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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 第18話 「金色の少女達」

「「ユニゾンイン!」」

 直後、黒色のコートが青色へと変化し、視界に映っていた前髪は黒から金色へと変わった。現状では確認できないが、前に確認したときに瞳の色も変化して碧眼になっていた。今もそうなっていることだろう。

『今日も問題なくユニゾンできてますね。良かったです』

 室内に響いた声は幼げな少女のもの。言うまでもなくマリーさんではない。彼女は別件があるらしく、今日は席を外しているのだ。
 そのため今日は代役がデータ取りをしているわけだが……いったい誰なのかというとユーリだ。信じられないかもしれないが、彼女もまたシュテルやディアーチェのようにデバイスマイスターの資格を持っているのである。
 しかもマリーさんが言うには、レーネさんの秘蔵っ子とのこと。何でもレーネさんに付いて回って色んな研究の手伝いをしていたらしく、シュテルよりもある分野では詳しいのだとか。セイバーの副担当になったのは、それらに加えて前からユニゾンデバイスに興味があったかららしい。
 ――シュテル、ディアーチェと持っていたからさほど驚きはしなかったけど、やっぱり身の回りにこうもデバイスマイスターの資格を持っている子がいると思うところはあるな。レヴィもバカそうに見えて一部においては頭良いみたいだから、あの子も持っているのだろうか……。

『じゃあさっそくデータ収集に入り……ショウさん、どうかしたましたか?』
「ん? あぁいや、何でもないよ」
『本当ですか? 気分が悪いのなら今回は中止に……』
「大丈夫。この姿のときは髪色とか変わってるから落ち着かないだけ」
『ならいいんですけど、もしも体調に変化があったりしたときはきちんと言ってくださいね』
「分かってるよ」
『それと、今のショウさん別に変じゃないですよ。カッコいいです……あっ、もちろん普段もカッコいいですよ』

 ユーリのストレートな物言いに顔が熱くなってしまった。
 この子は何でこうも感情を素直に出すんだろう。悪いことじゃないけど、簡単に口にしていいものでもないと思う。今はまだ子供だからいいけど、中学生くらいの歳になったら異性を誤解させるぞ多分。

『あれ? ショウさん、何だかお顔が赤くなっているように見えますけど。もしかして……』
「大丈夫、大丈夫だから」
『ですけど……ショウさんに何かあったら』

 心配してくれるのは嬉しいが、顔が赤くなった原因はユーリだ。しかし、彼女に君が原因だよと言っても傷つける可能性が高いし、そもそも何で赤くなったのか理解できないかもしれない。
 そう思った俺は、きっぱりと大丈夫だと伝える。それでどうにかユーリもひとまず安心したようで、データ収集の準備を進め始めた。俺は準備が完了するまでの間、自分の中にいる相棒に話しかける。

〔さて……セイバー、準備はいいか?〕
〔はい、問題はありません。……何やら様子がおかしかったですが、マスターは大丈夫なのですか?〕
〔ん、あぁ大丈夫だ。もう落ち着いた〕
〔そうですか……なぜあのようになられたのですか?〕

 人の感情の動きに興味を持ってくれているのは嬉しいことではあるが、先ほどのようなことを説明するのは気が進まない。とはいえ、セイバーの成長ははやて用のデバイスにも繋がるわけで……説明するしかないだろう。

〔それはだな……恥ずかしかったからだ〕
〔恥ずかしい? ユーリは褒めていたように思えましたが?〕
〔慣れがない人間っていうのは、褒められても恥ずかしいって思うんだよ〕
〔そうなのですか。人間というのは複雑なのですね〕

 人のことをフルネームで呼んでいたのに、近しい相手のことは名前だけで呼ぶようになったあたり、お前も人間らしくなってきてるんだけどな。まあデータ収集のときくらいにしか来てなかった俺よりかは、マリーさんやユーリ、ファラあたりのおかげだろうけど。

