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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百三十七話 大乱闘

 
前書き
どうもですw

またしばらく間があきまして申し訳ありません。
今回はあの後、原作で描かれているボス戦の方では無く、足止め軍団の連中が、まぁ、大反攻しますw

では、どうぞ! 

 
鉄と鉄のぶつかりあう音の響く回廊の中で、ひときわ響く声が轟いた。

「オラ、退()きなっ!!無謀連中のお通りだ!!」
「くっそっ!?」
「うぉぁっ!?」
ヴンッ!!!と低い風切り音を立てて、霞むほどの速度で冷裂が空間を裂く。受けようとした重装プレイヤーが盾ごと後方に吹き飛ばされ、かわそうとした剣士は回避しきれずに冷裂の尖端にふれ、それだけで回転しながら吹き飛ぶと、空中で爆散した。

「イヤァァァッ!!!」
「うわぁぁっ!!?」
ヒュヒュヒュヒュンッ!!と空の鳴る音がする。打ち込まれた本人すら何が起きたか分からないうちに、五連撃以上の連撃を打ち込んだその音の主は勿論アスナだ。今となってはもう忘れられつつもある事実では有るが、彼女の“あの”浮遊城における二つ名は《閃光》。その名の通り、あの世界で圧倒的な力を誇った攻略組の中でも、彼女以上の速さを持つ剣の持ち主は居なかった。その剣速は、ヒーラーとしてパーティを後方から支える役割を担うようになった今でも衰えてはいない。
だが……

「ヤァッ!!」
「ぐふぁっ!?」
今彼女の隣には、それ以上の神速の剣技を持つ少女が居た。

『はえぇな……』
《絶剣》ユウキ。彼女が次々と放つ剣技はそれ一つ一つが、アスナの剣技と互角かそれ以上のスピードを誇っている。正確さに置いてはややアスナが上回るが、片手直剣である彼女の剣にはアスナの細剣(レイピア)には無い力強さとはきはきとした思い切りの良さが有る。全体的に言えば、“元気のよい剣”と言うべきか。そして何より、その動きの滑らかさと、反応速度は異常の域だった。
自身の直前まで剣が迫ったとしても、其れを弾き返すだけの胆力と度胸、何よりも反応速度。アスナのデュエルの時から感じていたが、あの剣には最早常人ではたどり着くことすら難しい、一つの極みが見える。それに……

『あの剣筋……』
リョウが一つの事案について思案を始めた、その時だった。
集団前方が、今度こそ完全に崩れた。先にメイジを潰された為に回復が間に合わなかったのが大きいのだろう、予想以上に速い崩壊だ。

「うしっ、アスナ!」
「分かってる!!ユウキ!」
「うん!」
ボス部屋の大門に向けて、アスナとユウキ、他のメンバー七人が走り出すその線上に……

「い、行かせんな!!」
「おぉっ!!」
「ッ!」
数人の生き残りの重装型プレイヤーが割り込もうとする。しかし……

「だから退けっつってんだろ!!」
「ひっ!?」
「なぁああっっ!!?」
走り込んだリョウがぐるりと一回転、冷裂が緑色の光を帯び、身体がそのまま回転し、彼等の内に突っ込んだ。

「破ァァァァァっ!!」

薙刀 上位四連撃技 乱嵐流《らんらんりゅう》

攻撃範囲、威力、突破力に置いても高い性能を誇るスキルによって、風切り音を立て、たっぷり四回転したリョウの身体は静動を掛けた右足に煙を上げながら右手で薙刀を振り切り、左手を地面に着いた体勢で止まる。

「行け!アスナ!!」
「ありがとうッ!!」
そう言ったリョウの横を、律儀に礼を言ってアスナが駆け抜け、更に続いてノ―ムやサラマンダー、スプリガンと行った多様なメンバーが目配せや、あるいは軽く礼を言いながら次々に駆け抜けていく。そして、最期に濡れ羽色の髪を持つ少女がリョウのすぐ脇を駆け抜ける。その時、彼女のアメジストのような美しい紅色の瞳と目が有った。と、彼女は走りながら、耐えかねたように振り向き言った。

「あ、あのっ!ありがとうございました!!」
「ん……?」
そのなんとも律儀で子供らしさの残る、其れで居てとても素直な礼に、リョウは硬直時間が解けるのを自覚しながら、ニヤリと笑う。

「礼なら結果でよこしな!!行ってこい、嬢ちゃん!!」
「は、はいっ!!」
弾けるような笑顔を残して、ユウキと呼ばれた少女は扉の向こうへと消える。扉が閉じてから、リョウはようやく大きく息を吐いた。


「……ふー……」
懐から、《モスミントの煙棒》を取り出して口に加える、指先でその尖端を突いて煙を発生させようとした……瞬間。

「!」
「へっ!」
ガァンッ!!!と重々しい金属音がして、振り下ろされた斧と冷裂が火花を散らす。煙棒をくわえたままニヤリと笑って、リョウは斧を振り下ろしてきた本人を見た。
片手で冷裂を支えるリョウとつばぜり合いの形で此方を睨んでいたのは、初めに前方の部隊を率いていた、土妖精(ノ―ム)の隊長だった。

「オイオイ、戦闘は終わりだろ?まだやんのかい?」
「はっ、ザケんな!勝手に終わらせられちゃ困るんだよ!此処までコケにされたんだ。手前等全員此処でやっとかねーと、ギルドのこけんに関わんだよ!」
「……おいおい、コケにだ?今コケにっつったか?冗談だろ?今まで散々他の連中コケにしといて、今更手前等が何被害者面してやがる?」
首を傾げて言ったリョウに、リーダーは小馬鹿にしたように笑う。

