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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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追憶-レミニセンス-part1/恋するルイズ

ルイズたちがアンリエッタから依頼された任務を遂行している間のこと。トリステイン魔法学院は夏季休暇に入っていた。生徒たちの帰省ラッシュが進み、今トリステインから南東の大国『ガリア王国』に向けて進行中の、この小さな馬車もその一端であった。
馬車に乗っているのはルイズのクラスメートでおなじみの二人組、タバサとキュルケの二人だ。タバサの使い魔であるシルフィードは、馬車の頭上をゆっくりと飛び回っている。
キュルケはタバサが帰省すると聞いて、実家に帰ってもやることのない彼女は友人であるタバサの家についていくことにしたのだ。
牧場で放牧されている牛の草を食べている姿や、道中馬車の横を通り過ぎたイケメンを見てはしゃいだり、キュルケは馬車から一望される景色に一人盛り上がる一方、タバサは相変わらず本を静かに読んでいる。
「本ばかり読んでないで、たまにははしゃぎなさいよタバサ。せっかくの帰省なんでしょ?」
自分だけ外を見て盛り上がっているのが少しばかばかしくなったキュルケが詰まらなそうにタバサに言うが、タバサはぺらっとページをめくるくらいだ。
「そういえば、ガリア人であるあなたがどうしてトリステインに留学したのか聞いてないわね。なんで留学してきたのよ?」
再び質問を持ちかけてくるキュルケだが、タバサはまたしても無言。無視されているようで不服に思っていたが、キュルケは直後に気付いた。彼女の本のページが、ほとんど進んでいなかった。本を読んでいるのではなく、何か違うことを考えているような…。
二人は性格も年齢も異なる。特別馬が合っていたわけじゃないが、キュルケはタバサに対しては無理にいろいろと詮索しようとしなかった。結果的にそれが二人が友人関係を築くことができた。
ガリア王国はトリステインとレコンキスタの間で起こった戦いに関しても、それ以前にトリステインに発生した怪獣災害についても沈黙を保っていた。噂では内部抗争の方に頭がいっぱいだったことが原因ともされるが、それ以上に有力なのが、現国王の『ジョセフ一世』に原因があるとされていた。ジョセフ王は、民たちから『無能王』と称されているらしく、それが内部抗争の原因になっているかもしれない。
関所から国境を越え、旅を続ける彼女たちを乗せた馬車はガリア王国へ入国した。
数時間馬車に揺られて眠気に襲われたキュルケは、しばらく眠りについたが、馬車の揺れで少し軽く頭を打って目を覚ました。んもう…とため息を漏らしながらも、外の景色を見やると、タバサの実家らしき古くて大きな屋敷が建っていた。もう到着してしまったようだ。タバサが下りていくと、キュルケも後に続く。
ようやく目的地に着いてキュルケは背伸びした。
ふと、到着した屋敷の門に刻まれたマークに目が入った。それを見て、彼女をは息をのんだ。
青い盾の上に二本の杖が組まれた…ガリア王家の紋章だった。ゲルマニア人のキュルケもそのマークが貴族として相当の位であることは知っていた。しかし彼女がさらに驚いたのは、紋章の上にバツ印の傷…不名誉の象徴が刻み込まれていた。王族でありながら王位継承権を剥奪された者の証。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
タバサたちが来訪したのと同時に、彼女たちを屋敷の中から出迎えてきた老執事が一人だけ出迎えてきた。彼以外に迎えは来ておらず、キュルケは寂しい出迎えだなと思った。
老執事に案内され、二人は邸内に入る。中にはほとんど人はおらず静まり返っていた。
キュルケが客間のソファに座ると、タバサが「ここで待ってて」と告げると、客間から出て行った。
不思議に思うキュルケに、老執事がワインと菓子をテーブルの上に置いた。
「随分由緒正しいお屋敷の割に人がいないわね…」
「…失礼ですが、あなた様はシャルロットお嬢様の学友様で?」
老執事が恭しく礼をして尋ねてくると、キュルケは頷いた。
「ゲルマニアのフォン・ツェルプストーよ。それにしても…『タバサ』っていうのは前々から思っていたけど、やっぱり偽名だったのね」
『タバサ』という名前は、本来人に名づける名前じゃない。ハルケギニアでは平民でももっといい名前を付けるのが当たり前とされていた。
「タバサったら、偽名を名乗ってまでなぜトリステインに留学してきたのよ?あの子ったら、最初に会った時から何も教えてくれないのよ」
「そうですか、あのお方は『タバサ』と名乗られて…」
老執事は悲しげに目を伏せた。屋敷の門のバツ印を刻み付けられた紋章に今の彼の反応、そして由緒正しき屋敷でありながら屋敷内のあまりの人気のなさ。間違いなく何かがあったに違いない。キュルケは確信した。
「お嬢様がこれまでご友人をお連れしたことはありませんでした。お嬢様が心許された方なら、このペルスランめがお話しいたしましょう…」
深く一礼すると、キュルケが抱いたタバサへの疑問に、ペルスランと名乗った老執事は語り始めた。



