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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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入学編
  第1話 トラブル

場所は国立魔法大学付属第一高校、通称は魔法科高校か、魔法師の間では第一高校とか一高と言われているらしい。

その入学式で、司波深雪という新入生総代の答辞を、2科生が集まって座っている後ろの方の席で聞いている。「皆等しく」とか「一丸となって」とかいうフレーズが、この魔法科の1科と2科というよりは、魔法科と普通科ともいうべき体制に分かれている高校で、本気で言っているのかは少々うたがわしいが、こんなものかもしれないなぁ、と流して聞いていた。

2科生になったのは、風邪をひいて、そのまま受験したからだ。風邪をひかなくても2科生だったかもしれないから、これはこれでいいのかもしれないと、あきらめの気持ちでいた。

入学式の終了に続いて、学校施設を利用する為のIDカードの交付があるので、学内用カードを受け取るために窓口へ行くが、入学式とおなじように1科生と2科生とで、異なる列ができている。このあとは、ホームルームに出席するもよし、しないでもよしだけど気分があまりのらなかったので家へと帰った。

「ただいま」

(しょう)、お帰りなさい。早かったのね」

「入学式と、学生用IDカードの受け取りだけだからね」

「風邪をひかないように、手をきちんと洗うのよ」

「はーい」

僕の風邪の原因は雨に打たれていたからなのだが、今日は久々の振替休日で休んでいる母に、特に逆らう必要もなかろう。

家で自室にもどってから、魔法の制御に多少問題がある自分のために、日課となっている左腕にはめている汎用型CADを使い、ピンポン玉に振動系魔法をわざと混ぜた移動系魔法による上昇、移動、下降、減速、停止を一連とした魔法の練習をおこなっていた。

夕食時には父親もかえってきて、家族で食事をしていたところで、

「そういえば、翔は入るクラブを決めたのか?」

「いえ」

「なら、各クラブ活動の勧誘をみてから決めた方が良いときいているぞ」

「同じく工藤師匠からも、助言がありました」

父は2科生であっても、国立魔法大学付属第一高校にうかったなら、国立魔法大学受験資格があるからといって、それで満足しているようだ。両親とも魔法師ではあるが、父がC級、母がD級ライセンスの魔法師なので、一般人の親を持つ魔法師の能力を持つ子どもよりはめぐまれているのだろう。



翌日は、僕の入るクラスである1-Eに入ったが、25人中まだ15人ぐらいの人数だ。これは仕方がないとして、すでに話をはじめているメンバーもいる中で、クラスにはいってきて席へ荷物を置こうとしている男子に声をかけた。

「どうも、はじめまして。同じクラスになる陸名翔(りくなしょう)です」

「ああ、自己紹介か。西城レオンハルトだ。親がハーフとクォーターなもんでこんな名前でさ。レオでいいぜ」

「じゃあ、レオと呼ばせてもらうよ。僕のことは翔で、よろしく。ところで、体格が良いのは何かスポーツでもしているのかな?」

「ちょっとばかりな」

「クラブはどこに入ろうとか決めているかい?」

「山岳部だけど」

「そうか、きめているっていうのはいいなぁ。僕は、各クラブ活動の勧誘をみるかなぁ」

「そうだな。人それぞれだし」

そう言っているとキーボードの入力音が、レオのすぐ後ろから聞こえてきて、レオがそっちをみて該当の人物に、

「すげー」

って、確かにすごい速さで入力していると思うけれど、話している最中に振り返られるとは思わなかった。レオはそのまま、自己紹介を初めて、一緒に話していた僕の紹介もしてくれたので、

「どうも。レオに言われた通り翔でいいですよ。ちなみに魔工技師志望です」

他には、キーボードを打っていた司波達也こと達也に、柴田美月こと柴田さん、千葉エリカさんこと千葉さんというところで、レオと千葉さんの相性が微妙そうという感じだけはわかった。

予鈴がなったあとに、女性がはいってきたので、まわりからは「先生」とかの声はあがっていたが、別なことで驚いていた。僕は2科生にカウンセラーがくるというのを、知ってはいた。しかし小野遥(おのはるか)、まさか公安(警察省公安庁)の『ミズ・ファントム』が来るとは、夢にも思っていなかった。師匠は、ここにいることを知っていて、画像を見せたんだな。きちんと話をしておいてほしいなぁ、っとため息をつきたくなった。ただ、彼女の視線は、達也に向いているのが気にかかる。何かあるのだろうか?



