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届いた願い

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第一章


第一章

                     届いた願い
 古屋走輔の趣味はバイクだ。いつも時間があればバイクを飛ばしている。とにかくバイクに乗ることが好きで十六になってすぐに免許を取ってそれからずっと乗っている。
 アルバイトもバイクに乗れるからという理由でピザの配達にした。学校に行くのも勿論バイクでとにかくバイクがないと駄目な男だった。
 その彼にも恋人がいる。名前は村岡優子という。黒髪を長く伸ばした細い女の子であり垂れている目は大きくはっきりしていてその光は優しい。口は小さく細面で眉は目に従うようにやはり垂れている。何処か困ったような表情をいつも浮かべていた。背は高いがそれは女の子としてであり一八〇を超えている走輔よりは小さい。そんな女の子だった。彼とは高校一年ではじめて同じクラスになりそれが縁で大学に入ってからも付き合っているのである。
 二人の仲はとてもよかった。相思相愛と言ってもいい。だが優子には心配事が一つあった。
「ねえ走輔」
「何だよ、またあれかよ」
「ええ」
「ったくよ、いいじゃねえかよ」
 彼はその長身を少し曲げるようにして優子に対するのが常だった。目は小さく眉は曲がっている。髪は茶色にしていて耳を覆わせている。顔は背に比べてかなり小さい。鼻は日本人にしては高めで口は淡いピンク色である。身体はバイクに乗っているだけあって引き締まっている。
「だからバイクはさ、俺の」
「生きがいだっていうのね」
「ああ、そうさ」
 ここでいつも胸を張って言うのだった。
「バイクがないと俺はだめなんだよ。それはもうわかってるだろ?」
「それはわかってるわ」
 優子は彼の言葉に俯いてしまって答える。これも常だった。
「それは。けれど」
「気をつけろっていうんだろ?」
「バイクって。車に比べて危険だから」
 俗に言われていることだ。確かにそういう一面もあるものだ。
「だからね。あまり飛ばさないで欲しいし周りもよく見て」
「バイクは飛ばすものだぜ」
 しかし彼はいつも彼女の言葉にこう返すのだった。
「もうよ。風を切ってさ」
「それでもよ」
 しかし優子はそれでも言うのだった。これも常だった。
「気をつけて。御願いだから」
「親父さんやお袋さんみたいになって欲しくないからだっていうんだな」
「ええ」
 そしてここでこくりと頷くのも優子だった。
「だからね。それは御願い」
「わかったさ。じゃあな」
「お父さんもお母さんもバイクに乗っていて」
 彼女の両親もバイクに乗っていたのだ。
「カーブで対向車にぶつかってね」
「ああ、それな」
 走輔もカーブでの危険さはよくわかっているのだった。
「カーブはとにかく危ないんだよな」
「走輔街道レースもやってるじゃない」
 彼の趣味の一つであるのだ。彼は休日にはよく街道を走っている。その為その筋ではかなり名前を知られた男でもあるのだ。その速さと度胸で。
「だから余計に」
「わかってるさ。そりゃ親父さんやお袋さんのことはな」
 走輔もここでまた俯くのだった。
「わかってるけれどよ」
「それでもバイクはなのね」
「どうしてもな。わかってくれよ」
「けれど本当によ」
 優子の言葉はしつこくさえあった。どうしても走輔のことが心配だったのだ。
「気をつけてよね」
「わかったさ。本当にな」
 こんなやり取りをいつも続けていた。しかし走輔は優子のこの言葉を疎ましいとは思っていても彼女は好きだった。心優しく誰にでも公平な彼女の心のよさを知っていたからだ。
 そして彼女も走輔の一本気で嘘のない性格が好きだった。二人はいつも一緒にいたし優子はバイクにこそ乗らなかったが彼と一緒にいつもいたのだった。
 そんなある日のこと。優子は学校から帰っていた。そこでふと一人の男に呼び止められたのだ。
「もし」
「はい?」
 顔を向ければそこにいたのは青いスーツの男だった。白い、裏地が赤のコートをその上に羽織っている。スーツの襟から見えるカッターは白でネクタイは赤だ。髪は黒くそれで顔の左半分を隠している。涼しげでかつ端整な顔をした痩せ身で長身の男だった。
「貴女のことですが」
「私ですか?」
「まず私のことですが」
 次に男は自分のことを名乗ってきた。
「占い師でして」
「占い師の人ですか」
「はい。速水といいます」
 こう名乗ってきたのだった。
「速水丈太郎といいます」
「速水さんですか」
「はい。宜しければ名前を覚えていて下さい」
 優子にこうも告げてきた。
「宜しいでしょうか」
「はい、速水さんですね」
 優子は彼の言葉に応えて頷く。とりあえずは、であった。
 
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