| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幻想郷放浪記

 
前書き
全然進んでねー、いいのかこれ  

 
あの騒がしい歓迎会から日を跨ぎ、朝を迎える。
朝食の場には、諏訪子を除いた皆が集合し、他愛のない団欒と共に時間を過ごす。
諏訪子がいないのは、どうやら昨日のアレが祟ったかららしい。本当に神なのか、彼女は。
早苗の作ってくれた朝食は、中々の出来映えだった。
歓迎会でその手腕は確認済みだから、特別感慨深いという事はないが、やはりこの年齢でこれ程出来る子はそうそういないだろうとは思う。
………だが、それはつまり、そうせざるを得ない状況に常に立たされていたからではないだろうか。

冷静に考えて、一夜明けても諏訪子や神奈子以外の大人―――つまり親族が誰一人としてここに現れないのは、普通じゃない。
単純に考えれば早期にどちらとも亡くしたか、孤児である彼女が何かの拍子に諏訪子達が見えたことから、引き取ったとか色々挙げられる。
少なくとも、良い方向性に捉えるのは無理そうだ。親だけ外に残ったというのも、一見救いがあるように見えて、娘と離れることを是としている時点で似たようなものだしな。
―――これ以上の詮索は止めよう。どうせ本格的な宿が決まればここを去るのだ、感情移入し過ぎて後ろ髪を引かれるような思いをすれば、互いに苦しむだけだ。

「あれ、出かけるんですか?」

「ああ。周辺の地理を把握したいのでな、軽く散歩でもしてこようと」

「そうですか、案内致しましょうか?」

「いや、いい。空っぽの状態から情報収集する方が、主観を確立しやすいからな」

視点というのは個別に存在する。
誰かがその考えが正しいと思えば、その逆の答えを見出す者だっている。
更にそこから細分化し、どんな理由で正否を定義しているのか、等の意見が分かれる。
本当に正しいことなんて、この世に存在しない。そんなものがあれば、誰だってそれに縋るし、考えも統一する。
宗教がその例だ。全能と謳われる神が幾つも存在し、それぞれが異なる文化を確立する要素となっている。
本当の意味での一般人は、神が存在していたという確固たる事実を知る術を持たない。
ただ、過去の文献から自分にとって都合の良い存在に寄り添っているだけで、心の底からその存在を信じている者は稀だろう。
神の奇跡、なんてものを目の前で見せられたとしても、崇拝するのは奇跡そのものであり、神ではない。
人間は、偶像よりも目の前の出来事を真実として優先する生き物だ。神がその力を対象に送り込んだのだとか、そういうのはどうでもいいのだ。
だからこそ、人間は他人の視点に縛られてはいけないのだ。
視点とは、誰もが平等に持つ権利だ。
何を信じるかも、何をどう見出すのかも、個人の勝手。
そんな平等を、他人の視点で塗り潰すような真似はしてはいけない。
だからこそ、まずは己の視点を確立する必要がある。他人の意見はそれからだ。

「………?まぁ、もし必要ならいつでも頼っていいですからね」

「ああ」

それ以上追求されることなく、早苗とは別れる。
家事のひとつでも手伝ってから行くべきだっただろうか。居候の身である癖に、自由に行動し過ぎるというのも流儀に反する。
とは言え、行くと行ってしまった以上戻るのは忍びない。だから今日の時点で出来る限りの情報を叩き込もう。

「だが、目的が抽象的過ぎるな………せめてどこか目的地を決めなくては」

無知が過ぎるのも考え物か。せめて地図のひとつでも要求するべきだったか?
まぁ、なくとも私にはこの眼がある。幻想郷の広さがどれ程かは不明だが、閉鎖された世界である以上規模は高が知れている筈。
管轄外とはいえ、これ程の規模の現象が魔術師の耳に入らないのは解せない。事実の正否はともかく、噂程度立っても不思議ではないのに。
情報統制が徹底しているという理由だけでは説明できない事態が、裏で起こっているのだろうか………?
神奈子は言っていた。幻想郷は外で存在が証明できない存在が集う場所だと。
それは逆に言えば、それ以外の存在は例外なく受け入れていないということではないだろうか。
………だが、そうなると人間はここにいるのだろうか。早苗の存在だけでは確証が得られないし、確かめる必要はありそうだ。

