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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第2部
  第7章 亡国の王子

空賊に捕らえられたウルキオラたちは、船倉に閉じ込められた。

『マリー・ガラント』号の乗組員たちは、自分たちのものだった船の曳航を手伝わされているらしい。

ウルキオラは斬魄刀とデルフを取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられた。

従って、ウルキオラを除き、鍵をかけられただけでもう、ワルドとルイズは手足が出せなくなってしまった。

ウルキオラは斬魄刀とデルフがなくとも、1人なら脱出できるが、状況が状況なだけに、大人しくしている。

しかし、杖のないメイジは、ただの人である。

ルイズはあまり関係なかったが。

周りには、酒樽やら穀物のつまった袋やら、火薬樽が雑然と置かれている。

くそ重たい砲弾が、部屋の隅にうず高く積まれている。

ワルドは興味深そうに、そんな積荷を見て回っている。

ウルキオラは船倉の隅に突っ立っていると、ルイズが不安な顔をしていることに気づいた。

「どうした?」

「な、なんでもないわよ」

ルイズはうっと唾を飲み込んで、涙が溢れるのに耐えている。

「なぜ泣いている?」

「泣いてなんかないもん!」

ウルキオラは顔を背けた。

「そうか」

ルイズは、壁際まで歩くと、そこにしゃがみ込み、顔を押さえて蹲った。

体が震えていた。

ウルキオラはワルドの方に向かって、小さい声で言った。

「慰めてやれ」

「僕が?どうしてだい?」

「お前はルイズの婚約者だろう?」

ワルドは頷くと、ルイズの元へ向かって、肩を抱いて慰め始めた。

ウルキオラは火薬樽の上に座った。

そうしていると、扉が開いた。

太った男が、スープの入った皿を持ってやって来た。

「飯だ」

扉の近くにいたワルドが、受け取ろうとしたが、男はその皿をひょいっと持ち上げた。

「質問に答えてからだ」

目を真っ赤にしたルイズが立ち上がった。

「言ってごらんなさい」

「お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」

「旅行よ」

ルイズは、腰に手を当てて、毅然とした声で言った。

「トリステインの貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?一体なにを見物するつもりだい?」

「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」

「怖くて泣いていたくせに、随分と強がるじゃねえか」

ルイズは顔を背けた。

空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。

ワルドはそれをルイズの元へ持っていった。

「ほら」

「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」

ルイズはそっぽを向いた。

「食べろ。体が持たんぞ」

ウルキオラがそう言うと、ルイズは渋々といった顔で、スープの皿を手に取った。

ワルドとルイズは1つの皿から、同じスープを飲んだ。

飲んでしまうと、することがなくなった。

ワルドは壁に背をついて、なにやら物思いに耽っている様子。

ルイズも鼻をすすりながら壁に寄りかかっている。

しばらくすると、再びドアがばちんと開いた。

今度は、痩せぎすの空賊だった。

空賊はジロリと3人を見回すと、楽しそうに言った。

「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」

ルイズとワルドは答えない。

ウルキオラは答える気がない。

「おいおい、黙りじゃわからねえよ。でも、そうだったら失礼したな。俺たちは、貴族派の皆さんのお陰で、商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びているのさ」

「じゃあ、この船はやっぱり、反乱軍の軍艦なのね?」

「いやいや、俺たちは雇われてるわけじゃあねえ。あくまで対等な関係で協力しあってるのさ。まあ、おめえらには関係ないことだかな。で、どうなんだ?貴族派なのか?そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」

ウルキオラはチャンスだと思った。

ここでルイズが自分たちは貴族派だと言えば、丸くおさまる。

おまけに、港に運んでもらえるだろう。

しかし、ルイズは首を縦に振らず、真っ向からその空賊を見据えた。

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですが。バカ言っちゃいけないわ。私は王党派への使いよ。まだ、あんた達が勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、王統たる政府は、アルビオンの王室ね。私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまり大使ね。だから、大使としての扱いをあんた達に要求するわ」

ウルキオラは目を見開いて、呟いた。

「バカが…」

「誰がバカなのよ!」

ルイズはウルキオラの方をきっと向いて、怒鳴った。

「正直なのはいいが、時と場所を選べ」

「うっさいわね!」

ウルキオラは呆れて、ため息をついた。

そんな様子を見て、空賊は笑った。

「正直なのは、確かに美徳だが、お前たち、タダじゃ済まないぞ」

「あんた達に嘘ついて頭を下げるくらいなら、死んだ方がマシよ」

ルイズは言い切った。

「頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」

空賊は去っていく。

ウルキオラは呆れて、脱出をする気にもなれなかった。

「無駄なことを」

ルイズは毅然として言った。

「最後の最後まで、私は諦めないわ」

「それなら、嘘ぐらいつけばいいだろうに…」

「それとこれとは別。嘘なんかつけるもんですか。あんな連中に!」

すると、ワルドが寄ってきて、そんなルイズの肩を叩いた。

「いいぞルイズ!さすがは僕の花嫁だ」

ウルキオラは憮然とした。

ルイズは複雑な表情を浮かべて、俯いた。

再び、扉が開く。

先ほどの痩せぎすの空賊だった。

「頭がお呼びだ」




狭い通路を通り、細い階段を上り、3人が連れて行かれた先は、立派な部屋だった。

後甲板の上に設けられたそこが、頭……、この空賊船の船長室であるらしい。

がちゃりと扉を開けると、豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に先程の派手な格好の空賊が腰掛けていた。

