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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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悪夢-ナイトメア-part1/狙われた姫

ルイズたちが妖精亭で働いている間の、ある日の夜、オルレアン家の屋敷。
タバサはキュルケと一緒に自室で眠りについていた。キュルケはあまり寝つけずに、自分の傍で眠っているタバサの寝顔を見つめていた。
眼鏡をつけていない時の彼女の顔はあどけなく、過酷ないばらの道を歩み続けているとは思わせない。でも実際には寂しくて、悲しくて、ただひたすら傷を負い続けてきた。両親を現国王である叔父に奪われ、娘である彼女も遠回しに殺させるために危険度の高すぎる任務を与えてこき使われ続けた。
タバサがガリア王家から受け続けていたという、高難易度の任務。翌日はその詳細についてガリアの首都『リュティス』の宮殿の一角、『プチ・トロワ』で明かすということで、早いうちに出発することになっている。もしかしたら自分は死ぬかもしれない。でもペルスランからタバサの秘密を聞き、あんな悲しい意味で波乱万丈な人生を歩んできた友達を見過ごすことは、キュルケにはできなかった。
「…さま……母様…」
ふと、眠りについていたタバサの口から寝言が聞こえてきた。
「…だ、だめ…母様…それを飲んじゃだめ…!!」
額が汗ばんでいて、眠ったまま母を呼び続けているタバサ。母の心が壊れてしまった、あの日の悪夢を見ていたのだ。もしかしたら、今回よりも前に同じ夢を見続けていたのかもしれない。キュルケはそっとタバサを抱きしめると、その抱擁感に安心を覚え、タバサはようやく静かに寝息をたてはじめた。
「微熱の私が、いつだってこうして温めて、溶かしてあげる。だから安心して眠りなさい。『シャルロット』」
慈愛にあふれた母が娘を思い、あやすように、キュルケは優しくタバサの頭をなでながら呟いた。この日のタバサは、悪夢から一転して良い眠りについたことだろう。
だが、二人は知らない。悪夢によって苦しめられているのはタバサだけではなかったことを。




