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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第6話:嫌よ嫌よも、好きのうち……なワケないだろ!

(グランバニア城・会議室)
ティミーSIDE

アルルとの新婚旅行も終わり、2週間ぶりに我が家……グランバニア城に帰ってきました。
昨晩の遅くに戻ってきてたのですが、父さんは何時もの様に夜は忙しく、他の方々も軍部のトップたるピピン大臣以外は現在進行中の政務で忙しく、帰宅の挨拶を皆様にしたのは翌日の午後……つまり今になってしまいました。

朝一は家族にだけは挨拶しましたが、午前は謁見等で皆さん忙しく、昼食を挟んで午後の会議の場で正式な挨拶をし無事な事を諸先輩方にご報告致しました。
ピピン大臣にだけは昨晩のうちに挨拶しましたよ。

父さんが国王に就き、謁見を午前中だけにし謁見数を1日5件までと定め政務を一新した時から、本当は午後一からはその日の謁見に関する会議をするのが決まりだったのですが、国王がちょくちょく抜け出してたので、以前は週一ペースでの会議だったんです。

しかしウルフ君がグランバニアに来て、父さんをビシバシ働かせる様になってからは、週一が週三に変わり……最近では謁見のあった日の午後は必ず会議をすることになりました。
一見凄い進歩の様な気がしますが、この姿が本来の決まりであり、今までがサボりすぎだったワケで……

まぁ何を言いたいかと言いますと……
ウルフ君の存在と、彼の勢力(ちから)の付け具合は凄いなと思います。
一月くらい前に母さんが流した“リュカは今までサボってたんじゃない。周囲に実力が付くまで待ってたんだ”って噂は、満更嘘ではなさそうですね。

「挨拶はそのくらいで良いから座れティミー。今日の会議は議題が決まってる……お前が旅行中に色々あって、その事を話し合うことになってるから」
「何か問題でもありましたか!?」
どうやら僕が居ない時に重大な問題が発生したらしく、真面目な表情で父さんが話しかけてくる。

「問題というか……面倒事だ、僕にとっての」
「はぁ、父さんにとっての面倒事? またアリアハン王が何か要求してきましたか?」
この人が面倒臭がること……即ちプサンさんが関わってる! って考えるのは失礼かな?

「あのヒゲが事前に要求を言うものか! 何時も一方的で突然だ……会議などしてる暇はないさ。なぁウルフ……」
「さぁ……私には判りかねます。陛下のお考えも神様のお考えも。それより今回の議題について早々に話し合いたいんですが……宜しいですかティミー殿下?」

僕は急いで席に着き無表情で問いかけてくるウルフ君に頷き合図する。
どうやら一番面倒事に巻き込まれてるのはウルフ君の様だ。
何時ものフレンドリーさが微塵も無い。

「では私からティミー殿下に、これまでのことを説明します……と言っても、ご不在中の事だけではないのですが……」
不在中だけではないとは……?
僕が居る時のことなら何で今更なんだろうか?

「殿下も知ってると思いますが、陛下への謁見で時折現れる馬鹿が居ます」
ああ居るなぁ……父さんが一番嫌う願いをしてくる馬鹿が。
「それは“力試し”の連中ですか?」

「はい。陛下の強さは世界に知れ渡ってます。この世界を平和に導いた立役者ですし、勇者様の父親で……しかもその勇者様すら勝てた事のない猛者ですから。それに当の勇者様が、各国で戦いを挑まれる度に『いえ私などより、私の父の方が強いんです。一度も勝てた事がありませんから』と爽やかに言い回ってる為、世界中の人間がグランバニア王の強さを体験する為に集まってきます」

あれ……もしかしてウルフ君……怒ってるのか?
仕方ないじゃないか! 僕だって一々戦うのは面倒臭いし、父さんに勝てないのは事実なんだから!
父さんが怒るのは解るけど、何でウルフ君が怒ってるんだ?

「陛下は大層面倒臭がり屋様でいらっしゃいますから、『世界一の強さを誇る男と戦いたい!』とか『俺の方が強い! それを証明してやるから俺と戦え!』とか言ってくる御馬鹿様を御自ら相手する事は稀です。ですから殿下も陛下の命令で戦わされた事があるでしょう、謁見の間で」

うん、ある。『え~めんどくせー……ティミーがやってよ、ってかやれ!』と言われて相手した事が何度もある。
「殿下が不在の時も、その手の愚か者が多数居りました。酷い時には1日に3名も……」

「それはそれは……ご苦労様です陛下(笑)」
僕は父さんのゲンナリした顔を思い浮かべ、笑いながら労いの言葉を呟いた。
しかし……

「笑い事じゃねー!!」
ウルフ君の激しい怒りを浴び、正直驚いた。
本当に何があったんだろう?