タバサは、屋敷のある一室を訪れていた。部屋は薄暗く、向こう側の窓から太陽の光が差し込んでいるくらいだ。光に照らされているベッドに、一人の青い髪の女性がいた。タバサは彼女のもとに歩み寄り、跪いて頭を下げた。
「ただいま帰りました。母様」
「さ…下がりなさい!下郎!」
その女性こそが、タバサの母親だった。しかし、娘がはるばる帰ってきたというのに、タバサの母は彼女の姿を見た途端狂ったように悲鳴を上げて、ベッドの傍らに置いていた人形を腕の中に抱きしめた。
「恐ろしや…私たちが王座を狙おうなどと思い、刺客を未だに差し向けるなど…私たちはただ、静かに暮らしたいだけなのです!下がりなさい!」
スプーンをタバサに投げつけ、ただひたすら出て行けと喚く。
「…また来ます」
タバサがそう言い残して母の元から去って行った。彼女が部屋を後にすると、タバサの母は去っていく娘を見向きもせず、色のはっきりしていない目で腕の中の人形に頬ずりした。
「ああ、シャルロット…誰にもお前を殺させません。母がお前をこうして守ってあげますからね…」



タバサの本名は『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』。ガリア王国の王族にして、現国王の弟の娘だという。しかも、かつてはとても活発で明るい性格だったという。あの子が明るい性格だったという事実に、キュルケは想像することもできなかった。最初に会った時から、タバサは口数が少なくて本を読んでばかりだった。
さらに驚くべき事実がキュルケの頭に刻まれていく。
5年前、父シャルルは、暗愚な兄ジョセフと異なり、人望と才能にあふれた身でありながら、先王の死の直後に起こった継承争いで、兄ジョセフらの一派によって毒矢を受けて死亡した。
魔法ではなく、下賤な毒矢で王子が倒れたことはシャルルを慕う家臣たちにとって無念極まりないことだった。ジョセフを王に即位させたジョセフ派の貴族は、今度はタバサと遺された彼女の母、オルレアン夫人を狙った。
ある日の晩餐会、タバサとオルレアン夫人は宮廷に呼びつけられると、ジョセフ派の刺客がタバサに水魔法の毒を盛られたグラスを手渡した。そうとは知らずに口に含もうとしたタバサだが、夫人が刺客の横顔が下卑た笑みと浮かべていたのを見て、彼女はタバサからグラスを取り上げ、自分がそれを飲んでしまった。結果、オルレアン夫人は死ぬことはなかったが、毒によって心を失ってしまった。それ以来、オルレアン夫人は自分が以前シャルロットに与えた人形『タバサ』を、娘だと思い込むようになってしまい、シャルロット本人を愛する娘だと気付けなくなってしまった。
毒を含んだグラスを差し出した犯人は捕まって処刑されたのだが、父が殺され母の心を奪われたタバサは、現在のようになってしまった。ペルスランたちから見て、まるで別人のように見えたという。
しかも、ジョセフが実権を握った王家はさらにタバサを追い詰めた。生還不可能と言われる超難易度の任務・または汚れ仕事をタバサに課すことで、遠回しに彼女を死なせようとしたのである。だがタバサは、愛する母のため、そして胸に抱いているであろう叔父ジョセフへの復讐のために弱音を吐くことなく、王政から課せられた任務をすべてこなした。領地を得てもいいほどの功績なのに、ガリア王国騎士団『北花壇騎士第七号』『シュヴァリエ』の称号を与えられただけで、厄介払いの如くトリステインへの留学を強制され、オルレアン夫人はこの屋敷に閉じ込められ、屋敷はもはや牢獄のようなそんざいとなった。それ以来、シャルロットはは『タバサ』と名乗り今に至っている。
「私はこれほどの悲劇を聞いたことがありません…今でも疑問ばかりが浮かびます。なぜ、あのお優しいシャルロット様がこのような目に合わねばならぬのでしょうか…」
語っているうちに、ペルスランは涙を浮かべていた。平民出身のようだが、それでもタバサをはじめとしたオルレアン家への忠誠心は貴族にも匹敵する故、さぞ悔しくて満足に夜も眠れない日々が続いたに違いない。
「タバサ…」
キュルケは、いたたまれない気持ちになった。タバサの二つ名は、雪風。その名の通り、彼女はずっと冷たい雪風に当てられ続けてきたのだ。
すると、タバサが客間に戻ってきた。ペルスランは静かに一礼し、彼女に一通の手紙を手渡した。
「王家からの指令です」
タバサはそれを受け取る。文には、『プチ・トロワへ来るように』と記されていた。ペルスランが語ってくれた、例の危険任務の指令を受けにくるよう王家が命令しているのだ。
友人の、あのような辛い過去を聞いた以上無視することができなくなった。たとえタバサが反対しても、友達であるタバサのために杖を振うことをキュルケは、決意した。




