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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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sceneⅣ 侍女の勤め

 
前書き
すみません、一日遅れました 

 
千早様のベッドなどを整えておりますと、「試召戦争戦術アイデア」と表紙に題されています、一連のルーズリーフの束を見つけました。
千早様の持ち物の中身を確認するなど侍女失格でございます。
ですから何が書かれてあるのかはなるべく見ないようにしていますのでどのような内容が書かれているのかは分かりません。
しかし相当の厚みをもっていましたから、何時もながら事細かく物事が分類などされているのだろうと推察します。
千早様は何事であっても一度物事を始めなさいますと、出来うる限り深くまで極めようとなさいます。
今回のこのルーズリーフもそのようなものでありましょう。
それは一重にご親族にいらっしゃいます鏑木瑞穂様という傑出した先達のせいであるのだと史は思います。
千早様がお描きになられた絵を拝見させて戴いたときの事です。
私の目から見れば身びいきも無く、素晴らしい出来だと思ったのではありますが、そんなときであっても千早様ご自身の思い通りに出来なかったようで、低い声で呪いの言葉のようにこう呟きなさったのです。
「あの人なら」と。
瑞穂様とは直接的な面識など一介の侍女たる私にはございません、しかし千早様付きの者として一度だけお顔を拝見したことがあります。
 瑞穂様の御容姿は千早様の日本人離れした容姿とは異なった目立ち方をなさっていらっしゃいます。
茶色味がかった、腰まで届くほどの長い髪をお持ちで、その顔は日本人らしく小顔で在らせられてまるで貴公子と言った言葉が一番似合いそうな容姿でいらっしゃるのですが、少しばかり心許ない表情を常に浮かべなさっているのが、瑞穂様の容姿の完全さを欠けさせている唯一の要素となっているように拝察します。
とは申しましても、それ以外の要素の全てにおいて恵まれていらっしゃいます。
家柄なのかさまざまな手習い事を器用にこなす鏑木一族ではありますが、聞くところによりますとピアノ、フェンシング、華道、柔道などを初めとして、様々な分野において見せる技量は周囲を凌駕し、全く文武に隙無くそれら修めていらっしゃる超人でいらっしゃると聞き及んでおります。
まさに天才的という他無きお方で、鏑木財閥の次期頭首の呼び名にふさわしい方だというお声も一族のうちでは上がっています。
そこに同じように万能型で年下の千早様が現れなさいますと、瑞穂様と比べられることになり「彼ならこうやった」と言った言葉や「彼は君の年でこれが出来た」と言った言葉が、いつも千早様を追い立てることになりました。
ですからあの時呟かれたのでしょう「あの人ならもっと上手く描けただろうに」

呪いのようにずしりと響く千早様の声に、史は何もお答えすることができませんでした。
そもそも御門家は鏑木財閥の一翼を担うお家であり、千早様の御父君でいらっしゃる邦秀様が妃宮侯爵家の外務官のお仕事を継ぐ事に成ってからと言うものは、御門家を名乗ってはいますが御門本家とも距離を取っているお家です。
ですから私と致しましては何故そこまで一族の総本家のような鏑木家と比べられなければならないのか、そのことを恐れ多くはありますがやるせなく思っておりました。

史は主家で在らせられる御門家の家庭内の事情に対して、恐れ多くも口を挟むことなど出来ません。
ですから、千早様がご家庭のことでお疲れに成られようとも史は何もして差し上げられることは無いのです。
ただ、何時も以上に千早様が過ごしやすく成ればと僅かな粗相もしないように、もし何か千早様が求めるものがあるのであれば直ぐにでもご用意できるようにと備えることしかできないのです。

「ただいま、史。今日も早いね」
「お帰りなさいませ、千早様」
玄関から入ってこられた千早様のお洋服は、私の通っております聖應のものと殆ど変わりません。
白い夏服が清楚さを表すようなのですが、千早様の場合はその銀の髪が衣の上を流れておりまして、全体と致しまして明るく活気あるように感じられます。
そう史が思うのは。千早様がここのところ少しばかり御元気になられたのと関係するのでしょうか。
「史、この前申し込みを頼んでおいた物はどうなったかな?」
「はい、こちらにご用意しています」
書類一式を千早様にお渡ししますと、確認をちらりとなさり、そして軽く頷きなさいます。
「ありがとう、史」
「当然のことです、ところでお食事はどうなさいますか?」
「あぁそうだね、8時ぐらいでお願いできるかな」
「承知しました、それではご用意できましたらお声を掛けさせていただきます。」
「うん、お願いするよ。」
そういって千早様はご自分の部屋に入られました。
「私も勉強などしましょうか。」
掃除も終わったことです、ちらりと時計に目を向けますと五時少し前ですから、二時間と少しは勉強できるでしょうか。
机を前にしてふと、考えてしまいます。
私は千早様の女性としての姿を見ていますと、何かを思い出しそうになるのです。けれども直ぐに何を思い出しそうになっているのか分からなくなってしまうのです。
分からないことをいくら考えても無駄なのでしょうか。
(滅私の心で奉公せよ)
そう大婆様のお教えを思い出し、揺れ動く心を断ち切りましてから私はノートをひろげたのでした。
 
 

 
後書き
聖應女学院一年次中間考査より
英語
問題 以下の日本語を英語に訳しなさい
「一緒に行っても良いですか?」

冷泉淡雪の答え・Can I come with you?
教師のコメント 文句なしに正解です、非常にナチョラルですね

度會史の答え・Would you mind my accompanying you?

教師のコメント とても堅い表現で表してくれましたね、正解です。
因みにこれですと「ご一緒させていただいてよろしいでしょうか」というニュアンスになりますね。
 
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