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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第二十三話

 目も眩むような速さで振り下ろされた黄金の剣を、漆黒の剣が弾き飛ばす。

 蒼銀の剣が撃ち込まれて、白銀の剣によって弾き返される。

 光速で白い少女の背後に回ると、彼女はそれを上回るスピードで正面を向いてくる。再び打ち込まれた二刀を、より早く双大剣が打ち返した。

 黒と青の二刀が眩い真紅の光を放つ。神速で放たれた二連撃の回転斬りは、《二刀流》ソードスキル、《ダブル・サーキュラー》。

 それを、ソードスキルすら使わずに真正面から弾き返し、さらにはそれを上回るスピードで金と銀の双大剣が撃ち込まれてくる。

 大きく後ろに下がって、光の翼を広げて(はし)る。真正面に肉薄した白の少女へと、もっと速く、もっと強く、と念じながら二刀を振り下ろす。だがそれをあざ笑うかのように、彼女はなお速く攻撃を弾き返す。

 鍔迫り合い、弾き合う。斬りつけ合い、回避し合う。
 
 一瞬。

 たった一瞬の間に、それだけの事が起こった。本来ならば何工程も掛けて行われるべき剣戟は、瞬きすらしない間に終了した。

 心意すら超える世界の真理の一端、《自在式》へとたどり着いたその願いをうけて、加速する戦況。それを追い越し、さらに加速する《神威》。

 そして戦い(それ)は、息をつく暇すらなく再び開始される。

 右手の剣が深紅(クリムゾンレッド)のエフェクトライトを瞬かせた。《片手剣》重突攻撃、《ヴォーパル・ストライク》が唸り声を上げて突き進み、しかし少女は柔らかい動作で苦も無くそれを回避する。だが剣は二本ある。左手の剣が今度は風を思わせる蒼いエフェクトライトを宿し、横薙ぎの四連撃、《ホリゾンタル・スクエア》を打ち出した。少女はそれを銀の剣ではじきながら、金の剣で穿ってくる。

 体をひねって回避すると、今度は引き戻された左手を交えて、《二刀流》ソードスキル、《シャイン・サーキュラー》。十五連の斬撃が繰り出され、しかしその全ては金と銀の大剣が弾き返す。

 ソードスキルが終了した隙をついて、黄金と白銀の双大剣が、同時に大上段から振り下ろされた。《二刀流》防御スキル、《クロス・ブロック》で間一髪弾く。

 それによって両者の間に空隙が生まれ――――

 
 光速すら超える速さの応酬が、終了した。


 ガガガギャリギャリギャリガキンズシャシャシャシャシャズバァンッ!!!!

 
 そんな形容し難い効果音(サウンドエフェクト)が、今更のように発生する。剣戟のあまりの速さに、音が付いて来ていなかったのだ。

 楽しそうに微笑む白い少女――――《七剣王(アムシャスプンタ)》第一席、ホロウ・イクス・アギオンス・スプンタマユを見据えて、《黒の剣士》キリトは、肩で息をしながら体制を立て直す。