前回のルイズとサイトの活躍により、銃士隊に逮捕されたチュレンヌは城の尋問部屋にて、アニエスからの尋問を受けていた。
木製のテーブルで向かい合う形で座らされたチュレンヌに剣よりも鋭い目で睨みつけながら、アニエスは言った。
「チュレンヌ、私の言いたいことはもうわかっているか?」
「さ、さあ…何のことやら?」
ここにきてもすっ呆けるチュレンヌ。思った通りの反応だった。こいつは自分さえ助かれば、儲かりさえすれば他がどうなっても構わないと考える小悪党タイプだ。だからこれまで裏方で平民の女性を無理やり自分の屋敷に連れ込んだり、裏金で地元の衛兵たちを丸め込んだり、今のようにすっ呆けもする。しかし、どんなにすっ呆けたところでアニエスは決して諦めたりはしない。チュレンヌの胸ぐらをひっつかみ、鬼さえも寄せ付けがたいほどの形相でチュレンヌに向かって怒鳴り散らした。
「さあ言え!あの怪獣を誰にもらってきたのだ!」
「ひぃ…!」
さっきまで余裕こいていた…いや、それももうすぐ自分が罰を受けることになるのを悟り、それでもなお悪あがきをしようとしたための虚勢だったのかもしれない。
「し、知らない!あいつは私に雇われたいと言ってきて…」
「喋らなければ貴様の耳を削ぎ落とすぞ!!」
「ひ、ひいい!!話します!話じまずがら殺ざないでええええ!!!」
なんとも情けない悲鳴と泣き顔をさらけ出したチュレンヌは懇願する。なんとも情けない。これがチクトンネ街を牛耳っていた男なのか。こんな小悪党貴族がここ数十年もの間のトリステインでは蔓延しつつある。貴族は平民の模範とはよく言えたものだ。そのことにかこつけて影ではあらゆる非道を重ねている。アニエスは確かに貴族ではあるが元は平民だ。それも、貴族に対する強い嫌悪感を募らせた…。だがそれは彼女に限った話ではない。当初は地球人であるサイトも、ルイズの我儘やギーシュのガールフレンドに対する対応にものすごい怒りを覚えていたのだから。それに人は星の数に及ばずとも大勢いる。だからその分、貴族に対して同考えているか、人それぞれ。どんなに法律で貴族に逆らう事なかれと振れを出しても、貴族に対する悪感情を抱く者がいるのも当然だ。
「では、今度こそ言ってもらおう。あの怪獣は人間の姿に化け貴様の配下となり、貴様の悪事に加担していたな?あの怪獣は貴様の使い魔なのか?」
「ち、違います!実は…ある方からお譲りされたもので…」
「ある方?それは誰だ?言え!!」
「は、はいぃい!!話します!話します!そ、それは…………」
チュレンヌは常々侮り続けていた平民(現在は元だが)のアニエスにすっかり恐怖し、彼女に対して、なぜアンタレスという人間が手に余る力を持つ怪獣を自らの部下として使役することができたのか、そしてそれをいつどのような手段を講じて手に入れたのか…そのすべてをあっさり吐いた。
話を聞き終えると、チュレンヌは直ちに牢獄へぶち込まれた。いずれ貴族の身分を剥奪されることだろう。たとえ許してくださいと牢獄の中でチュレンヌが泣き続けても、その声は決してアンリエッタたちの耳に届くことは決してない。
部下に彼を獄に入れるよう命じた後のアニエスは、窓の外を眺めていた。夜の闇が辺りを包み込んでいた。その闇の向こうで、ある一件の…チュレンヌの屋敷の何倍もある、豪華すぎて逆に見る者を引かせてしまいそうな立派な豪邸が見える。夜の時間である今も明かりが灯っていて、その豪邸の主が今もなお起きて豪遊を楽しんでいることだろう。果たしてその豪遊を楽しむ者が、その資格があるほど立派な貴族なのか、そうでないのか…それはアニエスの顔を見れば一目瞭然だった。歯噛みし、怒りと憎悪で彼女はその豪邸を睨みつけていた。
「隊長、チュレンヌを獄へつないでおきました…隊長?」
「ん…ああ。ミシェルか」
名前を呼ばれたアニエスは、振り向いて自分の部隊の副長が扉の前に立っているのを確認した。
「何か、お考え事でしょうか?」
アニエスの表情はいつもお堅いから、見る者からすれば感情がほとんど読み取れない。けど、ミシェルはアニエスの片腕として共にいたからだろうか。今の彼女が何かある想いを抱いていたことを読み取った。
「……いや、少し物思いに耽っていただけだ」
そうですか、と静かに呟いたミシェル。あまり触れるべきでないことだと悟り、それ以上は追及しなかった。彼女が扉を開き、立ち去って行く。再び視線を窓の外に見える豪邸に目を向けるアニエス。脳裏によみがえるのは、一つの村を灰に変えながら燃え盛る炎の中で、ただ一人泣き叫ぶ幼き日の自分だった。