そっちは気にしても仕方がないと割り切って、カリキュラムのガイダンスを見た後に、選択科目の履修登録をおこなった。キーボードを使いながら、補助的に視線ポインタや、脳波アシストを使用する方法が、僕のスタイルだ。通っている道場でのCAD調整にも使用する方法なので、比較的早く終わった方だとは思っているが、その他に、ここの端末で学校内の調べ物をしていると、クラスの皆がそれぞれ席を離れていく。そこで、どうしようかと思っていると、レオが

「達也! 工房見学に行かないか!?」

と言う声が聞こえたので、そちらに向かって、

「僕も一緒にいいかな?」

というと、柴田さんや、千葉さんも一緒に見学に行くことになった。ちょっとばかりレオと千葉さんの間にいさかいみたいなものも発生したが、柴田さんがうまくなだめてくれた。

工房の見学では、千葉さんの知り合いらしい、吉田幹比古という男子、確か僕の前の席にいた少年との大声でのやりとりがあって、1科生についていた先生から睨まれたので、工房見学は中止となったが、時間も中途半端だったので、昼食をとることにした。まだ、食堂はすいていたので、6人がけのテーブルに5人で座ることになったが、意外に工房見学のはなしはつきなかった。

「あそこを恒常的に使えるクラブ活動が、あればいいんだけどなぁ」

「無いみたいよ」

「やっぱり」

そんな話もしていたところに、新入生総代の女子が「お兄様」と達也のところにやってきた。

「深雪……」

「わたしも今から昼食なんです。ご一緒してもよろしいですか?」

達也の妹の司波深雪さんが、一緒にきていた1科生に

「では、ここで」

「えっ?」

「ちょっと待ってよ。司波さん!!」

「ウィード(雑草)と相席なんて……」

「1科と2科のケジメはつけようよ」

聞いててばからしい。たしかに1科と2科の魔法力の平均では、差があるだろう。しかし、1科の下位と2科の上位では、差はほとんどないはずだ。まあ、将来的には、教育を受ける方法の違いから、その差がはっきりしてくるかもしれないというのも、事実ではあろうが、昼食の時間までこれをもちこむとはねぇ。

結局は、食事はおわっていたので、遠隔魔法実習室へ行き、遠隔魔法では10年に1人の英才と言われている七草生徒会長の魔法を見学をしていると、知覚系魔法のマルチスコープのサイオンが見受けられた。しかし、後からきた1科生が

「なんで、2科生が最前でみてるんだ」

って、こちらが先に見ていたからだろう。先生がついてきているのなら、順番として譲るのもやぶさかではないが、自由に見学できるのだから、早いもの勝ちというか、そのために早く見学にきてたんだからなぁ。

自由に見学できる間は、5人で一緒に見学をしていたら、いつの間にやら下校時間がせまっていた。帰りに学校へ預けてあった2台のCADを受け取って、そのうち1台の汎用型CADの左腕につけて、残りは鞄の中に入れて帰ろうとすると、トラブルにまきこまれた。



達也と妹である司波さんが帰るということだったので、僕たちは一緒にまっていた、しかし、司波さんについてきたのが1科生の女子生徒で、難癖を付けつけてきたというのが印象だ。こちらは、なぜかレオと千葉さんが最初に対応していて、僕は相手が女子ということで口をはさむのもはばかられたから、後ろにさがっていたが、そこに達也や司波さんもきていた。そして、そんな1科生に切れたのは、丁寧に見えていた柴田さんだった。

