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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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入学編
  第4話 入部

「君ね……現金にもほどがあるよ」

降下している師匠への尊敬度に比べても、自分の発言があまりにも子供っぽいなぁと思って

「まあ、そこはおいといて、魔法科高校のクラブなんですが、操弾射撃部(そうだんしゃげきぶ)に入りたいと思うのですが」

「いいんじゃないか。けど、魔法系なら、SSボード(スケートボード&スノーボード)・バイアスロン部の方が、希望としては高かったんじゃないのかい?」

「そうなんですが、SSボード・バイアスロン部は、的を打ち抜いていいと言われたので……」

「破壊するのではなく、打ち抜く?」

「そうです。打ち抜くです。なので火弾をつかって打ち抜いたのですが、CADと起動式が自分用じゃなかったので、起動式にリミット値が入っていないのを気がつけませんでした」

「そういうことは、もしかして……」

「その先にあった林でちょっとしたボヤが発生いたしましたが、幸いにも『ドライ・ブリザード』系の弾丸の起動式がはいっていましたので、5発の連発でなんとか沈火いたしました」

「5発だね? しかし、ボヤねー」

「5発ですし、あれはボヤです」

振動系プラスの魔法1発にたいして、振動系マイナスの魔法は5発必要とする。このバランスの悪さが、僕の特性のひとつだ。直径50mにわたる森林火災をボヤと言いきってくれたSSボード・バイアスロン部の部長もたいしたものだが。

「それで、SSボード・バイアスロン部には、入らなかったのは?」

「入らなかったのではなくて、入れさせてもらえなかったんです。僕が使ったCADが偶然にもその後、全部壊れるので」

「偶然ねー」

「現在の魔法ではわかりませんから、偶然が重なったということになるでしょう。だって、CADは魔法では壊れにくいことになっているんですから。それに当日は、なにやら、女子SSボード・バイアスロン部のOGがきて問題をおこしていたのも、僕が入れなかったのと関係するようです」

師匠はあきれた顔をしているが、実際に女子SSボード・バイアスロン部の部員や五十嵐部長も、風紀委員長がきたときには、おなか一杯って感じだったからな。OGたちは相当な問題児だったのだろう。自分のことを棚に上げてそう思っていた。

「CADはともかく、ボヤの件は3月末の魔法教会関東支部の襲撃の犯人が、発火念力者に近い魔法師だったんだから、今後は気をつけたまえ」

「はい。気をつけます」

「……他には?」

「2番目の候補でした、操弾射撃部には入れそうなので、そこにしたいと思いますが、いいんですよね?」

操弾射撃部は操射部(そうしゃぶ)ともいい、魔法だけで弾丸を飛ばして、直径2.54センチメートル(1インチ)の小さな標的を打つ競技のクラブ。弾丸といってもペイント弾で、操弾射撃用ランチャーはCADを内蔵した台座に、4方向から弾丸を挟み込んでホールドする4本のレールを、銃身の代わりに取り付けたライフルの形状をしている。

「まあ、それならいいだろう。要件はそれだけかね?」

「いいえ。同級生しか、まだきちんと視ていませんが、面白い霊気の持ち主が多いですよ。特に、僕のいるクラスは、1年生の半分以上が集まっています」

そこから、1-Bの十三束鋼(とみつかはがね)、1-Aの司波深雪、光井ほのか、北山雫、1-Eの吉田幹比古、柴田美月、西城レオンハルト、千葉エリカ、司波達也と、ついでに小野先生の話をしたところで、十三束鋼は百家の十三束家で、吉田幹比古は古式魔法で有名な吉田家だろうとは言ってくれたが、あとはノーコメントだ。最後に

「司波達也と司波深雪は、兄妹なんですが、霊気のラインでつながっています。双子でテレパシーをもっているのならあるのでしょうが、彼らの霊気の中でそのラインが互いにしばりあっているんですよ」

