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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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第17,5話 奇襲的外交、そして…

 
前書き
気が付いたら連続投稿していたという事実、暫くネタをためるためにもすこし連載を止めようかと絶賛考え中 

 
第17,5話 奇襲的外交下
「私たちがしたいのは科目についての話よ。勝負の形式なんかそっちに任せるわ。」
「解りました。では、私と致しましては最初の一騎打ち二試合の科目を決めていただけるのでしたらお譲りいたします。ですが二つほどお願いしたいことが」
木下さんの(言い方は悪いが)粗野な態度をとられても丁寧な物腰を決して崩さない、それどころかその顔には微笑みを浮かべ続けている。
心が広いのか、それとも我慢強いのか、それとも使命第一に考えているのか。
彼女には大変失礼だが、その口元に絶えず浮かべている笑みが彼女の存在をより一層不気味なものにさせている。
交渉の席についている僕らAクラスの三人を一人で圧倒している彼女は希代の外交家になれるのではないだろうか。
「へぇ、何がお望みなの?」
表面は相変わらずの木下さんだけれども足が少し震え始めている。
「まず一つ目にです。この戦いの後勝敗を別として十週間、相互不可侵の「お約束」はいただけませんか。」
約二ヶ月間の不可侵条約って妃宮さんは一体何を考えているんだ。
しかもそれを口外するなってことか?
いったいなんだってそんな要求をするんだろう。
Aクラスがこの戦いに勝った場合、Fクラスは設備を一段階落とされ、Fから宣戦布告をする権利を二ヶ月失う。
対してFクラスが勝ったらAクラスはFクラスとの設備交換が待ち受けていて、今度はAから宣戦布告の権利が二ヶ月失われる。
つまり、この密約が結ばれたとしても実質彼女たちにとって本当に意味があるのは二ヶ月が過ぎてからなんだ。
そんな長期的な戦略を練っているとするなら、どうして今Fクラスは動いているんだ。
「………一つ聞かせて欲しい。」
「何でしょうか?」
「………それは貴女の考え?」
「代表の考えでもありますね。」
そう言って面白そうに笑っている妃宮さんと何事かを考えている俯いたままで身動き一つしない霧島さん。
一年の時も同じクラスだったけど、彼女が考えごとをしているときは他の事を殆どしなくなる。(そのことに対して過去に彼女が言った『息はしている』とは彼女渾身のジョークだろうと僕は思っている)
「………解った。受け入れる。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと代表!!Fが何考えてるかも分からないのに受け入れるの?」
「………妃宮さん、そっちの代表に伝えて。私はそんな事はしないって。」
その言葉に妃宮さんのさっきまでの微笑みが深まる、まるでいたずらがばれてしまった子供のような表情とでも言おうか。
「畏まりました。」
対して霧島さんは滅多に見せない笑顔を少しだけ表に浮かべ、見破ったことを誇らしげにしているように見えた。
「………それから、もう一つは何?」
僕と木下さんの背筋が再び正される。
この何を考えているのかアルカイックスマイルと言った感じの微笑みをいっさい崩していない彼女からのもう一つの提案。
それは、「今度の対戦を正式なものとしてではなく、賭事として勝負がしたい」というヒドく試召戦争の本義を揺るがすような提案だった。


これにはさすがの木下さんも毒気抜かれてしまったような表情になっている。
一体、何だって試召戦争の宣戦布告に来た僕らに戦争ではなく賭事にしようと切り出してきたのか。
霧島さんも目を丸くし、やがていつもの熟考するための姿勢をとる。
「ちなみに、私たちはあなた方Aクラスに九分九厘勝てると踏んでいます。Aクラスのお三方にいうのも失礼ですが9.9%ではありません。」
恐らくこの交渉での切り札を投入してくる妃宮さん。
「私たちのカードは既にご存じのようにAクラス包囲網です。その網がどれほどなのかご存じでこちらを牽制なさるのが今度の交渉と私は心得ております。このような断然有利な状況なのです、本来であるならばあなた方から提案などこちらにとってはそれらの計算を覆し、その上クラスの設備が下がる可能性の方が濃厚になります。そのような戦いを誰がするでしょうか。」
その言葉に僕と木下さんは息をのんだ。
「木下さんは今の言葉をブラフだと思うかい?」
「そうね……妃宮さんじゃなくて、交渉の席にいるのが坂本ならブラフだって断言するわね。」
手元の携帯で木下さんとメール上で相談をする。
さすがに声を潜めたところでこの距離だ、彼女の耳に入ってしまうだろう。
恐らく、聞こえたところで僕らの相談に首を突っ込むことは無いだろうことは確信できるけどさすがにそんな剛毅には出られない。
「まさか、D、EもAクラスの包囲網の一翼を担っているのか?」
Dクラスの代表平賀君が、以前の対BC連合戦でFクラスに荷担しているのは僕らの知るところだ。
「そもそも、Dクラスに攻め込み彼らの設備をそのままにしておいたという実績は対Aクラスを見据えたものだったのだろうか。」
「確かに最初からFはAに攻め込むと公言していたのは事実」
さまざまな憶測が僕と木下さんの間に飛び交う。
代表の霧島さんは相変わらずぴくりとも動かない。
僕らAクラスはこの外交テーブルに於いて完全に押されていた。