全てが闇に染まった空間の中、アンリエッタはウェールズと向き合っていた。ずっと会いたかった愛しい人との再会。普通なら喜ぶべきなのだろう。しかし、どうして?なぜ、嬉しいという気持ちよりも……『不安』と『恐怖』が強烈に勝っているのだろう。
どうしてウェールズは、あの時と同じ笑顔を…愛情のこもった眼差しを向けてくれず、死人のような目でこちらを見ていた。
「けど、僕は不安だった。いずれ君と僕が引き裂かれる現実が来るのではと思うと…その不安を口にすることさえ怖かった。君にまでその不安まで背負わせたくなかったから…」
淡々とした口調で言うウェールズ。もうあのときには、ウェールズはすでに勘付いていたのかもしれない。どんなに足掻いたところで、自分とアンリエッタは決して結ばれることはない、と。だから、愛の言葉を口にできなかったのだろうか…。
「でも、君は僕を裏切った」
アンリエッタは耳を疑った。何を…何を言っているの?今、彼は何を言ったの?
…いや、そんなはずがない。きっと今のは幻聴だろう。彼が、あんな妄言を言うわけが…。
「自分の口から愛を誓っておきながら、僕に愛を誓ってくれと言ってきたくせに、ワルドに僕を殺させたんだ」
幻聴ではなかった。とてもウェールズの口から放たれたものとは、幻聴じゃないとわかっていても信じられなかった。同様を隠せないアンリエッタは、ふるふると首を横に振って否定する。
「そう、例えば…」
ウェールズの眼が、一瞬怪しく光った。瞬時に景色が変わった。アンリエッタは周囲を見渡す。
(これは…一体…!?)
そこは、どこかの…いや、アルビオンのニューカッスル城の、ルイズとワルドが挙式を上げたあの教会だった。
『これだけ言っても、だめだというのかい?僕のルイズ』
『いやよ!誰があなたなんかと結婚なんてするもんですか!』
『ワルド君!彼女から離れたまえ!さもなくば、我が魔法が君を貫くぞ!』
当時と同様、ルイズはワルドからの求婚を断っている様子だ。ただ、以前と違ってこの場にはルイズ・ワルド、そして神父というウェールズ…彼ら三人しかいない。頭数は少ないが、緊迫した空気が教会を支配していたのは、実際に起きたことと同じだった。ウェールズも、あの時と同様にルイズにしつこく結婚を迫って詰め寄ったところ、ウェールズがそれを差し止めていた。
『…仕方ない。一つ目の目的は諦めよう』
『目的…?』
ため息を漏らすワルド。そして彼の言葉からでた「目的」という単語に、ルイズが疑問を覚える。役者の人数が違うが、あの時と全く同じ状況だった。
『一つ目の目的はルイズ。君をこの旅で手に入れること。二つ目は、アンリエッタからの手紙…。そして三つ目は…』
『ワルド…あなたまさか…!!』
しかし更に異なる展開が、それも残酷な形で発生した。ワルドが杖に光を帯びさせると、まるでアンリエッタに見せつけるように、杖を腰から引き抜いた。
「…!ウェールズ様、危ない!」
アンリエッタが、次のワルドが取ろうとする行動が何なのか容易に想像した。彼女はとっさに杖を手に取ろうとしたが、それは叶わなかった。このときの彼女は杖を持っていなかったし、その上…今教会の中にいるウェールズに彼女の声は届いてなかった。反応が遅れてしまったウェールズは、ワルドの杖に胸を貫かれた。
『貴様…レコン…キスタ……!!』
そう言い残して、ウェールズは倒れた。胸にはワルドによって開けられた風穴が、血を吹き出しながら口をあけていた。
「こんなふうにね」
「あ…………あ…」
愛する人が刺殺される光景には、たとえ彼女でなくても平気でいられるはずもなく、教会内のルイズ同様、アンリエッタは絶望しながら膝をついた。だが、それだけに収まらなかった。更なる残酷な光景がアンリエッタを追い詰める。
『ともに世界を手に入れたかったよ…ルイズ』
『い、いや…来ないで…』
怯えて尻もちをつくルイズに、一歩ずつ、詠唱しながら近づいていくワルド。今唱えている呪文は、風のスクウェアスペル〈ライトニングクラウド〉。その気になれば、雷によって人を灰に変えてしまう恐ろしい魔法。
「止めて…お止めなさい、ワルド!!」
その叫びもむなしく、アンリエッタの目の前で…教会はワルドの起こしたライトニングクラウドによって破壊された。その中にいた…ルイズもろとも。ルイズが炎の中に消えていくさまを、アンリエッタは言葉を失い、ただ見ていることしかできなかった。
そして、再び周囲は暗い闇の中に染まった。




