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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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暗躍鐘楼

 
前書き
投稿日現在、GGXXACが箱○で配信される。
この意味を、聡明な君達ならば理解してくれるであろう。
だから今回投稿早いんだ。うふふ。  

 

蒼天に座する少女の輪郭は、一筋の流線となり目にも止まらぬ速さで駆けていく。
視界の端に映る残像は彼女にとっての当たり前であり、今更気にも留めない。
それは偏に、彼女にとって現在の速度がごく当たり前であるという結論にも繋がる。
音速に至らんとするそれを纏い、少女は自らの故郷へと戻る。
漆黒の羽根を軽く靡かせ、下駄の乾いた音を響かせる。
利便性を限りなく無視した高下駄で悠々と闊歩する。
目指すはとある人物の下。
その理由は、その人物が昨日ここへ戻ってきた際の状態にあった。
どうやら相当な重傷を負ったらしく、近くで偶然彼女を見つけた天狗仲間が運んできたらしい。
そして、その時彼女の背中に羽織られていた紅い外套―――その意味を問いただすべく今に至るという訳である。
何故一日間が空いたのかと言えば、単純にその間意識を取り戻さなかっただけという話。
風の噂で意識が戻ったことを知った少女―――射命丸文は自らの仕事を終え、ここからはプライベートの時間となった為、その少女の下へと訪れようとしていた。
すれ違う同族に居場所を聞き出し、扉の前に立つ。
パン、と両頬を叩き、引き締めた表情を緩める。

「こんにちは~、生きてますか~?」

気の抜けた声が病室に響く。
個室を宛がわれたらしく、目的の人物以外は気が滅入る家具のみがこさえられていた。

「―――射命丸殿か」

あからさまに不機嫌な態度で歓迎されるも、気に留めた様子もなく笑顔で対応する。

「これまた手酷くやられていますね―――椛」

そう言うと少女―――犬走椛は眼光を鋭くする。
しかし、この対応も日常茶飯事なのか、気にした様子はない。
それは、強者の余裕か。それとも―――

「ふん、私を笑い話の種にでもしにきたのか?流石は誤報を真実と語る極悪記者だ。餌となりそうなものには何でも目を付けるか」

病人でありながらその不遜な態度を崩すことはない。
しかしこれは、何も射命丸文に対して限ったことではない。
犬走椛は、哨戒天狗などという下っ端の地位に落ち着いているにしては破格の戦闘能力を有している。それこそ、鴉天狗クラスでも底辺相手なら互角に戦えるほどである。
それが不遜な態度の原因と思われがちだが、真実は全く違う。
言うなれば、自己の正義に盲信するが故に他者の意見を聞き入れない、そんな融通が利かない生き方を貫いているからである。
因みに椛の罵詈雑言に関しては、誰にもという訳ではない。寧ろ射命丸文個人に対してのみ、ここまで執拗に汚い言葉を浴びせている。
恐らくは破天荒な記者活動を続けるあまり、天魔にいらぬ負担を強いているからだろう。それ故に目の敵にされていると考えれば自然といえる。
彼女は天魔―――妖怪の山の社会を総べる統領―――に与えられた任に誇りを持っており、故に作戦遂行に妥協をすることはない。
それは天魔の理念に陶酔しているからなのか、天魔そのもに対してその情愛が向けられているからなのか。
どちらにせよ、その実直さが災いしていらぬ問題を抱える場合も多々あり、それに巻き込まれる形となる同僚は、普段の彼女の態度もあってどんどん彼女を孤立させていった。
イジメとかではなく、単純にいらぬ苦労を買いたくないからという理由だが、傍から見れば似たようなもの。
対して椛自身は、その事に対し何の感情も浮かべておらず、寧ろ気が晴れたと言わんばかりにより一層任務に精を出すようになった。
天魔はそんな彼女の行き過ぎた態度に何の対応を見せようとしない。
大方、彼女を律することが出来ずに統領は名乗れないと考えているのだろう。その飛び火が部下に向けられていては、本末転倒な気もしなくもない。

