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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

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≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
  ≪外伝≫ かなわないけれど

 
前書き
今回、文字数が少ないです。たったの4600文字!

今回の語り手?はインディゴさんです。読めば分かるようにできてると思いますが念のため。 

 
 螺旋階段の向こうから漏れる松明の光を見て、ふと私は思い浮かぶ。昔の友達が私に対して持ち掛けた、あの夢物語を。






「オレは、どうしても、どうしてもベータテスターと新規プレイヤーとの関係を何とかしたい」

 私が宿泊している民家の一室で、ソファに座りながら神妙な面持ちでディアベルは言った。私はソロプレイ主体の野良として最前線で攻略しているプレイヤーで、彼はパーティーリーダーとして五人の仲間と供に戦うプレイヤー。この対照的なスタイルの二人が同じ一室にして密会しているのは、複雑怪奇な男女間の関係ではなく、ただの元ベータテスター同士というだけだった。

「聞いてるか? インディゴ?」
「ええ、聞いてるわよ。無視しようか悩んでいただけ」

 ディアベルがムッとしたような表情でこちらに目を遣る。最初の話題に応えるように言葉を選んでいると段々、無視した方が良かったと思い始める。それでも反応してしまった以上、返さなければならないだろう。

「気持ちはわかるけど……叶わないんじゃないかしら? 結局不平を言っている人達は平等の旗印を頼りに利益を強奪したいだけ。何を言っても、何を提供しても、彼らは聞く耳持たずに腕だけ伸ばして何もかもを剥ぎ取るはずだわ。……あのスカベンジャーどもは」

 パーティーを組んだ時、ベーターに対する愚痴ばかりを言うプレイヤーと出会ったことがある。あの支離滅裂で独善的な理論には吐き気すら覚えたものだ。結局、彼らは苛立ちを近くの何かにぶつけたいだけだろう。

 この閉鎖的で限定的世界ではモラルの低下が当然のように起こっている。

 ティーポットからコップへと味の薄い紅茶を注ぎディアベルと私の椅子の前に一つずつ置く。こんな薄味でも第一層では数少ない嗜好品で、しかも高級品。現実世界でなら安物のインスタント程度の味でしかないのに不思議で仕方ない。

 私の愚痴とも言える言葉にディアベルは苦笑いを浮かべながらコップを受け取り言葉を返す。

「そう非難するなよ。皆いきなりのことで苛立っているんだ。ちゃんとゲーム攻略の目途(めど)が立てば絶対に今回のような事件は解決する」

 いつになく真剣な様相で言うディアベルに、私は奇妙な尊敬を抱いた。本気なんだろう、と思う。彼には私にない人を引っ張る能力がある。しかもその能力に彼は自覚的だから所在の知れない責任感を感じているのだろう。責任感だけなら私も少ないながら感じてはいるが、だからといって何とかしようとは思わなかった。

 どうしようもないことだと諦めていた。時間が解決するのを待っていた。

 だけど私は何も他人任せにしていたわけじゃない。

「自信ありそうじゃない? それで、具体的な話は?」

 小さく笑い、自分の席に座る。置いてある紅茶を手に取り啜りながら、首を傾けて『聞き』の態勢になる。それも見てディアベルが深くソファにもたれた。

「さっきも言った通り、まず第一層攻略を目指す会議を開く噂を流す。人数が集まり次第、攻略会議をトールバーナで行う。そこで――俺の知り合いのキバオウっていうプレイヤーに主張をさせるんだ。キバオウさんは反ベータの思想がかなり強い。会議の合間にその議論を挟んで元ベータテスターに対する皆の感情を正しい(・・・・)形にしたい」
「ちょっと待って、正しい形? それってつまり失敗したらそれまでってことなの?」

 考えるように一拍を置いてディアベルは私の疑問に答える。

「まぁそれまでってのは違うけど……オレの言う正しい形ってのは多分思っている通りのものだろうね」

 まさか、信じがたいことだがディアベルはあの高慢ちきな彼らの理論が僅かでも正しい可能性があると懸念しているのだろうか。いやあくまで念のための発言だろう。そう信じたい。

「その……キバオウさん? ――に主張させて論争させて、本当に正しい方向に進んでいくと思うの?」
「なんとかするさ」
「貴方ねぇ……」
「オレは元ベータテスターに対する反感は至極当然だと思っている。出来れば彼らの気持ちも考慮したい」
「優しすぎよ、貴方」

