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噛んで

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第四章


第四章

「あんなのでよ。いけるか?」
「まずいだろうな」
「かなりな」
 皆そう思うしかなかった。今の彼を見ているとだ。
 そして光の方からまた言ってきたのであった。
「それでよ」
「あっ、うん」
「私に言いたいことは何よ」
 またこのことを尋ねてきたのである。
「それで」
「あのさ」
 言われて何とか言葉を出した。そんな感じであった。
「いいかな」
「ええ、いいわよ」
「俺、実は」
 蒼白になりながらもじっと彼女の顔を見てそのうえで言うのであった。
「じ、実は」
「実は?」
「お、おおおおおお」
 緊張のあまり声が震えている。
「お、おま、おま、おま」
「お饅頭?」
「ち、ちが、違うよ」
 声が震えるだけでなくところどころ噛んでしまってもいた。
「ちが、違うんだって」
「じゃあ何なのよ」
「す、すすすすすすすすす」
「すき焼き?」
 光はまた言ってきた。
「すき焼きは好きよ」
「そうじゃない、そ、そうじゃ」
 ここでまた噛んだ眞人だった。
「そうじゃなくてさ」
「じゃあ何なのよ」
「好き、好きなんだよ」
 蒼白だった顔がである。一気に赤くなった。それも真っ赤にである。
「好きなんだよ、神楽の・・・・・・」
 またしても噛んでしまったのだった。
「神楽のことがさ」
 ここまで言えた。そして。
「だからさ。よかったら」
「わかったわ」
 光はここまで聞いてだった。自分から言ってきたのであった。
 そうしてそのうえで。こう答えたのである。
「それじゃあね」
「それじゃあ?」
「喜んで」
 微笑んで彼に答えた。
「その言葉受け取るわ」
「受け取るって」
「だから」
 今度は怒った顔を見せてきた。八重歯が見える。小さな可愛らしい八重歯もまた彼女のその個性を表すものになっていたのであった。
「女に何度も言わせないの。いいって言ってるのよ」
「じゃあ俺と」
「あのね」
 ここで光はその頬を赤らめさせて言ってきた。
「そもそもね」
「うん」
「何でここに来たと思ってるのよ」
 こう言うのであった。
「ここにまでよ」
「それは」
「下駄箱に手紙」
 今度はこのことを指摘した。
「こんな古典的な方法で何かってわからない女の子はいないわよ」
「いないんだ」
「絶対にいないわよ。すぐにわかったわよ」
「じゃあそれがわかって」
「そうよ、来たのよ」
 両手を自分の腰の横にやってむくれた顔をして眞人に話す。
 
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