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ペットを買おう

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第二章

「ある会社のね」
「OLさんですか」
「君大学生よね」
「はい、一年です」
 大学の、というのだ。
「入学したてですけれど」
「そうなの、今はどうしてるのかしら」
「どうしてるっていいますと」
「一人暮らしかしら」
「そうなんです、大学の寮にいまして」
 家族とは別れて暮らしている、そうした意味で一人暮らしだというのだ。
「一人です」
「そうなの、年齢は十九かしら」
「一浪してまして」
 男の子は横にいる蜜の笑顔を見ながら答えた、何気に蜜の膝までのスカートや服の上からガードされながらも形は出ている胸を見つつ答えた。
「二十歳です」
「だからお酒も飲んでるのね」
「そうなんです」
「大学は何処かしら」
「八条大学です」
 男の子は通っている大学についても答えた。
「そこの法学部です」
「法学部ね、私も八条大学だけれど」
「あっ、先輩になるんですか」
「そうなるわね」
 このことは本当のことだ、蜜は話を聞いていてこれは都合がいいと思った。大学の先輩後輩の関係でもあるのなら。
「確かにね」
「そうですよね、先輩ですか」
「奇遇よね」
「こんな綺麗な人が先輩なんて」
「あら、お世辞かしら」
 男の子の今の言葉にはだ、蜜は微笑んで返した。
「それは」
「いえ、それは」
「違うっていうのね」
「はい、先輩本当に」
「嬉しいわ、そう言ってもらって」
 さりげなくだ、蜜はその黒く長い絹の様な髪を右手で掻き分けて答えた。飲んでいるのは日本酒である。
「私も」
「そうですか」
「ええ、それでだけれどね」
「はい」
「君の名前は何ていうのかしら」
「宮部です、宮部有一です」
 男の子は蜜にすぐに答えた。
「京都からこっちに来てます」
「それで今は八条大学の寮暮らしなのね」
「そうなんです」
「私はね。蜜っていうの」
 あえてだ、蜜は名前から名乗ってみせた。
「眞鍋蜜。八条フードに勤めているの」
「八条フードですか」
「そこの開発課にね」
 いると話した、これも本当のことである。
「ずっと勤務しているわ」
「そうなんですね」
「それで有一君だけれど」
「はい」
「今日時間あるかしら」
 さりげなく相手の名前を君付けで呼んでみせての問いだった、そうして相手の心に自分の手を絡み合わせたのだ。
「あればね」
「はい、あれば」
「一緒に飲んでくれるかしら。私今時間があって」
 それで、というのだ。
「困ってるから」
「だからですか」
「ええ、いいかしら」
 流し目でだ、有一に問うた。
「そうしてくれるかしら」
「あの、そうしていいんですか?」
 有一は戸惑いを隠せない声で蜜に問い返した。
「僕と」
「いいわよ。遠慮はしないで」
「そうですか、じゃあ」
 何しろ大人の雰囲気をこれ以上はないまでに醸し出す美女の誘いだ、まだ二十歳になったばかりの有一に抗することは無理だった。
 そうして蜜と二人で飲んでだ、その後で。
 蜜と一緒に店を出た時に、だ。右手を抱かれてこう言われた。
「まだ時間あるかしら」
「あ、あれば」
「寮は大丈夫かしら」
「うちの寮門限とかないんで」
「時間はあるのね」
「あれば」
「少し。酔ったから」
 上目遣いでだ、蜜は有一に言った。 
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