〔ファラの思考も同じくらい複雑に感じますが……〕
〔まああいつはお前よりも人間に近い考え方をしてるからな。お前にもいつか分かる日が来るよ〕
〔それは……喜んでいいものか分からない言葉ですね。彼女の開発コンセプトは分かりますが、我らはどこまでも行ってもデバイスです。デバイスとして使われてこそ、デバイスとしての本分が果たせるというもの。彼女はいささか考え方が人間過ぎます〕

 セイバーの言葉に思わず笑いが込み上げてきた。彼女はファラが妹みたいに扱うと、参考にされている部分はあるが厳密には姉妹ではないといったニュアンスの言葉を返しているのだが、今の言動といい稼動を始めた頃のファラにそっくりだ。
 またふたりの見た目はどことなく似ている。検討されていた人間サイズになれるアウトフレーム機構をファラ共々搭載したことから、並んで歩けば姉妹に思われても何ら不思議ではない。まあ新システムの搭載に伴ってセイバーと同じくらいに大きくなったファラや、自分よりも大きくなる相棒達にはまだ慣れていないのだが。

〔確かにそうかもな……〕

 だが俺は知っている。人間らしいファラが、戦いの中ではセイバーの言ったように使われることを望んでいることを。

〔でもあいつもデバイスなんだよ〕
〔それはそうですが……マスターの言い方からして事実を言ったわけではありませんよね。どういう意味で言ったのですか?〕
〔それは自分で考えるかファラに聞いてくれ〕
〔……マスターがそう言うのであれば〕

 どこか納得していない声を出すようになったあたり、今は俺の指示を最優先するセイバーもいつか自分の意見を口にするようになるのだろう。できることなら今の感じのまま人間らしくなってほしいところではあるが、どうなるかは分からない。まあファラのようにシュテルが担当しているわけではないので、おかしな方向に進む可能性は低いと思うが。
 ――シュテルがファラにやっていることがおかしいってわけじゃないけど、1年前と比べたらファラは大分変わったしな。簡単に言えば振る舞いが淑女っぽくなった。セイバーが出来てからは、姉として振る舞いたいからか自分から教わってるみたいだし……どうなるんだろうな本当。

『じゃあショウさん、始めますね』

 了解、と返事をすると訓練用のターゲットが現れる。セイバーのデータを取ることがメインなので、俺は魔力弾を生成し、狙いや発射のタイミングは彼女に任せた。次々と現れるターゲットにセイバーは魔力弾を放っていくが、ジャストヒットしているのは3発に1発といったところだろうか。

〔セイバー、前から思ってたけど射撃は苦手か〕
〔そういうわけでは……ただマスターとのタイミングを掴みきれていないだけです〕
〔……それもそうだな〕

 今日までに何度かユニゾンはしているが、このように戦闘面でのデータを取り始めたのは最近だ。いくら俺のデータを元に製作されているとはいえ、過去の俺と今の俺とでは多少なりとも変化がある。攻撃や防御のタイミングを100%合わせるにはまだまだトレーニングが必要だろう。
 ――それにセイバーは近接系による個人戦闘を得意とするベルカ式の魔法を主体にしている。遠距離や複数戦闘を切り捨てている魔法体系である以上、必要以上の射撃を求めるのは間違いかもしれないな。俺も昔に比べれば近接戦闘が主体になっているし、セイバーの真価は近接戦闘で発揮されるんだから。

『えっと、次のターゲットですけど少し間を空けますので近接戦闘に移行してください』
「了解。セイバー」

 ユーリの指示から俺の意図を汲み取ったのか、具体的な指示をする前に深い黄金色の刀身を備える流麗なロングソードを出現させた。漆黒色のファラの剣と比べると実に派手な造りをしているが、ベルカ式用に作られた一振りであるため丈夫だ。
 ――そのせいかファラのより格段に重いわけだが。正直今の俺では両手持ちじゃないときつい。身体能力向上を全力でやれば片手でもいけるだろうが……今は仕方がないか。
 聞いた話では、はやての存在がなければセイバーの試験運用はまだ先だったらしい。つまり、この剣は本来今よりも成長した俺が使うはずだったのでファラよりも重く作られているのは当然のことなのだ。セイバーの助けもあり、なおかつ持てないわけでもないため、わざわざ軽く作り直してもらうのも悪いだろう。

