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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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プロローグ 姫君とナイトと和菓子屋さん(2)

 
前書き
MN、TN両氏に心からの感謝を込めて

(1)を少し変えています 先日読まれた方は 申し訳ありませんがもう一度お付き合いください 

 
(2)
あの時、僕はどうしてあの場所にいたのだろうか
よく覚えていない
ただ、何となく親への反発を覚えていたのだろうか
男と女 姉と弟
『桜、ちーちゃんと一緒にみれたらいいな』
そう言い残した姉の姿を、僕は自分の身近な場所に見いだそうとしていたのかもしれない。

一人、僕は桜の綺麗に見える場所を探し歩いていた。
商店街のような人気の多い場所を避けるようにして歩いたからこそ見つけられたのだろう。
人気の少ない裏通りのさらに奥まった場所に位置した公園
まさに穴場のような場所を僕は見つけた

同時に、僕は見つけられてしまったのだった


 大通りは昔からある商店街を吸収して再開発されたらしく、お洒落なカフェだとか、ちょっとした小物屋さんがあったりする。
聖應の最寄り駅の周辺ということもあり、何処かに学院のみんなと買い物に行こうということになると、さっきの駅で集まり、それからここらの店を覗いて回るというのが自然な流れであったりする。
とはいえ朝早くから開いている店といってもコンビニや一部の個人商店ぐらいしかない。
コンビニで立ち読みするというのは中学の頃までは平気でやっていたんだけどお嬢様学校に仮にでも通うことになった今、そんなことをやっているのを万が一でも友達に見られるのはさすがにまずい。
小さな店を周り終えたけれども、まだ九時を少し過ぎたぐらいだ。
「あっちに美味しい和菓子屋さんがあるけど……おじいちゃん、今日はもう開けてるかな……」
萎びたお店でしわくちゃなおじいちゃんが一人で切り盛りしている和菓子屋さん、その店は不定期で閉まっていたりする。
売られている和菓子はその日その日の朝におじいちゃんが作っているらしく、個人で作っているものだからか防腐剤などは入ってない。
日を越してしまったりすると直ぐに傷んでしまう。
日持ちのことでは不自由さはあるけれど、傷んでしまう前にちゃんと食べれば、アンコとお餅がちょうどよい塩梅で入っていて、とっても美味しい。
表通りに店を出しているような有名なお店ではないけれども、あたしは近くに寄る機会がある度によっている。
今日はもう開いていたりするだろうか、そんな事を考えながらおじいちゃんの店に向かった。

 和菓子のかきもと
それがおじいちゃんのやっている店の名前だ。
おじいちゃんが店先でイスに腰を掛けているのが見える。よかった、何とか残り時間もつぶせそうな場所があった。
店頭に置かれているいくつかの和菓子を眺めながら、何を今日は買おうかと迷う。
どうせなら京花さんの分も買っとこうと思い、注文を決めた。
「おじいちゃん、イチゴ大福とおはぎ二つお願い」
「ん、ちょっとまち。850円なるけどええな?」
店の先には展示用の和菓子がいくつか並べてあるだけで、売り物は店の中にしか置いていない。
おじいちゃんは一端奥に入って、直ぐにずっしりとした白いビニール袋を渡してくれた。
このおじいちゃん、もともと大阪育ちで若いときには老舗の和菓子屋さんで修行して、それからこっちで店を開いたそうだ。
純関西弁っていうのかな、あたしの周りでは聞けない言葉は何となく温かく心持ちが落ち着く感じがする。
「えっと、これで良いかな?」
財布の中から自分でも確認しながらお盆の上に硬貨を並べる。
500円玉が一枚に100円玉が二枚と50円玉が三枚。
何だってあたしの財布には50円玉が三枚も入ってたんだろ、きちんと小銭から使ってるつもりなんだけどなぁ。
「まいどおおきに。嬢ちゃんにはいつもお世話になりまんなぁ。」
「ありがとう、そりゃおじいちゃんのとっても美味しいからね。常連にだってなるよ」
ビニール袋に包まれたプラスチックの容器を受け取って中身を覗く、何となく持ったときに重く感じたからだ。
すると頼んだ物より二つも多い六個のお餅が入っていた。
「っておじいちゃん。あたし、きなこ餅は頼んでないってば。」
「サービスやって。一番安いんやからワシの方もそんなようけ損してる訳や無いがな」
「いやいや、サービスにしても二つは多いでしょ。」
「嬢ちゃんがこんな時間にここにおって、それやのに和菓子を()うてる暇がある言うんや、なんかあったんやろ?」
にやりと笑うおじいちゃんは、たぶんだけど待ち合わせの場所にあたしが早くに着きすぎたことも分かっているに違いない。
「ワシの勝手な想像なんやけど、嬢ちゃんが朝早くに起きてしまったんが原因ちゃうやろか。」
「………何でそこまで分かるのさ。」
確かにおじいちゃんとは時々話をしたりもするけどさ、そこまで当ててくるなんてエスパーか、ったく。
「そりゃ嬢ちゃんもよう来てくれはるお客さんやからの。常連さんは神様さかい、顔も覚えりゃ当たりもつくっちゅうこっちゃな。」
あっはっはと朗らかに笑うおじいちゃんに、つられてあたしも笑ってしまった。
「そうそう、ついでに別嬪さんにゃ笑顔が一番っちゅうこっちゃね。」
「巧いこといったつもりじゃないでしょうね?」
「ワシは嬢ちゃんが笑顔やったらうれしいっちゅうだけやねんけどな」
困った顔をで苦笑いを浮かべていたおじいちゃんは、あたしの向こうの方に目をやり渋い顔に変わった。
「どうかしたの?」
「ん、いや無いこっちゃないんやけどな…」
あっちを見て見ろと言わんばかりにおじいちゃんは顎を向こうの方にしゃくってみせた。
おじいちゃんの示す方をあたしも振り返ってみると今まで気にしたことさえ無かったけれど、そこには大きな桜が一本植えられた公園があった。
今が見頃と言わんばかりのその大きな桜の木一杯に薄紅色の花弁が咲き綻んでいる。
目を凝らしてみると、その下に置かれたベンチに腰掛けている銀髪の女の子と、彼女に話し掛け続ける如何にも軽薄そうな男が見えた。
その様子は少し違和感があった。女の子からは一言も発せられず寧ろ男が一方的に話しかけているだけに見える。

 ナンパか何かのつもりなのだろうか

「あんな調子でな、ずっと前からあそこで男にしゃべりかけられとるみたいでな。ワシが行くっちゅうのも角が立ちそうやからなぁ…」
女の子は男の方を向いていたけれどその目は男をとらえず、むしろ何か違うものを探しているように、求めているように思った。

違う、『何か』とかそんな不確かなものじゃない。

あたしは直感でそう悟った、あの子は助けが欲しいんじゃないだろうか。
「おじいちゃん、ちょっとこれ持っといて。」
「はいな」
おじいちゃんに買ったものをもう一度手渡し、あたしは彼女のところに駆けてゆく。


「やっぱり嬢ちゃんが行った方があんちゃんも言うこと聞くやろな。」
そうつぶやきながら、常連の背の高い少女が走っていくのを彼は少なくはない良心の呵責を胸の内に感じていた。
「迷惑料は先払いしたっちゅうことでええやろか…」 
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