木の上に飛び乗り、観察する。
基本的に土地が隣接はしておらず、建物があるにしても常に独立しているようだ。
紅く塗装された西洋風の建物、霧のようなものに覆われた一帯、異常とも言える規模の竹林、季節外れの花が咲き誇る土地、守矢神社ではないもうひとつの神社――――――色々と眼についたが、その中で一番気を引いたのが、大きな村のような場所だった。
江戸時代を彷彿とさせる造りの建物が集うそれは、先程人間の存在を確かめようとしていた私にとって、指針となるべきものだった。
取り敢えずは、他の胡散臭い場所よりも、まずはあの村に行ってみるのが正しいと判断した。

―――瞬間、背後から殺気と共に飛来した何かを叩き落とす。
唐突なことだったので武器を出す暇がなく、腕でやったはいいが、その箇所が見事に焼け爛れていた。
傷みは大して無いし、私の対魔力でこの程度の傷で済んだ時点で、驚異とは成り得ないだろうと判断する。

「おい、貴様。ここに部外者が何の用だ?」

振り向くと、白髪に犬の耳や尻尾らしきものを生やした少女がこちらを睨み付けていた。
凛々しさの中に見える幼さが、この場に似つかわしくない雰囲気を醸し出している。

「不躾も甚だしいな。警告よりも先に攻撃を仕掛けるような輩に答える事は何一つありはせんよ」

「何………?」

明らかに不機嫌な様子で眼光を鋭くさせる。
自分が不審者であることは承知の上だが、対応がこうも過激では反抗もしたくなるというもの。
だいたい、無礼に対し慇懃で返すなど、相手を自分より上と決めつけるようなものではないか。
そんな莫迦な選択を取れるほど、私は落ちぶれてはいないつもりだ。

「ここは妖怪の山でも、天狗の土地により近しい場所。ただ立ち去るならよし、抵抗するのであれば―――」

告げ、手に持つ段平を両手に構え、警告の意を示す。
立ち去らないのであれば、切り捨てる。どんなに鈍い者でも理解できる、わかりやすい肉体言語だ。
そこまでして、天狗の領地には行かせたくないらしい。

「ふむ、別段その天狗の土地とやらに興味はないから立ち去らせてもらうとしよう」

「そうか。とっとと去ね」

少女に背を向け、数歩歩いたところで―――異様なまでの不快感が全身をなぞる。
今まで一切の予兆を感じなかったのに、まるでそれは抑止力のように唐突に現れた。
全身を余すことなく舐め回されている感覚は、止まる様子はない。
まるで蛇に睨まれた蛙の気分を体験しているようだ。
並の精神の持ち主ならば、この本能に訴えかける原始的恐怖に素直に従ってしまうだろう。
だが、私とて英雄と呼ばれた者。この程度の重圧、押し退けられずしてなんだ。

「………どうした、さっさと歩け」

歩みを止めていることに不信感を覚えた白狼天狗が、苛々した様子で再三促す。
指示に従い一歩を踏み出した瞬間、今度は重力が倍になったかのような感覚が先程の怖気と共に襲いかかる。
心なしか目眩も感じる。英霊である自分に体調不良を訴えかけるなんて、並大抵の事ではない。
しかし、一体この現象はなんなのだ?
何者かが私に対して、使用者の意に反した行動を取ると制約が掛かる呪いでも発動させたのか?
そんな事が可能で、私を知っている存在となると限られてくる。
その中でも有力候補なのは、私を幻想郷へ誘導した張本人か、諏訪子だ。
早苗は当然候補外、神奈子はこんな搦め手を使うようなタイプではないだろうし、背後の白狼天狗に到っては私の予想

通りならまるで矛盾している。

「おい!」

「――あぁ、すまない。気分が悪くなってしまったせいで、しばらくはこのペースになりそうだ」

「………そんな言い訳が通用するとでも?体調不良にしては突発的過ぎる」

第三者から見れば、私に降りかかる現象もただの演技にしか見えないらしい。
冷静に考えれば、確かに突発的にも程がある。だが、事実である以上他に説明のしようがない。

「嘘では、ないのだがな」

「騙されんぞ。過去にも狡猾な妖怪が手練手管を用いて、幾度とこの領域に進入しようと試みてきたからな。二度と罠

には掛からん」

不適に嗤い、段平を脇構に構える。
どうやら壮絶な勘違いをされてしまったようだ。
仕事熱心なのは感心するが、誤解である以上こっちからすればただの傍迷惑でしかない。
振りかぶりからの一閃を身体を反らして辛うじて避ける。
これは、最早逃げるという選択肢を選んでいる場合ではないらしい。

