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SWORD ART ONLINE ―穿つ浸食の双刀―

作者:黒翼
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Silica's Episode
  10:ビーストテイマーの少女

 
前書き

題名で分かる方もいると思いますが、今回はシリカ編です。面倒だから一話で済ませる精神はどうにかした方が良いのだろうか······?
 

 


頭痛。先日の出来事のせいだろう。昨日僕達攻略組は、第五十四層ボス――――《ヴォジャノーイ》との激闘(?)の末、勝利を納めた。

しかし、その際僕は(おおやけ)の場で自身が隠し続けてきたもの――――エクストラスキル《双刀》を使用してしまった。あれのおかげで勝利する事が出来たのだが、問題はその後だった。

《双刀》の出現条件は訊かれるわ、《スキルコネクト》については訊かれるわ、兎に角さんざん。翌日の今日ですら情報屋が押し掛けてくる程だ。更に新聞にはきっちり僕がスクープとして上がっている。

「やれやれ······仮想世界にも個人情報保護法を取り入れてほしいよ······」

深く溜め息を吐く。まぁ、バレてしまっている分何処でも好きなだけ双刀を使えるので狩りの効率は良くなる。その点だけは有難い事なのだが。

「にしてもどうしよう······地図何処にしまったかなぁ······」

何の脈絡も無いが、僕は現在《迷いの森》と呼ばれる地に足を運んでいる。文字通り迷う確率が異常な程に高く、地図を所持していないと入るのすら危険だ。当然僕は地図を常備してきたのだが、何故か無い。

(何処かで落として来たのか······?いや、そんな事はないと思うんだけど······)

一応ポケットを探ってみるがそれらしき感触はない。ならばやはり落としたのだろうか。やむを得ないが、ここは転移結晶で脱出を――――

「――――きゃあぁぁぁぁっ!!!」

「ッ······!!!」

悲鳴。声からして女の子だろうか。否、そんな事はどうでもいい。死なせずに助けろ。僕の本能がそう告げている。本能に従うように、僕は悲鳴の上がった場所へと向かった――――


* * * * *


「ピナっ、ピナぁっ······!!」

(―――――いた!!)

少女は、小さなフェザーリドラを抱きすくめ目尻に涙を溜めている。今にも号泣してしまいそうな表情でフェザーリドラを覗くその視線の先で、フェザーリドラは息絶えた。体が発光し、即座にポリゴンの欠片へと変わる。

「はあぁぁぁっ!!!」

僕はそれと同時に駆け出し、少女に迫るゴリラの様なモンスターに一刀、更にこちらを振り向くよりも速く首を跳ねる。先ずは一体。

次いでステップ、通り抜けざまにもう一体の体を真っ二つに切断する。流石に僕の存在に気付いたのか、もう一体がこちらに突進してくる。僕はそれを刀で受け流しつつ、勢いを利用して一気に切りつける。

「ふぅ······」

納刀と同時に死体が一気に爆散する。僕は泣き崩れる少女の前にゆっくりしゃがみこみ、声をかける。

「君······大丈夫?ごめんね、僕が遅かったばかりに······君のフェザーリドラは······」

「いいえ······私が馬鹿だったんです······調子に乗って、思い上がってたから······」

らちがあかない気がしたので、取り敢えず街までの転移を提案する。あの話をするのは、それからでも遅くない筈だ。僕はポーチから転移結晶を二つ取り出し、片方を渡す。転移する街を叫ぶと同時に、僕等の視界が青白い光に包まれた――――


* * * * *


「じ、じゃあ、ピナは復活させられかもしれないんですかっ!?」

大きく身を乗り出し、僕に問う少女――ビーストテイマー《シリカ》は、微かな希望に目を輝かせている。彼女は中層ゾーンのアイドル的――と言うよりはマスコット的なのだが――存在で、爆発的な人気があるらしい。現に街に戻った途端の勧誘の勢いが凄まじいものだった。

「あぁ······47層の《思い出の丘》って場所があるんだ。そこに《プネウマの花》ってのがあるんだ。······ただ、三日以内にビーストテイマーがそれを取りに行かないと、《心》が《形見》に変化する」

三日以内。それは少女、シリカに取ってどれ程過酷なものかは分からない。助力を願って同行してもらっているキリトは落ち込むシリカに装備品をトレードで送り付け、「俺達も一緒に行く」と言って安心させる。