一方、突如鏡の世界から襲ってきた異形の存在を追ってきたサイトは、ゼロに変身し城の中への侵入に成功した。場所はエントランス。近くには二階へ続く大きな階段がある。
城の中は、不気味なまでに静まり返っていた。サイトとゼロ、二人ともこの静けさに微々たるものの恐怖を抱く。
(真夜中の学校みたいで怖いな…そこに立っている甲冑とか今にも動き出しそうだ)
ゼロ…正確にはサイトは城の廊下の角に立っている兵士の甲冑を見る。ファンタジーの世界で登場する古い城などには、よくあのようなものが廊下に立たされている。
さて、さっきの奴は果たしてどこへ行ってしまったのか。ゼロは周囲を見渡しながら、暗闇に先ほどの敵がいないかを探る。ウルトラ一族の透視能力は、暗闇に潜む敵でさえも目視できるのだ。
しかし、奴の姿は見当たらない。この場には鏡…映る物がないためだろうか。自ら姿を見せようとせずこそこそと…陰険な奴だ、と二人は思った。
その時だった。ゼロに向けて暗闇の中からさっきと同じ光刃が飛んできた。とっさにバック転して回避するゼロ。光刃は彼に向かって連射されていく。最後の一発をゼロは右にステップして避けた。が、思いもよらぬ位置…背後から光刃が飛んできてゼロの背中に直撃した。
「グア!!?」
左肩に切り傷を負わされ、ゼロは右手で傷を押さえる。どういうことだ。突然背後から飛んできたのはまだいい。しかし、さっきと違って映る物の中からではなく、暗闇の中から両方とも光刃が飛んできた。しかもさっきの異形の存在の姿がどこにも見当たらない。
いったいどこからどうやって奴は攻撃してきている?ゼロは焦りを感じ始めるあまり、冷静さを欠き始めた。だが、考えている間にも、彼に向けて光刃が再び襲いかかり、ゼロの体を切り付ける。
「グ…!!」
身を守ろうにも、変則的で死角を狙って放たれる光刃。一度避けても、避けたはずの光刃がまた戻ってきたように、背中をつく。なぜ避けたはずなのにその直後に攻撃を食らうのか?ゼロは次に飛んできた光刃を再び避けると、その光刃を目で追い始める。
ガキン!
「!!」
なんと、空気中で光刃が何かにぶつかったような音を立てながら跳ね返り、再びこちらに迫ってきた。手刀でそれを床に叩き落としたことでやり過ごすゼロ。しかしさらに一発、さらにもう一発と、光刃の数はさらに増えてゼロを襲い続けた。気が付いたときには十発近く光刃が放たれていて、ゼロによけられたりされながらも突然空気中で何かにぶつかり再び彼の方へと跳ね返って行きながら彼を苦しめる。
「んの……なめんじゃねえ!」
体を切り付けてくる光刃を受け続けながらも、ゼロはゼロスラッガーを手に取ってガンダールヴの能力を発揮。先ほどまでよりも動作が圧倒的に機敏となったことで、全ての光刃を切り裂き、叩き落とした。
なんとか光刃の嵐を切り抜けた。しかし、思いのほかダメージが蓄積されていた。わずかな時間の間、敵は隠れていることもあって一方的にゼロを攻撃できた上に、嵐のように光刃が彼を痛めつけてしまっていたせいだ。しかも、ガンダールヴの力で一気に動いたせいもあって体力を消費、カラータイマーが点滅を始めていた。
逆にガンダールヴの力を解放し、その場しのぎに光刃を叩き落としたことが仇となってしまった。床の上に、前のめりながらゼロはダウンしてしまう。うつ伏せの姿勢から上半身の身を起こして、目の前を見上げる。目の前には果てしなく広がる廊下が広がっている。隠れる場所なんて、どこにも見当たらなかった。敵はどこから攻撃してきている?さっきまで映る物に隠れていたんじゃ?それに、さっき避けた光刃は目に見えないところで突然跳ね返ったり…。何がどうなっている?隠れる場所もなく、一体…。
「くっそ!一体何がどうなって…」
一撃も加えられずに圧倒されているという状況に、ゼロとサイトは苛立ちを隠しきれなくなる。
すると、ゼロの耳に、ようやく敵の声が聞こえてきた。
『邪魔をしないでもらおうか』
敵の姿がどこにあるのかキョロキョロ見渡していると、目の前にすう…と空気中に色が塗りたくられたように、奴が姿を現してきた。黒銀色の体に、赤い光を放つ戦士。こんな姿のエイリアンは見たことがない。
『僕がここに来たのは、迎えに行かなくてはならない人がいるからだ。君の始末など、おまけでしかない』
「舐めた真似しておきながら、今更…ぐ…!!」
反発しながら、立ち上がろうとするゼロだが、ダメージがたまりすぎて体が言うことを聞いてくれなかった。
『今ここで、二度と表舞台に現れないと誓えるなら、せめてもの慈悲で見逃そう。さあ、素直に「はい」と言いたまえ。今の君は、もう限界に近い。負けを認めて退いた方が身のためだ』
鏡の刺客はゼロを見下ろしながら、淡々と続ける。ゼロのエネルギーが残り少なくなっていることもあり、すでに勝った気でいた。
「…断る!!」
だが、ゼロは真っ向から負けを認めようとしなかった。自分はともかく、突然自分を襲ってきた上に無断で城に入る怪人など、見過ごすことなんてできない。ここで自分が倒れてしまうことは、この世界にて平和に生きる人たちを更なる危険にさらすも同義だった。
『そうか…ならば死んでもらうよ』
鏡の戦士はがっかりしたようにため息を漏らすと、両腕をクロスし、止めの光線を放とうとした。
「舐めんなあああああああ!」
脳裏に一瞬、ルイズやハルナの顔が浮かぶ。このままやられてたまるか!ゼロは痛めつけられた体を強引に跳ね上げ、同時に必殺の蹴りを相手に向かってお見舞いした。
〈ウルトラゼロキック!〉
『ぐわあああああああ!!!』
予想外の反撃を受け、鏡の戦士は大きく吹っ飛ばされた。その拍子に、ガシャアアアアアアアン!!と割れる音が響いた。その音に、逆にゼロが驚きを見せた。よく見ると、今の蹴りの衝撃で床中にガラス…いや、鏡が散らばっていたのだ。
(まさかこいつ、俺がテレポートでここに来たときにはすでに自分で鏡を作り出して…!)
ゼロの考えは的中していた。敵はゼロが来るのを察知し、あらかじめ自分の能力で鏡を作り出していたのだ。そしてこの鏡には、光線を跳ね返す作用を持っている。だから避けたはずの光刃が跳ね返り、ゼロを再び襲ってきた。
冷静さを欠いていたことや周囲が暗闇であるため自分が見ていた景色が反射して映っていたことにきづけなかったこと、それらが重なってしまったせいでここまで追い詰められてしまうとは…ゼロはウルトラ戦士として未だ未熟な自分を呪い、反省した。
「何事だ!?」
今の騒ぎで、やはり城に住み着いている貴族たちが起きてしまったようだ。すると、ゼロに蹴りを入れられた鏡の戦士は、再び自分の背後に鏡を作りだしその中に消えて行った。逃がすか!とゼロが拳を突き出したがすでに遅い。鏡は無残に割れただけで、敵に届くことはなかった。
「く…」
ここに長居するのはまずい。一度城から外に出た方がよさそうだ。ゼロは城の兵たちに見つかる前に立ち去って行った。
彼が去ると同時に、ゼロと謎の鏡の戦士が戦った廊下に、城の衛士やアニエスと彼女に率いられた銃士隊隊員たちが集まってきた。
アニエスが周囲に散らばった鏡の破片を拾い上げる。なぜこんな場所に鏡の破片が散らばっている?嫌な予感をよぎらせた彼女は周囲を見渡す。何者かが城に侵入しているのだとすぐに察知した。
「どこかに侵入者がいるはずだ!直ちに見つけだし拘束せよ!」
「はっ!」
集まっていた兵たちは直ちに周囲を散会し、怪しいものがいないか警戒態勢を敷き始めた。
その一方で、侵入者であるさっきの鏡の戦士がある人物を狙っていたことに気付かぬまま…。




