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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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第十八話 ~彼女の選択 Ⅰ ~

 
前書き
第二章は完全に友香さんルートで 

 
「………はぁ」
「小山さん、どうかしたのかい?」
浅井の問いかけるような視線に何でもないと首を振って返す。
「え…あぁ、浅井君か。ごめん、ちょっとうちのクラスのこと考えてて、あのお堅い軍令部がよくもこんな命令を下すようになったと思うと感慨深いものがあって・・・・」
「僕らもCクラスの軍令部を参考にしようっていう話が出ているんだけどね・・・・やっぱり組織改革は難しいよ。」
Bクラスから派遣されてきている浅井ともう一人の女子生徒は三脚もビデオカメラも持っていない、ケータイで撮す、だとかでもなさそうだ。
(絶対私のクラスが特殊なだけだろうな。)
何故か観戦武官としてAとFの「模擬試召戦争」の見物をしてこいと、軍令部から直々のお達しの下、三脚を持たされてAクラスに送り込まれている私であった。
三脚つまり、千早さんの試合の様子をしっかりその手で収めてこいとのCクラスの総意だ。
素晴らしきかな、我がクラスの団結力。
冗談はさておき、うちのクラスであそこまで千早さんが人気者になるなんて計算外だった。
確かに、Bからの離反をねらっていたとき、そういう雰囲気に扇動していたのは紛れもなく私であり、その思惑が成功したのだとしたら良いことなのだろう、たぶん、おそらく、きっと。
しかし、この結果をその時の私が知っていたら……、いやどのみち私なら、こんなことも承知で躊躇うことなくやるだろう。
例え、結局同じようにため息を吐くようになったとしても

因みに軍令部とは、Cクラスにおける試召戦争に関するクラス意志の最高決定機関のこと。
この前まで代表を務めていた(明日ぐらいに復帰させられる)私も軍令部総長として(総長は代表が兼任することになっている)軍令部のメンバーに入っていたのだけれども、前回の戦犯としてメンバーからの一時的な除名(一時的じゃなくて良いのに)を食らい、今の軍令部に対しては口出しが出来ない。
軍令部のメンバーには、Cクラスの全員が選ばれるのではなく、Cクラス内の得点上位者から三人と、試召戦争の机上演習で参謀役として評価されている、また評価され始めた人がメンバーになることができる。
今現在、北原さん指揮下で合計6人構成、そのうち男子2対女子4である。

あらゆる状況に置いて、自分たちがもっとも合理的であろう作戦を生み出して、それを全体に通達する参謀、それと作戦を通して縦横無尽に動いてもらうアタッカーが互いの考えや、現場の理屈をぶつけ合いながら議論するため、うちのクラスが今は一番個人個人の連携が取れているという自負はある。
強襲戦ではFクラスの防衛戦を抜くことはかなわなかったけれども、防衛戦だったらたとえAクラスが相手であっても負けないつもりだ。
と、そんなお堅い組織だったはずの軍令部から私へこんな指示が出されたのだけれども、内容があまりにも露骨すぎて、思わず私は自分の目が狂っているのではないかと思ったほどだった。
つまり『CクラスがFクラスと同盟を新しく組むに当たって、当然ながらFとの連携は必須である。すなわち妃宮様の勇姿をじっくりと観察する必要がある。故に小山前代表は観戦武官として対Aクラス戦の様子をしかと記録せよ』とのことだ。
「はあぁ……」
「小山さんはため息ばかりだね・・」
そうやって浅井が私に笑いかけてはくれるのだけれども、私はそれに笑い返すことが出来なかった。