「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

正論のはずだけど、微妙にニュアンスが異なる気もする。となりの達也と司波さんの兄妹も混乱気味のように話しあっている。

「うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」

1科生の言葉に反発した柴田さんが、感情的になりすぎている。平均すれば現時点でもやはり、1科生の方が2科生より実力は上だ。

「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

「ハッ、おもしれえ! 是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

「だったら教えてやる!」

1科生の一人が小型拳銃に似たCAD、特化型CADの『銃口』と形式上言われている方向をレオに突きつけて、すでに起動式が展開され始めていた。
僕の隣では

「お兄様!」

という司波さん言葉が聞こえはじめるうちに、1科生の特化型CADの起動式は、はじき飛んでいた。その風景はなかなかシュールだったかもしれない。なぜなら、千葉さんが警棒状の物を、その1科生の手に下からあてようとして寸前で止まっていたし、レオは特化型CADにつかみかかろうとしていた手を、引っ込めていたからだ。

僕は達也へ声をかけた司波さんの方をみると、達也は右手を突き出していた。何か特殊能力でもあるのだろうかと思ったが、司波さんが僕をみて、

「まさか、術式解体『グラム・デモリション』?」

サイオン光が見えていて、かつ知識があるのなら、そう見えるだろう。新入生総代ということは主席入学だろうけど、高校生として入ったばかりで、その知識があったことにびっくりさせられた。

「いや、僕のは発火念力(バイロキネシス)を、事象改変にはいっさい使わず、起動式へサイオンとしてぶつけただけ。術式解体と似た結果を生み出すけどね」

僕は発火念力を使用できる、今となっては古典的な超能力者に近い、先天性スキルを使える者として学校には申請してある。

そして、1科生の女子が比較的早い起動式の展開を開始しだしていた。けれど、それよりも遠方から、サイオン粒子状の弾丸がその女子の起動式を貫通させて壊していた。比較的遠方からのコントロールは、さすがは七草生徒会長といったところだろうが、その横には別な女子がいて

「風紀委員長の渡辺摩利だ! 君たちは1年生だな。事情を聞きます」

こちらの有無を言わせずに

「起動式は展開済みです。抵抗すれば即座に魔法を発動します」

さーて、どうしようかなと思っていると、達也が風紀委員長の前に近づいていく。その後ろに司波さんも一緒だ。

「なんだ、君は?」

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

とまどっているのは風紀委員長だったが、すぐに質問をしていくのにたいして、達也は1科生の特化型CADを使った生徒にたいしては、森崎一門の早打ち(クイックドロウ)を見せてもらうつもりが、つい手がでてしまったとか、1科生の女子の攻撃性の魔法は、威力の弱い閃光魔法だとか、実技は苦手だが、分析は得意って、いいきっている。

僕では光学系の魔法とまでしかわからなかったが、閃光魔法として、起動式のパターンからわかることもあるかもしれないが、変数の部分が書き換えられた値を読み取るのを分析が得意っていうのは、ものすごく無理がある気はしたが、司波さんが

「兄の申したとおり、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

真正面から深々と頭を下げて、 風紀委員長は毒気を抜かれた表情をして目を逸らしたところで、

「摩利、もういいじゃないですか。達也くん、本当にただの見学だったんですね?」

達也が頷くと、七草生徒会長は

「生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の内に授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」

「……会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように」

僕を含めた1年生の皆は姿勢を正して、一斉に頭を下げた。その僕らに見向きもせず、風紀委員長は踵を返した。そう思ったら、一歩踏み出したところで足を止め、顔だけを達也にむけて、

「君の名前は?」

「1-E、司波達也です」

「覚えておこう」

ここで、終わりかと思ったら、七草生徒会長が僕を見ながら

「名前を教えてくれないかしら?」

なぜだろうと思いながら、

「陸名翔、1-Eです」

「翔くんね。面白いものを見せてもらったわ」

そう言ってから去っていく十師族でもある七草生徒会長に、術式解体を見られたのは何かまずかったかなと、ちょっとばかりの警戒心を覚えさせられた。
 
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