数日後、自分は女王として即位する。
双月の蒼紅の明かりが照らす中、アンリエッタは、城の自室のバルコニーが見える窓際に立って夜のトリスタニアを寂しそうな目で見下ろしていた。今回ルイズとサイトに、街の貴族の平民に対する横暴の真相解明の任を、シュウに改造レキシントン号と例のゴーレムの研究を任せたその日、日の光に照らされながら楽しそうに(実際は結構揉めていたが)喋り合っていたルイズたちを見ている時、ちょうど日陰の中に立っていた彼女は窓ガラスに触れていた手をぎゅっと握った。
彼らには傍にいてくれて、精神的に支えてくれる人がいる。特にルイズ、あの子には大事に思っている男性が…一人の大事に思う異性が…使い魔さんがいる。たくさんの友人たちに囲まれてもいる。それに引き替え、一国の姫君である自分にはそういった人間がいない。
ルイズには、自分が持っていないものであり、自分が最も欲しているもの全てを持っている。
(ああ、ルイズ・フランソワーズ…あなたが羨ましいわ)
父の喪に服している母はもちろん信頼できる。でもいずれ自分は時期に女王となるのだからいつまでも甘えていられない。マザリーニ枢機卿は一人の人間としても信頼に足る人であるが、仕事柄上感情的なことはあまり口に出そうとはしない。他の重臣たち?話にもならない。彼らは同じ国の同胞相手にも、国の治安と平和より権力欲しさに腹の探り合いを繰り返している。怪獣という人類共通の敵が現れたというのに相変わらずだった。しかも、ルイズが証拠をつかみアニエスが逮捕してきたチュレンヌ徴税官は、『ある人物』から怪獣を手に入れ、その暴力的な力を盾に町民に多大な被害と迷惑をかけたそうじゃないか。
それ以前にも、名家出身にして偉大なメイジ、そして大切な幼馴染の婚約者だったワルドの祖国に対する裏切りと、アンリエッタにとって最愛の人間への行為。始祖がお許しになっても自分だけは絶対に許さないと断言できる。許せないと言ったら、レコンキスタの革命を騙る侵略行為もだ。何がハルケギニアの統一と聖地の奪還だ。怪獣や多世界の技術という圧倒的な力を使ってアルビオンの同胞たちの街を蹂躙し、トリステインにも侵略のために土足で踏み込み、王党派の罪なき人々を虐殺した忌まわしき組織。
どこもかしこも、現在の貴族はあまりにも汚い人間だらけ。いちいちそんな人間たちの顔色をうかがいながら、女王としてこれから政務を全うしなければならないなんて、嫌で嫌で仕方がない。たとえ我儘と言われようと、誰が権力に飢えた獣の相手をするのを好むのか。無駄に疲れるとしか言いようがなかった。
本当なら、国の未来も何もかも捨てて、いっそこのままどこかに飛んでいけたら…。それも、愛するウェールズと共にどこまでも…。
でも、現実が常に自分をそこへ引き戻し、自由を求めることさえ許そうとしてくれない。ろうそくの火の光に照らされる、マザリーニから目を通すように言われた、机の上に山ずみとなっていた書類を見てアンリエッタはため息をついた。タルブの戦いが終わってから積みあがったこの山。一通り全部に目を通したら、それだけで一日が終わってしまいそうだ。


――――たとえ相手がどんなに強大な存在であっても、愛する国民のために戦わずして何が貴族ですか!!


