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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第二十五話

『――――大好き、で、大嫌い、です……!』

 それが、最後に会った彼女の、最後の言葉だった。

 『僕』が突き刺した凶器が、彼女をズタズタに引き裂いてなお。

 彼女は変わらずそれだけを残して、死んだ。

 後には、『違う』彼女だけが残った。

 
 いつだって、変わらなかった。その結果は、ずっと同じだった。

 あるときは、知らない人だった。

 あるときは、親友のその友人だった。

 あるときは、敵対者だった。

 あるときは、最高の理解者だった。

 あるときは、最愛の人だった。

 あるときは、共に思いあえる人だった。

 どの世界でも――――いつだって、最初に僕に《大好き(だいきらい)》をくれた、大切な人だった。

 でも、どの世界でも――――彼女を『殺した』ことに、代わりは無かった。

 ああ、だからどうか許してほしい。

 そんな顔で怒らないで。

 やめて。やめて。ヤメテ――――

 僕が悪かったんだ。僕が悪かったんだ。僕が悪かったんだ―――――!!!

 だから……どうか、泣かないで。怒らないで。

 キミは――――キミがやりたいように生きて欲しい。

 もう逢えない。

 その事実だけは、きっと変われないのだから。

 全部、僕のせいだ――――

 僕の、俺の、私の、我の、余の、吾の、ボクの、オレの、あたしの、『ボクタチ』の――――


『ルォォォォオオオオオ―――――――――――……ン……』


 それは呪い。

 それは祝福。

 冥王女(カローラ)海王子(トリトン)に掛けたのと同じ。

 故に廻り廻ったその先の世界でだって――――


 ***



 破壊する。

 唯々破壊する。

 まるでそれだけが絶対唯一の思考、嗜好、至高であるかのように、破壊する。

 それが、《主》の《惟神》――――《自我の太陽》の特性だった。シャノンの武器であったレーヴァティンとオズワルトに似た巨大な巨剣(グレートソード)…二重表現になってしまうがそうとしか言いようがない…を振り回し、《白亜宮》の床を破壊していく。

 破壊行動の傍から即座に床は修復されていくのだが、こちらはそうもいかない。恐らくでもなく、一撃でも当たったら即死。ログアウトして、恐らくは二度と戦場に戻ってこれないだろう。

 そもそも、《自我の太陽》に搭載された『世界願望』とやらが《破壊》なのだからして、下手をすれば存在を抹消されかねない。

 幸いなことに、ハザードと刹那の機動力は折り紙つきだ。

 ハザードは《獣聖》の力で付与された翼を休むことなく動かすことで攻撃を回避している。すでにその表情には疲労が色濃く浮かんでいるが、それでも驚異的な集中力で、彼は《自我の太陽》の攻撃を避け続ける。

 刹那の場合は本来の活動場所である《白亜宮》へ帰還したことで、底上げされた機動力が、逆に役に立っていた。まぁ、それも《主》が仕組んだのかもしれないが――――とにかく、刹那に関してはハザード以上に安定して攻撃を回避できていた。

 此処で問題となるのがセモンだ。

 セモンはSAO時代のステータスとしては筋力と敏捷をほぼ5:5よりの6:4で上げていたし、《六門世界》でも比較的パワータイプのスタイルを取っている。
 
 何か特殊な機動力向上のオプションも持っていないし、底上げがされているわけでもない。

 そんな中にあって、セモンが生き残っていられる理由――――それは、皮肉にも《主》がずっと覚醒を待っていた(と思われる)、セモンの《異能》だった。

 『不可能を可能にする』。異能の効果を端的に言い表すならば、その一言に尽きる。

 セモンに与えられた異能は、自身の《本質》である、《変遷》の上位互換。『氷』という存在を『炎』という存在へと変化させたように、『不可能である』という事実を『可能である』という結果に変遷させる。

 結果として――――セモンは、『《自我の太陽》の攻撃を避けられない』という『不可能』を、『《自我の太陽》の攻撃を避けられる』という『可能』に書き替えることで生き残っているのだった。

 だが、問題もある。

「――――セァァッ!!」

 《冥刀・雪牙律双》の刀身がまばゆいオレンジ色に輝き、十一連撃の刃の嵐が巻き起こる。《神話剣》上位剣技、《アラブル・ストリーム》。

 かの浮遊城では、上位モンスターの大群を一瞬にして殲滅しうる威力を誇ったそれも――――しかし、この場では《自我の太陽》の肌に傷一つ付けられない。

 《この攻撃は効く》という祈りが、《絶対に効果がない》という圧倒的な《現実》に押しつぶされて、一切効果を発揮していないのだ。

 それだけではない。つい先ほど分かったことなのだが、セモンの『可能変遷』は、『自分を対象とした現象』を『書き換える』ことしかできないのだ。

 つまり、『攻撃が効かない』という『不可能』を、『攻撃が効く』という『可能』にすることは、セモンの能力では不可能なのである。

「お兄様、どうか……どうか目をお覚まし下さい!!」

 ほとんど泣き叫んでいるに等しい剣幕で、刹那が鎌――――《ラティカペインR2》を振り回す。彼女はセモンやハザードなどよりもずっと《心意》の使い方がうまい。だがそれでも、《自我の太陽》には傷がつけられないのだ。