「まぁ······乗り掛かった船だしね、とことん付き合うよ。」

何故。シリカはその言葉を口にする。大抵、彼女に群がる男性プレイヤーは下心で近付く者の割合の方が多い。それを考えれば、その言葉には頷ける。

「笑うなよ······君が、妹に似てるから······」

顔を片手で覆いつつ、キリトは理由を話す。吹き出しかけたが、なんとか抑える。

「僕は······現実で世話を焼く事が多かったし、それでかな」

姉妹の事とは黙っておくが、あながち間違えではないと思う。シリカは笑みすら浮かべている。若干照れるキリトは他所に話を纏め、その旨を伝える。

「一応僕らもここの宿に泊まっていくから、何かあったら呼んでほしい」

一々ホームに戻って帰ってくるのも面倒だ、という出かかった言葉を飲み飲む。しかし、キリトは何か隠している様に見える。僕が気にする程の事でなければいいが――――


* * * * *


――――翌朝、エントランスにて集まった僕等は即座に準備を済ませ、出発する。どうやら《思い出の丘》についての説明はキリトがしておいてくれたようなので正直助かった。

「じゃあ、この層の説明を少し。ここ47層······フローリアは、フラワーガーデンと言われていて、デートスポットなんかで有名なんだ」

周囲を見渡せばリア充、リア充、リア充······並みの精神では一人で通り抜けるのは憚られてしまうだろう。独り身慣れっ子の僕には何の関係もないが。

「基本的に前衛は僕とキリトで、シリカは後方で待機。たまに小突くくらいしてレベルも上げていこう」

「りょーかい、まぁハリンと俺どっちか一人でも前衛は事足りるけどなぁ」

キリトの呟きに実際その通りだろうなと思う。最前線とは大きく離れているこの47層だと、ピクニック気分で戦闘しても問題はない。余裕をぶっこいて醜態を晒すこともないだろう。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「は、はいっ!」

シリカの返事と共に、僕等は勢いよく走りだしたのだが――――


* * * * *


「きゃあぁぁぁっ、助けて下さいっ、見ないで助けて下さいっ!!」

「それは······無理かな······」

「んな阿呆な······」

シリカの絶叫に、僕、キリトの順で答える。いくら雑魚とは言っても、目を閉じて戦うような自殺行為を行う訳にはいかない。ここは諦めてもらおう。

「このっ、いい加減に······してっ!!」

スカートの裾を押さえていた手を離し、体勢を整えて自分を捕らえていた触手を斬り落とし、ソードスキルを立ち上げる。花形のモンスターの頭中央部分にダガーが突き刺さり、モンスター――《フリューグ・ネペント》はポリゴン片となって宙を舞った。