「………妃宮さん、賭事にはこちらからも要求ができるの?」
長い思考の末に何かを導いたらしい代表がようやく発言をする。
どうやら妃宮さんからの要求を飲む心づもりらしい。
「勿論です、ただし要求の中には相手の要求を突っぱねるという要求を含んでいただいても構いませんよ。」
即答するFからの外交上最強の刺客に、木下さんと僕はもう手出しができないでいる。
メール上の議論は混沌とし始めていて、そもそも何故彼女一人がここにいるのかという点にまで及び、更に僕たちの疑心感を深める内容になっていた。

「…………解った、受け入れる。ただし、Fが約束の履行しなかったときの為のペナルティーとして『施設のワンランク降下』と『施設の交換要求の破棄』を飲んで欲しい。」
「……解りました、貴女の要求を受け入れましょう。」
僕はここまでの外交戦に於いて僕たちは既に4:6ぐらいで負けてしまっているように感じた。

「………それで、二人は一騎打ちの科目に何を推す?」
ゆっくりとした声で霧島さんが僕たちに問いかける。
「そうね。私は保健体育と物理を推すわ。久保はどう?」
「そうだね、保健体育は彼女がいるからね。もう一科目は数学か英語を推すよ。」
僕たちの意見を聞き、霧島さんは妃宮(きさきのみや)さんのほうを振り返る。
「………妃宮さん。」
「何でしょうか?」
「…一科目目には保健体育を選択。先にそちらのタッグの二科目を先に教えて欲しい。」

「ならば……タッグ戦は数学と世界史で、と考えております。」
「………やっぱり数学が来た…、こっちのもう一科目は物理を選択。良い、二人とも?」
「もちろんよ」
「そうだね、妥当だと思うよ。」
同意を示し、霧島さんもホッとしている。
その様子を眺めていた妃宮さんは相も変わらぬ様子だ。
何が来たとしてもその余裕さが崩れることはないのではないだろうか。
「それでは、こちらが考えている科目とそれらに掛ける特殊条件をお伝えしますね。」
彼女の語った特殊条件の内容とはこんなものだった
タッグ戦、第二試合の世界史は上限無制限の記述式の問題、レベルは旧帝国大学レベルのものとし、範囲は近代史からの出題とする。
というのと
一騎打ちの第三試合の日本史について、上限は百点として問題は小学生向けのものとする。
という全く正反対の要求であった。
一つ目の要求には首を傾げていた霧島さんは、二つ目の条件を聞いたとたんに「……雄二」と呟いてたが、それ以上それらの条件について言及することはなかった。
彼女の呟きが気になるけれども、どちらにせよ僕らは彼女の要求を呑む他なかった。


二度の交渉に末に、最終的に以下のように決まった
一騎打ち
第一試合 物理
Aクラス、代表の要求を一つ聞く Fクラス、要求を一つ反故にする
第二試合 保健体育
Aクラス、Fクラス「学食のデザート無料券、クラス人数×1週間分」 
タッグ戦
第一試合 数学
Aクラス、代表の要求を一つ聞く Fクラス、要求を一つ反故にする
第二試合 世界史(ただし上限は401点満点で全て記述式の問題、レベルは最難関大学レベルのものとし、範囲は近代史からの出題とする)
Aクラス、代表の要求を一つ聞く Fクラス、施設交換
一騎打ち
第三試合 日本史(ただし上限は百点、問題は小学生向けのもの。)
Aクラス、代表の要求を一つ聞く Fクラス、代表の要求を一つ聞く

霧島さん以外でFクラスに要求したいものが有る生徒は居なかった為に、霧島さんの要求を一つ聞くというのが四回も賭の内容として含まれており、それを打ち消すようにFクラス側も要求反故を交えてきたのはFクラスは霧島さんが何を要求したいのか分かっているという事なのだろうか。
僕らでさえ首を傾げているというのに。
ちなみに、ほとんどの生徒は賭けに対しては第二試合のデザートのほか興味はないが、それでも破竹の快進撃を見せたFクラスへの対抗心や、恐怖心が高まっている。