「っは、あんなもん、MMOじゃ日常茶飯事だろうが!俺らはシステムに則ってプレイしてんだ、バフの警告もちゃんと出てんのに、気が付かねーほうが馬鹿なんだよ!」
「成程、んじゃ、俺らも規定に則ってプレイしたんだ。文句言われる言われはねーな?」
「あぁ?」
「“全てのプレイヤーはその不満を剣に訴える権利が有る”ってのはGM側が決めた規定だからな、文句なら通り通すか、剣でどうぞだ」
「はっ!上等だ、小奇麗に言おうが、用は“最後には力が全て”だろうが!だったらテメェらのした事の清算も、きっちり剣で済ませてもらうぜ!!」
「やれるもんならやってみな!」
そう言って、リョウはリーダーを剣で弾き返す。彼の後ろにはナイツに突破されたギルドの前方に居たメンバーの残りが7、8名。全員が武器を構え、全力でリョウを警戒しているのが分かる、そのピリピリとした雰囲気に心地よさを覚えつつ、リョウは加えた煙棒を吐き捨てて踏みつける。

「すぅ……推ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

システム外スキル 《戦闘咆哮(ハウリング・ウォー)

第二ラウンドが、始まった。

────

「セール、ヴェルス──」
「やべ、ヒョウセツちゃん!!」
「ッ」
詠唱を始めたヒョウセツの下に、クラインの脇を抜けた一人のアサシンタイプの装備を纏ったプレイヤーが迫る。この場でパーティの回復役となるのは自分一人、其れを理解しているから、当然相手の前衛組、特に軽装のグループは自分を狙って来るのは初めから分かって居た。だから事前に、自分の護衛位置にはクライン、アウィン、アイリの三人だ。しかし……

『軍勢の数が多い……やはり三人では辛い物が有りますね』
迫る男を見ながら、アウィンは状況を分析する。初手の回復魔法で、キリトとレコンの体力はある程度回復させる事が出来た。個のペースでみて次に最初にHPが付きる可能性が有るのはレコンかアウィン、だが二人とも相当な腕前を持っている。少なく見積もっても120~150秒は持つ筈だ。ならば……

「皆さん、申し訳ありません、ヒールが少しの間止まります!」
「了解だぜ!」
「わかったわ」
「はーいっ!」
「はいっ!」
「あぁ!」
言うと同時に、迫ってきたナイフをヒョウセツは“片手で逸らした”。

「なっ!?」
「はぁっ!」
正確にはナイフには触れていない。ナイフを吐き込んできた手首を右の裏拳で弾き、懐に入りながら自分から逸らしたのだ。そしてそのまま突っ込んできた相手の顔面に左の掌底。

「ぬぶっ!?」
「っ」
即座にバック宙で二回転して後方に下がると、右手を振ってアイテムストレージを出現させ即座にとあるボタンをタップ。

「なん、ぐぁっ!?」
「ひゅっ!」
次の瞬間、今日使っていたワンドが一瞬で姿を変え、細身の直槍に変わる。その切っ先を一瞬で相手に向けると、即座に三連突き。怯ませた所で相手が引き戻し防御に当てようとしたナイフを槍を水平に振って切っ先で弾く。と同時に手の中で槍を回転。ヒュンヒュン!と高音が鳴り響いたかと思うと、既に切っ先は相手の方に向いている。

「しまっ……」
「遅い!」
即座に白いライトエフェクトが槍の切っ先を包み、超速の八連突きが相手を襲う。

両手槍 八連撃技 《ガスタ・エクセルサス》

両肩、腹部、両足其々に合計八連の突きを喰らったアサシンタイプの男はあっという間にHPを0にしてエンドフレイムをまき散らして散り、硬直が解けるとヒョウセツはそのまま槍を音高く鳴らして二回転、再び斜め下に切っ先を向けるようにして構え直す。

「ひ、ヒーラーだったんじゃ……」
「今は違います」
かなり動揺した様子で言った目の前に立つ敵の前衛達を一瞥、冷やかに否定して、ヒョウセツは真っ直ぐに眼前の敵を見据えた。
今更ではあるのだが、忘れてはいけない。彼女は元々、サラマンダー軍でもユージン将軍と並ぶ腕を持つ、生粋の槍使いなのだ。

「僭越ながら……未だ未熟では有りますが、此処からは直槍にてお相手をさせていただきます。どうぞお手柔らかに……参ります」
その後彼女には、《二人目の狂治癒師》等と言う不本意な二つ名が付いたとか……

────

「全く、急に呼び出したかと思えば……っ!」
クローの尖端で受けた大剣の一撃を、そのまま滑らせて逸らし、左のクローを鎧の首元に突き込むと、捻り引き抜く。其れでアウィンは四人目の敵を屠り、左から接近して来たヘビーランスを受け流す。

「つくづく自分勝手で結構な事ね!」
彼女が文句を言っているのは勿論、彼女の学校の生徒会会計事、リョウコウの事だ。冬休みも間も無く終わりと言う時期の最後の休みを満喫していたら、行き成り携帯のメールでリョウに呼び出され、あれよあれよと言う間に大乱戦だ。ふざけんなと怒鳴りたいのをこれでもかなり我慢して……

「全く……」
「ふげっ!?」
ギャリギャリと耳障りな音を立てながら一気に槍使いとの間合いを詰めると、槍を支えていた右のクローでランスを軽く弾き落とし、即座に左のクローの尖端を合わせて正面に突き出して構える。と、灰色のライトエフェクトに包まれたクローが即座にその身体が空中に浮き上がって回転し、まるでドリルのように相手の腹部を突きさし、かき混ぜ、貫き……