「…遅い」
深夜となって、店を閉めた妖精亭の客席。ルイズはこめかみをひくひくさせながらそこに立っていた。店を閉める時間になっても、あのバカ使い魔は帰ってくるどころかこの日陰も形も見せてきていない。せっかくご主人様があんな恥かしい恰好をして、しかも貴族の令嬢だからやったこともない手料理をわざわざ作ってあげたっていうのに!勤務時間中に魅惑の妖精ビスチェを着用していたおかげでがっぽり稼ぎ放題し、小遣い不足を解消できたのはいい。もしサイトが泣いて謝ってきて許しをこいてきたら、少しは何か買ってあげてもいいだろうとは思っていたが、一向に帰ってこないサイトに、ルイズは不満が爆発しかけていた。
「平賀君、遅いですね」
振り返ると、発熱のためあんせいにしなければならないはずの春奈がパジャマ姿で来ていた。
「ハルナ、寝てなきゃダメじゃない。まだ治っていないんでしょ」
「そうですけど、平賀君のことが気になってあまり眠れなくなっちゃって…」
まったく我が使い魔ながら本当にひどい奴だ、とルイズは思う。病気ゆえに心配される側であるハルナにまで心配かけるとは。
「世話の焼ける犬なんだから。仕方ないから迎えに行ってくるわ」
ローブに身を包み、ルイズはサイトを迎えに店を出ようとすると、ハルナが彼女を引き留めてきた。
「女の子が一人で夜道を歩くのは危ないですよ!」
「あの犬の行き先ならわかっているわ。それに、サイトは私の使い魔なんだから、ちゃんと責任もって面倒見てあげないといけないもの。それよりあんたは自分の体の心配をしてなさい。ここは冷えるわ」
「……」
ハルナの背中を押して、ルイズは彼女が寝ていたベッドのある部屋へと押し戻す。渋々ながらもハルナが部屋の奥に入るのを確認すると、ルイズは改めてサイトを探しに外に出て行った。
(まったく、ご主人様はおろか、ハルナにまで心配かけて……べ、別にあの犬がいないと眠れないってわけじゃないだけどね!!)
道中、一人で何かをぶつぶつ言っていたが。