とにかくFとの対戦参加者の選抜が僕らの急務となったのは言うまでもない。



________________

交渉末に、Aクラスとは賭けをしたという建前で開戦することが決まった。
対戦科目と試合順、また何を賭けるのかは昼休みと放課後の二度の会合で決まってしまったので、お互いに隠しあっているのはどの人物がどのタイミングで出てくるかだけになった。
最終的に試合順と科目、そして賭るものの内容は次のように決められた。


それぞれの試合ごとの賭けものはそれぞれのクラスでの同意を取り付け、既に決まってしまった。
Aクラス側の「代表の言うことを一つ聞く」といったユニークなものに始まり、Fクラス側の「施設交換」、双方同意の「学食のデザート無料券、クラス人数分×1週間」といったようにバリエーション豊富な賭けと相まって我がクラスは大いに盛り上がっている。
AクラスがFクラスに求めるものが代表以外には持ち合わせていないと言うことがよく解る内容にもなっているが、そこには何も言うことが出来ない。
とはいえ「代表の要求」とは何だろうか?
視界の端でムッツリーニが鼻血を出していたけれど、どうせろくな事を考えていないのだろう。

まったく、このクラスの人たちは無邪気すぎて困る。
仮面(ほほえみ)の下にそんな事を考えている僕は、自分の隠しているもののあまりの醜悪さに教室に居ることをつらく感じていた。


男嫌いな僕がよくもこんなに男臭いFクラスに適応できているという、この事態からしてまず奇跡的だと思う。
一重にそれは代表殿や、吉井、秀吉君といった僕を何もいわずに仲間として見なしてくれる存在のおかげであろうけれど、男が嫌いだという思いは変わらない。

屋上に随分と長いこと置かれ続けているのであろう何かの資材に腰を掛ける。

僕は今日ほど自分の「呪い」を感じたことはない。
御門(みかど)千早」が「妃宮(きさきのみや)」を名乗り、この学園でAクラスとの「外交の真似事」をしているというそのこと自体に僕は戦く。

僕の母さんの実家である妃宮家は明治に臣籍降下して以来華族として外交に従事することで国に尽くし、またそれを精神的な柱としてきた一族で、また史の度會家はそれを支えてきた家柄だ。
いかに時が流れ、外交官に官位や爵位が不要になったこの現代日本であっても、母さんが父さんの姓を名乗るようになったことで妃宮家が断絶することになったとしても、外交官であることは代々抱え続けて来た未だに変わることない「名家の誇り」なのだ。

それが例え、母さんが心の闇を抱え込み、父さんが職務で世界を飛び回っているという建前のもと、心が病んでしまった母さんから逃げまわり家を顧みることをしなくなったしても、だ。
「僕が妃宮を名乗っているなんて、皮肉なものかもしれないな。」

突如、甲高い電子音が勢いよく鳴らされた。
何かの合図なんだろうけれど、座っている僕からは何であるのか分からない。
「良い外交とは49:51で物事が決まること、そんな言葉をまさか思い出すなんてね。」
あの交渉において僕は明らかにやりすぎた。だから霧島さんにペナルティーを受け入れるように言われたときに、僕はこちらの利益を還元すべきだと考えたのだけれども、今思えば末恐ろしい。
僕の思考の端々にさえ、その因習の影がちらりとその姿を見せていることに僕は恐れる。

そして因習に囚われたせいで自分が守りたいものさえも守れないということが、どれほどのことなのか。
あの時、史を守れなかった僕は恐れる。
何時か、自分もまた父の唾棄すべき行いの二の舞を演じるのではないかと。
「それだけは…絶対に嫌だ。」