「ふざけんなってのよ!!」
最後に着地。と同時に、左右に引き裂いた。

クロー 突進技 《スメルチ・クルィーク》

失礼、前言撤回である。
高威力の突進スキルを使用し、着地したアウィンの硬直時間はおよそ二秒弱。その隙をみすみす逃がしておくほど周囲のプレイヤーたちも甘くは無い。当然周囲の片手剣やダガー使いのプレイヤー、合計で三人ほどが、一気に彼女に迫り……

「──でも、そう言いながら協力してくれるんだよね~ヤミは優しいね!」
向かって来ていた彼等の剣が突如飛び込んできた声と共に弾き返された。アウィンの後ろにストンと降り立ち、背中を守るようにヒュンッ、と片手に持った刀を正面に立つ剣士(ソードマン)に向ける。

「アイリ……あのねぇ、仕方ないでしょう?アスナの事情だって話だったし。それに……」
硬直の解けたアイリが立ち上がり、左手を前に、右手を顔の真横辺りまで引いた構えをとる。

「こういうやり方は、私としてもあんまり気に食わないの。だから、今日は容赦はしないわ」
鋭く、針のような気迫が周囲を突き、アイリはその様子を見て、くすりと笑った。
ヤミ……杏奈は元々、他人を思いやり、とても責任感の強い、真摯な女性だ。その強さと真っ直ぐな心意気には、アイリ/美雨自身憧れるを抱く事もある。心地よい頼もしさを感じながら、アイリはニコリと笑った。

「うんうん!其れでこそヤミだよ!さーて、其れじゃ私も全力全開で……!」
「アイリの場合何時だって全力全壊でしょ?」
「あ、ヤミひどい!それどーいう意味!?」
「さぁね」
言いかけた言葉に割り込まれたアイリが心底不満げに返すが、アウィンは肩をすくめるだけで返す。と、次の瞬間、彼女達の周囲で銀色の光が閃いた。

「ふっ!」
「わっ、と!」
向かって来た片手剣とダガーを、アイリの刀とアウィンのクローが次々に叩き落とす。とは言え、防御しているだけでは埒が空かない。さてどうしたものかと考え始めた二人の前で、痺れを斬らしたのは、敵方のメンバーだった。

「どけっ!俺がやる!」
アウィンの前に居たダガー使いが突然飛びのいたかと思うと、その向こうから巨漢の大剣使いが突っ込んで来る。振りあげた大剣は大型でどう考えても正面からでは敏捷型のアウィンには分が悪い。かと言って下手に躱せば、後方で背中合わせの格好で居るアイリにその剣が当たりかねない。だが……

「全く……アイリ」
「おっけー!」
言ったのと殆ど同じくらいのタイミングで大剣使いはアウィンの目の前まで到達すると、オレンジ色の光を纏ったその肉厚な剣を真っ直ぐに振り下ろした。

「泣かせてやんよぉ!」
「あら奇遇ね」
安っぽい台詞を吐きながら振り下ろす刃を、アウィンはクローを剣の腹に押し当て、自身の後方に受け流す形で躱す。その様子を見て、大剣使いが二ヤリと笑った。大方、後方に居るアイリに自分の刃が当たるとでも思ったのだろう。彼がそう思うのは勝手だが、其れは勘違いと言う物だ。

現実に彼が大剣を振り下ろした先には、誰も居なかった。

「なっ!?」
「私も同じような事考えてたわ。ただし……」
次の瞬間、彼の大剣に、ズシンっ!と良う衝撃が走り、同時にアウィンは彼に興味を無くしたように振り向き背を向けた。代わりに彼の目の前には少女が居る。小柄でスタイルの良いシルフの少女だ。それだけなら、唯の可愛らしい妖精少女だっただろう。その瞳が、爛々と輝きながら、自分の首筋を見据えて居なければ。あるいは、その右足が彼の自慢の大剣を踏みつけ、地面にめり込ませて居なければ。あるいはその少女が、両手で持った刀を首周りを旋回しそうなほどに担ぐように引き絞ると言う、まるで技の出だしのようなフォームを取って居なければ。
少女の刀がライトエフェクトを纏う。

「“つっかまーえた♪”」
「貴方を泣かせるのは、私じゃないし……」
スキルの硬直で、まだ身体が動かない彼は、目の前に居るシルフの少女が心底嬉しそうに唇を釣り上げたのを見た。そして瞳孔の開いた瞳と彼の視線が交錯し……

「私“達”が泣かせるのは、貴方達全員だけど」
「逝っちゃええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

カタナ 重単発技 《斬岩閃(ザンガンセン)

凄まじい風圧と共に、彼の首に剛激一つ。その一撃で、彼の首から上が胴体と綺麗に分離し、直後にエンドフレイムをまき散らした。散る寸前、彼の顔は完全に半泣きだったのだから、成程笑える話である。

「さぁって!次に“首無し”ホウイチになりたいのだーれっ!?」
「“耳なし”ね。唯でさえ物騒な話に余計な脚色加えないで」
「あれっ?そうだっけ?私アレ怖いから嫌いなんだよねぇ……」
「今のアイリの方がよっぽど怖いと思うけど」
最後の一言は聞こえないように小さく言って、つういでと言うように呆れ気味に、けれどやや面白がるように、アウィンは言った。

「……そう言う意味よ」

────

「おうっりゃぁ!」
振りかざした武骨なカタナが、蒼い鎧と鎧の継ぎ目を正確に切り裂く。翻った刃が更に相手の手首を捕え、減少したHPを更に追加で減らす。其れでピッタリ、蒼い鎧を着込んだ男のHPは消失した。