「心外ですねぇ。これでもお見舞いに来てあげたんですよ。まぁ、気になることがあるのは事実ですが」

バツの悪そうに頭を掻く文。
半分は当たりだったことからも、椛の警戒が緩まることはないどころか、より見る目が厳しくなる。

「見舞いの用などついでなのだろうに、あたかも逆の物言い………。いや、今更か。だが、貴方の期待するような内容は何一つない。見舞いに来たというのなら、早々に出て行ってもらうのが私にとっての最高の土産になる」

「安心してください。貴方の感性は私のとではまるっきり違いますので、お気を使わずとも。それさえ聞けば大人しく退出しますので」

互いに一進一退の攻防を繰り広げるも、一向に終わりは見えない。
文は椛が自分という厄介者と舌戦を繰り広げてまで、何故詳細を話したがらないのかを考えていた。
その時、視界の端に赤を捉える。
彼女が持つには不釣り合いな外套。大きさも、色も、暖かな雰囲気も。
何もかもが彼女に似合わなくて、何故今更になって気がつくのかと疑問に感じた程である。

「それは、なんですか?」

文が外套に指を指して問いを投げかけるも、一瞬身体を強ばらせただけで、それ以上は何もしない。

「だんまりですか。なら勝手に推理させてもらいます。―――まず、これは確実に貴方のものではない。サイズがまるで違いますし、何よりも一介の哨戒天狗の持ち物にしてはあまりにも上質な素材で出来ている。それに、私は専門外ですがこの外套には何かしらの力が内包してある。それこそ見る者が見れば、喉から手が出る程欲しいのではないでしょうか」

遠慮無く外套を手に取り、上下左右余すところ無く観察する。
職業柄色々な相手と関わってきた文からすれば、これは魔法使いや巫女が持つ道具と同じ感覚を持つものだと気付くことは容易だった。
何故か触れているだけで強い抱擁感を覚えるそれは、寝るときに丁度いいななどと関係ないことを考えていたりもしたのは余談だ。

「だからこそ、そんな貴重なものをごく当たり前に持っている人は限られてくる。貴方をここまで運んできた方達がこんなものを持っているとは考えられませんし、ならば貴方に傷を負わせた何者か―――それも、そこらの雑魚ではない、もっと強大な何かの持ち物だと考えた方が自然ですね。ですが、私の知り合いにこんな雄々しい外套を着れる体格の持ち主なんて、鬼の四天王ぐらいしか知りません。もし彼女の持ち物だとすれば、貴方があの時口を噤むことは、天魔様への反逆と見なされてもおかしくない。逆に考えれば、天魔様に対し強い忠誠を誓っている貴方がそうしたということは、相手は彼女じゃない。では一体誰が――――――?」