幻影の景色の中で、ルイズとウェールズがワルドに惨殺されるという、残酷なヴィジョンを目にし、ショックを受けて膝をついているアンリエッタのもとに、再びウェールズが現れる。刺殺された傷は見当たらなかった。
「ウェールズ…様…」
経った今彼とルイズが殺された光景を見たせいか、生きていてくれた…と喜びたかった。だが、その目は生気がなく、目はうつろ…この闇の中に立たされた時と同じ顔だった。
「自分の国のためという言い訳で、弱卒国のトリステインを生き永らえさせるために締結されるゲルマニアとの同盟。その条件にゲルマニアは、君とゲルマニア皇帝との結婚を持ちかけてきた。けど、そのためには僕と、君が僕に宛てた手紙が邪魔だった。もし君と僕が愛を誓い合ったことがバレてしまえば、ゲルマニアとの同盟は白紙となってしまう。だからワルドに僕を殺させようとした。あまつさえ、自分にないものを持っているミス・ヴァリエールが妬ましい…ただそれだけのために死地に追いやって死なせようとしたんだろ?」
アンリエッタは、淡々と信じがたいことを言ってきた彼の言葉に、さっきまでの落ち込み用が嘘のように立ち上がって彼に反発した。
「ち…違います!そのようなことは決して!」
アンリエッタがウェールズに宛てた手紙がレコンキスタに奪われ、ゲルマニアにわたってしまえば、アンリエッタはウェールズとゲルマニア皇帝の二人と重婚したという重罪人とみなされ、トリステインは同盟を結ぶことができず、単独でレコンキスタ…そして迫りくる怪獣たちと、確実に敗北する戦いに臨まなければならなくなってしまう。そこまではすでに分かっている。
だが、手紙だけじゃない、ウェールズ本人も生きていた場合でも、二人の間に交し合った誓いが明るみにされる可能性を否定できない。魔法や魔法薬によっては惚れ薬のように人間の心を惑わすものがある。当然自白剤も存在する。ゆえに法律で禁止されているが、モット伯爵やチュレンヌのようにトリステイン貴族でさえ裏で違法行為をしでかすのだ。あのレコンキスタがそんな倫理観念にとらわれるはずもないだろう。ウェールズを生け捕りにされることで、彼自身にトリステインとの同盟を白紙にする秘密を吐かされるかもしれない。だから、アンリエッタは秘密裏にワルドにウェールズの暗殺を依頼した…。さらに、まるで彼女の心を見透かしたように、ルイズへの羨望を見抜いてきた。だが、ルイズが自分にはない自由・友人関係・充実した日々…アンリエッタが持っていないものを持っているからって、意図的に彼女が結果的に死ぬように、アルビオンへの任務に行かせた…なんて言いがかりだ。現にアンリエッタは、ルイズがアルビオンへ行かせてほしいと申し出た時は反対していた。
彼はアンリエッタを深く愛している…それは誰の目から見ても分かりきっていたことなのに、目の前の彼は平然とありもしない卑劣な言いがかりを恋人に突き付けたのだ。
「トリステインの都合で僕を殺そうとし、自分勝手な妬みのために共を死地に追いやったくせに都合がよければ、死地に追いやった友にすがる。さっきみたいに望まない女王への即位と責務、そして無能者たちへの辟易を一時でも忘れようと、都合よく僕との思い出にすがってその醜い心を癒そうとする」
呪詛の言葉をつづっていくウェールズ。その旅にアンリエッタの眼が、表情が、さらに絶望の…ドス黒い闇の色に染まって行く。
嫌だ…やめて…それ以上冷たいことを仰らないで…。
「父上が死んだのも、信頼に足る家臣たちが倒れたのも、グレンが傷つきどこかへ消えたのも、炎の空族たちが散り散りになったも…全部…」
「やめて…」
アンリエッタは後ずさる。しかし、彼女は下がったと同時に背中に何かがぶつかる感触を覚える。振り向くと、そこにウェールズが立っていた。おかしい、ウェールズはついさっき正面に…いや、たしかについさっき自分が向いていた方にもウェールズがいる。じゃあ、今自分の目の前にいるウェールズは?
ウェールズが、二人いる?
…いや、落ち着け。これは夢だ。思えば、ここまでの光景全てが夢じゃないか。何を慌てているというの?自分が寝る前に現実を悪く考えてしまったから、悪夢を見ているだけなのだ。自分に言い聞かせながら落ち着きを取り戻そうと躍起になる。
だが、アンリエッタは心の動揺をどんなに誤魔化そうとしても隠し通しきれない。
「お前のせいだ」
ウェールズは…いや、ウェールズ「たち」はアンリエッタを睨みながら近づいていく。今のアンリエッタに、ウェールズへの愛情は鳴りを潜めていた。それ以上に恐怖が…周囲の闇のように自分を飲み込もうとしていた。