「おっしゃつぎ、うわっひぇっ!?」
「調子こいてんじゃねーぞオッサン!」
「誰がオッサンだこの野郎!おれぁこれでもまだ20代だ!」
言いながらカタナを構え直したのはクライン。彼は現在、通路の壁を背にするようにして戦っていた。初めはヒョウセツを庇う形で前衛をしていたのだが、流石に数が多すぎてかばいきれず、現在彼女は隣で槍を振るっている。

「大分減ってきましたね」
「おうよ。キリの字とレコンのヤローにこっちの連中も殆ど集中してるし、前の連中はリョウが片づけて終わりだ。後はこっちは楽っちんだな」
「油断はしないように、クラインさんに落ちられると護衛が居なくなっていざという時困ります」
「とほほ……必要とされるならせめてもう少し優しく……」
「?何かおっしゃいましたか?」
「いえ何もいっておりません!」
即座に言って、クラインはカタナを正眼に構え直す。見据えた先から振り下ろされたポールアックスの先を、カタナの剣先でずらし、一歩踏み込む。

「うぉっ!?」
「そぉらっ!」
踏み込んだ直後に踏み込まれて、即座に対応できる長物使いは少ない。まして、ポールアックスのような重量のある武器を振り回している場合など尚更だ。
教科書のお手本のような対応だが、だからこそ確実に有効なカウンターである。
その隙を逃さず突き込んだ刃が、鎧の首元の隙間部分に吸い込まれるように突き込まれ、内側で朱いポリゴンが散る。とは言え、このままで居ればすぐに他の連中か彼自身から反撃を受けるのは自明。クラインは即座にカタナを軽く捻ると、そのまま首を両断するように横一線に切り裂いた。

『にしても、アスナが居るとは言え、ギルド一つパーティも一つでボス攻略とは、無茶しようって連中だなぁ。SAOなら先ずありえねぇよ……』
苦笑しながらそんな事を考えつつ、半回転。男に背を向けると、クラインは即座にカタナを逆手持ちにして、反撃の為にポールアックスを振りあげた男の方へ一歩踏み込む。

『あぁ、でもやったっけなぁ、レイド組んでやるとこのボスを馬鹿ばっか集まって1パーティで。何回死んだっけなぁ?俺』
あれをしたのは大学、いや高校時代だっただろうか?あの頃から相も変わらずゲーム三昧の自分には呆れるが、おかしなゲームに巻き込まれたせいで大分貴重な体験をさせてもらった。二度としたいとは思わないが、そう言う馬鹿をやる事の面白さ、出来る事のありがたさ、其れが改めて理解出来たのは、あのゲームの中に居たせいもあるのだろう。

『ヒョウセツちゃんは戻らねーでも終わりだな。とすっと……』
そろそろ多少無茶でも終わるか。
経験から来る直感でそう結論付けて、クラインは一気に後方に向けてカタナを突き込む。と、即座に引き抜き、アックス使いが怯んだ所で、更に正面に向き直る。他のメンバーは味方に密着しているクラインに手を出す事は出来ない。ソードスキル……

「へっへへ、悪いねぇ」
「く、そっ!」
刀身が光り輝くと同時、クラインの身体が掻き消えるように加速し彼の後方に現れ、次の瞬間、空間が断たれたように、アックス使いの上半身と下半身が“ズレた”。

カタナ 居合い単発技 居合《火閃一刀(かせんいっとう)

──さぁ、今日も……──

チンッ、と音を立てて納刀した瞬間、斬り口は燃え上がり、焔の向こうへ蒼い巨体が消えた。

──ゲームを楽しむとしよう──


────

「レーレス、リンデ……」
「うっ、くそっ……!」
「あぁっ……!」
投げつけたダガーが正確に相手の鎧の隙間を貫き、塗りこまれた毒が相手の身体の自由を奪う。後ろから足音を感じて振り向く
盾を持ったプレイヤーが突っ込んで来る。さらに後ろから切りかかって来るカタナ使い。

「ヴォルト・ライ……!」
「うわっ!?」
「!?」
後方からの袈裟掛け切りを低空のバック宙で躱し、そのままカタナ使いの両肩に脚を乗せてけっ飛ばし着地。そのまま……

「ヴァンクル!」
即座に収縮した文字たちが雷の細い槍を無数に形成し、それらが相手に向けて殺到する。

雷系中級スペル 《ニードル・ライトニング》

小型の貫通性を持つ雷の槍を連続発射するこのスペルは、連撃、かつ貫通の属性と言う事もあり威力の面でも期待感が大きいが、その最大のメリットは対象の足止めにある。
小型のダガー使いであるレコンには、機動性はあっても火力が絶対的に低い。
だからこそ、その弱点を補うためには、スペルが乱戦の中でも撃てること。そして、とにかく連続で攻撃し続けられる事が必須だった。そしてその技術を、彼は身に付けた。

次々に貫通した雷の針は、盾では防ぐ事は出来ない。盾持ちの男も呻き、殆ど全弾を背中から喰らったカタナ使いはエンドフレイムと共に消え去る。

「くそっ!」
「馬鹿!ローグス!左だ!」
「なっ!?」
『遅いっ……!』
盾持ちが気が付いた時には、既に彼のすぐ左に付いたレコンのダガーはオレンジ色の光を放っていた。その瞬間まで彼が気が付かなかったのは、まぁ無理もないだろう。元々斥候用のビルドを組んでいたレコンの隠密スキルの高さは誰もが知る所だが、例えば今のように、《サイレント・ステップ》と言う派性Mobスキルで足音を消してしまえば、混乱した状況での、自分に対する相手の反応を遅らせるような効果もある。
まぁ、毒に隠密や魔法と行ったスキルをそろえた今のレコンは、どちらかと言えば斥候と言うよりも暗殺用ビルドだが。

