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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第二十話

 体を焼き焦がされる、想像を絶する激痛に、セモンは意識を手放しかける。視界は真っ白に染まり、もはや方向感覚すら狂いだしていた。

 《SO-TENN-KENN》の複合ソードスキル。光の刃で全てを焼き尽すその一撃を真に受けて、生きていられること自体が、セモンにとっては奇跡なのではないか、と思えてならない。

 だが、その奇跡も終わりが近い。

 どうにも、耐えられそうにない。

 自分は――――ここで、死ぬ。現実世界へとログアウトする。否、もしかしたらそれすらもできずに、永遠に此処(白亜宮)に閉じ込められることになるのかもしれない。

 ――――死ぬ?

 薄れゆく意識の中で、セモンは一瞬だけ、強く、何かを感じる。

 それは憤激。そんなふがいないことを考えた自分への。

 駄目だ。自分が最初に死んでどうする。コハクはどうなる。ハザードは。シャノンは。刹那は。

「負け、られる、かぁぁぁぁ――――ッ!!」

 瞬間。

 何かが、カチリ、と入れ替わる気配。セモンの周囲が揺らめきだし、純白の光が薄れていく。

「へぇ……《グローリア・サガ》を受けて生きていられるのか。やはり《素質》は失われていなかったらしいね……全く、面白いほどに予想通りだ」

 《主》がくつくつと笑うのを聞きながら、セモンは景色が元の色を取り戻していくのを感じていた。

 痛い。

 だが、それを破壊しなければならない。

「セモン!」
「悪い、コハク……大丈夫だ」

 《妖魔槍》のグリーアを振り払って駆けてくるコハクを制すと、セモンは《主》を睨み付けた。

「どうした! 俺はこの程度じゃ斃れないぞ!」
「ふむ、そのセリフは《予定》にはなかったね……」

 《主》が訝しげに呟く。

 すべて、彼の、掌の上。そんな現実に、飲み込まれそうになる。

 だが。

 それを破壊しなければならない。

 いや――――破壊じゃない。

「『変える』んだ」

 何かに、気が付いた気がした。だがその手につかんだはずの『それ』は、すぐにふわりとどこかへ行ってしまう。

 何だったのか――――。

 だがその疑問思考は、もう一度答えを得る前に中断させられた。

「くおああああああああああッ!!」

 絶叫を轟かせて、シャノンが此方へと吹き飛んでくる。その双巨剣の刀身はグリーア達を薙ぎ払い、確実にダメージを与えている。

「何をぼさっとしている!! さっさとコイツらをぶっ倒すぞ!!」

 怒りと苛立ちに歪みきった顔と、普段はあまり見せない荒々しい口調で、シャノンはセモンに向かって怒鳴る。事態が上手く動いていないことに苛立ちを感じているのだ。

 《武神六腕》のグリーアの防御力と、《帝王剣》のグリーアの攻撃力。シャノンさえ手こずらせるその力に、数の差まで加われば、それがどれだけ厄介な存在として機能するのかは、もはや明らかであった。

 今更ながらに、ユニークスキルという概念がいかにインチキだったのか、痛感させられる。セモンは《聖剣騎士団(パーティメンバー)》全員がユニークスキルホルダーだったが故にそこまで気にならなかったが、プレイヤー達が散々ユニークスキルホルダー達を妬んできた理由もわかる気がした。

「兄さんがそんなバランスブレイカーなスキルを作るはずがない。《武神六腕》……《SO-TENN-KENN》……一体、誰が……――――っ!?」 

 ハザードが何かに気がついた様に絶句する。それを見て、くすくすくす、と《主》が笑う。

「言っただろ? 《武神六腕》も《SO-TENN-KENN》も、『その世界のゲームマスターが与えた』ってね。『武神の世界』でも『BATTOSAIの世界』でも、茅場晶彦は十全にゲームマスターとしての役割を果たせていない。どちらにももう一人、別のGMが……って、こんなこと今は関係無いよね」 

 再びくつくつと笑う《主》。

「何にせよ、言えることはただひとつ――――君の兄は、完璧でも何でもなかった、ということさ」 

 瞬間。

 ハザードが鬼のごとき形相で、絶叫した。

「貴様……兄さんを、侮辱するなぁぁぁぁぁッ!!!」 

 ハザードの大剣、《カラドボルグ》が漆黒のエフェクトライトを放つ。《獣聖》専用ソードスキルの一つ、重斬撃攻撃、《アスモディオス》。

 だが。

「残念。《色欲》には耐性があるんだ」

 その光は、《主》の体に吸収されて、消えた。

「馬鹿な……」
「まぁ、今のは『名前つながり』だったけど、別に普通のソードスキルも効かないよ。そう言う体質なんだ。どんな技能も効果がない。《神様の特権》、と言った所かな?」

