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リメイク版FF3・短編集

作者:風亜
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消えゆく者・生き続ける想い

 
前書き
水のクリスタル編で、亡くなったのがエリアさんじゃなかったら────という"もしも"話。
視点、イングズ。 

 
 光の戦士すら消し去る呪いの矢 ────


狙われたのは、私だった。

………だが、実際それに貫かれたのはルーネスだった。

私を、庇ったばかりに。


何故この時、すぐに気付けなかったのだろう、敵の気配に。


突如、私の身体はルーネスに強く押しやられていた。

次の瞬間目にしたのは、ルーネスの背中から突き出た陽炎のように揺らめく漆黒の矢先────

ゆっくりと横へ倒れ、遮られていた視界が開けた向こう側には、毒々しい色をしたフードを被った人間……?

いや、違う、それは見る間におぞましく肥大化し、自らをクラーケンと名乗る存在と化した。


 考えている余裕はなかった。白魔法を扱える水の巫女にルーネスを任せ、私はアルクゥ、レフィアと共にありったけの怒りを込めてクラーケンに立ち向かう。



………死闘の果てにそいつを撃破する事は出来たが、横たわるルーネスを前に水の巫女は必死に白魔法で手を尽くしていた。

しかし────黒い陽炎のように揺らめく漆黒の矢はルーネスの胸に突き刺さったまま、黒い染みのようなものが広がってゆく。

血………、血ではない。全身が漆黒に塗り潰されつつあるかのようだ。

あのクラーケンは云っていた、"光の戦士すら消し去る呪いの矢"だと─────

ならばルーネスの存在は漆黒の闇に染まり、消滅してしまうのではないか。


私の脳裏に、最悪の事態がよぎる。


「おっかしい、な……。痛くないのに、ひどく寒くて、眠いんだ………」


 意識が朦朧としているせいか、薄目を開けているのが精一杯らしい。

………私は膝を付いて、ルーネスの上半身を抱き支える。


「白魔法が、全く効かないのです……! ごめんなさい……、彼を救う事が出来ない……っ」


 水の巫女の頬に、幾筋もの涙が伝う。


「そんな、じゃあルーネスは……!?」

「うそ────嘘よね……?!」

 アルクゥとレフィアも、今にも泣き出しそうだ。


────私は不思議と、冷静になっていた。

怒りも哀しみも、今は感じない。

ただ、手元のルーネスの存在が漆黒に塗り潰されてゆくのを、見つめているに過ぎなかった。


「ごめん、みんな────おれ、光の戦士、失格みたいだ………」


 ルーネスは、声を出すのもやっとの状態で言葉続ける。


「アルクゥ……、ニーナ母さんの事、頼むな……。レフィア……、おまえきっといい女、鍛冶師になれるぜ……。エリア────ごめん、こんなダメな光の戦士で……。けどおれ、君に逢えて、よかった」


 そんな別れの言葉に、3人は返せる言葉もなく咽び泣いている。


「イングズ、は………何だ、泣いてくれてないの、かよ。庇ってやったのに────ヒドイやつだなぁ」


 ルーネスは、今にも閉ざしてしまいそうな霞んだ目で私を見ながら、微かな笑みを浮かべた。

………笑えない冗談だ。素直に云えばいいのか、自分を庇ってくれてありがとうと。

哀しめばいいのか、私を庇ったばかりにお前が死にゆくのを。


「自分のこと、責めんなよ。おれが勝手に、した事だから、さ───── 」


 云い終えるなり、首から上、そして足先まで漆黒に染まり、遂にはルーネスという存在が、ただの黒い塊となって崩れ去り、残骸すらも、地面に染み入るように消えてしまった。


────私は、結局何も云えなかった。


云ってやれなかった。

勝手に逝くな、と。

私に借りを作ったまま居なくなるな、と。


………不意に、水の洞窟内が震動し始めた。

このまま自分も、この洞窟と共に埋もれてしまえばいい。

頭の片隅で、私はそう思っていた。





 その後、復活した地上世界のアムルの街で我々は目覚めた。

水の巫女も、共に居た。


────彼女は云った。

あなた達と共に行かせて下さい、と。

ルーネスの代わりにはなれないが、それでも彼に代わって使命を果たしたい、と。


………断れる筈もなかった。

彼女の毅然とした姿勢に、我々は身が引き締まる思いだった。


そうだ、立ち止まってはいられない。

あいつの────ルーネスの分まで我々は、やらなければならない事がある。


生き抜かなければ。


あいつが存在していた記憶を、我々が紡いでゆく為に。

こちらが生きてさえいれば、居なくなってしまった存在も心の中に生き続ける。


いつかは自分も死ぬ。


だがそれは今じゃない。


心の中でお前を生かし続ける為、私達は今を──────


これからを生きよう。




End 
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