短剣 九連撃技 《リアマ・ヴィエント》

火炎を纏った左右の切り降ろしを四度、跳ね上がるような切り上げから一気に切り下ろし、その切り降ろしを途中で止めたかと思うと突き込み、左へ切り裂いて最後に左から右への一気に切り払い。それら全弾を火炎に包まれながら喰らっては、流石に重装の盾持ちとは言え耐えかねる物である。ニードル・ライトニングのダメージもあって、何とかHPを削り切り、再びエンドフレイムによって周囲が照らされた。

とは言え、体力の多い敵を仕留める為にはどうしても大ダメージを与えるための大技を繰り出さなくてはいけないのも、レコンのビルドの常である。本来ならこのタイミングで、周囲の敵からの手痛いしっぺ返しが待っているだろう。
まぁ……

「……はぁ、なんだろう……やっちゃった感が……」
「う、ぉ……」
「の、やろ……」
「むぅぅ……」
其れを防ぐために、周囲の殆どの敵を事前に麻痺毒で拘束したのだが。
周囲に転がる5人ほどの妖精達を見て、レコンはこの後誰かに恨まれたりしないかどうか、その事がやや気にかかっていた。

────

「フッ!」
「クぅッ!」
高い金属音を立てて、シルフの片手剣使いが付き込んできた剣を弾き返す。扱っていたシルフの少女は少し唸ると、減少していたHPを回復する為か、バックステップで後ずさって行く。

『そうは……!』
「パパ!待って下さい!」
「セヤァッ!」
「……ッ!」
させない。と追撃をしようとして、しかし、割りこむように、右前方から今度はケットシーの少年が剣を振り下ろしてきた。
受け止めたククリナイフ地味た曲剣の振り下ろしを右手の剣の腹で受け流すと、即座に左のエクスキャリバーが相手を切り裂く。
《世界最強》の名に違わず、キリトの持つ《聖剣エクスキャリバー》は、他の剣とは一線を画した片手剣としては破格の威力を誇る。具体的に言うなら、重装鎧(ヘビーアーマー)のノーム相手に正面から撃ち込んでクリティカルポイントにクリーンヒットなら一撃でHP八割食えるほどだ。実験台になっていただいたE氏に曰わく、「いきなり全部削られんじゃねぇかとヒヤヒヤした」くらいである。

いずれにせよ、それだけの破壊力を孕んだ一撃を受けて無事でいられるほど頑強な装備は目の前の彼にも無かったらしかった。深く鋭く刻まれた刃の跡は朱いポリゴンをまき散らした後、即座に彼を爆炎に変える。

「左から更に一……ッ!気を付けて下さい!その向こうにスペル詠唱をしている人が居ます!」
「ッ、フッ!」
左から振り下ろされたメイスを、サイドステップで躱す。と、ユイの警告に従いキリトはそちらを見た。両手持ちの重戦槌(ヘビーメイス)使いの巨体で気が付かなかったが、その向こうに浮かぶ光る文字は、確かにスペル詠唱の光だ。

「いまだ、やれ!」
「ラウス・ウラ──」
「っ!」
「パパ!回避してください!」
言うと同時にメイス使いは左に退く。その向こうに居たのはやはり詠唱途中のメイジだ。キリトが知る限り、浮かんでいる式句から考えて打ち出されるのは《バーナー・ブレイズ》と呼ばれる持続放射型の火炎放射のような魔法。浮かぶ文字を見るに完成までは残り3ワード、だが、ユイの言うようなステップ回避ははっきり言って間に合わない!

『なら……!』
バンッ!と音を立てて、正面に向けて加速。詠唱中のサラマンダーに向けて一気に距離を詰める。と行っても、詠唱が終わる前に詠唱を潰せると思っている訳ではない。三ワード、距離は10m少し。今の自分の敏捷値ではどうあがいても剣一本分足りないと、キリトには分かって居た。だが……

「すぅ……」
息を吸いこんで、止める。この世界に置いて、人間の代謝機能の全ては現実世界の通りには働かない。だから“息を吸い込む”と言う事自体は、正直な所意味が無い。しかし、気迫を込めると言う意味に置いて、呼吸と言うのは割に重要な物だと言う事を、キリトは経験から知っていた。

「ラーラス・ヴォルド!」
ついにスペルが完成し、宙に浮かぶ文字たちが一斉に収縮する。其れは一つの巨大な炎となり、其れを見ると同時に、キリトは構えた。
取る構えは、慣れ親しんだ物。《剣を担ぐように引き絞り、もう片方の手を前に突き出す》左手のエクスキャリバーが深紅に発光し、ジェットエンジンめいた轟音を響かせ……

「なっ!?」
「セイィィ……ラアァァァッ!!!」
ボッ!!と空気を貫く音と共に、突き出されたエクスキャリバーが火炎放射と接触し……打ち抜く。

片手直剣 重単発攻撃技 《ヴォーパル・ストライク》

魔法破壊(スペルブラスト)》に必要な要素である魔法の中央一点を、同じく点の攻撃である突き技で返すと言う離れ業を繰り出した甲斐もあって、エクスキャリバーは魔法の業火を貫き散らしながら突き進む。これが普通の突き技であったなら、恐らくこの突きは今魔法を打ち出しているメイジに届く事は無かっただろう。しかし生憎と、ヴォーパル・ストライクの最大の特徴は、そのレンジの長さにある。そのレンジは実に「刀身の二倍」。片手剣でありながら、短槍を思い切り突き出した時に匹敵する射程距離を持つのが、この技の最大の魅力の一つだ。そして当然其れは……