――――お前さえいなければ…


気が付けば、何人。



――――お前さえいなければ…



何十人…。

――――お前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいななければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバオマエサエイナケレバ



何百人ものウェールズが、集まっていた。壊れた機械のように、アンリエッタに呪詛の言葉を何度も連呼し続けた。
オマエサエイナケレバ…。相手を頑なに拒絶する言葉を誰が平気な顔をして受け入れる?アンリエッタは耳をふさぎ、必死にずっと効きたいと思ってきたウェールズの声が1ヘルツも聞こえないように叫んだ。
「やめて…!やめて!!!いやあああああああああああ!!」
闇の中で座り込みながら、アンリエッタは何も聞き着たくないと耳を押さえながら泣き叫んだ。
無自覚のうちに、アンリエッタは大粒の恐怖と絶望の涙を流し続けていた。すでにウェールズの姿も声もなく。真っ暗な世界の真ん中で、彼女はただ一人ぽつんと、子供のように泣き続けた。
すると、アンリエッタは誰かに後ろから髪を引っ張られた。
「痛…!」
「この弱虫!!」
痛いから放せと叫ぶ前に、聞き覚えのある声が…今の自分にとってなじみ深くも感じる声が放たれ、アンリエッタは突如ビンタを食らい、真っ暗な空間の地面に倒れた。一体誰が自分の頬をぶってきたのだ。体を起こすと、信じられないことに母マリアンヌ太后とマザリーニ枢機卿が、そして二人の後ろから、見覚えのある二人組が歩いてきた。ルイズと、サイトだ。しかし、この真っ暗な世界のせいか、彼らの様子はおかしかった。
「許されない恋とわかっておきながら、いつまでもめそめそと…わが娘ながら情けない」
マリアンヌ太后の口から出た言葉は、とても彼女の口から出たものとは思えないほど冷酷すぎた。ゲルマニアとの同盟が、自分がウェールズに宛てた手紙が原因で白紙となったとき、ウェールズを失って嘆き悲しんだ自分を、一人の母として抱きしめてくれた人とは到底思えない姿だった。
「王族とは常に民たちのことを第一に考え、毅然となさらなくてはならぬ者。なのに姫殿下は皇太子と…ああ、嘆かわしい」
マザリーニから発せられた言葉も、非常に冷たかった。お小言が多いのはいつものことだが、アンリエッタには感じ取れた。彼の声が、今の自分をあらゆる愚か者を超えた、世界で最も愚かな存在として見下している声となっていたことを。
すると、マリアンヌとマザリーニの後ろからサイトとルイズが歩み寄る。しかしその二人もマリアンヌたちと同じ…アンリエッタを蛆虫を見るような目で見降ろしていた。
サイトが彼女の前で身をかがめ、その首を鷲掴む。ものすごい力で
「この女は、お前の持つ国への忠誠心ゆえに裏切れないことをいいことに、お前に死地に行けって糞な命令下したよな。しかもゲルマニア皇帝と結婚することが決定したってのに、昔の男との思い出にいつまでも甘えちゃってよ…。こんな女どう思うよ、ルイズ?」
鼻で笑いながら、サイトは後ろに控えているルイズに尋ねる。
「人間の風上にも置けないわね。私ったらかわいそう、惚れた男に本気の愛を誓っておきながら裏切り者を使者に選んで殺させようとしたり、お友達って言葉を使ってうまく私を籠絡して死地に追いやったり…こんな屑女のために働いてたなんて、ああ酷い!姫様ったら血も涙もないわ!!」
わざと嘘泣きをかましてきたルイズ。アンリエッタには信じられなかった。ここにいる彼らは、少なくとも自分の知る限りこんなに冷酷で残忍な顔をするはずがない。
「まあでも、この女の絶望に染まった顔を見ていると、すごく幸せな気分なの。空がどこまでも青く澄んでいるように鼻歌でも歌いたい気分だわ。サイト、私が許可するわ。この女を好きなだけ……あんたの好きにしていいわよ?」
茫然とするアンリエッタに、さらにルイズは容赦することなく、なんとも下劣なことを命じた。自分を愛してもいない男の好きにさせる…つまり性的な慰み者にすることさえも許すと言ってきたのだ。あのルイズが、こんなことを…!?すると、サイトが下卑た笑みを浮かべながらアンリエッタの服をデルフリンガーで切り裂いてしまった。もはやエロ犬なんかじゃない。ただの下種男の姿だった。
自分の身を纏うものを失い、アンリエッタは羞恥のあまり自分の裸体を覆い隠すが、サイトがいやらしく指先を揺らしながら、アンリエッタに迫ってくる。
「ち、近寄らないで!無礼者!!」
アンリエッタは叫んだ。その叫びの反動で、彼女はいつの間にか手に持っていた杖を振った。グジャ!!と生々しい音が響いた。そして彼女の顔にべったりと、何か鉄臭く感じるにおいが付く。
「あ…あ…あぁ……!!」
杖の先に組み込まれた水晶に、血がべっとりとついていた。前を見やると、無残な撲殺死体と化した、頭の砕かれてしまったサイトが血の池を作り出して倒れていた。彼だけじゃなかった。今のたったひと振りのせいか、後ろに控えていたルイズ・マザリーニ・マリアンヌもまた身を粉々に砕かれた姿でサイトの傍らに倒れていた。
年頃の少女には特にきつ過ぎるその光景は、アンリエッタの心を恐怖の黒で染め上げていく。
「い、いや…」