 《主》は笑う。

 その笑いは、やけに綺麗で――――彼が、絶望的なまでに強大な存在であることを、セモンは今更ながら痛感させられた。

 硬直したハザードを、同じく龍翼のグリーアが吹き飛ばす。《獣聖》のグリーアが放ったのは、見たことのない黒いソードスキル。恐らくは、《獣聖》の大剣用ではないソードスキルなのだろう。

「くっ」

 《神話剣》のグリーアを始めとする、ユニークスキル使い達の攻撃が、セモンを穿つ。数が多い。こちらは実質四人、あちらは十三人もいるのだ。相手をしきれない。

 このままでは、いずれ、倒れてしまう。

 そうなったら――――現実世界は、どうなる? 枷の無くなった《白亜宮》が、平和な現実世界を侵蝕し、蹂躙してしまうのではないか?

 いや、自分たちが何をしても、もしかしたら無駄なのかもしれない。彼らの力は強大だ。自分たちと戦う意味なんて――――

 ――――意味なんて、ない……?

「ちょっとまてよ。お前たちは何で、俺達と戦ってるんだ?」

 セモンは、眼前の白と黒の剣を握ったグリーアに、問いかける。刹那と同じ顔をした、《二刀流》のグリーアは、『質問の意味が分からない』、とばかりに首を傾げ、応えた。

「――――それが、マスターの指示だから」
「……っ!」

 彼女たちは――――自分の意思を、持っていないのか……!? だとすれば、《主》によって彼女たちは強制的に操られているということに……。

「持ってるよ」

 心を読んだかのように、それに答えたのは、コハクと戦っていた《妖魔槍》のグリーア。その顔は無表情ではなく、笑顔。どことなく、コハクに似たその笑い方――――

 セモンの脳裏に、蘇る光景があった。

 それは、一か月前。
 
 セモンが、《白亜宮》に閉じ込められた日。コハクに、セモンが見分けられないほどそっくりに擬態して、セモンを眠らせた、あのグリーア。恐らくは《主》から与えられたのだろう情報で、コハクを騙った、あのグリーア。

 彼女は――――《妖魔槍》のグリーアと、同個体だ。

「お前は……」
「やっと思い出した? ふふっ、覚えててくれたんだ。じゃぁ、そんな優しい清文に免じて、教えてあげる。
 私たちはね――――お兄様(マスター)に従わされてるんじゃなくて、()()()()の。私達にとって、あの方のために戦うことは最上の喜び。あの方の役に立つことは、至上の(ほまれ)。私たちは名もなき《感情(グリーア)》だけど、《ナンバーズ》や《ファミリア》のように、お兄様(マスター)のためになくならない命を尽くすの。
 分かる? 本来ならば誕生できなかったはずの私達に、一つ一つ命を吹き込んでくれたお兄様(マスター)の慈悲が。現実世界には決して存在できない私達(キャラクター・ユニット)を、まるで自分と同列の存在であるように扱ってくれる、お兄様(マスター)の優しさが!!」
「わかんねぇよ!!」

 叫んで飛び出したのは、シャノンだ。憤怒で顔をゆがめて、彼は乱暴に吐き散らす。

「貴様らみたいにな、『所詮自分は』と思ってる奴が、僕は一番嫌いなんだよ!! それじゃぁ昔の僕だろうが!! そんなこと考えてる奴は僕一人で十分なんだよ!! 僕は絶対唯一! 故に二人目はいらない!!」

 バクン。

 何かが、弾けた。

 シャノンの双巨剣から、漆黒の波動が放たれる。それは空間を侵食し、徐々に、徐々に――――《破壊》していく。

「ほぅ……」

 《主》が興味深げに息を吐く。

「あああああああ!!」

 絶叫して、漆黒に染まった双巨剣を振るうシャノン。触れた場所から、グリーア達の部位が《破壊》されていく。まるで世界から消去されたかのように、消えていく。

「《破壊》の『世界願望』……いいね。機能は低下していなかったみたいだ。台本の調整は必要ないか……」

 あとは、と、《主》は。

「キミだけだよ、セモン」

 奇妙なことを言って、こちらを向いた。

 何を、言っている――――?

「セモン! 後ろ!!」

 コハクの叫びを聞いて、セモンは我に返る。無表情なままの《神話剣》と《舞刀》が、各々の武器を操って斬撃を繰り出してくる。《神話剣》のそれは、よく見知った二十七連撃、《アラブル・ランブ》。《舞刀》のそれは、五十を超える超速の斬撃、《天桜吹雪(まざくらふぶき)》。

 セモンの反応が遅かったせいか。彼女たちの刀身は、すでにすぐ近くまで迫ってきていた。回避は間に合わない。どうあがいても、なすすべもなく斬られる――――

「……させるか!」

 そんな『どうあがいてもうまくいかない』状況を打破するには、前進するしかないのだ。後退や停滞では、それは無しえない。常に、一瞬先を見据えて。その先に、『なるべき自分』がいると信じて。

