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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  近付く者達

隠れて走る(ハイド&ラン)を繰り返しながら、リラとミナは最下層である第一階層エンジン室から第七階層まで注意深く進んでいた。位置的には、船尾から船首方面へ向かっている。

幸い今のところエンカウントはしていないが、しかし油断のならないこともまた事実である。《索敵》スキルを取っているミナはサーチに集中させ、リラは油断なく得物(グレネード)を構えながら無音で進む。

「…………リラちゃん」

「……なに?なんかあった?」

誰もいない客室は、異様に声が響く。できるだけ声を低めたつもりだったのだが、出た声は予想以上に響いた気がして心臓が一足飛びに高鳴る。

それを悟られないように、一歩後ろを歩いてマップウインドウと睨めっこするミナを睨む。

この船《セントライア》は、一応システム的にはダンジョン扱いになっており、踏破マップ型ダンジョンだ。クエスト開始時のマップデータはまっさらであり、当然簡易マップに記されるものは自分の存在した場の情報だけとなっている。

船内のロビーやらにもマップはあるにはあるのだが、それらは客用なのであり、関係者以外立ち入り禁止な場所は書かれていない。なぜ二人が会場に移動するNPC達から離れ、明らかに客向けではないエンジン室をまっすぐ目指せたかというと、それはただ単に前回このクエストに参加した際に覚えていただけの事だ。もっとも、その時のマップデータも逃走という形でクエストを終わらせた時にリセットされてしまっているのだけれど。

「二時の方向約二百。《死体》がある」

「数は?付近に他に何かある?」

ん~、とおとがいに人差し指を当て、マップウインドウに鼻がつくほど顔を近づけるミナ。

「近くには……何もないね。数は、えーと…………いち、にぃ……じゅうさん!?」

「べぶっ!!」

変な声が口元から漏れた。

注意深く、という原則すら通り越して少女は勢いよく首を巡らせる。

「はっ、はぁ!?十三!?嘘でしょ!」

「あ、いや……これ、違う。十四……十五………十六…………」

「……どういう、こと…………?」

困惑に眉根を寄せるミナの目に、それに負けず劣らず眉根を寄せる自分の姿が揺れていた。

「これ……リラちゃん…………。移動しながら、殺されてる……」

「ん、んな………」

戦法としては、あるにはある。

ネットゲームでの非マナー行為。通称《トレイン》の亜種といえば分かりやすいだろうか。

広いエリア、できれば何か視界を遮るものが多い場所だといい。そこでMobを多く引っ掛けてしまった時、とにかく全力で後退しながら待ち伏せ(アンブッシュ)からの奇襲、後の逃走を恒常的に仕掛け、相手の総体的なHPをがりがり削っていく戦法である。

しかしそれは、奇襲という彼我の距離が否が応にも縮まる状況の最中でも確実に逃げ切れる己の足への自信と、何より敵に飛び道具がない場合だ。そうでなくては奇襲から逃げる前に蜂の巣にされてしまう。

そんなことはありえない。なぜならGGO(ここ)はあくまでもガンゲーなのであり、その花形は絶対的に飛び道具(銃器)なのである。そのため、この戦法がこの世界で使えるはずもない。だってそれは、真後ろから飛来する銃弾を見ないで避けろと言うようなものなのだから。

「……どこの万国ビックリ人間よ」

「リラちゃん、言い方がオヤジ臭いよ」

とにかく、とリラは十字路を右に曲がった。

そこはエレベーターホール。ミナの言う《死体》の山がようやく視界に入ってきた。頭の先から足の爪先まで、徹底的に素肌を見せないようにしているとしか思えない軍隊服の人間が、ある者はマスクを血や吐瀉物で汚し、ある者は身体中に弾痕を残し、ある者は首をありえない角度に曲げ、大理石の床の上に無造作に転がっていた。

「これで、この船にあたし達以外が乗ってることは確実ってわけね」

「そーなるねぇ。しかも凄腕の」

何者なんだろ、と呟きながら、ミナは足で黒尽くめの身体をつつくが、さすがに起き上がったりはしない。ここでゾンビチックに生き返れば、おしべめしべではない方向のZ指定ゲームに突入できるのだが。