「アァァァァッ!!」
「この……チートやろ……!」
最後まで言わせる前に、伸び切った朱いライトエフェクトが、メイジの身体を貫いた。当然のようにHPはあっという間に0になり、再び彼の前で妖精が残り火へと変わる。
走り込んだ事に寄って他の前衛達との距離が開き、スキルに寄る硬直はつぶれた。

「後ろです!」
「ッ!」
「オォラァッ!」
即座に振りむくと、先程のメイス使いが怒鳴り声を上げながらメイスを振り下ろしてくるのが見えた。

戦槌 重単発攻撃技 《グラウンド・スタンプ》

「ッ……!」
「ッ!?」
一歩、前へ。
振り下ろされたヘビーメイスの柄の部分を、キリトは両の剣を交差してしっかりと受け止める、メイス系武器のハンマー部分は、刀身にぶつけられると剣の耐久値を大きく削られてしまう。だが柄の部分を受け止める形にすればさほどではない。
ガァンッ!と重々しい金属音がして、地面に足がめり込むような衝撃が走った。ユイの悲痛に息を呑むような声が上がり、ふりおろしたノ―ムがニヤリと笑う。
だが……受けきった。

「ッ!」
「!?なんっ……!?」
次の瞬間、キリトは交差させた二本の剣を思い切り右に振った。
ヘビーメイスの弱点の一つは、重量が有り、遠心力がかかりやすいため振るっている最中は軸がぶれにくい代わりに、重心が手元から離れた位置にある為、尖端部分に掛かる急激なベクトル変化に通常のワンハンドメイス以上に弱いという点だ。
特に振り下ろしの時は柄の先端部分を持っているプレイヤーも多いので、余計にその弱点が露出する。
つまり、このように行き成り横に力を加えてやれば……

「くそっ……!」
「オォッ……!」
そのまま構えへ移行する。と同時に右手の剣が水色のライトエフェクトを纏った。相手がメイスを引き戻すよりも圧倒的に速く初動を起こした剣は右から左へとノ―ムの鎧を一閃し、即座に跳ね返るように左から右へ、そのままキリトは身体を一回転させ、もう一度左から右への水平切りを一閃。
キリトの右手で唸るそのうす青い剣はエクスキャリバーには及ばないまでも、リズがその全身全霊を込めて打った一振りである。故にキリトはその剣を、ある意味ではエクスキャリバー以上に信頼していた。そして実際にその剣は……

「調子に、乗ってんじゃ……!」
「ゼェァッ!!」
跳ね返るように右から左へと一閃した剣は、相手のクリティカルポイントである心臓部分を確実に切り裂く。その瞬間、相手の周囲に薄青色の四角形が四散し……

片手剣 水平四連撃技 《ホリゾンタル・スクエア》

「ぐ、おぉ……!」
「…………」
「パパ……!」
バァンっ!と音を立てて、ノ―ムは爆散した。

……実際にその剣は、何度となく、キリトを守ってくれているのだ。

ユイの賞賛するような声を聞きながら、キリト最後に残った、ライトグリーンの髪を持つ、片手剣使いのシルフの少女と向き直る。

「こ、このっ!」
「セァッ……!」
可愛らしく高い声を上げながら、彼女は刀身に青色のライトエフェクトを纏わせた。彼女の動きを呼んでいたキリトは、殆ど同じ動きで、右手の剣をふりあげ、同じく青いライトエフェクトを纏わせる。

片手剣 突進技 《ソニック・リープ》

互いが一斉に走り出し、剣と剣が交錯する。ソードスキル同士が衝突した場合、必ずより威力の高い攻撃をした方が有利な判定を受けると言うのは定石だ。ただこの場合、キリトがソニック・リープで全快した彼女のHPの内、削り切れるのは恐らく九割五分。左のエクスキャリバーで有れば話は別かもしれないが、その場合は剣が交錯せず、かつ恐らくより軽い剣を使っている彼女の方が早く届く。
そして削り切れなければ、接近した二人の内、先に動けるのは恐らく敏捷でキリトに勝るであろう彼女の方である可能性は高い。そのタイミングでクリティカルを喰らえば、あるいは、と言う事もあった。
もし彼女が初めからこの事を理解した上で技を発動させたなら、中々の観察眼だと言えるだろう。
だが……キリトと言う人物はなまじ、彼女達のようなセオリーに従うプレイヤーたちの常識を大きく超えて行く。

交錯した剣が、ソードスキルが激突した時特有の爆光を残して、振り下ろされる。

「…………!」
青い光が収まった時、スキルを放った二人の剣は、どちらも弾かれては居なかった。ただ……

「うそ……」
「…………」
少女の剣は、中ほどから真っ二つに折れていた。
市販品の強化物とは言え、攻略をするには相応の耐久力を持った剣が、だ。

「……君が剣を変えてもう一度俺と向き合うよりも、次の俺の攻撃が君に届く方が速い。だから、悪いけど……」
少女の剣は中ほどから真っ二つに折れ、回転しながら落下した剣尖が地面へと突き刺さると同時に、青白いポリゴンとなって消えた。