 どれだけ、どれだけ、刹那が鎌を振るっても。

 その刃にも哀しみが渦巻いていても。

 《自我の太陽》――――シャノンが、いったいどれだけ強大な心意力を誇っていたのか。

 今更ながらに、その差を痛覚させられる。

『ルォォォォオオオオ――――――――……ンン』

 慟哭の如き咆哮を上げて、二対の巨剣が振り回される。技巧も何もあったものではない、ただただ本能に従っただけの《破壊》だが、それ故にひどく恐ろしい。

 《自我の太陽》は腕が四本あり、その全てに巨剣が握られている。先ほど『二対の』と言ったのはそう言うわけだ。その全てが別々に動くため、攻撃の起動が読みにくいのも苦戦の一因となっている。

 ――――今だって、ほら。

 全長二メートル半ほど――――アインクラッド時代のフロアボスに匹敵するだろうサイズの、その慟哭の魔神は、振り上げられたばかりの右の第一腕を、無理やり振り下ろした。

「くぉ……ッ!?」

 ハザードがあわててその場を退いた直後、ズバガァァァンッ!! という背筋の凍るような破壊音と共に《白亜宮》王城の床が破壊された。

 直後、恐るべきスピードで粉々になった床が再生して行く。全く、ずるいとしか言いようがない。向こうはこれだけの破壊を起こしておきながら、全くデメリットがないのだ。

 対するこちらは一撃でももらったら即死確定という絶望的な差。

 こちらの攻撃は一切通用しない。

 対するあちら側の攻撃は、当たれば勝利が確定する。

 圧倒的な不利。両者を隔てるのは、絶望的なまでの格差。それは奇しくも、セモンがSAO時代に痛感した物と同じだった。

 当時――――セモンのレベルは70。対するシャノンのレベルは149。倍以上のレベルを持つ彼が、攻略組を殲滅してその()()()でけたたましく嗤いながら踊る(殺す)のを、セモンは止められなかった。

 あの時と同じ、無力感。

 彼には勝てない。

 ずっとそうだった。シャノンはずっとずっと先を行っていた。だれも必要としていなかった――――

 ――――違う!!

 そんなことはない。

 シャノンは、天宮(あまみや)陰斗(かがと)という人物は、恐ろしく孤独だ。誰かの愛が欲しいのに、それを心の奥底から「不要」と断ずる、矛盾した内面の持ち主。

 孤独を装うために、欲しいものも、何もかも傲慢に《否定》した存在。圧倒的な防御力(否定の力)はそれ故に。

 《破壊》の世界願望は、その現れ。未来を破壊し、停滞する。過去を破壊し、振り返らない。現在を破壊し、とどまらない。

 結局、何処にも存在できなくて、消えてしまう。

 彼は――――孤独で。小さくて。

 どれだけ強大な力を持っていても。どれだけ否定しても。陰斗は、誰かがいなければ、生きていけないのだ。

 清文(セモン)琥珀(コハク)が必要なように。

 秋也(ハザード)笑里(エミリー)が必要なように。

 陰斗(シャノン)には刹那が必要で――――もしかしたら、あのそう(ガラディーン)という人も、必要だったのかもしれない。

『ルゥォオオオオオオオオ――――――――……ン』

 犯した罪に咽び泣く。

 自分は孤独と狂い泣く。

 そんな彼を、待っている人たちがいることを、示す為に―――― 

 ――――どうすれば、この状況を打破できる――――!?

 セモンは回避に徹しつつも、必死に頭を働かせて考える。ハザードや刹那のように天才的なひらめきや策略を思いつけるとは思えないが、自分なりの策なら練れる筈だ。

 どうにかして、せめてあの圧倒的な防御力にだけでも対処をしなければならない。攻撃は回避すればいいが、こちらの攻撃が効かない状況では向こうの攻撃を回避できてもどうしようにもない。

 シャノンの時点で既に圧倒的、と言っていい心意力を誇っていたのだ。それが本来の姿に戻って強化されたいま、その心意の強さは如何ほどのものになるのか――――

 ――――いやまて。

 ――――『シャノン』を『強化した』……?

 それは。

 つまり。

 彼の、内面の弱さまで、そのまま再現してしまった、と言うことなのではないか……? むしろ、()()されている可能性すら――――

 その瞬間。

 セモンの脳内に、ある一つの作戦が閃いた。

 ――――だが……許される物なのか!?

 親友を、陥れ、貶めるような行為だ。とうてい許される、とは言い難い。

 だか。

 ――――これしか、ない、のか。

 それは事実として、セモンの中にあった。

 結果として、親友を傷つけることになっても。

 彼を失うわけにはいかないのだ。命さえあれば――――

「何だって、取り戻せるんだから」

 故に決意する。

 全力で《自我の太陽》を――――シャノンを、無力化することを。

  
 

 
後書き
 《自我の太陽》の攻撃に編まれている自在式は、『存在否定』です。喰らったらとりあえず抹消されます。ただ、《白亜宮》のあらゆる物は《主》が加護を与えさえすれば『無限更新』されるので、壊れても修復されたわけですね。これは《白亜宮》のメンバーを消滅させられない原因にもつながります。ナンバーズくらいなら相当実力の高い異能使いが挑めば倒せるんですけどねー……消滅しないから決着がつかないという。
 因みに《主》は神である前に《脚本家》なので、展開が面白そうだ、と思う場合や、脚本のプロット次第によっては『無限更新』を起動させない場合があります。つまりご都合主義ということですね!
刹「なんてあなたにとって都合のいい設定……」

 さてさて、今回はシャノン回。序盤にちょっとだけ出てきたカローラとトリトンと言うのは、Askaが昔書いてたファンタジー『MEGARANIKA2』という作品のヒロインと主人公の名前です。ここにも一次創作(ネオ・ハイマティアス)の魔の手が!

 遂に完全にストックが切れたので、次回の更新は遅れに遅れます。
刹「気長にお待ちください。お楽しみに!」 
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