「今のを避ける癖に、まだ病人と言い張るか」

「――はっ、病人に避けられる程度の実力だっただけではないのかね?」

この場を乗り切るには、まずは彼女の無力化が最重要事項となる。
話し合いで通用する関係は終わった。この期に及んで平和的解決を尊べるほど、状況は甘くない。
彼女のバックに狙われる可能性が高い以上、不必要に敵対されるような行動を取るのは控えたかったのだが、それにか

まけて命を落とすのは本末転倒だ。
ならばいっそ開き直るしかあるまい。
それに――どうやらこの選択が、私を抑圧する何者かにとって理想のものだったらしい。さっきまでの異常を来してい

た肉体がまるで嘘のように軽い。

「ふん、ようやく本性を現したな下郎め」

「誤解だと言っているだろうに、まぁそれも最早詮無き事。私が気にくわないのならば、実力で黙らせればどうかね」

「言われずとも!」

怒号を皮切りに、この場は戦場と化した。
瞬時に投影した干将・莫耶で、段平を受け流していく。
一撃一撃からは、容赦のない重みを感じ取れる。完全に敵視されているのは明白だった。
牽制程度の反撃はするも、そのどれもが本気ではない。
受け身に回り情報分析する戦闘スタイルは、私の得意とする戦い方だ。基本的にこのスタイルを崩す時は、遠距離戦を

前提としている時ぐらいである。
元々近接戦闘は得意とは言い難い。セイバークラスには当然敵う訳もなく、速度で負けるランサークラスには受け身に

回らざるを得ない。寧ろアーチャークラスである自分が弓より剣の方が使えるなんて、普通は有り得ない。
だが、そんな奴ら相手にも近接戦闘を挑んできた甲斐あってか――平行世界の私の経験も取り込めたこともあるが――

、今の私はどの英霊エミヤよりも近接戦闘が得意な存在に昇華していた。
結局何が言いたいのかと言うと、白狼天狗の繰り出す太刀筋は私のそれにすら劣る、未熟さが目立つものだということ


わかりやすく言えば、あのアインツベルンの城での一連の流れに、魔力供給が充分な英霊エミヤという要素を盛り込ん

だ状態だ。
衛宮士郎の気迫勝ちに終わりはしたが、実力そのものは拮抗すらしていなかった。
消えかけの肉体で挑もうとも、人間との差を埋めるのは如何ともしがたい。逆に言えば、ただ殺すだけならば一瞬で済

む話だったのだ。
そんなハンデを背負う必要のなくなった戦いの焼き増しが、現状とも言えた。

「でやあああぁぁぁ!」

大きく上段に振りかぶった段平を紙一重で避け、その遠心力で背中に回し蹴りを食らわせる。
確実に背骨に響いただろうが、人外ならば問題なかろう。

「貴、様――!!」

「喋るな、傷に響く」

俯せのまま吠えるだけの姿を見て、最早立つ力は無いと判断する。
骨折まではいかないにしろ、確実にヒビのひとつは入っている筈だ。同時に神経が麻痺していても不思議ではない。
握られた段平を無理矢理解き、遠くに投げ捨てる。これからやることを考えると、獲物を持たれていては危険だからだ



「触るな、何をするつもりだ………」

苦痛に呻くように抵抗する声が、彼女の状態を説明するには充分な情報だった。

「いいから大人しくしていろ」

おもむろに彼女の着ている服を破き、骨折の時に使われる感じの板と包帯を投影する。
一瞬の間に現れた道具を見た白狼天狗は、目を丸くしている。一応さっきも同じ事をしていた筈なのだがな。
慣れた手付きで応急処置を行っていく。
紛争地帯を渡り歩いていれば、どうしても物資が足りず苦しむ市民が出てきてしまう。そういった時に私は投影魔術を