「この戦いは、俺達の勝ちだ。引いてくれないか?」
既に三十人近くいた後方部隊のメンバーは、誰一人として、立ってはいなかった。


────

「……むぅ、パパ、女の子には優しくないですか?」
「え?いや、そんなことはないぞ?……たぶん」

────

「どーやら、向こうもケリついたみてーだな。どうする?降参するかい?」
「……くそっ……!」
初めの勢いは何処へやら。と言うべきか。先程までは四十人を超えるメンバーの指揮官だったリーダーは、リョウの問いに対して息を荒くしながら悪態を突いた。
それも、現在の彼が置かれ打状況を見れば仕方ないと言えるだろう。何しろ彼が率いていた……いや、正確には率いる筈だったフルレイドのパーティの内戦えるメンバーは既に彼だけになって居たのだ。勿論、彼の周囲に居た彼の前方組六人も、碌に目の前の男に近寄れもしないまま、一撃で屠られ続け、今は彼一人である。其れもこれも全ては、立った二つのパーティによって、いやあるいは……

「お前ら、こんな事して一体なにがしてぇんだよ……」
「あ?んー、まぁ知り合いの後押しって奴だ。まぁお前らには悪いんだが、そっちもアンだけの事してんだ。お互い様だろ?」
「そう言う事じゃねぇ!」
「?」
荒げていた息を何とか整えながら、リーダーは怒鳴った。そう、そう言う事ではないのだ。問題なのは其処では無い。

「お前ら、自分等のしてる事が意味がねェ事だって分からねーのか!?たったワンギルド、ましてワンパーティしか組めねーような規模の小さい弱小ギルドが単独でボス攻略!?そんなもん無理に決まってんだろうが!!」
「…………」
「彼奴等は現実が見えてねェ唯の初心者(ニュービー)!こっちはこの攻略のために何週間もかけて準備してんだぞ!うっとおしいんだよ!ああいう奴らは!!」
「……ま、言いたい事が分かんねー訳じゃねぇけど?」
肩をすくめながらそう言って、リョウは小さく溜息を突いた。
確かに、彼等のようなボス攻略を専門にやっているギルドからしたら、ぽっと出の小規模ギルドがボス攻略などと言うのは、正直面白くないだろう。だが……彼の主張は根本的に矛盾している。

「なら、何で彼奴等の事邪魔するような真似した?絶対無理だってんなら、そもそも邪魔すること自体……彼奴等がボス部屋から叩きだされたあとで、急いで攻略するような事する事自体が無意味だったはずだろ」
「そ、それは……」
「……お前らだって、実は感じてたんじゃねぇのか?初めに盗み見た時から、彼奴等には其れを可能にする“可能性”があるって」
「…………」
ぐ……と唸って黙り込むリーダーはしかし、少しだけ俯いて、唸るように言った。

「……うるせぇよ……お前らは何時もそうだ……ぽっと出て来て、才能だのVR慣れだのでこっちが積み上げてきたもんをかき回して台無しにしやがって……!!」
「…………」
きっと彼の言う“お前ら”と言うのは、あらゆるVRワールドのトッププレイヤーたちの事を指しているのだろう。
残念ながらVRMMOが登場して以降、ゲームの世界にもまた、“才能”と言う要素が強く目立つ形で持ち込まれるようになってしまった。「時間さえかければ」「頑張ってさえいれば」そんな、誰にでも出来る要素によって強くなることのできる……ある意味では、平等と言える世界の中に現れた才能と言う名の要素は、時折こうした元々ゲームの“平等性”に惹かれてやってきたプレイヤーの心に、暗い影を落とす事が有る。

「お前らみたいな才能野郎に必死こいてプレイして数値で強くなろうとしてる俺達の、何が分かるっ!!」
「……ったく……」
言いながら手に持った斧を振りあげ突進してくるリーダーに、リョウは冷裂を構えた。その刃に、白い光が灯る。

「仕方ねぇだろ……」
「ッ!?」
ヒュン!と音を立てて、リョウの身体が回転した。咄嗟に突進を止め、斧でガードした彼の手に、凄まじい衝撃が連続して駆け抜けた。

「なぐぁっ!?」
重複したとんでもない重さの衝撃が、彼の手から斧を弾き飛ばす。と思った時には、薙刀を構えていた筈の男は、視界から消えて……

「ぅぐぉ……!?」
と、突然、わき腹から朱いポリゴンが吹き出した。斬られた、そう彼が理解した次の瞬間……

「……ぐぶッ……!?」
後方からの斬撃が、彼を肩口からわき腹に向けて、真っ二つに切り裂き……小さな残り火(リメントライト)に変えた。

『なに、が……!?』
「こうでもならなきゃ、生きて行けねー世界もあったんだよ……」
男の声が、重々しく響く。

薙刀 五連撃 OSS 《白尾(はくび)

────

「ふーぅ……おわった、な」
「兄貴」
「おう、キリト。ワイフに良いとこ魅せられて良かったじゃねぇか」
「いや、そう言うつもりでやったんじゃないからな!?」
敵のリメントライトが消えた回廊で、リョウのニヤニヤとした笑いに苦笑しながらキリトが突っ込む。てれ隠しなのかどうなのかは分からなかったが、この少年は素で、かつ無自覚にしょっちゅう恰好を付けるので、まぁ今回も本当にそう言うつもりは無いのだろう。
そんな事を思いつつ、リョウは今度は彼の肩に乗った姪っ子に問うた。

「そういうなって、なぁユイ坊?」
「はい!とってもカッコ良かったです!パパ!」
「はは、そりゃどーも。ユイも、ありがとな。助かったよ」
どうやら兄貴分の言葉は素直に受け付けられなくても、娘の褒め言葉は別のようだ、キリトは微笑んで少し嬉しそうに言いうと、ユイの頭を指先で撫でた。と、其処にやや不機嫌そうな声が一つ。

「お幸せそうなのは結構ですけどね、リョウ?」
「げっ……あー……まぁ、なんだ。お前らもありがとな~急に呼び出したのは……まぁほらあれだ。生徒会のよしみって奴で一つ」
引きつった笑みを浮かべながら、リョウは援軍に着てくれた四人の内、生徒会の二人(特にアウィン)にむけて片手を上げる。と、凄まじく良い笑顔でアウィンが言った。