 奇妙な力に後押しをされて、現在のキリトは過去最強級のそれをはるかに上回る戦闘能力を発揮できている。
 
 だがホロウは、それの一歩先を行く。それに追いつこうとキリトが速くなればなるほど、彼女も早くなるのだ。

 結果として、今だキリトの剣はホロウに一度も届いていない。だがそれと同時に、ホロウの剣もキリトに一度も届いていない。

 しかし――――しかしだ。彼女とキリトの間には絶対的な差がある。

 ホロウは、疲労しないのだ。現にいまでも、彼女は涼しそうな顔でこちらを眺め、微笑んでいる。

「どーしましたかー? あ、もしかして疲れちゃいました?」
「うるせぇよ……」

 ホロウの喋り方は、なんというかこちらをあやすような、ほわほわしたモノだ。不快感を感じさせないが、だがそれ故に非常に焦りを募らせる。

 こいつには、何も効いていない。

 こいつには、何も通用しない。

 こいつには――――勝てない。

「うるせぇよ……!」

 再び、今度は自分の心に向かってそう言い、不安を鎮める。叩き潰す。

「俺は……負けない!」

 そう、負けない。

 負けられないし、負けない。

 だって自分は――――《黒の剣士》だ。

 いつかまでは、ずっと嫌っていた、この肩書。《二刀流》のキリトとして、英雄として、讃えられることを、求められることを、心の底から嫌悪していた。

 だが今はもう違う。

 この名は誇り。

 この名は希望。

 皆の心を救って、その心を預かる――――そんな、勇者としての自覚が、いつの間にかキリトの中にできあがっていた。

 
 《白亜宮》の天井を侵蝕した、キリトの黒い《夜空》に瞬く星たち。その内の一つが、静やかな青い光を放った。

 キリトの《夜空の剣》が姿をけし、代わりに現れたのは一丁の銃。

 《ウルティマラティオン・ヘカートⅡ》。《銃の世界(ガンゲイル・オンライン)》における、シノンの愛銃。

 そのトリガーを引き絞って、放つ。

 銃口から発せられたのは、弾丸ではなかった。燃え盛る輝き。《弓》ソードスキル――――

《エクスプロード・アロー》。

「ふふっ!」

 笑いながら、ホロウは銀の大剣を振るう。矢たちが弾かれ消える。

 星たちの一つ、風のように踊る緑色の星が輝いた。

 《ヘカート》は姿を消し、代わりに現れたのは、銀色のロングソード。キリトの背中に、妖精の翅が伸びる。

「せぁぁぁぁっ!!」

 大上段から振りかぶられたロングソードが、剣道の面打ちのようにホロウを穿つ。今度は金色の剣がそれを迎撃。

 銀色の猛々しい星が輝く。

 ロングソードは掻き消え、代わりに一本の重厚なメイスが出現する。號と音を立てて振るわれたそれが、金属質な音を立ててホロウの大剣を殴っていく。

 《片手棍》ソードスキル――――

「《ヴァリアブル・ブロウ》!!」
「……っ!」
 
 ホロウの表情が、初めて動いた。

「なるほど……次々に武器を持ちかえて、対応するつもりですか……やっと楽しくなってきましたね!」

 銀色の大剣へと、防御する剣がシフトする。その隙を狙って、次の武器へと持ち替える。

 赤色の愛らしい星が煌めく。

 メイスの代わりにキリトの手に納まったのは、プライオリティの高そうな短剣。

「……《ラピッド・バイト》!!」

 素早い五連撃が突き出され、ホロウの交差された大剣の隙間を狙う。

 つぎに輝いたのは、真っ白な星。ひときわ大きな星だ。

 短剣の代わりに出現した武器は、壮麗な細剣(レイピア)だ。この剣の固有名詞なら知っている。《ランベントライト》――――アスナの、SAO時代の愛剣だ。

 繰り出すのは、細剣カテゴリを代表するソードスキル。

「《スター・スプラッシュ》!!」

 チュチュチューン! と甲高い音を立てて、流星のように刺突が迫る。ヒースクリフがかつてそうした様に、大剣(たて)を素早く動かしてそれらをさばいていくホロウ。

 だがこれで、終わりではない。

 金色の星が燦然と輝く。《ランベントライト》の代わりに出現したのは、黄金の長剣。固有名詞は《金木犀の剣》。《アンダーワールド》最硬の神器。

「散・花・流・転!!」

 ざぁぁぁっ! と音をたてて、無数の小さな花達へと姿を変えた剣が舞う。黄金の花びらが煌めき、ホロウの大剣を穿つ、穿つ、穿つ――――

 その瞬間。

「……きゃぁっ!?」

 ホロウの体勢が、初めて崩れた。

 その隙を、逃してはいけない。

 今までずっと休ませていた、左手の剣を構える。《青薔薇の剣》が、夜空にある空色の星と共に、まばゆい光を放った。

「お、ぉ、お、ぉおおおおお!!!」

 《片手剣》基本ソードスキル、《ホリゾンタル》。

 ユージオが、初めて繰り出した、ソードスキル。

『行くよ、キリト!』
「ああ、ユージオ!!」

 それは、吸い込まれるようにホロウへと打ちこまれていき――――

「と、ど、けぇぇぇぇっ!!」

 ざしゅり。

 ――――その肩口を、切り裂いた。

「あ、あぁ、あああああっ!!」

 その時だった。両手の大剣を放り投げて、ホロウが自らの肩から流れ出る鮮血をその手に掬い、恍惚とした表情で眺めた始めたのは。

「あぁっ! 血……血です! 血……血……私の血……! お兄様のそれと一緒で赤い……! ああ、なんて素晴らしい……!」

 タガが、外れたらしい。

 ――――しまった!