用いて何度も応急処置の為の道具を造り、処置を施してきた。
十や百では足りないほど繰り返してきたそれは、最早医者をも唸らせる境地にまで到っていた。

「………なんのつもりだ」

「何がだね」

「何故、こんな真似をしている。先程まで斬り合っていたのに、お次は敵に治療を施すだと?気でも違っているんじゃ

ないか」

こんな状態でも減らず口を叩けるのであれば、問題はなさそうだな。

「先程も一応言ったはずだが、あの時までは本当に体調不良だったんだ。それを証明する手段も持ち合わせていないし

、君にとってはただの見苦しい言い訳にしか聞こえないだろう。だから信じて欲しいとしか言えない。この治療も、故

意ではないとはいえ怪我をさせてしまった詫びに過ぎん」

「………にしては挑発的な言動も吐いていた気がするぞ」

「あれは体調不良と君の聞き分けのなさに気を乱されていたせいだろう」

「元より私はお前を信用した訳ではない。少なくとも、こんな怪我さえなければ再び貴様に斬りかかっているだろうよ



「それは恐ろしいことだ。そうなる前に退散させてもらうとしよう」

表情が生気を徐々に取り戻しつつあるのを確認した私は、近くの木に彼女を寄り添わせ、着ていた外套を衣服の上から

かけた。

「いらないと思ったのなら売るなり捨てるなりして構わないぞ」

「――施しは受けん」

「そんな大層なものではない。一方的に貰った扱いでも構わないし、捨ててあったものを拾った程度の認識でも構わん。私は貸し借りなんて関係を望んでいる訳でもない。言ってしまえば自己満足に過ぎん。だから気にせず貰っておけ」

それ以上は彼女も口に出すことはなかった。
衣服が破けている状態でいるのは彼女としても嫌だろうし、妥協してくれた様子。

「礼は言わんぞ。次にまみえた時、刀の錆にしてくれる」

「まったく、嫌われたものだな。それに誤解だと何度も言っているだろうに」

「哨戒天狗としての立場ではなく、私個人として、貴様に敗北したことが許せないのだ」

………やれやれ、どうやら私は面倒を抱えてしまったらしい。
まぁ、あの重圧を受けた時点で嫌な予感はしていたさ。
溜息を吐き、立ち上がる。

「念を押して言わせて貰うが、私はここが天狗の領地だとは知らなかったのだ。無知を棚に上げて言い訳するつもりは

ないが、せめて明確な線引きを作ってもらわんと、おちおち安心して付近を歩けん」

と言うか、今までの被害者の中には、私と同じ扱いを受けた者も少なからずいたのではないだろうかと予想する。
はっきり言って、彼女は短気だ。本気で天狗の領地とやらを護りたいからなのだろうが、そのせいでいらぬ被害を出し

ているようでは半人前と言える。
口には出さないが、上司の方も能力に期待できそうにない。部下の育成に力を入れていないからこうなるのだ。

「では、さらばだ。出来ることなら先程の忠告、上司にでも伝えてもらえたら有り難い」

期待半分の願いを最後に、今度こそ立ち去った。
いずれお仲間が彼女を見つけてくれるだろうし、ここが天狗領地内ならば放置していても危険はあるまい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


守矢神社の屋根の上でほくそ笑む影。

「意外と紳士的な奴だな。いや、お人好しと言うべきかな」

影の正体―――諏訪子はエミヤシロウと白狼天狗との一連の行為を観察していた。
エミヤシロウがどこへ向かうかまでは予測できなかったが、私にとっては幸運、彼にとって不幸にも天狗の領地に侵入してしまうというアクシデントが発生した。
不幸は連鎖し、よりにもよって天狗内でも爪弾き者である哨戒天狗のひとりと出くわす。
これ幸いとばかりに私は穏便に事を済まそうとする彼に呪いを植え付けた。
その効果は、人間のみを対象とした強制服従。
純粋な人間でなくとも、人間としての因子―――つまり血や前世など、ありとあらゆる方法で遺伝子から情報を引き出し、それが濃ければ濃いほど効果は重みを増していく。
彼は人間だった頃の情報を元に再構築された、魔力の集合体だ。
ただのコピーではなく、更に上位の存在へと昇華していることもあってか、予想していたよりも効果は薄めだった。それでも思惑通りに事が運んだので別段問題はなかった。

私が知りたかったのは、彼エミヤシロウの戦闘能力及びその手段である。
サーヴァントの説明を聞く限りでは、その性能足るや並の妖怪では相手にもならないであろう。
だが、言葉だけでは真実か否かを確かめるのは不可能。事実、嘘を言っている可能性だって有り得ないことはない。
右も左も分からぬ新天地で、いきなり親切にされれば疑うのが当然。
ましてや神なんて胡散臭い存在が二人もいる空間だ。その考えにも拍車が掛かるというもの。
彼の事だ、身に降り掛かった違和感も私の仕業だとある程度当たりを付けている筈。
必要以上に不快感を与えてしまうのは控えたかったが、どうせ下がるのは私の評価だけ。あの子に矛先が向かないのならばどうでもいい。