――――あなたたちは怖いのでしょう?命より名を惜しめと嫡子に教えているくせに、いざ命の危機となると何もせずただじっとしている。反撃の計画者になって敗戦の責任をとりなくないから、あのような非人道的な叛徒に恭順して命を永らえさせようというのでしょう?


あの時は平和を乱されたことよりも、アルビオンがレコンキスタの手に落ち、ウェールズが裏切り者となったワルドの手によって連れ去らわれたことで、レコンキスタへの怒りが高ぶっていたのかもしれない。
女王なんて務まるはずもないじゃないか。タルブの戦いの勝利だって、途中から怪獣がレコンキスタ軍さえも飲み込み、そこをウルトラマンたちがかけつけ対処してくれた、戦後処理もマザリーニをはじめとした経験豊富な者たちのおかげだ。自分は、ただトリステイン軍を率いた…ただそれだけ。
こんなふうに時刻や自分の未来に絶望するようなことを考えてしまうのなら、あんな偉そうなことを言うべきではなかったようにも思えてしまう。結局自分も、この国を腐敗させる愚か者の一人なのかもしれない…。
あの愛しいウェールズが今の自分を見ていたら、いったいどのように思っていたことだろう…。
しかしそれでもやらないといけない。アンリエッタは椅子に座り、報告書に目を通す。ふと、一つの報告書にかのレコンキスタ軍レキシントン号に乗船していた、ヘンリー・ボーウッドからの報告書が目に入る。ウェールズの部下だったとも言われている。興味がわいた彼女はボーウッドの報告書に目を通した。報告書には、ボーウッドは軍を退き杖を捨てる決意を、そして軍人・貴族としての役目を全うするため、自分の仕えていた主がレコンキスタに組したとはいえ、レコンキスタ軍の一員としてアルビオンとトリステインの両国を苦しめてしまった贖罪のために人生を燃やす決意を固めたことが記されていた。
他にも、レコンキスタがハルケギニアの者とは思えない技術を用いてレキシントン号を改造したり、怪獣を利用した実験を行っていたりしたこと、それらはエルフからの技術提供によるものと言われたが、とてもそうとは思えなかったことまでも記されていた。きっとボーウッドはあまりに非現実的な光景に絶句していたことだろう。その時の彼を容易に想像することができた。一体どこからそのような技術を…。と、アンリエッタはここでルイズの使い魔…サイトのことを思い出す。ハルケギニアではなく、違う世界から来たと主張する少年、そしてオスマンの話によると、怪獣とウルトラマンが現れる以前に彼らのことをあらかじめ知っていた。
ということはやはり、元は弱小組織だったと噂されたレコンキスタが急激に強くなり王政を圧倒したのは、何者かがハルケギニアとは全く異なる世界の技術を用いてレキシントン号を究極的な兵器に改造し、怪獣を使役する力を与えたということになる。
一体誰が、何のためにあのような憎き恥知らずの叛徒たちに…?平和を乱していったい何が楽しいというのか。
しかし、そのことが完全に頭から消えてしまうような報告が記されていた。
『ウェールズ皇太子が、生きておられました。ですが…今でも信じられない事実です。今のあのお方は…このような言い方をするべきではないのでしょうが…』


