何もかもが欠けたままだ。ただ、虚しさだけが満ちている。
 偽りの感情を振りかざして、人間のフリをして生きてきた。

 という『設定』。本物には成り得ないという事実。


「納得しなくていい。むしろ疑っててくれ」

「......わかった」


 それから、しばらくは他愛の無い話をした。酒やタバコは幾つの時に始めたのか...とか。16の時にはもう、酒もタバコも嗜んでいたと話すと、呆れたように叱られた。譲治は、酒もタバコも自ら嗜むことはないらしい。理由は、長生きしたいからだそうだ。...皮肉だな。


「............ん?」


 目の前にチラついた光景に足が止まる。今のは...黄金の蝶?
 俺が止まったことに気が付いた譲治も、足を止めて前方を確認する。

 ヒラリと舞う黄金の蝶。
 あれは、ベアトリーチェの...?


「なあ、あの部屋って...」

「あそこは、留弗夫叔父さんたちの部屋だ!」


 走り出す譲治の背中を追い掛ける。縛られている分制限され、距離はどんどん離れていく。
 ようやく譲治の背中に追いついた時、既に部屋のドアは開かれていた。

 背中越しに香るのは、生臭さと鉄に似たもの。
 硬直した譲治を押し退け部屋の中を覗き込むと、見覚えのある男女の変わり果てた姿があった。

 床や壁、豪華そうな装飾、家具にまで飛び散った血痕。
 掻っ切られた首に、止めを刺すかのように突き立てられた杭。


「譲治、下の奴らを呼んで来い。早く!!」

「あ、ああ」


 俺の大声にびくりと反応し、それが体の硬直を解きほぐしたらしく、ぎこちなさを残しながらも早足に駆けて行った。
 さて、出来ることはやっておこうか。


「倣え。煉獄の七姉妹」


 血生臭い部屋で1人。皆が集まる前に、召喚で確認しておこう。


「怠惰のベルフェゴール、ここに」

「憤怒のサタン、ここに」


 なるほど。俺のことは、大体理解出来ているらしい。
 煉獄の名に相応しい赤い衣装に身を包んだ少女たちは、胸に手を当てて跪く。敬意を現す格好だ。


「大ローガン卿。お会い出来て光栄です」

「ん。で、これで第二の晩は完了か。そこの封筒には、ベアトリーチェからの手紙が入ってるんだな」

「はい。その通りです。これにて第二の晩は完了となります」

「ご苦労だった。休んでてくれ」

「はっ。ありがたき幸せ!」
「はっ。ありがたき幸せ!」


 ベッドの上に投げられていた封筒を手にする。
 近くで死に絶えている霧江の返り血がこびり付いているが、気にする程のことじゃない。
 封蝋を綺麗に剥し、中の手紙を抜き取る。

 封筒の中には手紙の他に、1枚のカードが入っていた。手紙を抜き取る際に床に落としてしまい、それを拾い上げようとしたのと同時に悲痛な叫び声が響いた。


「うわああああぁぁぁぁッ!! 親父ィィィィィィ! 霧江さぁぁぁん...! 誰だ、こんな酷いことをしやがったのはッ!? お前か。お前が、お前がああぁぁぁ!!!」

「や、やめるんだ戦人くん! 僕らが部屋に来た時には、もうこの状態だったんだ。彼は犯人じゃない!」

「じゃあ! 誰がやったって言うんだよ!?」


 泣き叫ぶ戦人の後ろには、あまりのことに声を出せないでいる女性陣と、死体をみてもケロッとしている真里亞がいる。
 戦人に殴られる前に、手紙の存在と同封されていたカードについて説明する。召喚うんぬんは省いて、だが。内容の確認は今からだ、と伝えると譲治からそれを読むように命じられた。ここは大人しく従うとしよう。


「...これにて、寄り添いし者は......。

『これにて、寄り添いし者は引き裂かれました。
碑文の謎解きの方は進んでいますでしょうか?
我が友人を饗してくださいましたでしょうか?
どちらにせよ、もうゲームは始まってしまいました。止めたくば碑文の謎を解かれることをオススメします。
黄金のベアトリーチェ』

......だそうだ。
このカードには『我が名を讃えよ』と書いてある」


 これで、第三の晩も完了した。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 ゲーム盤の外に戻ると、涙目になった戦人に殴られた。突然の出来事に上手く対応出来ず、大きく体が仰け反ったがダメージは無い。頬に若干、違和感がある程度だ。
 おそらくは、両親の死を見せられたことへの怒り。今までベアトリーチェに出来なかったことを、さっきの一発に込めた。いくら敵対する者とはいえ、女性に殴りかかるわけにはいかなかったのだろう。


「少しは気休めになったか?」

「.........っ」


 まだ足りない、といったところか。
 戦人の気持ちも分からんでもない。


「さて、第二の晩と第三の晩について...対決といこうか」


 まず、第二の晩。
 留弗夫、霧江が自室にて首を切られて死亡。その首には両名に一本ずつ杭のような物が突き立てられていた。
 部屋の鍵は掛かっておらず、誰にでも犯行は可能に見える。
 第一発見者は譲治、狼銃。俺は、ニンゲンの犯行は不可能だと主張する。


「さあ、お前はどう切り返す」

「魔女なんて居るわけがねえ。魔法なんかあるわけねえ。復唱要求だ!
“死体発見時、部屋の中の生存者は2人である”!」

「ああ。
【死体発見時、部屋の中の生存者は2人だ。】」

「“それは、譲治、狼銃である”」

「【その通りだ。】」

「“秀吉叔父さん、源次さんにはアリバイが無い”」

「......拒否する」


 戦人の口元が緩んだ。余裕の笑み。
 こらから[青]を使ってくるのかと身構える。だが、その気配は一向に出てこない。...どうした?