それにしても、エミヤシロウの手に瞬時に握られていた、白黒の双剣。あれは一帯何なのだろうか。
濃縮された魔力によって構成された、他の武器とは一線を画したそれは、神である私の興味を引くに値するレベルの異常性を秘めていた。
あれは即席の産物ではなく、長い年月を掛けて概念を構築してきた武器であるのは明白だった。
しかし、瞬きするよりも早く手の内に現れた剣は、どこから取り出したのか。
私が獲物を取り出すときは、最初から造りだしている。
神である私は、意識の集合体だ。人々が望むカタチに姿を変える、常に移ろい、本当のカタチは本人しか知らないなんて良くある話。―――私も神奈子も、その典型的な例だ。
逆に言えば、信仰ひとつで唯一神クラスにもなれれば、人間レベルにまで格が落ちてしまうのだ。
そして、そんな意識によって存在を確立している私達は、過去に使用していた武器などは最早身体の一部のように扱われているため、徒手空拳に見えても望めばいつでも武器は出せるのだ。
彼は自らを聖杯なるものから生まれた、コピーのようなものだと解釈していた。
その在り方は私達のそれと酷似しており、彼もまた人間の意志によって構築された夢幻に過ぎない。
故に、彼が一瞬にして武器を手にしたのも納得がいく。いくのだが、その手にした武器が問題なのだ。
遠目からではあったが、双剣に印されていた紋様は、陰陽道にまつわる太極図だった。
確かに日本でも一般的とされてはいるが、起源はあくまで中国だ。
顔の作りからして、中国人の血が入っている要素も見当たらない。恐らくは生粋の日本人であると推測できる。
あの武器は、相当な年月を糧にしている。少なく見積もっても千年は下らないだろう。
そんなものを、彼はどうやって手に入れたのだろうか。
生前に愛用していたであろうことは予想がつくが、逆に言えば存命の間使用できる程度には形を保っていたことになる。
彼が千年前の人物だとしても、その時中国と日本が繋がりを持っていただろうか。いや、ない。
船なんて技術も確立していないであろう時代の日本で、陰陽道の紋様を描いた双剣を振るう英雄がいたとすれば、その奇抜さ故に有名になっていても不思議ではない。
だいたい、幾ら望むカタチに移ろいやすいからといって、あんな西洋風の防具を着用しているのはおかしい。誰が好き好んで日本の英霊に西洋のイメージを併せるというのか。もう、訳がわからない。

「―――だからこそ期待できるんだけどね」

早々に器が知れるようなら簡単に切り捨てるつもりだったが、これなら期待が持てるというもの。
せいぜい奥の手でも切り札でも隠しておくといい。私を愉しませてくれるほど、それ相応の待遇が待っているのだから。

「諏訪子様ー、どこですかー?」

早苗の呼ぶ声が聞こえる。
下を覗くと、甲斐甲斐しく私を捜す少女の姿が見える。

「ここだよー」

その姿へと笑顔で応える。
一瞬エミヤシロウの居た方向を確認するも、最早その場には地に伏した白狼天狗しかいなかった。
この幻想の地で、彼は幾度と争いに巻き込まれることになるであろう。同時に、外では見られなかった多種多様の妖怪と刃を交えることにもなる。
そこで経験を重ね、強くなれ。―――そして、我々の悲願成就のための駒となれ。
 
 

 
後書き

今回のへんかー(修正バージョン)

守矢家以外と17才以外の初邂逅 お値段以上→通りすがりの白狼天狗 になりました。名前出してないけど、誰かはわかるべさ。

諏訪子様邪悪度増し増し。まじ外道、修正後は更にえげつなくなりました。


修正前との差違

好戦的なエミヤから、諏訪子の力のせいで仕方なく、という事に。

白狼天狗のエミヤへの好感度が、前回よりも僅かに高い。その差を表現する前に修正したから無意味な設定だけどね。

ていうか修正後も変わらずかませだなー。戦闘描写修正するって言ったけど、全然変わってないし。
私のイメージでは彼女は近接能力はギル様レベルだと思ってる。決してしょぼくないけど、土俵ではないって感じ。
一応近接主体キャラではあるけど、単純に戦闘慣れしていないってだけなので、伸びしろはあるよ!

もっと戦闘描写を濃くするべきだったんだけど、正直この戦闘は次への繋ぎのようなものですので、こんなんでいいかなーとか思いました。初期士郎vsランサー戦の何倍も短いじゃねーか!あと両儀式vs巫浄霧絵戦の方が長いね。短すぎワロタ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