「······見ました?」

というシリカの問い掛けに、

「ああ、キリトは面白いぐらい釘付けだったね」

「ちょ!?」

と返す。実際視線をキリトに向けたら目を見開いて見ていたのだから致し方ない。そんなやり取りを数回繰り返したところで、話題はキリトの妹話しへ。

若干話す事に戸惑いを見せたキリトだったが、やがてぽつぽつと話し出す。

――――曰く、自分とその妹は実際は血が繋がっていなく、本当の家族では無く、それを小学校の時に気付いたキリトは以来ずっと避け気味になっていた事。

――――曰く、自分が剣道を止めると言い出した時親に散々打たれたが、妹が「自分が二人分頑張るから打たないで」と言った事も後押ししている事。

――――曰く、妹は本当は、やりたい事を出来なくて、自分を恨んでいるのではないかと言う事。

「何か複雑だね······けど、恨んではいないと思うよ。キリトの為、って言う事が一番だと思う」

「そ、そうですよ!キリトさんはは優しいですし、恨まれてはいないと思いますっ!!」

気休め程度の戯れ言かも知れない。けど、少しでも気持ちを楽に出来るのならかけるほうが良いに決まっている。

「ありがとう······じゃあ、ここからペース上げてくかっ······!」

吹っ切れてはいないのだろうが、大分気分が良くなったのだろう。(つくづく)良かったなと思う。僕等はそのまま足を進めた――――


* * * * *


「見えた、《思い出の丘》だ!!」

漸く目的地に辿り着いた。道中にシリカのレベルが一つ上がるという幸運な事もあったが、それは置いておこう。あそこに《生命原理(プネウマ)の花》が――――

「――――ない······?」

確かに存在する筈のそれが、無い。いったい何故?ビーストテイマーは連れて来た。条件は満たしている筈だ。

「いや、よく見てみろ」

キリトの一言に、目を凝らして先を見つめる。すると、丁度花が芽生えた。成る程、ビーストテイマーが来た事に反応して咲くのか。

「さて、これで目的も達成だな······帰ろうか」

キリトの一言に頷く。が、僕等はまだシリカに目的を隠している。伝えれば厄介な事に発展しかねないので伝えはしないが、心中で謝っておく。

転移結晶を使わずに、歩く。とりとめのない会話が飛び交う中、目的の橋の辺りに辿り着く。

「こそこそ隠れてないで出てきなよ、いるのは分かってるんだ」

唐突に、木に向かって叫ぶ。シリカは何の事だと混乱しているが、キリトは至って普通。索敵スキルが働いているのだろう。

「へぇ······私の隠蔽(ハイド)スキルを見破るなんて、中々の索敵(サーチ)スキルね、剣士さん?」

「それはどうも」

ここで「(しわ)が目立っていたからだ」と挑発してもいいのだが、融通の利かないおばさんにそう発言すれば瞬時に襲いかかって来そうなので止めておく。

「そっちの隠蔽もそこそこですよ、ロザリアさん······否、オレンジギルド、《タイタンズハンド》のリーダーさん?」

口角を吊り上げ、そう問う。眉を動かし、「へぇ······」と感嘆の声を漏らすロザリア。

「そこまで知っていてそこのガキに付き合うなんて、あんた馬鹿?それとも体でたらしこまれちゃった?」

「発想が汚いおばさんだね······生憎貴方の想像とは違いますよ。僕と、そこの黒いのは貴方達が目的でこここにいるんです」

「あんたは数日前、《シルバーフラグス》ってギルドを襲っただろ?リーダーだった男は、必死に敵討ちの依頼を出してたよ。けど、アイツは《殺す》んじゃなくて《監獄送り》にしてくれって言ったんだ。······あんたにこの気持ちが分かるか?」

ドスの利いた低い声でそう問うキリトに若干の殺意が混じっているのを感じ取るが、殺すまではしないだろう。

「分かんないわよ······マジになっちゃって馬鹿みたい」

髪をくるくる回し、余裕を見せるロザリア。あの顔が恐怖と敗北で歪むところを一瞬想像するが、頭を降って振り落とす。

「そっか······じゃあ、これ以上の会話は不要だね。行くよ······?」

二本の刀を抜刀。キリトは後ろのシリカに指示を出してから愛用の片手長剣を背中の鞘から抜き放つ。《エリュシデータ》。第50層のボスとの激戦の末にキリトが入手した漆黒の片手長剣で、《魔剣》と呼ばれる武器の一つだ。

「お前等、出てきなっ!!」

木の影から、隠れていたメンバーが飛び出す。それと同時に、驚愕の表情に包まれる。

「盾無しの片手剣に、黒い装備······もう一人は、刀二本に黄金のコート······!?」

「ロザリアさん、やべぇよ······あいつら《黒の剣士》と《神殺し》って異名で恐れられてる、《攻略組》だっ·····!!」

その言葉に一瞬気圧されるロザリアだったが、相手に不安は悟られまいと強気に指示を出す。逃げれば良いものを。無論逃がしはしないのだが。

「死ねやぁぁぁっ!!!」

僕に斬りかかってくる青年のプレイヤーの曲刀を愛刀《マーニス・シン》で弾き飛ばして、溝を蹴る。相手が《グリーン》ならこちらが《オレンジ》になっているところだったが、生憎相手は《オレンジ》だったので安堵の息を漏らす。勢いよく吹っ飛んだ青年はダウン、一人の無力化を完了。

次いでキリトを斬りつけまくる集団に紛れて全員の武器を粉砕、これで残るはロザリアのみ。それはキリトが何とかしてくれるだろう。

「言っとくが俺はソロだ······一日二日オレンジになるくらいどうってことないぞ······!!」

先程よりも更にドスの利いた低い声が聞こえてきたのは、僕が全員を回廊結晶(コリドー)に放り込んだ後だった。その後キーキーと騒ぐロザリアをキリトが強引にコリドーに放り込んだ後で、一度帰ろうと提案する。僕等三人は転移結晶を使って宿まで戻った――――


* * * * *


「えっと······先ずはごめん、囮にするような事しちゃって······!!」

「い、いえ、そんなっ······」

僕等が攻略組と知ったからか、シリカは接し方に困っている様子だ。それもその筈。

「危険な賭けだとは思ったけど、方法が無くてな······」

キリトも頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。シリカは両手を振って「大丈夫」と言い、早速《ピナの心》と《プネウマの花》を取り出す。

「キリトさん、ハリンさん、本当にありがとうございました······!!」

「良いって、俺のは何か······自己満足みたいなもんだからさ」

「僕も、結局自分が満足に浸る感覚で助けただけだし······感謝は必要ないよ」

シリカは目尻に涙を溜めて、もう一度僕らにお礼を言う。その後、手に持った《ピナの心》を一瞥する。

「ピナ、蘇生出来たら、一杯お話しをしてあげるね······たった一日だけの、お兄ちゃん達の話を······」

そんな言葉が、聞こえた気がした。シリカは目に溜まった涙と共に、《プネウマの花》の雫を一滴《ピナの心》に溢す。青白い光が宿を照らすと同時に、小さなフェザーリドラの声が響き渡るのだった――――

 
 

 
後書き

シリカ編でのキリト君の装備は、原作同様に黒の剣士装備になっております。
 
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