「あら、我が校の生徒会は一体何時から貴方の武力的支援をする為の団体になったのかしら?」
「デスヨネー……」
「まーまー、アウィンもそんなに怒らない怒らない」
どうも収まって居ないらしいアウィンと相変わらずひきつった顔のリョウの間に、アイリが助け船を出す。こういう時リョウはアウィンを絶対になだめられないのでアイリに頼るしかない。

「そう言えば、大丈夫ですかね……?こんなに盛大に大手のギルドに喧嘩売った格好に……」
「あぁ、其れは大丈夫だ。こういう時の後始末は時々してきたし、クラインにも頼んである」
レコンの問いにキリトが答えると、即座にクラインが胸を張った。

「おうよ。キリトは昔っからこういうのは下手糞なんだよなぁ」
「俺はあんまりそういう繊細な交渉が得意なタイプじゃないんだよ」
「するにしても大体無茶苦茶だもんなぁ」
「兄貴が言うなよ!!」
何でもかんでもぶった切るくせして!等と言いながら突っ込むキリトに、再びリョウが笑う。と、不意にリョウの顔が傍らで黙って居たヒョウセツに向いた。

「おう、ヒョウセツも、悪かったな。まさか来てくれると思ってなかったんで。正直助かったぜ」
片手を上げながら近寄って言うと、ヒョウセツは口の端に小さな笑みを浮かべながら首を横に振った。

「いえ。偶然時間が空いていただけですので、どうかお気になさらず。それよりも、余り長居をしていると先程の連中がまた体勢を立て直してきかねません。先ずは移動するべきかと」
「ん、そうだな。うっしキリト!」
「あぁ!全員撤収!一度散開して、後は各々解散で頼む。事後処理が済んだら、また改めてお礼はさせてもらうから、俺の我儘に付き合ってくれてありがとう!」
「いえ。お世話になってますし」
「俺は酒でもおごってもらうかぁ!」
キリトの言葉に、レコンとクラインがそんな事を言う。とアウィンが真面目な顔で突っ込んだ。

「リアルでは止めなさいよ。桐ケ谷君は未成年なんだから。ま、気にしなくて良いわよ。文句は此奴に言うし」
「ちょ、おいおい……」
「あはは~リョウ、ちょっと覚悟した方が良いかもね~。私は楽しかったし、満足だけどね!!」
ニヤリと笑ってリョウを見たアウィンの視線にリョウがぴくぴくと頬を引きつらせる。その様子を見ながら、アイリは朗らかに笑った。

「では、参りましょう」
「ん、あぁ。うっし!逃走(エスケープ)!!」
そんな風に言いながら七人のメンバーは各々その場から離れて行く。
七人の戦士が去った後の回廊には、先程までの喧騒がまるで嘘のように、重々しく静まり返っていた。

────

それから、二十数分後……

澄んだ空気の流れるホールの中を、リョウとキリトが並んで歩いていた。リョウがどこか楽しげに言った。

「さーて、どうなっただろうな」
「行けたさ。アスナ達なら」
「ほぅ?賭けるか?」
「いいぜ?まあ賭けにならないと思うけど。兄貴だって負ける賭けはしたくないんじゃないか?」
「うははは。ちげーねぇや」
笑いながらリョウとキリトは進む。お互いに彼女とは長い付き合いだ。二人して、本気になった彼女が負けるとは微塵も考えていないのだった。いや、この場合は……

「はいっ!ママは負けないです!」
「だよな」
三人目……ユイが、キリトの頭の上で腕を振り上げて言った。
二人と一人はそのままホールの奥へと歩いて行く。そこは、この城になる前の浮遊城アインクラッドに置いて、多くの涙や、後悔、怒り、悲しみ、憎しみ、安堵が入り乱れた場所。
かつて《生命の碑》と呼ばれた鉄碑のあった其処は、今は役割を変え、《剣士の碑》として、この城の各層に存在するフロアボスモンスターに挑んだ者達の名を刻む場所として、多くのプレイヤーの敬意と思い出、誇りの集う場所となっていた。
ちなみにこの中の幾つかには、既にキリトやリョウの名も刻まれている。

「ん?」
「あぁ、ちょうど良かったな」
キリト達が奥にある黒い鉄碑へと近寄って行くと、丁度その石碑の[Braves of 27th floor]と刻まれた部分のすぐ下に、まるで初めからそう刻まれていたかのように、文字が浮かび上がってくる所だった。
浮かび上がった名は七つ。

Yuuki
Jun
Nori
Talken
Tecchi
Siune
Asuna

「へへ、きっちり結果で返して来やがったか。やるねぇ彼奴等」
「あぁ。流石だよ本当に……」
どこか誇らしげに言うキリトと、楽しげなリョウは、どちらともなく、自然にそれぞれの右と、左の拳を持ち上げ互いに向ける。

「やっぱ、賭けにゃしなくて正解だったな」
「だろ?」
互いにニヤリと、ニヤッと笑って、拳を突き出す。

ゴツンという小さな音が、彼等の勝利宣言で有ることを、彼等だけが知っていた。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

と言う訳でほぼ全編戦闘でお送りいたしました。

其々のメンバーの戦い方から見える個性を観察していただければな。と思いますw

現在少しリアルの方で忙しい日々が続いているため、またしばらく更新が遅くなるかもしれません……去年の冬にあのような宣言をしておいて全く無責任とは理解しております。が、なにとぞ気長にお待ちいただければと思います。
申し訳ありません。

ではっ! 
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