「このオッサンが素直に3人と戦う訳ねーだろ! 『え~3人は面倒臭いよぉ……先ずは3人が同時に戦って、勝利した人と戦うぅ~』って、その場でバトルロイヤルさせたんだぞ! 謁見の間だぞ……謁見する為の場所で大柄な男3人が、手持ちの武器を振り回し始めたんだぞ!」
そ、それは……

「絨毯はグチャグチャになり買い直し……壁は傷だらけ、扉は破壊され、芸術性の高い彫刻や絵画はもう……」
そこまで言うとウルフ君は下を向き振るえる……そして……
「あそこで暴れる事を許可するな馬鹿! この馬鹿!!」
相当酷い状況になってたんだろう。ウルフ君の怒りは未だに収まらないみたいで父さんに罵声を浴びせかける。

「……し、失礼しました殿下」
「い、いや……別に……大丈夫です」
自分で言ってて変だと思う返答。でも何て言えば良いのか……

「謁見の間は、その日のうちに業者を呼び直しましたが、彫刻や絵画は直しようがなく今は何も飾ってない状況です。今まで陛下に挑戦をしてきた者は、本人が言うほど実力がある者は皆無だった為、謁見の間が破壊される様な激戦になる事はありませんでした。しかし、実力が拮抗している者同士が戦いをすれば、周囲に及ぼす影響(被害)は計り知れず、二度と起こしてはならない過ちだと学んだのです」

「では……今日は何を話し合う予定で?」
「はい。その後も“自称最強”の挑戦者は絶える事なく、陛下への負担(時間的&精神的)が大きく、打開せねばならない案件である事は事実」

「では、今日はその打開案を「いえ違います殿下。打開案の概要は既に決まっており、先ずは殿下にその旨をお伝えしようと思っております」
既に概要は出来てるの!?

「流石ウルフ君だね、もう打開案を用意してるなんて……グランバニア国王の懐刀と呼ばれるだけはある」
「恐縮です……が、概要案を出したのは私ではありません、殿下」
え? じゃぁ誰が……?

「殿下の妹君が打開案を提示してくれました」
「マ、マリーが!?」
不安だなぁ……あの()は父さんに似て非常識な所があるからなぁ……
あ、でも……既に議題とされてるってことは、それなりに有効だと思われてるのかな。どんな案だろうか?

「それで具体的にどの様な打開案でしょうか?」
「はい。数年毎に武術大会を開き、その優勝者にだけ“陛下との手合わせ”を許そうという事です」
なるほど、それなら父さんも楽だろうし、周囲への影響(被害)も場所を選べば問題なくなる。

「良い案ですね、僕は賛成です」
「もうお前の是非など問題じゃない。この提案で動き出してるんだよ……だからウルフが機嫌悪いんだよ(笑)」
はぁ? もう動き出してて、それの所為でウルフ君が機嫌悪いのって……どういう事?

「殿下がいらっしゃらない時の会議で、私がこの提案をしたら……満場一致で可決されました。そして、その後で陛下が仰ったんです……『どうせなら一石二鳥……いや三鳥くらいは狙っちゃおうぜ』と……」
一石二鳥や三鳥?

「つまりこの武術大会を大々的な催しとし、経済的効果も発動させてしまおうと陛下は仰いました。具体的には、武術大会に一般の観客を入れる。海外からも武術大会を見に来て貰う。そうすれば近隣の商店や食事処は収入が増え、宿屋も客が舞い込み潤う。勿論、見物料も取る様にすれば儲かるでしょう」

「ちょ、ちょっと待って下さい! いくら何でもそれは……第一、父さんと戦いたがる馬鹿がそんなに大勢居るとは思えません。世界中から見物客が訪れるとは……」
「そこは大丈夫です。陛下の提案では、優勝者には優勝賞品の選択をさせるんです。つまり陛下と戦う事を望む者は『陛下と手合わせ』を選択、お金が欲しい者は『優勝賞金を』と宣言。また今後の話し合いで決めて行こうと思いますが、それ以外の事で報いるのもありだと思います」

「そういう訳で、今日は細かい部分を決める会議をしようって事だ」
普段はいい加減な振る舞いをしてるのに、考える事は考えてるんだなぁ……
だから格好いいのか? だから好かれるのか?