――――人ならざる者と化していました。




「チップレースの優勝は、ルイズちゃんに決定!」
その頃の魅惑の妖精亭。チュレンヌが逮捕されたことでチクトンネ街に一時の平穏が戻った。それは魅惑の妖精亭の店員たちも同じで、チュレンヌにかどわかされていた平民の女性たちも家族や友人たちの元へ帰ることができた。
そして今回の事件の解決に貢献したルイズに、チュレンヌ逮捕による報奨金が与えられた。その金額はチップレースでダントツ一位だったジェシカの溜めこんだチップの数よりも、数えるまでもなく圧倒的な額だった。ルイズは、これはチュレンヌを捕まえた際で手に入れたものだから、チップレースとは無関係だと言って優勝を辞退しようとしたが、それでもサイトを含め、ルイズに礼をしたい妖精亭のみんなは優勝の栄誉を与えたいと願い出た。結局みんなに押された彼女は優勝を受け入れ、例の魅惑の妖精ビスチェの着用権利を与えられたのだった。
さて、借りた屋根部屋に戻り、このビスチェを着用する権利を与えられたのはいいが…。ルイズは迷った。こ、こんなはしたない恰好をするのか!?と。このビスチェにはどんなサイズにもフィットし、さらにあらゆる男を虜にする魅了の魔法がかけられていた。これを着用すればチップを稼ぎ放題。着た女の子にはそれだけの恩恵が与えられるだ。しかし、こんな恰好をエレオノール姉さまや母様に知られたら殺されるだろうし、私の貴族としての沽券にかかわる!……でも、ルイズはそれをぽいとはできない。これはお世話になった妖精亭のみんなの感謝の気持ちが込められてもいる。それを無下にできなかったからこうして借りたのだ。
それに何より…この格好でかわいらしく化けた自分の姿を、見てほしいと願っている男がいる。紛れもなく、それは自分の使い魔、サイトただ一人。こんなはしたない姿はサイト以外の男には見せられない。そこで…ルイズはジェシカに一つ願い出た。
「あの、ジェシカ」
ジェシカは自室にて、熱を出したハルナの看病に当たっていた。チュレンヌの事件当日も熱を出しており、アンタレスの魔の手から無理を押して避難をしていたせいで余計に体調を崩してしまったのだ。ちなみに、シエスタはルイズとハルナの近くにサイトを置いて行ったままにすることになるので躊躇っていたが、学院にてメイドの仕事があるので渋々ながらも学院に帰るっている。
「あら、どうしたの?もしかして、やっぱりビスチェを着るの嫌なのかしら?」
「い、今更着ないなんて言わないわ。でも……」
恥かしそうにもじもじするルイズを見て、ジェシカははは~んと笑った。ハルナはなにか鬼気迫るものを覚えた。
「なるほどねぇ、よくわかったわ」
ベッドの傍らの椅子から立ち上がると、全てを悟った彼女はルイズのもとに歩み寄り、耳元でルイズにささやく。
「不肖このジェシカ、あんたの恋路のちょっとした手伝いをしたげる」
それを聞いた途端、ルイズが耳まで顔を真っ赤にしてジェシカから離れた。
「ここ…恋路なんかじゃないもん!!つつ…使い魔をやってくれてるんだから、その、ち…ちょっとしたご褒美なだけだもん!!」
「こらこら、聞こえてるわよ。あそこにいる怖~いライバルに」
ジェシカがニヤニヤしながら別方向へ指をさす。彼女が指を刺した方角からは、随分と真っ黒な何かが漂うような重い空気が流れこんできている。
「……………」
やはり思った通り、睨みつけてきたのはベッドで寝かされているハルナだった。布団から顔をひょこっと出しているが、そこから覗かせている目が針よりも肌に食い込んでいきそうなほど鋭かった。平賀君は絶対に渡しませんからね。間違いなく彼女の眼はそう語っている。シエスタもこの場にいたら一体何割ほど増していたことだろう。
…いや、何をビビッているの!しっかりなさいルイズ!あなたは公爵家の三女なのよ!
心の中で多少なりとも怖気ついた自分を奮い立たせ、毅然とした態度でジェシカに言った。
「で、でもまあ…せっかくだし…ちょっとお願いを聞いてもらおうかしら」
「お安いご用です。お嬢様」
調子よく、ジェシカはよく言えましたと褒めるように言った。止めようにもベッドから降りたら病状を悪化させかねないので止められない。布団の中で悔しがるハルナをよそに、ジェシカとルイズはともに部屋を後にした。
「…というわけで、今からこのジェシカのお料理教室を始めようと思います」
厨房に立つと、まるで料理教室番組の冒頭のようにジェシカは言った。エプロンをルイズ共々エプロンをつけ、両手もしっかり洗って消毒、準備万端だ。
「そういえば、ルイズ。あなた料理の経験は……ないわよね?」
いや、ある方がおかしいかもしれない。何せルイズは貴族、それも公爵家。ジェシカは少なくとも彼女が貴族なのは見切っていたが、皿の洗い方も運び方も知らない彼女が知っているとは思えなかった。
「別に簡単でしょ?料理なんて教本読めば簡単だし」
自信たっぷりにルイズは数冊の料理関係の教本をジェシカに見せる。