「索敵には引っかからないの?」

「うん、全然……。あ、いや、ちょっと待って」

「なに?」

えっとね、と言いながらミナは手元に浮かぶマップウインドウを操作し、可視状態にしたそれをこちらに見せてきた。

一瞥すると、そこには《DEAD状態》を示す黒点がいくつか、そして自分達の存在を示す二つの光点がある。

「それが何よ」

「いや、索敵スキルで測れるのは平面だけなんだよ。だから、違う階層の反応とかは拾えないの」

「はぁ~ん、なるほど。んで、それがどーしたの?」

少しは大人しく聞いてよぅ、と口を尖らせながらミナは首を巡らせる。その双眸が見つめるのは、広大なエレベーターホールの穴だらけの大理石の壁に据えられているエレベーターの回数表示だ。

つられるように目線を移すと、その回数表示は最上階――――第十階層で止まっていた。

「…………まさか」

「……まさか、ねぇ」

顔を見合わせ、力なく笑いあうが、その笑みは例外なく引き攣っていた。

――タタッ

――――タタダダッッ

「ってやっぱり上かよッ!」










ポーン、という電子音が鳴り響いた瞬間、レンは開く扉の隙間から小柄な体を利用して猛然とダッシュした。

開き始めた扉の隙間からは、本能が警鐘を鳴らすぐらいの眩い赤光の嵐。

ユウキのことは考えない。仮にも六王末席に座していた《絶剣》だ。心配をすること自体が、彼女――――六王そのものへの侮辱のようなものになる気がする。

音の弾幕がエレベーターを襲う。上品なアイボリーホワイトの壁が粉々に砕け、宙空を舞った。

その破片一つ一つがスローに見えるほどの速度域に達した少年は、火を散らす幾十の銃口に向かって足を向けつつ、体勢が崩せる限界にまで身体を床と平行になるように沈みこませる。

見たものが見たら、それは走っているとはとてもではないが信じられなかったかもしれない。言うとすれば、そう。滑っている、だろうか。

後頭部の上では、ババババッッ!という音を通り越し、バ――――ッッ!!!と一つの音、ちょうどチェーンソーのエンジンをフルスロットルにした時のような爆音が炸裂している。

ヂッ、ヂャッッ!と、沈み込みすぎている体勢のせいで床と時々接触するタキシードの胸元が悲鳴のような効果音を奏でる。

一瞬にしてエレベーターの前でバカ正直に整列して待ち構えていた黒尽くめ達のうちの一人の股下をくぐり抜け、そのまま体勢をぐるりと回転。

万が一を考慮してか、彼らは壁を背後に陣を構えていたのだが、それでもレンのアバターは小さすぎた。その背と壁のわずかな隙間で体勢を交換し、靴の裏にしっかりと大理石の感触を確かめる。

タキシードの裏側から、すらりとサバイバルナイフを抜き取る。

正直、短剣(ナイフ)を持つのは超久しぶりだ。あのアインクラッドで鋼糸(ワイヤー)を手に入れるまでずっと手中にあったのは《小太刀》――――刀身の長い短剣だが、それすらもSAOの崩壊とともに消滅したはずだ。

―――ん?

微かな違和感のような、それこそ小骨がノドに引っ掛かったような感覚が脳裏に走るが、しかし今は現状を打破することが先か、と思い返してナイフの切っ先をまさに振り返ろうとしている黒尽くめの首筋に向けた。

侵入者達は、唸る弾幕を超えてやって来たチビの存在にも的確に反応し、重そうなアサルトライフルの銃口を勢いよく巡らせる。しかし、その速度を見て少年は冷静に判決を下す。

遅い、と。

そんな少年は気が付いていないかもしれないが、その手はいつの間にかナイフを裏手に持っていた。

そう、あの城でレンが幾多の屍の山を築いた頃の戦闘スタイル。どれだけのブランクがあろうが、無意識のうちにレンの《底》はソレを一瞬で埋め立て、その頃を完璧にトレースする。

音はない。立てたら振り返る銃口が、焦りとともに加速するのを理解しているから。

明るい蛍光灯の薄っぺらな光に照らされる中で、肉厚の刃が冷酷で酷薄な反射光を発する。それが一瞬とも呼べない間隙の後、重厚な光が揃えられた雁首を一閃した。

血液を思わせる真紅のパーティクルが飛び散る。が、さすがに一撃死できるほど生易しいレベルには設定されていない。首筋にダメージエフェクトをくっつけたまま、いよいよ銃口がこちらを向く。