F対Aの試召戦争は双方代表者を選出して一騎打ちとタッグ戦を行うという、私たちの想像を遙かに下回る小規模な物になった。
それぞれの戦いごとに勝者側は望んだ物を得られるようになっているけれどもAからの「要求を聞く」と、Fからの「要求を反故にする」の二項目は互いに打ち消し合う効果を持つため、試召戦争の最後にそれらの効果は得られる、という説明が入り、それなら反故するが多く手に入ってしまったらどうするのだろうと思ったけれども部外者の私が出刃るところではない。
ちなみに、第一試合はAクラスの圧勝で終わり、ひとまず「要求を聞く」をAクラスは手に入れていた。
この後のタッグ戦二試合と最後の一騎打ちの試合でも「要求を聞く」を賭けているAクラス、取りあえずFクラスは第三試合の要求反故をとることが可及的な目標だろう。
そしてFの大一番たるタッグ戦第二試合には千早さん自らがでるのであろう。その試合でFクラスが要求して賭けているのは「設備交換」
施設を要求している時点で建前として模擬戦だなんて言っているけれども、試召戦争と変わらない、そのことは対Aクラス戦はやらないという意志の現れにも思えた。
千早さんから私と浅井君には、この戦いの如何によらず対Aクラス戦は何かしらの結末を迎えるだろうという意味深なことを言われていた。

だから今私が頭を抱えるそぶりを見せたら浅井は、妃宮さんの言葉に対してか、それとも緩くなった軍令部について悩んでいるだろう思うであろう。
そんなことはほんの一部に過ぎない。

今私の頭の中は、とんでもないと笑い飛ばされるような想像がずっしりと蜷局を巻いて私を待ち受けているのだ
(千早さんが本当は男だった、だなんてバカなことを、どうして考えるのだろう。一人称が僕の女の子だなんて、少ないだけで実際問題射るじゃない。今フィールドにいる工藤さんだってそうじゃない。)
大島先生がフィールドを展開させる。
第二試合の勝負である保健体育、Aクラスからは工藤さんが、Fクラスからは土屋君という男子が指定位置に立つ。
二人とも大島先生に気に入られているみたいで、二人を大島先生の愛弟子二人と見なすこともできるとか。
「僕は君と一回直接やってみたかったんだよね、ムッツリーニ君。どう、僕たち二人でも何か賭をするかい?」
「………工藤、Aだからって調子に乗るな。」
「ははぁーん、いいんだよ僕は、たとえば君が勝ったらスカートの中を見せてあげる、とかでもね?」
「……浅ましい、お前のスカートの中など」
そこで土屋君の動きが止まる。
そして盛大に血をまき散らしながら倒れてしまった。
「ムッツリーニ!!大丈夫?今輸血してやるから」
そういってどこから手に入れたのか輸血パックを手に持って側に駆け寄る吉井(学年一の馬鹿)。
「ムッツリーニ君、その程度で倒れられたら僕の立つ瀬がなくなるんだけど…」
苦笑いを浮かべている工藤さん。
それにしてもムッツリーニって……何をふざけたことを、と思ったが今の彼の行動を見ている限りそのあだ名がまさに的を射ぬききっていることに感心してしまった。

「これより第二試合を開始します、両者準備をしなさい。」
「はい、召喚(サモン)!」
『保健体育 Aクラス 工藤愛子 483点』
「何だよ、あの点数は……」
隣で浅井が絶句している、あんな点数どうやったらとれるのだろう。
輸血の完了した土屋(ムッツリーニ)が再びフィールドに立ちあがっているのだけれどもその姿はまるで、ふらふらになったボクサーが最後の力を振り絞ってその場に立ちあがっているかのように見えた。
「悪いがFに勝機があるようには思えないんだが……」
その様子を眺めている限りだったら私も頷くところだけれども
「でも千早さんのことだから、何か策があるのだと思う。何か分からないけ…『召喚(サモン)、加速』ど!?」
たった一言ぼそりと呟いたムッツリーニ君はその召喚獣をフィールドに出現させたその次の瞬間、現れた場所にではなく工藤さんの召喚獣の背後に立っていてさらにはその召喚獣の両手に持っている二振りの短刀を交互に素早く切りつけたのだ。
「なっ!?」
工藤さんがムッツリーニ君のあまりの切り替えの早さに唖然としているのを後目に、圧倒的な点数を持っていた彼女の召喚獣はあっと言う間に消えてしまった。
「勝者、Fクラス土屋!」
{保健体育 Fクラス 土屋康太  528点}
先生の勝利宣言に沸き上がるFクラス、そしてあまりの一瞬のうちに勝てると踏んでいたであろう試合に負けて納得できていないでいるAクラス。工藤さん以上の点数に目をしばしばさせる私たち。
「仕方がないな、ムッツリーニ君。僕の負けだよ。だから、ほら♪」
「…ス……ツだと!?」
グラっ、ブシャー、ばたん
「「ムッツリーニ!!」」
「……この程度では死ねぬ…」
「そうだ、どうせならデザート券じゃなくて(ごにょごにょ)」
「くはっ」
グラっ、ブシャー、ばたん
「「ムッツリーニ!!」」
あぁあ。これ何ループするのだろうか……
幸せそうに血の海に泳ぐムッツリーニ君を救助し、英雄の身命を今少しでも長らえようとするFクラス一同。

