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離れられない愛

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第一章


第一章

                       離れられない愛
「永遠よ」
「勿論だよ」
 フランチェスカ=アラゴーナとロレンツォ=ガエターノはこう誓い合った。二人はそれぞれ北イタリアの有力な貴族の家に生まれており幼い時にそれぞれの婚姻政策により知り合った。
 つまりは彼等は両家の都合で結ばれることになった。しかしそれでも彼等は一目会ったその幼い時に互いに心を奪われ惹かれ合ったのである。
 フランチェスカは黒い髪に瞳を持っている可憐な女だった。まるで百合のように儚い外見をしており今にも折れそうな姿をしている。
 そしてロレンツォは金髪に青い目をしており長身で逞しい身体をしている。まるで太陽のように溌剌とした輝かしい美貌を持っている青年であった。
 二人は幼い頃から常に一緒にいて共に遊んでいた。その彼等の仲は誰にも裂くことのできないものになっていた。それは両家の者達も同じであった。
「今のところ事情が変わっていないのでいいが」
「そうですね」
 ガエターノ家でもアラゴーナ家でも多少困惑しながら話が為されていた。
「事情が変わって二人を分けることになると」
「どうしたものでしょうか」
「今となっては無理だ」
 二人の父親達はどちらもこう考えていた。
「最早な。それは」
「分けることはできませんか」
「分ければ間違いなく自ら命を絶つ」
 そしてこう予想するのだった。
「その時はな」
「ではどうしてもですね」
「カプレーティ家とモンテッキー家の悲劇は聞いている」 
 この話は当時のイタリアに広く伝わっていた話だ。敵対する双方の家の子弟達が惹かれ合いそうして命を絶った。その話は彼等も知っていたのだ。
「それはな」
「ではやはり」
「幸い我等の関係は良好なままだ」
 どちらの父親も言った。
「ならばだ。このまま結ばせる」
「はい。それでは」
 こうして彼等は結ばれることになった。ロレンツォもフランチェスカも華やかな婚礼の式の中で幸せに結ばれた。二人の幸せな生活はここからはじまった。
 二人はいつも共にいた。朝も昼も夜も共にいた。書を読むのも乗馬をするのも狩りをするのも共に行った。フランチェスカは本来は狩り等は得意ではなかった。ロレンツォは読書をするタイプではなかった。しかしそれでも彼等はお互い仲睦まじく共にいた。
 当然寝食も同じだ。政務の時もロレンツォはフランチェスカを側に置いていた。幸いにして彼女は賢明にして慎み深く普段はそっとそこにいるだけで機を見て夫に耳打ちする。その耳打ちが実に的確でありそれによって夫を助けていったのである。
 二人の関係はまさに水魚の交わりであった。子供達が生まれ幸せな生活は続いた。しかし幸せは永遠には続かない。歳月が経ちフランチェスカは病に倒れた。もう初老の歳になっていた彼女は身体を弱くさせてしまっていたのだ。まだその美貌は健在だったが。
「すぐによくなる」
 その彼女の枕元でロレンツォは優しく言った。
「すぐにな。安心していい」
「いえ、それはわかるわ」
 しかし彼女は穏やかに微笑んで枕元に座っている夫に告げた。
「自分のことはね」
「まさかとは思うが」
「ええ。もうすぐね」
 その穏やかな微笑を夫にも向けての言葉だった。
「もうすぐ。私は」
「そんなことは有り得ない」
 ロレンツォはその言葉を必死に否定した。
「絶対に。有り得ない」
「私が死ぬということが?」
「君は死なない」
 彼はそれを否定し続ける。
 
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