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ラオコーン

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第五章

 ラオコーンはあらためてだ、男に対して言った。
「ではだ」
「来て頂けますか」
「うむ、疑って悪かった」
「いえいえ、慎重であることは素晴らしいことです」
 男は彼に笑顔で答えた。
「それでは」
「うむ、今からな」
「父上、それでは」
「我等が剣を持って行きますので」
 息子達はこう言ってだ、そしてだった。
 実際に剣を持ってそのうえでだ、彼らに使える者達に神殿の中も調べさせて背中も守らせてからだ、海岸に向かった。
 海岸にはだ、一人の女がいた。女は見たところ中年だった。
 背を向けてそこにいた、その彼女を見て。
 ラオコーンは案内をした男にだ、あらためて問うた。
「このご夫人がか」
「左様です」
 その通りだというのだ。
「貴方にお話があるとのことです」
「一体何の用件だろうか」
「それはお聞き下さい」
 男は丁寧な口調でラオコーンに言った。
「我が妹に」
「妹!?」
「左様」
 ここでだ、女もだった。
 顔をラオコーン達に向けて来た、その顔は熟した美貌に満ちていてだ、特にその目は牡牛の目であった。
 その牡牛の見事な目でラオコーン達を見てだ、彼等に問うてきた。
「ラオコーンと息子達だな」
「そうですが」
「わかった、ではだ」 
 それではと言ってだ、女は。
 男に顔を向けてだ、こう言った。
「兄上、それでは」
「うむ、ではな」
「あれを」
「ラオコーン、そして息子達よ」
 男は暗い、何かを含んでいる顔で三人に言って来た。
「海を見るのだ」
「海!?」
「海をだと」
「そうだ、よく見るのだ」
 夕闇の中に消えていこうとしているその海をというのだ。夕陽に照らされて赤と波の銀で彩られていた海は次第に闇の中に消えようとしている。
 男はその海を見よという、すると。
 その海の中からだ、突如として。
 夜の闇よりも黒い巨大な禍々しいものが出て来た、それは。
「なっ、あれは」
「蛇か!」
 息子達はそれを見て驚きの声をあげた。
「大きいぞ、どれだけあるのだ」
「あの様な大きな蛇は見たことがないぞ」
「こちらに来るぞ」
「いかん、父上お逃げ下さい」
「逃げてもらっては困る」
 男も女もだ、息子達もラオコーンも見て言った。
「御主達にjはな」
「まさかこの海蛇で」
「我等を」
「その通りだ」
 男が息子達に答えた。
「我等の邪魔だ、消えてもらう」
「ギリシアの者か」
 ラオコーンは男、そして女も見据えて彼等に問うた。
「どうしてここに来た」
「ギリシアの者というか、我等が」
「そうではないのか、だからこそ我等を」
「ギリシアの味方をしているのは確かだ」
 男もそのことは認めた。
「我等はな、しかしだ」
「しかし?」
「よく見るのだ」
 男は右手に持っているそのトライデントを前に出してだ、ラオコーン達にまじまじと見せた。そうして言うのだった。
「これをな」
「それは」
「そうだ、これは贈られたものではない」
 ポセイドンから、というのだ。 
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