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ひねくれヒーロー

作者:無花果
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花と成りなさい


花と成りなさい














◆◇◆コン◆◇◆






先生に頭を撫でられてコーヒー代わりにお湯を貰う

刺激物は飲めないのだ

胃に影響がないよう冷ましながら飲んでいると、ガイ上忍がやってきて先生を連れて行ってしまった

今オレの隣はアスマ上忍が座っている

・・・話すことがない


「コンじゃねーか、メンドくせぇ・・・」


シカマルがフルーツセットを持ってアスマを訪ねてきた

チョウジの見舞いかなと思っていたら案の定

あいにくアスマ上忍は待機所でやらなくちゃいけないことがあるらしく断った

オレはすることもないので見舞いに行くことにする

・・・そういやオレら本戦で戦うんだよな、だから面倒なんだよな?

オレと遭遇することが面倒だっていうんならお前との友情を疑うぞ


「シカマル、おまえちょっとはやる気だせよ?
 シナイの生徒だからな、油断してると危ないぞ」


アスマ上忍が真剣なまなざしで忠告する



なんか、なんか違和感ある

どうしてシナイちゃんの生徒だから油断しちゃだめなんだ?

シカマルも同じように首をかしげている


「アスマ、そんなにあのシナイって人は強いのか?」


先生自身あんまり強くないって言ってるけどな

模擬戦ならガイ先生とやりあえるそうだ


「シナイか・・・いや、そんなに実戦は強くないんだが・・・
 個人的に大きな借りがあってな」


「借り?」


「オレが下忍になってしばらくたった頃、命を救われたんだ・・・アカデミー生だったあいつにな」


アカデミー・・・何か聞きおぼえがあるような


「命って・・・大げさだな」


「いいや大袈裟なんてもんじゃない
 一歩間違えれば木の葉と雲隠れで戦争が起こったかもしれないんだからな」


木の葉と雲・・・日向の事件か?でも時代が違うか

アスマ上忍の用事の時間になるまで暇つぶしがてら話をせがむ

シカマルと揃って体育座りで話を聞く体制をとる

心なしかわくわくしていた

そんな俺たちに苦笑しながらアスマ上忍は語ってくれた



「あの日のことは忘れもしない
 雲隠れの上忍が徒党を組んでオレと兄貴を誘拐しようとしたのさ
 火影の息子である、俺たち兄弟をな」


木の葉丸の父親のことかな


「アカデミー生がどうやって上忍から助けんだよ・・・」


冷や汗垂らしながら呆れたように呟いたシカマル

アカデミー時代でも鍛えていたなら、大丈夫なのか

・・・いやどんだけ鍛えても無理じゃね?