「それよりもあんな瞬間的というか早撃ち勝負な試合、あってもいいの?」
「良いのですよ、友香さん。」
「千早さん!?」
そこに立っているのはまさに千早さんその人だと思うけれども…
「きちんと千早さん本人なんでしょうね。」
思わずジト目で睨んでしまう。
「…えぇ、証明には成らないかもしれませんが、あちらに秀吉君がいらっしゃいますから。」
申し訳なさそうに、騒ぎの垣根のさらに向こうのフィールドを展開してもらうために来ていただいている先生方のいる方を指し示す。
彼女が示す方には、何故かラウンドガールの様な存在として各ラウンドごとにさまざまなコスプレをして、何ラウンド目なのかを知らせてくれ
ている美少年(美少女)が待機していた。
今はラウンド3と書かれている旗を手に持ち、現れたレーサークイーンな格好の秀吉君。
男子の大半が彼を見つめてため息を吐く。
またそれをAクラス側の観戦席に仁王立ちしている優子さんが怒り心頭といった様子で射殺さんばかりの勢いで彼を睨みつけていた。
優子さんの横には早見という男子だ立っているのだけれども、恐らく優子さんの放っている殺気を直接肌に感じているからだろうか、ガクガクぶるぶるといった感じの表現がもっとも似合いそうだ。
しかしそんな彼を笑う者はいない。
Aクラスの生徒全体がお上品だからなのか、そんなこと、その程度のことじゃないと思う。
だって観客席のAクラスのほとんどの男子が彼らから距離を取り、そして早見を同情の眼差しで見つめており、ある者は合掌までしているのだから。
「秀吉君の存在は、(わたくし)としては多種多様な作戦でもっとも役立つ能力をもつ存在だと思うのですが、今回ばかりは地の点数が低いこともあるので控えにしようと思っていたのですが……」
苦虫を噛みつぶしたかのような表情の千早さん。
男子生徒をなだめるのに失敗でもしたのだろうか。
「Fクラスのみなさんがどうしても彼にこの役割をさせたいという意見が多く、またAクラスの男子の半分からも似たような要請を受けまして……あのような立ち位置に成ったのです。」
彼女の説明を聞いていて一つ疑問に感じたことを聞く。
「木下君本人はどういう反応をしたのですか?」
「えっ?そうですね……えっと?」
小さな声でなにやらをつぶやき始めた彼女、何とか聞き取れた範囲をつなげあわせると、どうやら何かの証明をしようとしているのではないだろうか。
「どうかしたの千早さん、何かまずいことでもあったの?」
「……秀吉君は…笑っているだけでした。」
知りたくもない驚愕の事実を発見してしまったかのように、途切れ途切れに告げられた彼女の言葉に、私は最初、首をひねった。
「それがどうしたって…ぇえ!?」
思わず叫んでしまい、近くにいた観客たちから白い眼差しを向けられる。
「失礼しました…」
勢いで謝らなければやってられないような感じがした。
って何で…
「何故、あれを平然と受け入れられたのでしょうね…」
彼女が呆然とした感じで木下君に目を向けなおす。
私もそれにならって半ば唖然とした心持ちのままで彼の格好を観察し直す。
男としてあの露出度とそれに伴ったあの可愛らしさって絶対、少なくとも私よりは絶対上回っているだろうな、だなんて場違いなことを私は思わず考えていた。
何となく優子さんの気持ちが分かるような気がする。
「男なのにあんなに可愛いだなんて。」
その言葉に隣にいた千早さんが反応したように見えたけれども、たぶん同じように感じたのではないだろうか。
 
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