その中の一人に、頸部から頂点までの強烈なアッパーをナイフ付きでお届けして死亡していただき、目と鼻の先でマズルフラッシュに輝く寸前のライフルのあぎとから無理矢理に意識を逸らす。

同時に、両足を自ら思いっきり滑らせてガクンと視線を落とした。辛うじて弾幕の有効範囲外に逃れ、目の前にあった複数の足の腱を一気に横に薙ぐ。

口元を覆うマスクのせいか、くぐもった絶叫が迸る。

だがレンとしても、ここからが正念場だ。何せ今の体勢は故意とはいえ転倒(タンブル)した時と変わらないのだ。ここから瞬時に復活するのは、さすがに速度だけでは打破できない。

腕のリーチはアバターの関係で、一度に一閃できる人数には限りがある。第十階層のエレベーターホールには全部で十人もの黒尽くめが待ち構えていたので、現在死亡1に戦闘続行不可能3。なので残りは7人。

突破できるにはできる人数なのだが、何せ体勢が体勢だ。取れる選択肢は限りなく少ない。

―――ッく!《地走り》を………いや、やっぱり体勢が……!!

ダダタタタタタタッッッ!!!

「きゃああああああああッッ!!?」

女の子みたいな悲鳴が、女の子みたいなアバターの口から漏れる。

転倒した体勢から無理に起き上がらずに、そのままゴロゴロ手足をぴったり身体につけて真横に転がった。チュン!ダヂュン!という冷たい床を弾丸が穿つ音が耳朶に反響し、脳裏を抉る。

咄嗟にやってしまったが、この回避行動では合格点は与えられない。確かに突発的には避けられはするが、動きが直線的で空間把握が容易ではない。これではただの動き回る的である。

数秒後、恐れていたことになる。回転していた身体が、鈍い音とともに通路の壁にぶつかり、移動が完全に停止した。軌跡のように回転していた後を追跡していた弾幕が、たちまち追いついてくる。

最初の弾丸がアバターの身体を穿とうとした時――――

ドッダタタタタ!!

一直線に薙いだ鉛弾が、射手達の顔面を真横に横切った。それは赤外線機能も付いている軍用ゴーグルを跡形もなく粉砕し、その向こうにある眼窩を抉った。

黒尽くめの身体が電流を浴びたように二、三度痙攣して、鈍い音とともに崩れ落ちる。その身体の上に音もなく発現したのは、真っ赤なDEADタグ。

「……助かったよ、ユウキねーちゃん」

ふっふーん、と得意げな声が返ってくる。

弾痕だらけのエレベーター。レンは下に逃げたが、その真反対。ドアの上部と天井との間に生まれた僅かな隙間に、一瞬のうちに潜り込んだ少女は、未だに白煙を燻らせる機関銃(マシンガン)の銃口を下ろす。

ニッ、と無邪気な笑顔に似合うVサインを突きつけられた。それに苦笑を返しながら、少年は起き上がる。

「いやぁ、あぶなかったあぶなかった。もう少しで普通に死んじゃうトコだった」

「ちょっと油断が過ぎてたのかもね。ここからは気をつけて行こ、レン」

ん、と頷きを返し、レンは少女の手中の銃に視線を向けた。

「ところで、初めて撃った訳だけど、どーだったの?反動とかキツかった?」

「んーとね、反動はそこまででもなかったよ。でも、引き金(トリガー)に指かけたら円が出てきた」

円?と少年は首を傾ける。そんなもの出てきたっけ。

「たぶん撃つ人にしか見えないものだと思うけど、これがGGO(ガンゲー)ならではのシステムアシストなのかなぁ。それにしてはでっかくなったりちっちゃくなったりしてたけど」

「そういえば、弾が飛んでくる前に赤い線も見えたね。それもシステムアシストじゃないかなー」

今の時点でわかるのはそれくらいだ。この二人に限った話ではないが、六王達というのは能力だけはあるため、アドリブで状況を打破する癖がある。なまじ状況を打破できる力を持っているので、それらを問題ともそんなに感じていないのもまた問題なのかもしれない。