「んで、僕からの提案なんだけど……大会のルールとして絶対に“殺しちゃダメ”ね。不殺が絶対のルール……これは主催者である国王が誰になろうと変えちゃダメ! その事を諄いくらい明記しておいて」
大賛成だ。戦いだからと言って“敗者”=“死”とは限らない。

「しかし陛下……」
国王()が『絶対』と言った提案に会議室の誰もが頷いてる中、一人だけ意見を主張する者が居る……彼の名はパトリモーニ・レガシー。グランバニア財務省の次官殿だ。

財務大臣は国王が兼任してるので、実質的に財務省のトップにあたる。
その為、各省のトップが集まる場には、財務省のトップとして出席する……財務省としての意見を言う為に。

「民衆は派手な見世物を好みます。世界中の人々を呼び寄せ利益を上げようとお考えでしたら、今少しご考慮願えませんでしょうか?」
彼は平民から財務省次官に上り詰めた優秀な人だ。

だからこそ、各省の大臣が集まる場で唯一の次官という弱い立場に憤りを感じている。
僕やオジロン・ウルフ君みたいに、父さんに強い口調で意見を言う事は出来ないが、自らの仕事を理解し他の大臣等には言えない意見を言ってくる。
だから父さんも彼を登用したのだし、彼もその事を理解して働いている。

「パトリモの言いたい事は解るよ。民衆が何を求めているのか……でもね、求められたからと言って何でも与えるのは違うと思う。それに“敗北”=“全てを失う”ってワケじゃないんだ。敗北すれば多くを失うけど、得るものもある。僕がそうだよ……昔、魔族に敗北した所為で、父を失い奴隷となって青春時代を失った。でも得た物もある……奴隷という立場の気持ち、上に這い上がる為努力する気持ちだ。これは王になった今でも、生かされてると思ってる」

父さんだからこそ言える思い真実。
それでも口調は優しく、パトリモーニさんを叱る様子は微塵も無い。
ただ諭そうとしているだけ。

「この大会は、今後続けて行く予定だ。1度の大会で負けたからと言って、2度と戦えないなんてつまらない。負けた事で成長し次の大会で勝利する事が出来れば、それはドラマティックな事じゃないか! 大会ではその事等を取り上げ、各選手を目立たせれば盛り上がる事間違いないと思うよ」

「なるほど……陛下の仰る通りです。出過ぎた事を言いました、申し訳ございません」
パトリモーニさんは素直に謝罪し、父さんも気にするなと手を振り応える。
流石父さんが財務を任せる人だ。

「しかし……そうなると大会出場者の名簿を作らなきゃならなくなるなぁ。それ、誰やんの?」
「お前だウルフ。お前なら出来るだろう(笑)」
ウルフ君の質問に笑いながら応える鬼上司……そして他の大臣等は静かに傍観。みんな鬼だ……僕も含めて。

「ざっけんなよ! そんな暇ある訳ねーだろ馬鹿!」
「大丈夫大丈夫。大会は“一次予選”・“二次予選”と二つの予選を設け、それを勝ち抜いた16名が本戦へと出場できる決まりにすれば良い。そして客に見せるのは、大会本戦だけにするんだ」

「だから何だ!? 名簿を作らなきゃならないのは同じだろが!」
「でも、本戦出場した者だけには詳細なプロフィールを記載して、予選敗退者は『一次予選敗退』や『二次予選敗退』と記載すれば良いんだよ。これで量は減る」
減るけど……

「あの陛下、その役目は軍務省が受け持ちましょうか? 僭越ながら、この大会を軍務省管轄にして戴き、運営委員会を設置させて下さい」
「え……出来るの? 馬鹿な軍人等にそんな事が出来るのかい?」
失礼な男だなぁ相変わらず。

「はははははっ、大丈夫ですよ陛下。私は馬鹿ですが、部下等は優秀です。陛下の部下と同じく優秀な者が大勢居り、馬鹿な私を補佐してくれます」
「でも……僕の部下は言う事きかないよ。ピピンの部下は大丈夫?」

「さて……私の力量次第でしょう(笑)」
ピピン大臣の申し出に明るい笑顔を見せてたウルフ君だったが、最後の一言を和やかに言われ笑顔が引き攣っていた。

「じゃぁ大丈夫だな。ウルフの様な“優秀だが言う事をきかない部下”はそう居ない。みんなピピンをサポートしてくれる者ばかりだろう」
父さんはウルフ君の頭を小突きながら、ピピン大臣の部下……つまりピピン大臣の指導力までもを評価した。

小突かれてるウルフ君は口を尖らせ「お前が無茶ばかり言うからだろが……」と、“言う事をきかない部下”代表として反論してる。
良いなぁこの雰囲気(笑)

ティミーSIDE END



 
 

 
後書き
ちゃんとリュカさんも王様してるんだね。 
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