 呆れたように喋る私のことをディアベルはどう思っているのだろうか。私が呆れたのは貴方の優しさからではないと、きっと気づいていないのだろうけれど。ディアベルとはベータのころからの付き合い――私のアバターが今とは正反対のタンクらしい筋肉質の男だったときからの付き合い――なので彼の性格はそれなりに把握している。彼の根本にあるのは決して≪正義≫じゃないはず、もっと中途半端で人間臭い性格、≪積極的な八方美人≫だったはず。

 最も、デスゲームが始まって性格が変わるプレイヤーは多い。ディアベルもその一人なら過去の知識なんて推察には使えない。そう、彼の気持ちの真偽はまだ分からない。

「んー、骨格はそれでいいとしてもう少し作戦を練る必要がありそうね」

 最後の一口をくいっと飲んだあとで彼の作戦を認める。今の段階じゃ特に否定する材料はないし、彼の心意気も内面は分からないけれど外装は綺麗なものだから。

「まぁ……オレだって確かに今の段階じゃ大した作戦じゃないのは分かるよ。でもさ、少なくともベータの話は掘り下げたいんだ。ただ不満が溜まって爆発するような事態は嫌だろ?」
「まあね、ディペート式に別れて討論するのは大事だとは思うわよ」

 ディアベルが少し首を(かし)げて怪訝そうな顔をする。ディペードの意味が分からないのだろうか、はたまた私がまた知ったか顔で間違った言葉の使い方をしたのか。そういえばディペードじゃなくてディベードだったような……いや気にしたら負けだろう。私は悠然と言葉を続ける。

「なにか手伝えることあるかしら? 私も現状にはそこそこ不満だからね」
「そうだな……まずはもう少し作戦を練るとこから始めようか……」

 ディアベルは真剣な面持ちを変えないまま、相談を続けた。話し込んでいると窓の外から光が差し込んで、鳥の鳴き声がそれは朝日なのを教えた。この差し込む光が何か吉兆の暗示だったのなら、そんなやけっぱちな懇願が当時の私に浮かび上がった。






 螺旋階段の奥へ進むと段々暗くなり、一定間隔で松明の光によって明るくなる。その妖しい光には眩くもなく吉兆も感じられない。むしろこの光は不安を掻き立てる光に思えてしまう。

 あの時には分からなかった。彼は結局変わってなかったんだということは。

 最後の最後までどっちつかずで、時には嘘をついまで退路を確保していたディアベルの本質は正義じゃなかった。彼はただ立ち上がる理由が欲しかっただけだった。自分を追い込んでやっとフロアボス攻略のためにリーダーとして闘った、強くもなく弱くもない等身大の人間、それが彼だった。

 いや、それでも彼はきっと心優しい人だったんだろう。自分を追い込んでまで闘ったディアベルは、何もしなかった私なんかよりはずっとずっと強く優しく勇敢な人だったんだろう。

 でももし、もしも彼が私利私欲に走らず最後まで公平性を持ってレイドに貢献していたら、間違いなく彼はゲームオーバーにならずに生き残っていた。きっとそここそがディアベルの弱さだった。

 彼の弱さの原因は、天秤(てんびん)のように揺れ動く心理からきていた。でもディアベルに限らず、今まで私の出会った人達は皆それを持っていた。利益と大義を天秤にかけてユラユラとどちらが大事かを量る時間は誰もがそれなりに必要で、長い人だと一生かかっても測りきれない。今、始まりの街で動けないでいる人達がそうだろう。命が重すぎて『生活』を放棄してしまった、そんな人達もいる。

 けれども揺れに揺れて決断を下した心の天秤は時に嘘を吐くし間違いもする。ディアベルの場合、天秤は間違っていたんだろう。利益に傾いた彼の天秤は、きっと僅かに(いびつ)な形だったんだろう。その見た目では分からない程度の歪さに、彼は殺された。

 私がそう思った時――ディアベルが死んだ時――全身が竦んだ。ディアベルの死を悲しむよりも先に、私は自分の結末を覗いたような気がして恐ろしくなって震えた。ああやって私も何気ない一瞬の間違いで死ぬんだ。そう思った。

 怖かった。身近な人が死んで、絶対死なないと心の隅で思っていた人が死んで、自分の身にも降りかかるんだとやっと実感した。

 ディアベルの弱さは私も持っている。だから、私も死ぬ。私だけじゃない。皆持っている弱点なんだから結局、遅かれ早かれ全員死ぬんだ。こんなことに、闘うことに意味がないんだ。そう思っていた。

