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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第十九話

 目にも止まらぬ恐るべきスピードで、無数の閃光が弾け飛ぶ。

 《ウルティマラティオン・ヘカートⅡ》のスコープから、シノンはその光景を息をつめつつ見守っていた。

 闇色の装束に身を包んだ、サイバーチックな忍者を思わせる男――――プレイヤーネーム《闇風》と、鮮血色の和服を纏った黒髪の刀使い――――サクリファイス・イクス・アギオンス・サーティセブンが、高速で己が技を撃ち合っている。

 否――――『撃ち合っている』という表現は正しくない。何故ならば、戦いは余りにも一方的に進んでいるからだ。

 サクリファイスの武器は、白銀の大太刀だ。キリトのように二刀流なわけでも、奇怪なエクストラ効果が付いているわけでもない。

 ただし、絶望的なまでに、使い手の技量が卓越している。

 闇風が銃を素早く乱射するが、すべてサクリファイスに『切って落とされる』。キリトがかつてやったように、弾丸を真っ二つに斬り落としているのだ。それも、彼をはるかに超える技量で。

「――――どうした? この世界の使い手は、この程度なのか?」
「ぐっ……」

 にやり、と笑って、黒髪の刀使いは猛然と刀を振るい始める。鍛え上げられたシノンの眼でも、捉えられないほどの、凄まじいスピードだ。

 そこに、ALOやかのSAOのように、ソードスキルは加わっていない。だが、それすらも遥かに超える恐るべき速度で、サクリファイスの斬撃は闇風を襲う。

 同時に。

 ドォン! という凄まじい爆音が、シノンの背後から響いた。

「ちぃっ……よくもこの私を手こずらせてくれたわね……!」

 それを引き起こしたのは、もう一人の襲撃者である、金髪の少女――――シャルルフォンシャルロッテ・イクス・アギオンス・サーティシックス。

 その手に構えられているのは巨大なレーザーライフルだが、それがこの世界の基準の元に成り立っているモノではないことは、そもそもサクリファイスの《刀》の時点でわかりきったことである。当然、GGOプレイヤーが常備している対レーザー用バリアも全く効果を発揮しない。

 第六回BoB会場に攻め込んできた《白亜宮》の刺客であるこの二人を倒そうと、ログインしていた二十人…残りの十人余りは、ログアウトしたっきり戻ってこない。この恐怖感に締め付けられているのだろう…で結託して、彼女たちに攻撃を仕掛けてから、既に三十分。だがその「すでに」は、「たった」とも言い換えられるのだ。

 すでにこの場所にいるGGOプレイヤーは、たったの六人になってしまっていた。たったの三十分で、四分の一にされたのだ。むしろ一瞬にして全滅しなかっただけで儲けものである。
 
 頭のおかしいことに、今回の戦いの間、敗北したプレイヤーはそのまま強制ログアウトさせられ、戻ってこれない。次回ログインからは通常ステージにログインすることになるのだ。

 だが、このBoB会場から脱出するための手段として、それは使えない。サクリファイスが、戦いが始まった直後に、言ったのだ。

『お前たちが全員死んだら、今度は元のフィールドにも行こうかな』

 つまり、シノン達が全員ログアウト――――つまり《敗北》すれば、この場所にある意味では『閉じ込められていた』と言える、この二人の災厄が解放される。GGOは完膚なきまでに蹂躙され、滅びることになるだろう。

 そして今、一人、死んだ(ログアウトした)。現実世界に戻って、歯噛みをしているだろうか。それとも、戦いの恐怖の余韻に震えているのだろうか。

 兎にも角にも、これで、BoB専用ステージにいるプレイヤーは全部で五人になってしまった。闇風、獅子王リッチー、銃士X、ダイン、そして自分――――シノン。

 このままでは、終わる。

 ――――そうは、させない。

 冷たく決意する。が、その一方で……それをあざ笑うかのように。

 事態は、上手くできていない。

 
 シャルルフォンシャルロッテのレーザーライフルが光を放つ。射線上に隠れていたダインが蒸発し、一瞬で死に至る。

 直後、丘の上からミサイルが発射され、シャルルフォンシャルロッテを狙う。BoB本編では立てこもり系籠城戦マニア枠として知られる、ひきこもリッチーこと《獅子王リッチー》が、最終五名まで残っていることから分かる通り、今回大活躍していた。

 今回のBoBにおいて、籠城戦を円滑に行うために数々の防御用装備で身を包んできたリッチー。底上げされた防御力と、遠距離攻撃用のミサイルなどが、《白亜宮》の二人を近づけない。

