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ファーストデート

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第四章


第四章

「あんた達店の前じゃ静かにしてくれないかい?」
「迷惑なんだよ」
 男連中は店の親父さんとおかみさんに睨まれていた。
「お母さん、あのお姉ちゃん達」
「しっ、見ちゃいけません」
 女連中は親子連れに指差されていた。しかしどちらもそんなことは見ていない。
「よし、やったな紅茶と苺ケーキ」
「わかってんじゃねえかよ」
「そうそう、そのポーズよさリげなく身体を屈めて」
「胸はなくても胸元を見せるセクシーさよ」
 相変わらずそれぞれの場所で騒いでいる。完全に下手なセコンドであった。
「そうだよ、そうやって楽しくお喋りするんだよ」
「ムードを作ればいいんだよ」
「そうそう。にっこりと笑ってね」
「いい感じにやってるじゃない」
 彼等は二人を見ながらまだ騒いでいる。しかし二人はそんなことには全く気付かず何時しか携帯のことも忘れ。楽しくデートの時間を過ごしだしていた。
「それじゃあさ」
「そうよね」
 紅茶とケーキを食べ終えてそのうえで喫茶店を後にする。それから向かったのは野球場であった。これもそれぞれの友人達の勧めであった。
「いいか、野球は阪神だ」
「御前が阪神ファンでよかったぜ」
 男連中は瞬に対して言っていたのだ。
「都合のいいことに梓ちゃんも阪神ファンだろ?」
「だったらそこにしろ」
 こう言って彼に野球場でデートするように説得というか強制したのである。
「一緒に応援してムードを完成させろ、いいな」
「それで行け」
 こうして彼にその野球場に行かせた。そして女連中の方もまた梓に対して言っていた。これもまたかなり厄介な話になっていたのである。
「いい?いつも相手の横でね」
「寄り添って上目遣いで見て」
 仕草に関するレクチャーが続く。
「脚よね、とにかく見せるのは」
「身体も密着させてね」
「そういうのもさりげなくなの?」
 また皆に対して問う梓だった。
「やっぱり。さりげなくなの?」
「当然。あからさまは駄目よ」
「全ては計算で動くのよ」
 女連中もここぞとばかりに話すのであった。
「わかったらそれで行きなさい、いいわね」
「いざ戦場へ」
 こんな話をしていたのである。二人はそのまま球場に向かって行く。球場では阪神側に座る。阪神は一塁側であった。そして男連中も女連中も球場に入って行く。相手はロッテであった。時期は丁度交流戦の時であったのだ。それでも結構暑く誰もが薄着であった。
「さてと、それじゃあな」
「あの二人どうなるか」
 男連中は三塁側のベンチのすぐ上に位置した。
「上手にやりなさいよ、梓」
「ここがメインだからね」
 女連中はその隣である。なおお互いには全く気付いてはいない。
 当然ながら周りにも気付いていない。白いユニフォームのチームは縦縞ではないとはいえ阪神だけではなく熱狂的なファンがバックにいるのも阪神だけではないということもこの時は全く考えていない彼等であった。
「ここで可愛くみせたらあんたヒロインよ」
「頑張りなさいよ」
 そんなことを言うばかりだった。やはり周りは見えていない。阪神主催の試合だというのに巨大な文字が描かれた幕を見せている彼等を。
「よし、そうだよそう」
「わかってんじゃねえかよ」
 男連中は望遠鏡まで出して瞬を見ながら言っていた。二人は一塁側スタンドの上の方にいる。そこから試合を見ているのであった。
「そうだよ。さりげなくプレゼントな」
「コーラとポップコーンな」
 彼等もまたポップコーンを買って貪っていた。しかも学生の分際でビールまで買ってごくごくとやっている。なおそれは女連中もであった。
「いけいけ、やれやれ」
「梓ファイトよ」
 女連中もビールを飲みながら言う。肴はやはりポップコーンだ。
「そうやって脚を相手に寄せるのよ」
「わかってるじゃない」
「?何だこの連中」
「マリーンズ応援してないのか?」
 ここで周りの白いユニフォームにエムの字の帽子の者達が怪訝な声をあげた。
 
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