『ジャ●アンのザ・ゴッドハンド!お料理編
著者 ゴウ・D・タケー●』


『リリカル・マジカル・お料理教室!
著者 シャ●ル・ヤガ●』


『レッツ!テイルズ・オブ・クッキング!これであなたも料理達人に!
著者 ●ーチェ・ク●イン
●タリア・L・K・ラ●バル●ィア
監修 リ●ィル・セ●ジ』


これらのレシピ本を見て、ジェシカは表情を一変させた。ガシッとルイズの両肩を掴み、いつものキュルケ並みに余裕ありげな彼女の顔は、怪獣か星人を見るような真剣かつ必死こいたものになっていた。
「な、なによ?」
「…ルイズ、今すぐそれらの教本は捨てておきなさい。その本のレシピ全部でたらめだから。作ったその途端に生死の境をさまようから。
っていうか、あたしが教えてあげるんだから本を持ってくるもんじゃないでしょうが!それに教本読んだ程度でうまくなれるならうちは最初っから苦労してないっつーの!」
「は、はい…」
あまりにも血相を変えて迫ってきたものだから、ルイズは頷くことしかできなかった。
余談だが実際ルイズが取り出したこれらの教本は、出版直後間も開けずにレシピに記載された料理を食したことで被害者が続出、トリステインどころかハルケギニア中で全く使えない料理教本として一時名前を上げ、挙句の果てに即刻処分を決行された結果、『忘却の海』の如く人々の記憶から消え去ったものだったそうだ。なぜそんなものを買ったのだルイズよ…。
結局ルイズがどこからか入手した、そもそも出版されたこと自体が不思議なダメ料理教本は処分され、改めてジェシカの料理教室は始まった。
「じゃあまず…」
しかし、そこからはルイズの女としての戦いというよりも、ジェシカの悪戦苦闘劇だった。ルイズは以前も話したが家柄上、すべて召使たちによってこなされていたため料理なんてやったこともない。
「火を止めなさいよ!うちの店も燃やす気!」
「わ、わかってるわよ!」
「そんな持ち方したらダメでしょ!自分の指切り落としたいの!?」
「ひぃ…!?」
危うくサイトにふるまうための料理をする前にザンボラーの自然発火クラスの大火事やら、蛇口の閉め忘れによるシーゴラス級の大洪水など、いろいろと参事が起こりかけたが、ジェシカの苦心の努力で未然に阻止された。
ルイズの、数多の罵声を浴びせられながらもジェシカの出来の悪い弟子の相手であろうと諦めない心が実り、ルイズは手料理を作り上げた。味についても料理途中味見をして確認している。最初は食えたものじゃない完成度だったが、続けていく内に少なくともいい具合の味を出すことができ、及第点をジェシカから与えられた。ライブキングも安心である。
今回の料理教室で作った料理のワンセットは、あらかじめ妖精亭のみんながルイズへの感謝と応援の気持ちを込めて掃除をしてくれていたので、汚かった屋根裏部屋の埃っぽい空気で汚される心配も一切なく鮮度はばっちりだ。
料理をサイトと共同で使っていた部屋にはこび、あとは…。
「ルイズ、着替えたかしら?」
「う、うん」
妖精ビスチェを着た彼女のもとにサイトが来るのを待つだけだ。ルイズが優勝賞品として着用を許可された魅惑の妖精ビスチェを着ると、ジェシカも含めた女の子たちから口々に、ルイズのさらに可憐かつ女の魅力を引き立てられた姿に羨望交じりの反響を呼んだ。
「きゃあ、ルイズちゃんかわいい!!」
「いいなぁ!私も着たかったな~」
「次のチップレースで優勝すればいいじゃない」
「いいじゃないルイズ。なかなかイケてるわよ。これならどんな強敵がいても、サイトをイチコロね。シエスタにはちょっと悪いけど」
そ、そんなに似合ってるかしら?ルイズは部屋に立て掛けられた鏡を見て、自分の姿を確認する。くるり、と鏡の前で横に回ってみると、ひらりとフリルが舞い、きらりと星のような光がビスチェから一瞬だけ溢れる。最初は恥ずかしくて着ようとは思っていなかったが、案外我ながらいい感じではないか。ふふん、とルイズは得意げになる。
これならあのハルナにもシエスタにも、それどころかキュルケやウエストウッドで会ったティファニアにも劣らないどころかそれ以上ではないか?完全に調子に乗ってもいるルイズはついに鼻歌を歌いだす。ちなみにテーマはなぜか『いつも●に太陽を』。
「『私ってばすごい、どんな服でも着こなしちゃうん』!」
「そうよ!」
…と、ルイズは一瞬胸を張ってドヤ顔をさらけ出すが、彼女はすぐに顔が真っ赤に染まる。今の自分の恥ずかしい姿を見られた。まさか…サイト!?このタイミングで一番来てほしくなかった人物が来たのかと不安に駆られた。恐る恐る振り向くと…。
「うん、いいわん!ルイズちゃんとっても素敵よん!!」
スカロンだった。サイトじゃなかったのはある意味ほっとしたが、いきなりオカマの濃いおっさんに後ろから話しかけられたら驚かされてしまう。
「き、急に現れないでください!びっくりしたじゃないですか!」
「パパ、戻ってたんだ」
「ちょうど買い出しを終わらせてきたのよん。それにしてもごめんなさいねぇ、ルイズちゃんが、あまりにもかわいく着こなしてたからうっかりルイズちゃんの気持ちを代弁しちゃったのよん」
勝手に代弁しないでほしい。…とはいえ、ドンピシャで当たっていたが。
「もうすぐアンリエッタ王女様が女王にご即位なさるからお客がたくさん来るし、これなら今日のお仕事はがっぽりね。頑張って頂戴」
スカロンは気さくにルイズの肩を叩いて笑う。アンリエッタ、その名前を聞いてルイズは、もうすぐ彼女が女王に即位することになることを思い出した。忠誠を誓う者として、そして幼き日からの知己として、盛大に祝福しなくてはならない。女王即位の式典も時期に始まることだろう。その時に備えてしっかり稼いだ暁には、サイトと一緒にぴったりなドレスを買いに…。
「そ、そういえばサイトは?ご存じないですか!?」
ルイズは、今回の作戦のターゲットであるサイトが今どこで何をしているのかを尋ねてみた。思えばあいつは今日まだ顔を見ていない。まさか自分の見ていないところでハルナやジェシカに構っているのでは!?と思い、空を切り裂くメルバの如く店の中を探し回ったが彼の姿を見なかった。
「あら、知らなかったかしら?サイトちゃんなら、店を訪ねてきた黒髪のかっこいい子と一緒にどこかに出かけちゃってるわよん。時間もかかるみたいだから、今日の仕事は休んでそっちで過ごすそうよん」


