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騎士の想い

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第四章


第四章

「侯爵領にあの国の兵がです」
「攻め込んできたというのか」
「如何致しましょう」
「それはもう決まっている」
 すぐに家臣の問いに答えたのだった。
「姫もおられるな」
「はい」
「そういうことだ。私は行く」
 一言であった。
「すぐにだ。そして姫を御護りする」
「そうされるのですね」
「ましてや帝国に敵が攻め込むなぞということはだ」
「許せませんね」
「どちらにしても私は行く」
 そうするというのである。
「わかったな。そういうことだ」
「はい、それでは」
「出陣の用意だ」
 言いながらすぐに傍に置いてあった己の剣を手に取った。そうして。
 人を呼んだ。今度叫んだ言葉は。
「鎧だ!そして馬の用意を」
「はい!」
「では!」
「陛下にもお伝えせよ、周辺の諸侯にもだ!」
 彼の指示は矢次早あった。わかっている者の動きだった。
「よいな、ではすぐに出陣だ」
「すぐに侯爵領にですね」
「その通りだ。救援に向かう」
 それ以外は考えていなかった。まさにその為に今鎧を着けさせていた。
 その鎖帷子を着させられるとだった。腰に剣を備え付けてまた叫んだ。
「行くぞ!」
「はい、では!」
「いざ!」
 周りの者達もそれに応える。こうして彼は手勢を引き連れて出陣した。
 侯爵領に入っても暫くは平穏な場所が続いた。彼は迅速に兵を進めながら傍にいる自分の家臣達に対して問うのであった。
「この辺りにはまだ来ていないのだな」
「攻め込んで来たばかりですので」
「ですからここにはまだ」
 こう答える家臣達だった。今彼等は田園の近くを通っている。田園の中には農夫達がいて畑仕事を営んでいる。その光景は攻め込まれている国のそれとは思えなかった。
「敵は侯爵の居城を包囲しているそうです」
「そしてそこには」
「姫もおられる」
 そこから先はもう言うまでもないことであった。
「そうだな」
「はい、そうです」
「その通りです」
 こう返事が返ってきたのであった。
「ですから一刻も早くです」
「侯爵の居城に向かいましょう」
「その通りだ。では侯爵の居城にだ」
 そこに兵を進ませるのであった。彼は兵を出来る限り速く進ませた。その侯爵の居城はだ。
 立派な城であった。城壁は高く堅固である。街と一つになっておりその広さも中々のものだ。だがその広い街が今完全に取り囲まれていた。
 白の周りには敵兵達がいる。そうしてそれぞれ弓矢や投石器を使って攻撃を仕掛けてきていた。
「攻めろ!」
「攻め落とせ!」
 彼等の喧騒の声が聞こえる。それに対して城壁の兵士達はそれぞれ弓矢を放ち槍を手にして梯子から登ってくる敵兵を退けていた。激しい戦いが続いていた。
 主である侯爵も陣頭指揮を執っていた。彼も鎖帷子を着て剣を手にしている。そのうえで周りの騎士や兵達に対して言うのであった。
「怯むな!」
 まず言った言葉はこれであった。
「援軍は必ず来る。それまで持ち堪えるのだ」
「来るのですね」
「そうだ、だからだ」
 何としても持ち堪えろというのだった。彼も必死だった。
 その頃エヴァゼリンは城の奥にいた。周りの侍女達はおろおろとしている。
「このままではここまで敵が」
「そうですわ。ここにまで」
「安心するのです」
 エヴァゼリンはその侍女達に対して穏やかだがしっかりとした声で告げた。
 
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