 だが。

 だが。

 だが――――それでも、事態は《白亜宮》優勢で傾いているのだ。

 リッチーの放ったミサイルの嵐は――――すべて、シャルルフォンシャルロッテにあたる前に停止し、不発に終わる。

 シャルルフォンシャルロッテにも、サクリファイスにも。

 遠距離攻撃が、一切通用しないのだ。故に、この世界とは相性が悪すぎる。あの黒の剣士がいたらどうなっていたかは分からないが、下手をすれば近接攻撃すら効果が無いとかいうことになるかもしれない。


 ▼▼▼

  
 これは、シノンを始めとするこの世界の人間たちは与り知らない事であったが。

 《白亜宮》のレギオンメンバーは、最上位の《七眷王》から、最末端の非戦闘用オートマトン・ホムンクルスに至るまで、それがヒトガタをしているのであれば問答無用で《遠距離ダメージ完全耐性》及び《近距離ダメージ完全耐性》を保持している。

 オン/オフの切り替えが可能なので、基本的にその圧倒的な力を持てあましている《白亜宮》レギオンメンバーはその機能をオフにしていることが多いのだが、シャルルフォンシャルロッテはそれをオンの状態にしているのである。

 また、《完全耐性》だけでなく《Lv8以下シャットアウト》の耐性も別枠で所持しているため、《完全耐性》自体はオフになっているサクリファイスにも、《Lv2相当》であるGGOプレイヤー達の弾丸や剣は通用しないのである。


 ▲▲▲



「ああもう! うっとうしいわね!!」

 ダメージを与えることはできないミサイルの嵐も、シャルルフォンシャルロッテの気をちらし、苛立たせる効果だけはあるらしい。
 
 だがそれ故に、リッチーは優先的に狙われてしまう。 

「ぶっ飛びなさい!!」

 白銀のレーザーライフルが、光を吐き出す。一瞬でリッチーのいる丘の上まで到達したその光は、そこにいた彼を飲み込んで、爆発した。

 文句なしに、即死だろう。リッチーはログアウトした。

「……お疲れ」

 小さく、そう呟いて。

 シノンは、無駄だと分かっていても、ヘカートの銃口をシャルルフォンシャルロッテに向ける。

 GGOでは最強アイテムの一つであるこの対物(メタマテリアル)遠距離狙撃銃(スナイパーライフル)も、どうやら射撃ダメージに耐性があるらしいあの少女には効果がないだろう。

 だが。

 《ひきこもリッチー》などと揶揄されていたプレイヤーが。

 小ズルい戦法でシノンを苛立たせてきた以前のスコードロンリーダーであるダインが。

 そのほか、会ったこともないプレイヤーや、名前すら知らないプレイヤー達が。

 果敢に《白亜宮》に挑んでいき、散ったのだ。

 だったら、自分も――――せめて、一矢報いたい。

「――――この一撃は、【必ず効く】」

 そう、信じて。

 シノンは、ヘカートのトリガーを、引き絞った。

 銀色のマズルフラッシュ。高速で射出された弾丸(バレット)が、シャルルフォンシャルロッテへと迫り――――その肩を、打ち抜いた。

「きゃぁっ!?」
「――――っ!?」

 ――――効い、た?

 喜びもつかの間、恐るべき現象を目にして、シノンは絶句した。

 打ち抜かれたはずのシャルルフォンシャルロッテの肩がみるみる内に修復されていき、ヘカートの弾丸が吐き出されたのだ。

「油断してたわね……まさか心意を使える奴がいるなんて……しかもさっきの、もしかして《真言》系? お兄様に注意しろっていわれれたのに……もうやだ!」

 怒りで顔をゆがめて、シャルルフォンシャルロッテは叫ぶ。その()()色の双眸が、しっかりと、自分を見据えている。

「『―――――十九八七六五四三二一〇
  いと尊き我が兄に、この誓いを捧げます』」

 瞬間。

 シノンの体は、まるで凍り付いたかのように動かなくなった。

 足が。

 腰が。

 腕が。

 首が。

 口が。

 目が。

 全く、動かない。呼吸すらできない。

「『私の存在(からだ)は、あなたの心を埋めるために創られ
  また私の心は、あなたの傷を癒すためだけに存在する。
  されば、私は其を是とし、私の欲望と、愛と、憤激の、あらゆるすべてを以てして、
  あなたの空虚な罪を埋めよう。
  私の(ココロ)を―――お兄様に、捧げます』」