うんうんと唸りながら憶説を語り続ける。
あと一歩といったところで答えが出せないもどかしさに歯痒さを覚えていると、椛が痺れを切らしたように声を荒らげる。

「もういいだろう、探偵ごっこならば余所でやってくれ。何なら証拠品としてそれを持って行けばいい」

「あや、いいんですか?」

「ふん、むしろ処分に困っていたくらいだ。残飯処理が専売特許の鴉にはもってこいの役目だろう?」

「それもそうですね。では、有り難く頂戴させてもらいますよ」

侮蔑も物ともせず、言われた通りに真紅の外套を回収し、出口に向かう。

「余計なお世話かもしれませんが―――私以外にはその言葉遣い控えた方がいいですよ。大衆の中で生きる私達は、協調性を尊ぶべきなのですから」

それだけを告げ、文は部屋を出る。
周囲に誰もいないことを確認し、張り付いた笑顔を剥ぎ取る。

「………やれやれ、相変わらずですね彼女も」

小さく溜息を吐き、歩き出す。
目指すは自分の部屋。先程の会話のせいもあるが、疲れているので寝てしまおうと考えていた。

「それにしても―――探偵ごっこですか。悪くありませんね」

椛との会話にあった言葉を反芻する。
新聞のネタを探すのは得意とするところだが、そういう方面で知恵を絞ったことはなかった。
椛は明らかにこの外套の持ち主に何かしらの感情を抱いている。
仕事一筋で職務を全うすることを生き甲斐としている彼女にとって、個人に対して深く執着を持つことは稀だった。
過去の異変に於いて退治された時にも、自らの実力不足を嘆くことはあっても、相手に対して復讐だの再戦だのと考えることはなかった。
負けたことを恥と思わない素直な性格な彼女が、敵対したとされる相手を特定しようとして情報を渋るのは明らかに不自然。
それに、この外套は一体何故彼女が持っていたのか。
奪い取ったにしては傷も汚れもまるでない。倒して奪ったにしても執着がまるで感じられなかったし、天狗仲間の情報によれば周囲に傷ついた様子の者は椛一人だけだったとされる。
法を破った者に対して大人しく逃がすという選択肢を持たない彼女が、倒した相手をそうするとは考えづらい。
ならば、この外套の持ち主が椛に与えたという答えが一番しっくり来る。
そして、その者は椛を簡単にあしらえる程度の実力者。

「―――これは、面白いことになりそうですね」

文が僅かにほくそ笑む。
特ダネの為ならば身内の恥も惜しげもなく晒す―――それが射命丸文の報道理念。
彼女はエンターテイメントという概念にひどく感銘を受けている。
誰かを楽しませるという行為。それは彼女がこのつまらない世界に見いだした一筋の光明。
その為ならば、たとえ射命丸文という個人が嫌われようとも厭わない。
本来戦闘部員として、その能力を発揮すべき実力を持つ彼女が報道部員などという場所を拠り所にしているのも、それが起因している。
文は、この特ダネが今までとは違う結果に繋がるという確信があった。
今までのようなありきたりで答えを見いだすのが容易だった陳腐な代物ではなく、幻想郷を震撼させるきっかけになる程の大規模なものになると。
報道部員として生きてきた彼女の勘は、こと新聞のネタになる内容に於いてはとても敏感に働く。
自分自身もそれを理解しているからこそ、これ程までに思いを馳せている。

「それにしても、この外套―――」

ふと足を止め、おもむろに羽織る。
明らかに丈もサイズも合わないそれは、当然ながら下部を引きずるような形で収まる。
しかし、そんな不格好な状態にも関わらず、文はどこか満たされた表情をする。

「やはり、この感覚―――。これは一体何なのでしょう」

文は言いようのない安心感に包まれる。
理屈じゃ説明できないような何かを感じつつも、彼女のその後に出る言葉は気楽なものだった。

「これを着て寝たらさぞ良い夢が見られそうですね。いずれ持ち主に返すことになるかもしれませんが、お届け料としてしばらく掛け布団代わりに使わせてもらいましょうか」
 
 

 
後書き

今回の変化~

射命丸文のシロウとの初接点が外套。なんか匂いフェチっぽくなった。だがそれがいい。

椛の戦闘能力は、最下位の鴉天狗になら勝てるレベル。文の戦闘能力は、戦闘部隊の鴉天狗と同等かそれ以上。インフレっぽいけどメインキャラだから勘弁。てかシロウとの実力の比較になるかなこの説明。

椛が物凄くやさぐれていますね。アルトリアも下手したらこんなんになりかねんけどね。見ているものは結局同じのようなものですし。

文はただの元気キャラではなく、少し裏表のあるキャラっぽくしました。
読んでいて恐らく予想はできたでしょうが、今度から定期的に文視点で物語が進行していきます。
新聞記者としての好奇心が、シロウ達の知らないところで物語を動かしていきます。前回の早苗さんみたいな感じかな?
予定してはいなかったんですけど、このままいくとシロウと文が良い感じになりそう。早苗さんピンチ。


さて、恒例の単語用語シリーズ。

はんすう
反芻


意味:1 一度飲み下した食物を口の中に戻し、かみなおして再び飲み込むこと。

   2 繰り返し考え、よく味わうこと。

今回は2の内容ですね。文字通り、繰り返し考えるときの表現に使われます。
あとは第三者の発言を再び思い返すときに使われる。ただしそのタイミングは言葉の次がベター。

にべもない

意味:愛想がない。取り付く島もない。そっけない。

適当にあしらわれた感を出すときに使われるっぽい。意外と使い道はあると思う。
 
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