のほほんと感想を言い合って、両者はやっと周囲を見渡した。

下の階層とは比べ、ずいぶんと狭いエレベーターホールだ。客用に開放されている一般階層と違い、船主室や操舵室などがある最上階層はそういう配慮が要らないためだろう。

一片の温かみもない鋼鉄の床に鋼鉄の壁。というか、エレベーター《ホール》というより、廊下の途中にエレベーターの扉があるような感じだ。どこまでもシステマチックである。

少しはなれたところにはドアがぽつんと据えられ、半開きになっていた。

「あそこだね」

「大丈夫かな。罠の可能性も――――」

「罠はる時間あった?」

「……それもそっか」

しかし無遠慮にドアを開けてその瞬間ブッ放されたら堪らない。

映画の特殊部隊っぽい動きでドアの両側に張り付いて、頷きあう。今ある武装で破壊力があるユウキがドア突破(ブリーチ)役、俊敏さで遥かに勝るレンが制圧。

無言でここまで意思疎通できるのも、従姉弟という関係性ゆえなのかもしれない。

「カウントスリー。…………2、1……ゴー!」

言葉とほぼ同時、半開きのドアの隙間から全弾全射(フルバースト)。発射音が途切れる途端、ユウキが蹴り開けたドアから全力で突入する。

まず視界に入ったのは、少女のマシンガンの一斉掃射を受けてズタボロになった艦長椅子だ。その向こうにある難しそうな計器類にも弾幕によるデンジャラス被弾があったのだろうが、幸いにもそれらは破壊不能(イモータル)オブジェクトに指定されているようだ。

―――《死体》は……ないッ!

本能が警告を鳴らす。

首が嫌な音を立てるほどの勢いで倒すと、こめかみに強い擦過音とともに鉛の塊が通過した。

「く……ぉッ…………ッ!」

眼球だけ巡らすと、視界の端。海賊船にあるみたいな操舵輪のでっかい台座の影に、これまで倒してきた黒尽くめ達の中でも特に大柄な偉丈夫がいた。

厚い防弾ジャケットやベスト、弾薬が入っていると思われるポーチのせいで身体の輪郭が正確には測れないが、しかしその大きな身長そのものだけは隠し通せるものではない。その手に持っているのは、拳銃やマシンガンとも違う大きな銃口を持った銃器。

散弾銃(ショットガン)というものだろうか。しかしその名前とは違い、先刻の一弾は散っている感触は得られなかった。もし散っていたら、今頃頭は爆散していたことだろう。

―――う~ん、散弾銃って言うからには散弾を発射しないといけないんじゃないのかなぁ。それとも不発ってこと?

疑問を抱えながらも少年は前傾姿勢から手のひらを床に叩きつけ、前転しながらレーダー画面が映っているテーブルの下に滑り込む。

だが一安心するのも束の間。ゴガァン!という爆発音みたいな音が至近距離で発生して視線を巡らすと、あろうことかテーブルの端が粗く抉れていた。

ひぅ、とノドが変な風に収縮する。

「弾を……はじけてない!?」

これまでのマシンガンの弾丸とは明らかに一線を画している。明らかに対人目的ではなく、対物用の弾丸だ。よくわからないが、普通なら『散る』ことで面的攻撃力を持つ散弾を放つ散弾銃を、あえて散らせない大きな弾丸を放つことで一発一発の威力をとんでもなく引き上げているのかもしれない。

んなモン船主室でブッ放すんじゃねぇよ!とか思うが、さすがにそれは人に言えたことではない。

見たところ威力こそ大きいが、マシンガンのような息も付かない連射はできないらしい。さすがにそこまで来られたら打つ手なしかもしれない。

―――これなら!

バン!ドン!とテーブルの影から飛び出し、少年は壁と窓を一瞬で往復する。サバイバルナイフの切っ先が、偉丈夫の首筋にまっすぐ狙いを定めた。

景色が――――

「しゃッ……ッ!!」

寸断する。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「……これいつまで続くの?」
なべさん「……もうちょっと」
レン「……これGGOだよね」
なべさん「……ガンゲーしてるじゃない」
レン「……ガンゲーはしてるけどGGOじゃない」
なべさん「……(汗」
レン「……はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださーい」
なべさん「……(涙」
――To be continued―― 
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