腰を上げ、屋上をゆっくりと見回すとグラウンドには無邪気で年相応に振る舞っている男女があちらこちらに見受けられた。
手すりにもたれながら、僕はグラウンドの手前の方をぼんやりと眺めると、向こうの方では代表や吉井、島田さんまで混じってサッカーをして遊んでいるのが見える。
体の弱い姫路さんが審判役をつとめているのだろうか。
先ほど鳴らされていた音は彼女の手に持つ電子ホイッスルのものだったのだろう、見ればなかなかの激戦が繰り広げられている。
Fクラスの大半が運動神経が無駄に高いのが可能にしているのは言うまでもなく、代表殿と秀吉君の二人の作戦を元にしているからか、どちらもがっちり組み合っている。
あっ、ボールをキープしている吉井が島田さんに跳ねられ奪われた。
島田さんはボールをすぐさまパスで須川に回し、彼のドリブルから代表殿のもとにボールが回され、代表のシュートにつながる。
キーパーをしていた秀吉君が何とかそれを受け止め、相変わらず回復能力の高いいつの間にか復活していた吉井の元にボールを投げる。
胸トラップで受け止め、ボールをすぐさま相手ゴールへと蹴り始める彼を後ろから島田さんが追いかける。
フェイントをかけて彼女の追撃を振り切り、クロスをあげていた福原にパスを回す。
ノーマークだった福原がシュートを決めるもキーパーのムッツリーニがたやすくそれを受け止め…
そこで姫路さんがホイッスルを鳴らした。
僕が見始めてからどちらも得点を上げていないはずだけれども、どちらのチームの勝ちで終わったのだろうか。
「あっ!妃宮さん!!」
遙かグラウンドからの呼びかけに、僕は大きめに手を振って返す。
あの人(吉井)の人間離れは今に始まった事じゃないのだから、おそらく僕が苦笑いを浮かべているのも見られていそうな気がする。


屋上への階段室の扉が半分しか閉じられていないことに、もしや誰かが後から来たのかと僕は思った。
そうだとすれば一人称を「僕」としていた言葉を聞かれてしまっただろうか。

(所詮、学校の中では安心できるところなんてない。)
最後の最後で出した結論を心のどこかが残念に感じているのを、僕はただの楽観的観測だろうと断じる時、少しだけ胸が痛んだ。


世界史
講義
妃宮「それでは、今回は世界史での記述問題の書き方について説明いたしますね。一応ですが、私のノートは全部読まれましたか」
吉井「えっと、言われた通り近代史ばっかり、それこそ覚えるぐらい読んだよ。妃宮さんのノートが見やすいうえに、いろんなメモのおかげで面白かったからマンガ代わりに読んでたよ。」
妃宮「それはありがとうございます。メモは(わたくし)が面白いと思ったことを中心にしていますから。ではさっそくながら今回は中国の19世紀半ばから1920年にかけての記述問題を早速ですが考えていきましょうか。」

問い
19世紀半ばから1920年の間に中国では三回も北京と南京で政権が併存しついに統一された。この間のそれぞれの経緯について300字以内で述べよ。

妃宮「さて吉井君、この間にあった三回の南北政権とは何を指しているのか教えていただけますか?」
吉井「えっと、19世紀だから日本は徳川幕府の時代だから…」

えっと、19世紀だから日本は徳川幕府の時代だから中国は清の時代なんだよね、明と交代したのが何時だったかおぼえてないけど……17世紀ぐらいだったと思うし…
で清は確か首都を北京に決めたんだよね。ということは南京には政府の首都なんて出来ないんだから出来るとしたら反対勢力が作るはず。
アヘン戦争って確か1840年ぐらいで、イギリスが中国に阿片の取り締まりを止めるように要求したのがもともとで……高杉晋作はその時の上海に潜入してたんだよね。
で、えっとアロー戦争の後で常勝軍っていうのが太平天国と戦ったって書いてあったし……ってことは南京政府っていうのは太平天国の事なのかな。
で、それから孫文が南京に中華民国を作るんだよね、で清側に付いていた袁世凱が清を見限って孫文のサイドに立って留めを刺し、臨時大総統の座を譲ってもらってから、自分のホームグラウンドである北側に首都を移した。
だから、たしか北京に戻ってきたんじゃなかったっけ。
で、実権を握ったから、時代遅れにも皇帝に成ろうとした袁世凱を止めるためにあっちこっちで反乱が起こって、さらには袁世凱も失意のうちに死んでしまうって話だっとよね。
最後の三つ目は、1937年に確か日中戦争が始まるんだし、そもそも1920年頃に統一されたって事も併せて考えたら南京政権っていうのは国民党政府の事で、そのトップは蒋介石。対して北京政権ってのは張学良の北方軍閥のことなんだと思うけど妃宮さん合ってるかな?

妃宮「お見事です、吉井君の説明はどれも正しいことでしたよ。」
吉井「よかった~」
妃宮「しかし問題はそれらの間の経緯、つまり何故孫文は中華民国を作ることが出来たのか、と言ったことを説明しなくては成らないのです。そのことを考えれば、大きな歴史の流れを完全には把握していないといえるでしょう。」
吉井「えっとぉ…ちなみに今の僕の説明だと何点ぐらいかな?」
妃宮「……まだ肉付けしていませんし、そもそも私の聞き方が悪かったというのもありますから、気にしなくて構いませんよ。」
 
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