このように、霊気が中でしばりあっているという初めてみた現象を、師匠へ爆弾として放りなげてみた。

「へー。君の眼ではそう視えていたんだね」

「……正確には、司波達也の霊気は司波深雪の霊魂を見守るように、司波深雪の霊気が司波達也の霊気をしばりつけているように、視えたというところですが」

爆弾が不発だったどころか、先に知っている上でだまっているなんて、この師匠もいい性格をしているよな。

「まあ、多分、そうなんだろうね。失伝した術に似たものがあるようだけど、同じものかどうかは、わからないな」

「いつから、司波兄妹の存在を知っていたのですか?」

「確か、君が中学1年だったから、そのときの10月からだよ」

そんなに前から知っていて、だまっていたというところは、何か考えていることがあるのだろう。しかし、聞かずにはいられなかった。

「どこで、知ったのですか?」

「八雲先生の道場だよ。今も朝の稽古に出ているそうだよ」

僕は渋い顔をしていただろうが、表情をとりつくろって、

「八雲先生って、あの忍術使いの九重八雲先生のことですよね?」

「他に八雲先生と呼ばれている人を知っているのかい?」

「いいえ。ところで、前から知っていて、今も知っているというのは、師匠が気にかけている人物ということですよね?」

「それ以上知りたいのなら、直接八雲先生のところに言ってきいてごらん。他の人はちょっとさぐりを入れてみるから、あてにしないでまっていてくれるかな」

司波兄妹については、これ以上の話したくないんですね。九重八雲先生って、不気味なんだよな。朝の稽古というと体術の稽古だときいたが、他にも稽古を受けている可能性はありそうだ。他の同級生は調べてくれるっていうし、それは犯罪行為だが、気にするのもいまさらだな。しかし、今の言葉でひとつ気にかかることがあって、

「九重八雲先生のところに行っているということは、司波兄妹には、こちらのことがある程度聞かされているということですか?」

「その兄妹が、君に興味をもてば、それもあるかもね」

うーん。そうすると術式解体をつかったのは、興味をひかれたかな。

「ああ、そうそう。今日はCADの調整が終わったら、香織君と仕事に行ってね」

「……高橋さんと、一緒ですか。どんなのが相手ですか?」

「細かいことは、香織君にきいてくれたまえ」

そのまま引き下がることにして、普段から使用しているCADと、ここの道場でアルバイトをおこなう時に使用するCADを調整してから、道場で指導していた高橋香織に声をかけた。

「高橋さん、おはようございます」

「あら、翔くん。思ったより早かったわね」

「ええ、先週との変化が少なかったので、CADの調整をするところは、ほとんどありませんでしたから」

「わたしの方も準備をするから、ちょっとまっていてね」

道場で、小中学生の稽古をながめていると、少したってから、パンツスーツに、ジャケットと気軽に鞄を持ち歩いているといういでたちだが、CADはいつものごとく、鞄の中にでもはいっているのだろう。