「いやあああああああああああああああ!!!」





アンリエッタは心が砕けてしまったように、甲高い悲鳴を上げた。頭の中のすべてが黒い絵の具で塗りたくられたように暗黒色に染めあがって行き、彼女は意識さえもブラックアウトさせた。




一方で、侵入者が現れたということで、現実世界のトリスタニア城は厳重な警戒態勢を敷かれていた。玉座・執務室・寝室・厨房・食堂・ホール・廊下・トイレ・大浴場…ありとあらゆる場所に兵たちが駆け込み、怪しいものがいないか徹底的に探って行った。が、しばらくの間それらを調べ上げていくも、怪しい人物の姿は見当たらなかった。自分たちの勘違いだっただろうか?いや、そんなはずがない。真夜中に誰も通るはずのない廊下に不自然に鏡の破片がいくつも散らばっていたのだ。看守が常に城の中を見回っていたため、内部の者とも考えにくい。間違いなくどこかに何者かが侵入した可能性がある。
万が一のことを考え、アニエスはアンリエッタの私室に向かっていき、彼女の部屋の扉をノックする。
「夜分に申し訳ありません、姫殿下。アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランです」
無事の確認のために、部屋の中にいるアンリエッタに声をかけるアニエスだったが、部屋の中からは返事ひとつなかった。もうお休みになられてしまったのだろうか?そう思っていると…。

ガチャ…コトッ…。

『………』
「!」
何か、音や声が聞こえてきた。アニエスは不審人物に対抗するため、わずかに小さな音でさえも決して聞き逃さないようにしている。今の音…、それに…。
何かまずい予感を確信したアニエスはかかりつけの侍女に申し付け、すぐに部屋を空けるように言うと、直ちにアンリエッタの部屋の扉を開いて内部を確認した。
「しまった…!」
彼女は部屋の中を一通り見まわると、悔しげに顔を歪ませた。
アンリエッタの姿が…影も形もなく消えてしまっていた。バルコニーのガラス扉が開きっぱなしにされていただけであった。


 
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