 何かが。

 この世界を終焉へと導くだろう何かが、あの金髪の少女の中から顕現しようとしていた。

 だがそれは、発動一歩手前で、何者かにとどめられる。

 しかし、その終止は――――新たな絶望の、切り口でしかなかった。

『やめなさい、シャル。お兄様(マスター)はそれを許していません』

 GGOの黄昏色の空が割れ、何者かが()()てくる

 それは、半透明の、虹色に輝く、ALOの妖精たちの持つそれによく似た形状の《翅》を持つ、二十歳ほどの女性の姿をしていた。純白のローブに身を包み、先端にいくにつれて()()色になっていく、髪の毛をミディアムカットにした、やはり()()い瞳の、どこか将官じみた雰囲気を持つ女性だった。

「トリス……! あなた、アップデートが……」
「先ほど終了しました。現時点を持って、私の管理者権限はワンランク上へ増加。この戦場の統率権限は私に移行します。シャルルフォンシャルロッテ・イクス・アギオンス・サーティシックス及びサクリファイス・イクス・アギオンス・サーティセブンに、お兄様から帰還命令が届いています。瞬時にこの空間を抹消、《白亜宮》へと帰還しますよ」
「くっ……その役割も、結局あなたが担うってわけ?」

 悔しそうに、シャルルフォンシャルロッテが、トリス、と呼ばれた女性をにらむ。するとトリスは恍惚の表情を浮かべて、

「当たり前です。ああ、お兄様(マスター)お兄様(マスター)……あの御方からいただいた新しい力です。どうして振るわないでいられるでしょう。あの御方もそれを望んでいられる。故に、私が――――トリスアギオン・イクス・アギオンス・ゼロオメガが、この空間を終結させます」

 そう言って。

 空中に浮かびながら、トリスアギオンは、鷹揚に両手を広げた。

「『十九八七六五四三二一〇
  いと尊き我が兄に、この誓いを捧げます

  その昔、あらゆる木の実を食いし人は、
  さらなる実を求め、楽園を追われた
 
  その昔、荒野の大地の主たちは、
  命と引き換えに食糧を得た。

  遥かかつて、岩戸に籠りし明き女神は、
  騒ぎと馳走に惹かれて自らを解き放った。

  即ち是暴飲の相也。
 
  神さえその法より逃るる事能わず――――

  その名は《暴食(gula)》。

  ――――《惟神》――――

    《暴食(Gula-Gluttony)》』」


 直後。

 一瞬にして、空を何かが覆い尽くした。

 それは、金色に輝いていた。矢じりと馬蹄を足して二で割ったような形状をしていて、U字型の隙間の部分には、《白亜宮》の少女たちの瞳と同じ、()()色の球体が浮いている。まるでそれが目であるかのように、きょろきょろと動いていた。

 ヴヴヴ、ヴヴヴヴヴヴ、という異様な音に、よくよく目を凝らしてみれば、その矢じり型の奇妙な何かの左右には、トリスアギオンの背中のそれと同じ色の小さな翅が生えていて、高速で震えているのだ。あれで、空を飛んでいるのだろうか。

 そして、トリスアギオンが号令を下すと同時に――――

「食らい尽くせ、《バァル=ゼブブ》」

 彼らは、一斉に地表をめがけて、一直線に落下を始めた。

 《それ》が激突した個所から、世界が真っ黒になって消滅していく。巻き込まれたプレイヤー達もそうだ。いつの間にか《白亜宮》の少女たちは一か所に固まって、半透明の障壁を貼って自ららを守っている。

 シノンの上にも、《バァル=ゼブブ》が落下して来る。

 消滅していくアバターの感触に、シノンは震えた。

 ――――これは。

 アンダーワールドで戦った、サトライザー/ガブリエル・ミラーの、底なしのねばりつくような闇とは違う。

 何もない、という点では共通しているが、あれは何かに飢えていたのに対して、これは違う。

 全てを、自らの意思で、抹消しようとしている――――


 それが、シノンがBoB会場で最後に行った思考だった。  
 

 
後書き
 はいどーも、Askaでございまーす。久しぶりの本編更新。「コラボなんかより本編はよ!」とか思っていた、本編を楽しみにして下さっていた方々、お待たせいたしましたー!
刹「いるのかどうか怪しいですけどね」
 どいひー!

 今回はシノンさんが彗星のように登場して彗星のように去りましたね……これがこの世界の彼女の本作最後の出番(予定)
刹「ええー……」
 だってこれ以上出番があるかと言えば……ねぇ……?
 そしてちょっとだけアリシ編のネタバレとか。まぁ文庫版だとどうなるかは分かりませんが。

 そうそう、二周年記念会に向けて、キャラクター人気投票やってます。詳しくはつぶやきへ。
刹「それでは次回もお楽しみに!」 
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