〔行けるなセイバー〕
〔もちろんです!〕

 力強い返事をするだけあって、全く違和感を覚えることなく前方のターゲットに一閃入れることが出来た。
 俺の近接戦闘のデータを重要視して作られているのか、それともベルカ式を扱うことから近接戦闘重視に設計されたからなのか、剣を用いた戦闘では俺とセイバーのタイミングは完璧に近い形で噛み合う。
 そのため、俺達は無軌道で動き回り時折襲い掛かってくる訓練用ターゲットを難なく斬り裂いていく。射撃のときと比べれば、心地良いまでの一体感だ。はたから見た人間は、生き生きしていると思うかもしれない。

『次のターゲットはこれまでより大きくて固いです』

 言葉どおり、これまでのよりも大きく頑丈そうなターゲットが現れる。通常の斬撃で破壊するのは手間が掛かるだろう。
 ――かといって片手剣技だと本来の威力を発揮できるか微妙なところだ。……シグナムの真似でもしてみるか。
 脳裏にシグナムの技を映し出しながら、魔力を刀身に纏わせつつ炎熱変換を行っていく。ターゲットへ接近し、全力の一閃。紅蓮の炎を纏った斬撃がターゲットを斬り裂くのと同時に、視界が炎と火花で覆い尽くされる。

「……微妙だな」

 シグナムの紫電一閃を真似てやってみたが、彼女のほどの威力はないように思える。時折剣の手ほどきを受けているとはいえ、技自体を習っているわけではない。それだけに本家の一撃に及ぶわけはないとは分かっていた……彼女に見られていたなら、怒られはしないだろうが熱心な指導が始まりそうではあるが。

『次で最後にしますね』

 嬉々とした声が聞こえたかと思うと、ほぼ一直線上に大量のターゲットが現れる。最後だからといって奮発しすぎではないだろうか。
 まあこれで最後なんだ。余力がないわけじゃないし、あれを試してみるか。
 中にいるセイバーに指示すると、煌びやかな刀身に漆黒の魔力が集まっていく。可能な限り収束させつつ、限界に到達するのと同時に剣を振りながら解放。巨大化した漆黒の刃が、大量のターゲットを一気に葬り去った。
 収束魔力斬撃、とでも呼べそうな魔法《エクスキャリバー》。ファラにはなく、セイバーのみに入っている魔法であり、現状で最大の威力を誇る魔法でもある。ただ魔力消費量や発射できるまでの時間から、実戦で使うとなるとタイミングはシビアなものになるだろう。
 ターゲットが残っていないことを確認した俺は、セイバーとのユニゾンを解いた。慣れた重さの剣よりも重いものを使ったり、大規模な魔法を使ったせいか地味だが確かな疲労を感じる。体力向上は意識してやっているし、年々魔力量は増えているが……もう少し早く成長してくれないものだろうか。

「まあ……こればかりかしょうがないか」
「マスター、大丈夫ですか?」
「ああ。……シグナムとの模擬戦に比べれば楽なもんだ」

 シグナムとの模擬戦を見たことがないセイバーは首を傾げたが、続けて「ユーリのところに戻ろう」と言うとすぐさま頷いた。俺が歩き始めると、すぐ後ろを浮遊しながら付いて来る。
 データ収集用に調整された訓練室から出ると、ユーリがタオルとドリンクを抱えてこちらに向かってきているのが見えた。パタパタといった表現になりそうな可愛らしい走り方だ。俺の前まで来ると、持っていたものを差し出しながら太陽のような笑顔を向けてくる。

「ショウさん、お疲れ様です」

 これといって汗を掻いているわけではないが、ユーリの好意を無下にするのも悪い。それに彼女は、レーネさんやディアーチェ達に可愛がられているため、泣かせるようなことがあれば……考えるのはよそう。

「ありがとう」
「気にしないでください。これもわたしのお仕事ですから」

 いや……ここまでするのはユーリくらいだと思う。シュテルからこういうことされた覚えはないし。レーネさんは時間があれば何かしら奢ってくれたりしたけど。
 などと考えていると、ユーリがさらに何か取り出した。意識を向けてみると、彼女の小さな手の平に納まるサイズのドリンクが見えた。