「まさか、今更親族を疑えないってんじゃないだろうな」

「......」

「ベアトリーチェ。今までの戦績を教えろ」

「わ、妾の不戦勝だ」


 つまり、何だ? この戦人は、魔女や魔法は信じないと言いつつもミステリーであることすら否定しているのか。いつまでも終わらない、不毛な戦い。......ふざけるな。

 タチの悪い奴を呼び出してしまった。
 こいつは、深淵の海の底に沈めてやろう。この世界と共に。だが、ゲームは終わらせなければならない。こんな奴が相手でも、だ。


「言っておくが、今回のゲームにリセットは無い。不戦勝は認めない。お前の甘い考えは通用しない。真剣に挑め。妹が待っているんじゃないのか?」

「縁寿...? ああ、そうだ。縁寿が、俺の帰りを待ってるんだ。俺は、こんな所で遊んでる暇なんてなかった...」

「ちょっと! ローガン、ルール違反よ!?」


 流石に察しがいいな、とラムダデルタの忠告に鼻で笑って返す。
 ルール違反なものか。むしろ、戦人の方がルール違反だろう。全てがイレギュラーではあるが、こんな不毛な終わらない世界を望む者などいない。
 少しだけ、他の世界の戦人たちと同化させた。記憶の共有は無い。それに、こんな荒療治は今回だけだ。


「......好きにすれば?」

「でも、ベルン~...」


 俺の目的を果たすためだ。ペナルティなら、受ける覚悟は出来ている。
 仮にも“神”と呼ばれている俺に対するペナルティなど高が知れる。それに、世界ごと消せば証拠は失くなる。目の前の魔女たちには、何も出来ない。


「安心しろ。お前らには、害が及ばないようにしてやるよ」

「当たり前でしょう。そうじゃないと割が合わないわ」


 ベルンカステルは賢い。俺の考えはある程度読めているはずだ。それに加え、退屈を嫌うこいつだからこそ理解してくれる。

 戦人の正体を知った時に曇った目に、輝きを取り戻したように見える。かつて、こいつが人間だった時に共に闘ったことを覚えているのか、その横顔はあの時の嬉しそうにした笑みによく似ていた。


「さあ、戦人。もう一度確認だ。
【死体発見時、部屋の中の生存者は2人。それは譲治、狼銃だ。】
お前の復唱要求、“秀吉、源次にはアリバイが無い”は復唱拒否させてもらう。これらを踏まえ、お前はどういう手を示す?」

「さっきまでの俺は、どうかしてたんだ。駄目だ。全っ然駄目だな、俺。よし! いくぜローガン!
[親父たちの部屋の鍵は掛かってなかった。よって、犯行は誰にでも可能だ。現在居場所がわかっていない秀吉叔父さんと源次さんで犯行は可能になる!]」

「なるほど、受けよう。では、部屋にあった手紙をどう説明する?」

「秀吉叔父さんか源次さんが置けば可能だ」

「【秀吉と源次は手紙に触れていない。】
もう一つ付け加えておこうか。
【留弗夫、霧江死亡時、秀吉、源次は屋敷内には居なかった。】
これで、秀吉、源次の犯行説は崩れるな」


 少しはまともになってきたか...。
 まだまだ詰めが甘いが、あの戦人よりはマシだ。


「なら、狼銃犯行説。
[譲治兄貴が下にいる皆を呼びに行っている間に、まだ生きていた2人にあの杭のようなもので、とどめの一撃を加えた。]
これならどうだ!?」

「【赤】で証言済だ。
【死体発見時、生存者は譲治と狼銃の2名である。】
つまり、俺と譲治が部屋に居た時点で留弗夫と霧江の死亡が確定する」

「くそっ!」


 悔しそうに俯く。
 そんな姿を見ながら懐のタバコを取り出し、口に喰わえて火を点ける。ふう...っと吐いた白い煙が、戦人にまとわり付いた。


「まだゲームは続くんだ。ここでリザインしても問題無いと思うが?」

「......くそ。リザインだ」


 あっさりと受けたな。意外だった。
 もっと喰らい付いて来ると思ったんだがな...。

 諦めているようには見えない。むしろ、闘士を燃やしているように見える。あえて斬り込まず、じっくりとチャンスを待っているかのような。
 ......面白い。


「次の手に移る。そうだな、少し手順を飛ばそう。未だに戻らない秀吉と源次を探すために、全員で屋敷内を散策し終わった辺りでいいだろう」



◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺と真里亞は肖像画の前で待機。ロープはしっかり握られている。


「うーうー。狼さんとお留守番っ♪お留守番♪」

「なんか、散歩中の犬の気分だな」

「あ! 戦人だー。ママー、お帰りっ!」


 ウキウキな真里亞とは対象的に、帰って来る面々は暗い。
 屋敷内には居なかったのか。


「後は、屋敷の外だけか......」

「あぁぁ...。あなたぁ。どこにいるのぉ...」

「うー。絵羽叔母さん、泣かないで...」


 泣き崩れた絵羽に、真里亞が寄り添い頭を撫でる。
 女性陣は全滅だな。体力的にも、精神的にも既に限界だろう。

 外の散策はどうしたものか...。


「兄貴、それに狼銃。ここは協力といこうぜ」

「協力?」

「3人で手分けして、外の散策に行く...と?」

「ああ」


 なるほど。俺を1人にするつもりか。
 なかなか考えたな。1人にすることで拘束と同じ意味を成す。言わば、見えない鎖。
 ささやかな反撃というわけだ。いいだろう、受けてやる。


「わかった。じゃ、俺は1人で行こう。戦人と譲治は一緒にいてくれ」


 女性陣のことは朱志香と真里亞に任せ、俺たちは二手に別れて外の散策を始めた。 
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