 でも、彼は――スバルは違う。

 隣にいる長身の少年、スバルは途轍もなく、強い。レべルや技術の話じゃなく、その精神が果てしなく強い。

 彼の言う≪情熱≫は、何よりも重く決定的で絶対的な存在として彼の魂に深々と刻み込まれている。その魂は天秤を大きく傾けさせて、しかも正解へと一直線に導く圧倒的な重量なんだろう。湾曲し捻じ曲がった不平等な天秤は常に≪情熱≫向かって(こうべ)を垂れていて、しかしそれでもその≪重さ≫は決して間違っていないのだろう。

 良し悪しを量ろうとする私達とは根本的に違う。量らずに計らずに謀らずに、天秤そのものを無理矢理に歪めさせ、間違い続けてもただひたすら盲信し猛進し、一心に情熱を積み上げて重くしてきた。その単純な作業のために途方もない努力と時間を浪費したことだろう。

 敵わない。そう思う。でも、強く憧れる。

 敵わなくとも、せめてスバルの近くで一緒に闘いたい。きっと私は最後までは生き残れない。ディアベルと同じように私は死ぬんだろうということは今でも強く思っている。

 それでも、私は闘いたい。闘って闘って、闘い抜きたい。勝ち逃げなんかしたくない。突き進む彼の隣で、私は強くなり続けたい。彼のように強くなりたい。

 叶わないことかもしれないけれど、途中で終わってしまうかもしれないけれど。

 私はスバルに魅入られたのだから。

「アイ、あとどんぐらい?」

 ふと隣で、スバルの声がした。

 さっきつけられた渾名≪アイ≫――それは奇遇にも私の本名だった。私の現実での名前――浅岸(あさぎし)(あい)。今ではアイという響きが遠く懐かしい。どうしてこの渾名を許したのだろう。郷愁に駆られてなのだろうか、はたまたもっと別の感情なのだろうか。……いや、こんな事、考えても仕方がない。

「そうね、……もう少しのはずだわ。あと松明を十数個ぐらい?」
「へぇー、案外短いんだねぇ」

 コツコツと階段を登る、重なることのないバラバラの二つの足音が響いている。しばらくの間それだけを鳴らして歩いていると奥の方から一層強い光が漏れてきた。

 僅かに開いた第二層の扉は、肺によく通る新鮮な空気と温かい光を漏らしていた。両手でその扉を押し開けると、穏やかな陽光が目に飛び込み、次に土の匂いが鼻に入ってきて、そしてほのぼのとした家畜の声が耳に響いた。

 フロアボスの出口は断崖絶壁の中腹に設けられていて、扉を開ければ広大な第二層を一望できる。マップを横断するような巨大な山脈とそこかしこに点在する野生の牛達がマッチして景色を映えさせている。

「いい景色だ。冒険したくなるぜ」

 一歩前に出たスバルが(てのひら)を眉上に置くというアクションを取りながら感嘆の声を上げる。

「さあ! 行こうぜアイ! 俺達の冒険はこれからだッ!」

 張り切るスバルが下り階段とは逆の見当違いの方に走っていく。そんな光景に声を殺して笑いながら翻って下り階段に向かってソロリソロリと静かに歩いて行った。

――もう少しの時間だけ貴方をリードできるよね、スバル。――――私の憧れの人。 
 

 
後書き
 受験でも書きたいものは書きたいですよね。

 今回はインディゴさんの内面と、スバルさんの外面を書いてみました。どうでしょう? 書いてる身としては『これ好かれないよなぁ』とヒシヒシ思っています。それもこれも前回が悪いんです。なんか前回で一気に台無しになった感が私の中ですごくあります。

 もっとさらっと出せたら良かったんですけどねぇ……。

 至らないところは多々有りますが例え孤独と化そうとも投稿は続けます。文字に起こすだけで私は幸せですから……。

 ああ、あとキャラクター設定公開とかどうしましょうか。ちょっと複雑なので纏めたほうがいいでしょうか。友人には『纏めずに全部本編でしてみろ』とか言われてますが読み手が混乱したら意味ないですよね。一話ごとの文字数だって多めですし……。設定に関してメッセージでも感想でも一言あればお願いします。

※ディペード→ディベード 間違えてましたけど私のミスではなくインディゴさんのミスにしました。

 普通の感想も待ってますよー。 
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