…は?


ルイズとジェシカは、陰ながら見守っていた店の女の子たちは目が点になった。今、スカロン店長は何を言ったのだろうか。それとも今、自分たちの耳がおかしくなってしまったのか?


今回のターゲットが…サイトが、まさかの……外出ううううううぅぅぅう!!?


ゴゴゴゴゴゴ……!!


ルイズの身が、震えはじめた。ご主人様がせっかく日頃のご褒美を直々に与えてやろうと思っていたのに…!!いちいち他の女に目移りするから、ご主人様だけを見ておけるようにしてやろうと、こんな恥ずかしい恰好をしたり、慣れない料理を作ってみたりしたのに…!!
ルイズの体から、邪神のごときオーラがあふれ出はじめる。表情も決して穏やかなものではなく、眉間の血管が今にも破裂しそうなほど膨れ上がり、今にも大爆発しそうなほどだった。せっかくの魅惑の妖精ビスチェも、彼女の魅力を引き立てるどころか恐ろしさを数割増しにさせてしまう。
あまりの彼女のブチ切れように、ジェシカやスカロンに店の女の子たち…周囲のみんなが青ざめて後ずさる。
「あんんんんの……」




ブワァカ犬ううううううううううううううううううううう!!!!




瞬間、トリスタニアにとある怪獣王の雄叫びに匹敵する、一匹の鈍感で愚かな使い魔にささげる死の宣告が轟いた。
ちなみに、今の叫びで一気にストレスを放出したルイズは、その日はサイトに自分のビスチェ姿を見せる予定を変更、妖精ビスチェの効果によってがっぽり稼ぐことにした。しかし、サイトへの不満が募りすぎるあまり…。
「下種な犬ども!尻尾を振って跪きなさい!!」
「わぉん!!」
「犬のくせにデレデレすんじゃないわよ!一列に並んでワンと鳴け!!」
「「ワン!!」」
鞭を片手に、客の男たちに違う意味の女王様オーラを発揮、本来なら前回まで客に暴力を振えば、当然客を怒らせチップをもらえなくなるのだが、この日のルイズは妖精ビスチェを着用している。そのせいで男たちは全員、女王様モードのルイズの鞭打ちの刑を食らって怒るどころか、ゾクゾクッ!と痛みを通り越して絶大な快感を覚え、情けなく顔を緩ませながら喜んでしまった。
「あぁ…うちの店が●●女王様のクラブに…」
その日ルイズは他の妖精さんを差し置いてがっぽり稼いたのだが、ジェシカは店の趣向が変わってしまうのではないのかと不安を抱かずにはいられなかった。
 
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