「では、でかけましょうか」

「はい」

と言うと、稽古をしていた小学生達は気がついて、

「香織先生と翔兄ちゃんはデートに行くの?」

「あら、よくわかったわねぇ」

「わーい。デートだ、デートだ」

智之(ともゆき)先生に言ってやろ!」

僕がそれを聞いて、

「ああ、香織先生の言っているデートは、恋人同士のデートという意味じゃなくて、単純に男女間で日にちを決めて、行く方の意味だからね」

「そんなの、どっちでもいいのだけど」

「いや、小学生の教育に悪いですよ」

「それは、ともかく、翔くんは平日の夜に来ればもてるのに」

「はい、はい」

実際は、会社帰りの女性が、護身のためとして、ここの道場に来るので、女性の割合が高い。そこで、中学生だった僕がからかわれていただけの話だ。

道場の駐車場で乗ったのは、高橋香織さんと一緒に行動するときのコミューター。少々特殊で都市間も遠距離でなければ、キャビネットのかわりとして利用できるタイプだ。

「今日は、どちらで、どんな内容の仕事ですか?」

「秩父の方で結界が弱って、負のプシオンが漏れ出しているの。そこに騒霊がまじりはじめているから、そこの封印よ」

「そうですか。結界の中にいるのは、何ですか?」

「雷獣だけど、まだ、眠っているから、今日のうちに再封印を完了すれば、問題ないはずよ」

「そうですか。いつもの手順で大丈夫ってことですね」

「油断は、しないでね」

「はい。ところで、智之さんはどちらへいかれているのですか?」

「昨日から西よ」

西の古式の術者がらみか。妖怪や霊獣の類は、過去に封印されて、封印できる術者が減り続けて、封印する術が失伝していってるのが現状だからな。

「こちらより、大変そうですね」

「アシストに高鴨神社の裏がつくから大丈夫じゃないかしら」

「あそこなら、人数だけはいますからね」

「これこれ、翔くん。あそこからこっちへ、仕事がまわってくることも多いのだから、あまり変なことを言わないことよ」

「さすがに、八尾の妖孤を見落とされると、きついんですけど」

「あの仕事から、その愚痴ばかりね」

「だって、本当に死ぬかとおもったんですから。それこそ、智之さんがいてくれれば、余裕はできたと思うんですけど」

「結界に関しては工藤師匠よりも上だから」

「のろけ話ですか」

「違うわよ」

今、話している高橋香織と、智之こと不破智之は婚約者だから、こっちをからかうことによって、気を紛らわせている面もあるのかなという感じはしている。師匠にお子さんはいないから、この2人が円明流合気術道場の表も裏もひきつぐことになるのだろう。



特に話すこともなくなったので、ちょっと思考遊びを始めていた。現代の魔法は4系統魔法が主流だから、道場にいる魔法師はCからE級ライセンスの魔法師が多くなっている。しかし、不破智之さんと工藤師匠はA級ライセンスの魔法師だ。今の僕は、そこで魔法師の見習いを行いつつ、除霊のアルバイトもしているというところだ。

道場の中では、仕事が過去に封印された悪霊や、妖怪、霊獣の再封印をなりわいとしているそうなので、必然的に僕のようにサイオンを放つ無系統魔法や、プシオンに干渉できる系統外魔法に分類される古式魔法が多く使われている。

まあ、合気術ということで護身をうたっていることから、対抗魔法を多く学んで、相手のスキをつくるという意味では、低威力の麻痺系や攻撃系の魔法も、魔法の素質があるとみなしたものには、教えている。

僕も魔法の素質があると認められて10歳を過ぎたときに、CADを初めて操作した。その時に、発火現象をおこしたことから、魔法というよりも超能力の素質が強いということで、超能力による事象改変をさけるために、無系統魔法の訓練をするとともに、超能力の事象改変のいびつさを、事象改変をともなわないサイオンの制御の方の訓練を行って、今にいたっている。

系統魔法もならってはいたが、中学生の間はこの道場でも系統魔法についての優劣は、世間一般と同じく評価はさけているから、無系統魔法では実力があるだろうとは思っていたが、魔法師の国際基準に照らし合わせると、どうなるのかは、はっきりとはわからなかったというのが実態だ。それで魔法科に入ったが2科生というのは、系統魔法よりも無系統魔法を重点的におこなってきた、つけともいえるとは思っている。

そんな思考に沈んでいたが、現場に近づいたところで、香織さんより、

「さて、そんなに難しい相手じゃないはずだけど、油断だけは禁物よ」

「はい。この前の八尾の妖孤で、身にしみていますから」

「翔くんは、最近口を開くとその話題にいくわね。落ち込んでいるわけじゃないからいいけれど、過信も禁物だからね」

そうして始めた、秩父の仕事も、高橋香織さんが結界を担当し、僕が騒霊となっているサイオンをその場から、引き離していくという、手慣れた手順を注意しながら行って、封印石の再設置をして仕事は無事に完了した。



学校での操弾射撃部への入部は、もともとは先天性スキルとして発火念力は振動系魔法と相性が良いと知られているので、系統魔法だと、移動・振動の系統が得意だ。なので、このクラブを選んだのだが、僕の方は、操弾射撃部で、照準の種類でどれが良いか、クラブのCADを自分用にカスタマイズをして、上級生でサイオン切れを起こす前に練習を切り上げるころから、練習を開始するということが多くなりそうだ。
 
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