「下忍の任務でアカデミー生の手裏剣術の練習を見るって言うのがあってな
 そのとき担当したのがシナイだった

 あらぬ方向へ飛んで行ったクナイを拾いに兄貴が草むらに、オレは新しく的を取換えようと進み出た
 
 気配を感じたと思ったら囲まれ、縄で縛られ担ぎあげられちまった

 そしてシナイは口封じに殺されそうになった
 
 シナイは上忍の一撃を避けて、持っていた木刀で一太刀浴びせた
 ・・・だが、それに逆上した上忍によって嬲り殺されそうになった
 
 下忍だっていうのに、助けてやることも出来ず、捕まったままの俺たちと違って、あいつは最後まで諦めなかった」


・・・そうだよな、あの人粘って粘ってチャンスをつかむ人だもんな


「上忍に担がれるままのオレは悔しくって泣いていたってのにな・・・
 
 半殺しにされても、その逆上した上忍を撒いて、俺たちを捕まえている上忍に追いついてあいつは言った

 別に、貴方を倒してしまっても構わんのだろう、と明らかな挑発だった
 
 見事敵は逆上し、シナイに殴りかかった
 
 それと同時にシナイはクナイを投げていた」


・・・ん

・・・敗北フラグなセリフが聞こえたけど、スルーかな


「クナイなんかじゃ倒せない、シナイが殺される、そう思い駆け寄った

 ・・・それまで縛られていたはずなのに、駆け寄れたんだ

 シナイのクナイが、縄を切っていた
 
 そうして俺たちが自由になったのを見計らい、木の葉の暗部が現れ、交戦が始まった

 暗部が勝利し、俺たちは無事に保護された

 ・・・女なのにな、殴られ過ぎて顔が変形してんだよ

 それでも助けようと俺たちの拘束を解き、暗部が襲撃しやすいよう敵と俺たちを引き離した」


無茶をする人だな


「病院に連れて行かれる前にシナイに聞いた、なんでそこまでして助けてくれたのか

 そしたらあいつはひとしきり笑ってた・・・いつもの無表情でな」


あぁ・・・昔から無表情だったのね・・・

一度でいいから満面の笑みが見たい

そして写真撮って売る、高値で売れる筈だ


「死にかけて笑うとか・・・コンの担当怖いな」

「そこに突っ込むな」


M疑惑の浮上は阻止する


「———誰かを助けるのに、理由がいるかい?」


「え?」「!」


この聞き覚えのあるセリフは・・・!


「そう笑って言ったんだ」


FF9だーーーっ!?

いや、死亡フラグよりマシなのか、マシなのか!?


「ねたみ、お前は良い奴を師に持った
 あいつから色々な事を学べ」


頭をわしゃわしゃと撫でられる

シナイちゃんが良い奴だってのはうちの班が一番知ってらぁ!

・・・


「・・・でも、先生、修行見てくれなかった」


そうすりゃ再不斬の地獄の訓練もせずにすんだ・・・駄目だスパルタ教育が待ってるだけだ


蘇る記憶に青ざめる


「なんだコン、拗ねてんのか」


シカマルが呆れたように呟いた

拗ねてない


「ま、多分そのうち修行ぐらいいくらでも見てくれるさ・・・
 じゃぁオレはそろそろ行くぜ、チョウジによろしくな」


煙草をふかしながら待機所から出て行った

シカマルと顔を見合わせてチョウジの所へ見舞に行くことにした
































チョウジの見舞いに行くとフルーツセットは駄目だと医者から怒られた

もったいないからオレが食べると言うと医者からイビキさんとアンコさんを呼ばれそうになった

油断ならねえな・・・

ナルトが入院しているらしいので冷やかしがてら見舞いに行く

良く眠っていたが、悪戯する前にすぐ目覚められた

いき場の無い黒マジックが宙を仰ぐ

・・・ちっ


「コンが黒い!
 ・・・あれ?なんで2人がいるんだ?」


寝ぼけてやがる・・・チャクラ使いすぎが効いたんだな


「チョウジが腹壊して入院したから、見舞いに来たの」

「お前は次いでな」

「ひでぇ!」


フルーツセットをナルトの前に掲げ、やるとだけ言った

原作通りチョウジの前で食おうという流れになった

シカマルじゃないけどめんどくせえな


チョウジの病室まで行こうとしてふと開いている扉が見えた




そうだ、我愛羅だ




慌てて気配を消して病室へ滑り込んだ


リーさんに手をかけようとしているのを寸での所で止める

オレの力じゃ片腕を抑えるだけで精いっぱいだ


砂で首を絞められそうになったが、事態を察したシカマルが影真似の術で協力してくれる

すかさずそこへナルトが殴りかかる


「てめー!こんなところで何しよーとしてんだコラ!」


「・・・殺しに、来た」


・・・そうか、殺しに来たのか


「どんな理由があろうとも、木の葉の仲間を安々と殺させるわけにはいかない
 全力で邪魔させてもらうぞ」


懐の小刀に手を伸ばす

一太刀でも掠ればオレの勝ち、この痺れ薬は”根”謹製の強力なやつだ


「殺しておきたいから殺す、ただ・・・それだけだ
 オレの邪魔をすれば、お前らも殺す」


光の無い目

嫌になる


「何勝手な事言いやがる!」


「・・・お前が強いのはそいつの試合で分ってる
 けどな、俺等三人それなりにやれるつもりだぜ
 俺たちはまだ予選でとっておきは見せてねー!

 しかも3対1、分が悪いのはそっちだぜ」


「もう一度言う、邪魔をすれば殺す」


聞く耳もたぬとはこのことか


「オレは本物のバケモノ飼ってんだ、こんな奴には負けねー!」


えーと、バケモノ飼ってたから負けないぞ?