大きな水晶のついた杖をいじっている。

どうやら、こんな格好なのにメイジらしかった。

頭の周りでは、ガラの悪い空賊たちが、ニヤニヤと笑って、入ってきたルイズたちを見つめている。

ここまでルイズを連れてきた痩せぎすの男が、後ろからルイズをつついた。

「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」

しかし、ルイズはきっと頭をにらむばかり、頭はニヤリと笑った。

「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」

「大使としての扱いを要求するわ」

ルイズは、頭のセリフを無視して、先程と同じセリフを繰り返した。

「そうじゃなかったら、一言だってあんた達になんか口を聞くもんですか」

しかし、頭はルイズの言葉を全く無視して、言った。

「王党派と言ったな?」

「ええ、言ったわ」

「なにしに行くんだ?あいつらは明日にでも消えちまうよ」

「あんたらに言うことじゃないわ」

頭は、歌うような楽しげな声で、ルイズに言った。

「貴族派につく気はないかね?あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

「死んでもイヤよ」

ウルキオラはルイズを見た。

ルイズの体が震えていることに気づいた。

怖いのだ。怖くても、ルイズは真っ直ぐに男を見つめている。

ウルキオラはルイズに召喚された時のことを思い出した。

あのときも、俺の霊圧に当てられ怯えていたな、と思った。

しかし、ルイズは下手に出ることはなかった。

ウルキオラは、そんなルイズと黒崎一護が同じように見えた。

心とやらの中に、何か大事なものを抱えて、それを打ち壊そうとするものと戦っている。

「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」

ルイズはきっと顔を上げた。

腕を腰に当て、胸を張った。

口を開こうとしたルイズより先に、ウルキオラが後を引き取った。

「つかないと言っている」

ウルキオラは、霊圧を少し解放しながら言った。

部屋は地震が発生したように震えた。

頭を含めた空賊やワルド、ルイズは驚き、恐怖した。

「き、貴様はなんだ!?」

頭は押しつぶされそうな霊圧に負けじとウルキオラを睨んだ。

人を射竦めるのに、なれた眼光だった。

それでも、ウルキオラは霊圧を解放したまま、冷静に答えた。

「使い魔だ」

「使い魔?」

「そうだ」

ウルキオラは霊圧を抑える。

頭は笑った。

冷や汗を垂らしながら、大声で笑った。

「トリステインの貴族は、気ばかり強くてどうしょもないな。自分の使い魔に怯えているのだから。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何100倍もマシだかね」

頭はそう言って、わっはっは、と笑いながら立ち上がった。

ワルドとルイズは、頭の豹変ぶりに、顔を見合わせた。

「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」

周りに控えた空賊たちが、ウルキオラの霊圧による冷や汗を拭い、一斉に直立した。

頭は縮れた黒髪を剥いだ。

なんと、それはカツラであった。

眼帯を取り外し、作り物だったらしい髭をびりっと剥がした。

現れたのは、凛々しい金髪の若者であった。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、本国艦隊と言っても、既に本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね、まあ、その肩書きよりこちらの方が通りがいいだろう」

若者は居住まいを正し、威風堂々、名乗った。

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

ルイズは口をあんぐりと開けた。

ウルキオラも目を見開いた。

いきなり名乗った若き皇太子を見つめた。

ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。

ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、ご用の向きを伺おうか」

あまりのことに、ルイズは口がきけなかった。

ぼけっと、呆けたように立ち尽くす。

「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ?といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、あっという間に反乱軍の船に囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、致し方ない」

ウェールズは、悪戯っぽく笑って、言った。

「いや、大使殿には、誠に失礼をいたした。しかしながら、君たちが王党派ということが、中々信じられなくてね。外国に我々の味方の貴族がいるなどとは、夢にも思わなかった。君たちを試すような真似をしてすまない」

そこまでウェールズが言っても、ルイズは口をぽかんと開くばかり、いきなり目的の王子に出会ってしまったので、心の準備ができていないのであった。

「アンリエッタ姫殿下より、密書を預かって参りました」

ワルドが優雅に頭を下げて言った。

「ふむ、姫殿下とな。君は?」

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

それからワルドは、ルイズたちをウェールズに紹介した。

「そしてこちらが姫殿下より大使の大任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔のウルキオラにございます。殿下」

「なるほど!君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと10人ばかり居たら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに!して、その密書とやらは?」

ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。

恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まる。

ちょっと躊躇うように、口を開いた。

「あ、あの……」

「なんだね?」

「その、失礼ですが、本当に皇太子様?」

ウェールズは笑った。

「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」

ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。

自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。

2つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。

「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。君が嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」

ルイズは頷いた。

「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」

「大変、失礼致しました」

ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。

ウェールズは、愛おしそうにその手紙を見つめると、花押に接吻した。

それから、慎重に封を開き、中の便箋を取り出し、読み始めた。

真剣な顔で、手紙を読んでいたが、そのうちに顔を上げた。

「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」

ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。

再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。

最後の1行まで読むと、微笑んだ。

「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」

ルイズの顔が輝いた。

「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」

ウェールズは笑って言った。

「多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 
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