「セイバーもお疲れ様」
「いえ……ありがとうございます」

 ドリンクを受け取ったセイバーは淡々と飲み始めた。
 ――今までに何度か見た光景だけど……データ収集のときくらいにしか会わない俺には、やはり見慣れない光景だ。かつてのユニゾンデバイスがどうだったかは知らないけど、デバイスが飲食するような時代が来たんだな……前回はおやつにって出されたドーナツを食べてたけど、あの体のどこに入るんだろう。
 燃費が悪いと言われているアウトフレーム機構を搭載した試作型ユニゾンデバイスだけに、イレギュラーのようなことはありはするだろう。
 まあ食事が出来るということに関しては、俺にとっても将来的にユニゾンデバイスを所持するであろうはやてにとっても嬉しいことではある。しかし、アウトフレーム状態ならまだしも普段の大きさでセイバーほど食べるのは……。

「……ん? マスター、どうかしましたか?」
「いや……別に何でもない」
「そうですか。なら良いですが……」

 もう少し稼働時間が長かったならば俺の思考を理解できたのかもしれない。今回に限っては理解できなくてよかったとも思うが。

「ショウさんもすぐに慣れますよ」
「ん? うん……そうだといいけど」
「大丈夫です。今後セイバーに会う機会も増えますから……って、これじゃショウさんの負担が増えるって言ってるのと同じですよね」

 自分を責めているのか、ユーリの顔色が曇っていく。悪気があって言ったわけでもないし、今後忙しくなるのは前から決まっていたことだ。それに

「テストマスターが俺の仕事なんだから気にしなくていいよ」
「でも……ショウさんは学校もありますし、家のことも……」

 確かに学校は大切だし、レーネさんが多忙かつ家事力も低レベルであることから家のこともしないといけない。しかし、多少サボったところで大きな問題があるわけではない。高町達だって任務のときは早退や欠席したりしている。
 現在テストマスターとしての仕事は休日や祝日にすることが多い。俺としては平日にしてもらっても構わないのだが、よほどのことがない限りはよくても金曜日に入るくらいだろう。現状で俺への配慮は充分にされていると言えるはずだ。

「そうだけど、みんな頑張ってるんだ。それに俺は将来的に魔法世界で生活するつもりでいるからさ。もっとそっちの都合で考えてもらって構わないよ」

 そう言い終わってから気が付いたが、いつの間にかユーリの頭を撫でていた。知らない仲ではないとはいえ、さすがに気軽に触れていい仲でもない。

「えっと……ごめんつい」
「い、いえ……わたしは嬉しかったですよ」
「そ、そう?」
「はい、またしてほしいです」

 無邪気な笑顔でとんでもないことを言う子だ……いや、普通に考えればとんでもないと思う俺がおかしいのか。子供ならば頭を撫でられて喜ぶのはおかしいことではないのだから。

「あっ、すみません。わがままを言ってしまって」
「いや別にいいよ。今のくらいならわがままってほどじゃないし、ユーリはもっとわがままになっていいと思う」

 ただ、シュテルとかレヴィのようになるのはやめてもらいたい。俺とディアーチェの会話が増えそうだから。互いの愚痴を聞いて慰め合うっていう会話が……。

「そうですか? ……じゃあ」
「うん」
「や、やっぱりいいです」
「言いかけたんだから言うだけ言ってみなよ。別に怒ったりしないから」
「じゃ、じゃあ……その、いつかショウさんの住んでる街を見て回ってみたいです。前はあまり見て回れなかったので」

 一度やめようとしたから何かと思ったが、まさかの内容に逆に固まってしまった。今くらいのお願いなら、予定さえあればいつでも付き合うというのに……。

「それくらいならいつでも構わないよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、今度また遊びにおいで。案内してあげるから」
「ありがとうございます」

 大したことではないのに深々と頭を下げるユーリ。彼女がみんなから可愛がられる理由が何となく分かった気がする。俺と同じ立場になることが多いディアーチェにとって、彼女は癒しの存在かもしれない。……時としてシュテルよりも厄介な存在にもなったりするだろうが。

 
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