「《変わる》んだ……ッ!!」

 再び、あの、奇妙な停滞感。

 何かが、遠いどこかで、カチリとはまる感覚。まるで――――そう、歯車が、かみ合ったように。

 次の瞬間、その歯車は、高速で回転を始めた。セモンに迫っていた刀身が、まるで《不可能が可能に変わった》かの様に、それていく。否――――セモンが、信じられないスピードで動いているのだ。

 直にその超加速は終了し、後には『斬撃を回避した』という、《あり得なかったはずの結果》だけが残った。

「今、のは……」
「ああ、やっとたどり着いたんだね。長かったよ……いや、別に待つ必要とかはなかったんだけどね? 盛り上げた方が楽しかったかなぁ、と思ってね」

 《主》は嗤う。

「貴様……何がしたい……?」

 ハザードが問う。《主》は相変わらず、くつくつと笑って、シャノンと同じ顔で答えた。

「最初に言っただろう? 僕はね、キミ達に期待しているんだ。どれだけ僕の期待に応えられるか――――見せておくれよ。余興もこれで終りだ。《セモン》は覚醒の入口をつかんだ。舞台装置は整った」

 《主》がパチン、と指を鳴らすと、グリーア達を魔方陣がつつんでいく。彼女たちが、一人一人、元いた『セカイ』へと還っていく。

「バイバイ、セモン。また会おうね。コハク、セモンと幸せに」

 表情豊かだった《妖魔槍》も、消えていく。

 後に残ったのは、唖然とした表情の、セモンと、コハクと、ハザード。今だ戦闘の余韻を残しているかのように唸るシャノン。自分と同じ存在が消えたことで、恐怖が消えたのか、そのシャノンをなだめるために起き上った刹那。

「お兄様……」
「悪い、刹那……消せ、なかった」
「いえ……お兄様の言葉だけで、十分です」

 だが、兄妹の会話に、水を差す存在は消えていない。もちろん、消えるつもりもないのだろう。

「さて、シャノンの言葉に、いかほどの価値があるのか。まぁ、その価値は、ある意味では凄まじく重大だったのだろうけど」

 《主》が、にやりと笑う。

「……何が言いたい?」
「いや何、キミにとっても懐かしい人に会わせてあげようと思ってね。なに、はっきりと思い出すだけさ」

 意味深な、《主》の言葉。彼はその右手を高々と掲げると、唱えた。

「『おいで、《ガラディーン》』」

 真紅の魔法陣が、玉座の周囲を取り囲む。じゃらり、と、漆黒の鎖が、どこからともなく溢れ出し、その中央にわだかまっていく。

 いつしかその鎖は、人ひとりと同じくらいの高さまでわだかまって――――弾けた。

 黒い鎖がはじけ飛んだその中には、一人の少女がいた。年齢は十八歳ほどか。くせ毛と和服が特徴的な、穏やかだけれどもどこか苛烈そうな表情の少女だ。閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれる。その色は、《灰色》。混沌の色。

「誰だ……?」

 セモン達には、見覚えのない人物だった。

 シャノン/陰斗とは、小学校三年生の時から大体行動を共にしている。彼は交友関係が異常に狭いので、彼の知人とは大体セモン/清文とハザード/秋也も面識がある。

 だが、その中に、この灰色の瞳の少女は――――ひいては、それと似た少女はいなかった。

 しかし。

 彼女の出現が、シャノンを、大きく動揺させたのは、事実だった。

「あ……ああ……あああああっ!!?」

 目を見開いて、絶叫するシャノン。その顔の浮かんでいるのは、驚愕と、困惑と、恐怖と……見当もつかない、混沌とした何か。あんな表情を彼が取るのを、セモンは一度も見たことがなかった。

「シャノン……?」
「お兄様……?」
「そんな……そんな馬鹿な……っ! どうして、どうして君が……キミがこんなところに……っ!!」

 膝をつき、頭を抱えるシャノンは、まるで懺悔をしているようで。

 その背中は、ひどく小さく見えた。

 震える彼の唇から、聞き覚えのない名前が、紡がれる。

「『そう』……!」 
 

 
後書き
 はいどーも、Askaです~!今日の『神話剣』はセモン君微覚醒回。
刹「そしてあっさりと退場するグリーア達……」
 結局『神話剣』におけるUSグリーアってそんなに重要な存在じゃないんですよね。単なるUSネタバレのために《主》が呼んだと言っても過言ではないので……。
刹「何と言うか……設定を使いきれていないというか……」 

 さてさて(無視)、次回はガっさんや師匠、カズ達の方に視点を移す予定ですが、その次はいよいよ長らく謎に包まれてきたシャノンの過去に迫ります。ガラディーンと彼のつながりとは?
刹「次回もお楽しみに!」 
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