「オレはお前が言ったとおり、ろくな育ち方はしていない!
 オレは、母と呼ぶべき女の命を奪い生まれおちた・・・」





母、命、奪う、生まれ落ちた・・・


母親、そうだ、オレも母と呼ぶべき人の命と引き換えに産み落とされたんだ・・・



———・・・泣きもしないとは・・・気味の悪い器だ———

———姉君の、・・・御遺体はどう処理いたしましょうか———

———麻袋に詰められたナニカ———




思いだす記憶

顔も知らない母親、声も温かさも何一つ知らない



「最強の忍びとなるべく・・・父親の忍術で砂の化身をこの身に取りつかせてな・・・
 オレは生まれながらのバケモノだ」



父親は知らない、あの人は叔父だ、オレの父親は誰だ

あぁ我愛羅の声がひどく遠い

こんなに近くにいるのに遠い



「家族、それが俺にとってどんなつながりであったか・・・
 憎しみと殺意で繋がる、只の肉塊
 オレは母親の命を糧として里の最高傑作として生み出された風影の子としてだ
 ・・・オレは六歳のころからこれまで六年間、実の父親に幾度となく暗殺されかけた」



フラッシュバック?これがそうなのか?

次々蘇る記憶、同調するキーワード



母親の命を奪い、父の顔も知らず、九尾を封じられ、地下神殿で軟禁されてきた

生まれ落ちたその瞬間から・・・暁に捕まるまでの18年間、ずっと・・・



「どうやら六歳を過ぎたころ、オレは危険物と判断されたらしい
 オレは里の危ない道具として、丁寧に扱われていただけのようだ」



六歳、戦争兵器として扱うべく、大切に、しかし放置気味に育成されていたにも関わらず

俺には忍者の才能がないと言われ、一生幽閉されることが決定した年



失敗作の、人柱力



最低限の教育もされず、オレが転生していなければ学ぶということも出来なかった

文字を学んだあとは才能がないからとそれ以上学ぶことを禁じられ・・・


虚弱さを哂われながら、信徒の葬儀をするだけの飾りの巫子

何のために———



「何のために存在し生きているのか」



そうだ、何のために生きているのだ



「オレはオレ以外のすべての人間を殺すために存在している」



オレは誰かを恨み妬み恐れ拒絶することで存在理由を作り出した



全てを比較の対象とすることで、自嘲しながら生きてきた


知らず知らず涙が溢れている


ただただパルコの存在に怯え、人々の嘲りから逃げ出した臆病者


思い出すのはそんな記憶ばかり



「オレの存在は消えない
 ・・・さぁ、感じさせてくれ・・・」



砂がオレの首に纏わりつく


涙が止まらない


悲しいのはオレじゃないのに


涙が砂に伝い落ちた




目の前に黒い影が走る




「そこまでだ」


「コン、涙をふきなさい」


首を絞めようとしていた砂を叩き落とす先生


先生

やっぱり、貴方は眩しい


先生に抱きかかえられ、涙を拭われる



「お前たちは必ずオレが殺す・・・待っていろ・・・」



ガイ上忍に止められあっさり引き下がって行った我愛羅

・・・あんなに、哀しいと思ったのは初めてだった

先生にしがみつき、零れる涙を拭い続ける


ナルトとシカマルが不安げに見てくるが、今はどうにもならない


先生が病室から抜け出し、人通りの少ない道を歩き出す

いつの間にかおんぶされていた


・・・心臓の音が、聞こえてくる


唄うようなリズミカルな先生の声が聞こえる



「辛いし、痛いし、酷いし、嫌だと、泣き喚いてみても、現実は変わらない



 恐れず、揺るがず、妬まず、恨まず、誰よりも強かに、世に咲き誇る花と成りなさい」




・・・オレ、妬まず恨まずは無理かもしれない




「天も、地も、海も、人も、己が運命を愛し、悲しみさえ糧に出来る、花に成りなさい」





「・・・元ネタは・・・?」


なにかのセリフだろうか


「誰かの詩・・・もう、覚えていないけれど、心に残っていたから」


歌・・・か・・・


「やっぱりね・・・」


子守唄みたいで、好きだな


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聖なる詩人の島—sound horizon— より

少し改変してます


木の葉丸の両親のどちらがアスマ先生のキョウダイかわからないので勝手に兄設定


人柱力の会合


シナイは助けることに理由をつけません 

存在するために理由をつけません

生きるのに、理由はいらないんです彼女にとっては。




 
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