 キリトが内心で狼狽するのと、ホロウが先ほどとは異なる、何か得体のしれない光を讃えた瞳で、頬を上気させながらこちらを向いたのは、ほぼ同時だった。

「あなたの血は、何色ですか……? 私と同じ、赤? それとも違う色? ……みせて……?」

 ゆらり、と、ホロウの背後に、何かが姿を現そうとしていた。

 それが何だったのか――――結局、キリトには想像がつかなかった。

 なぜならば、《それ》が出現する前に、地面に落下してきた真紅の槍が、一騎打ちを終了させたからだ。

「そこまで。見事であった」

 それを投擲したのは、黄金の髪をたなびかせる少女――――アニィ・イクス・アギオンス・レギオンキングだった。

「あぁぁんっ! もうぅぅっ! どうして止めるんですかぁ、アニィさんんんッ!!」
「そこまでにしておけ、卿よ。兄者が制止を掛けに来るかもしれぬ故な。仕方なしに集結させていただいた」
「……それは、嫌ですね……」

 しゅぅぅぅ、と音を立てるように、ホロウがしぼむ。背後に立ち上っていた陽炎も消滅し、ホロウはいつもの調子に戻ったようだった。

「すまぬな、《黒の剣士》。せっかく卿が糸口をつかんだところであったというのに――――余は兄者から戦場管理者(ヴァンガード)の地位を任されているが故、この様な手段に出るもやむなしと判断したわけだ。
 重ねて謝罪しよう――――卿を、何の面白みも無くこの場で消し潰すことを。
 『十九八七六五四三二一〇
  いと尊き我が兄に、この誓いを捧げよう』」

 猛々しい笑みでこちらを向いて、謝罪した彼女は――――直後、聞き覚えのある起句と共に、終結の祝詞を紡ぎだした。

「『その昔、支配地全てを統一した祖神は
  華やかな妻のみを欲し、その一族を貶めた
   
  その昔、財の全てを手にした英雄王は
  不死を求めて旅に出て、その可能性を失った

  遥か嘗て、輝く地に住まいし名も無き神は
  その地のあらゆる王を食いつくした。

  即ち是貪欲の相也。
  
  神さえその法よりのがるる事叶わず――――

  その名は《強欲(avaritia)》。

  ――――《惟神》――――

     《強欲(avaritia greed)

  《神・哭・神・装》

  ――――《惟神》――――

     《強欲(avaritia greed)》!!』」


 彼女の背後にまとわりついていた半透明の巨大な狐火――――《マモン》が、アニィの体を覆っていく。

 軍服めいたコートは、カラスの翼のような装飾で飾られ、彼女の頭には狐の耳に似た器官が出現する。瞳孔は縦に割れ、黄金の髪の毛が伸び、その先端が半透明になる。

 両手に握られた双槍――――赤い方の周囲には血のような色の炎が出現し、金色の方の周囲には眩いばかりの雷がまとわりつく。

「『いざ、堕ちよ――――《黄昏の鎮魂歌(ラグナロク・レクイエム)》』」 
 

 
後書き
 はいどーも、Askaでーす。キリッとさんが頑張る回でした。
刹「最近こんな終わり方の回多くありません? 何というか……急ぎすぎというか……」
 本当はもっと精密にしたい感もあるんだけどね……力が及ばない……。
 ちなみに劇中でキリト君が放ったアリスの技ですが、この技名はウェブ版で使われていた名前です。書籍版では「舞え! 花たち!」になってますけど。

 さてさて、次回はコハクVSガラディーン……のつもりなんですが、連続更新は此処でストップ。ストックが切れました。
刹「やはりそうそううまく続く物じゃないですね……」
 俺に何を期待しておるんだ。無理に決まっておろう。
刹「」(ざしゅっ!
 ぐっはぁぁぁぁっ!! 最近また良く切られるようになってきたなぁっ!

刹「はぁ……それでは次回もお楽しみに」 
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