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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第61話 カフェでの話し合い

「さて外の様子はどうなっているのかな………っと、随分撃退されてるね……あの人数でよくここまで戦ったものだ」

倒れているバルトマンを背に表示したディスプレイを見て呟く。

「今の高度だと後1時間程でミッドチルダ全域までエンジェルソングが届く位置になる。後は月まで上がり、そこからゆりかご本来の力が加われば、管理世界位はゆうに届くだろうね。世界はどうなっていくのかとても楽しみだ」

クレインは1人笑顔を浮かべて呟く。

「その為にも憂いの種は詰んでおくとしよう。マリアージュシステム起動」


















それはいきなり訪れた。

「何や!?壊れた破片が勝手にくっつきあって修復しとる………」
「はやてさん!!空のメンバーは大悟さんの元へ、地上のみんなは1箇所に集める様に指示を!!」
「エローシュどうしたんや急に………」
「あっちが切り札を出して来ました………なるほど、有効だよクレイン・アルゲイル………」
「エローシュ何を言って………えっ?」

はやては信じられない光景を目にした。
倒して動かなくなったはずのブラックサレナの残骸が1箇所に集まっていき、元の形へと戻っているのだ。

「そんなんありか………」
「言ってる場合じゃないです。こうなったらどんな犠牲を出しても突入組が成功するまで大悟さんを守るしかないです」
「………エローシュ、あんたから見て今大悟に攻撃させたらどうなると考えるん?」
「………集束はほぼ終了してるから全力で攻撃できると思います。だけどそれが今のゆりかごに決定打になるかと言えばおそらく多少高度を下げれるか、良ければ多少損害を与えられるかもしれません」
「やっぱそやろなぁ………エンジェルソング発動から異常に固くなったゆりかごの防御結界。これをどうにかできなければどちらにしても私らに勝ち目は無いって事やな………ここからが本当の正念場やな」
「どちらにしてもエンジェルソングの阻害も後1時間程度が限界です。それが過ぎたら終わりですから潔くいきましょう」
「そやな!!」

エローシュの言葉に小さく笑みをこぼして返事をするはやて。

「皆敵が奥の手で倒したブラックサレナが復活しとる!!このままじゃこっちがジリ貧や!!空のメンバーは大悟とエローシュの援護に集中。陸はティアナを中心に固まって1箇所で迎撃。もう少しで突入組が何とかしてくれる……みんな頼むで!!!」

声と念話で同時に指示を出したはやて。

「後1時間程でこの世界の命運が決まる………」

その胸に僅かながらの不安を隠したまま、はやては毅然とした態度で移動するのだった………






















「神様のお願い………?」
「でもそれはレイみたいな転生者が使えるものだよね………?」
「もしやラグナルは………」

「そう転生者よ。私も零治の様に3つの願いを叶えてもらい転生したわ。………尤もデバイスになった私は果たして転生したって言えるかどうか怪しいけどね」
「は、はは………」

いきなりのカミングアウトにもはや驚きを通り越して小さく笑いが出た。

「………し、しかし何故今まで秘密にしていたのだ?」
「それは私の2つ目の願い、私の存在をデバイスの中に封印して欲しいって願いがあったからよ。………まあラグナルのダメージからか封印は解けちゃったんだけどね」

苦笑いしながらそう答えるラグナル。

「何故デバイスになったのだ?」
「私は直接彼と顔を合わせられない。彼の死の原因を作ったのは私で、私はただ能天気にいただけ。そんな疫病神な私が相対する権利なんて無いと思ったからよ」
「そんなの誰のせいじゃないよ!!ストーカーの人が2人を殺したんだから!!」
「いいえ、私と会わなければ孝介はあんなに早く死ぬことは無かった。全て私が悪かったのよ………」

ライの言葉も頑なの反論するラグナル。

「ラグナル………いえ貴女は………!!」
「私は遠藤エリス。佐藤孝介と最期を共にし、彼の死の原因を作った女よ」

ラグナルは悲しそうにそう呟いたのだった………


















「………ヴィータ、時間はどの位経った?」
「え?えっと……作戦開始から1時間半だな」
「となると敵の守りの多さも含めてどうやら中心部に来たみたいだな……」
「中心部!?でも私達戻ってたよな?」
「戦闘しながらだったから気づかないうちに違う道に入ったんだろう。分かれ道は少なかったが決して一本道じゃ無かったからな」

ヴィータと桐谷の2人は復活したブラックサレナや更に増えてきたガジェットを相手に戦って来た。
クロスレンジを得意とする2人だからこそなのか、初めて一緒に戦う2人だったがまるで熟練したコンビの様に息のあった戦闘をこなしていた。故に2人のダメージも疲労も普段よりも抑えられた状態でここまで来れた。

「どうする桐谷………?」

そう問われ考える桐谷。

(思わぬ形で中心部まで来たな………元々中心部へ行くのが目的だったが………だけど今の状態で行けるか?損傷は軽微だが相手の抵抗も更に激しくなるだろう。それに加え先ほどから復活するようになったブラックサレナ。戦って分かったが、以前みたいな弱点のコアが無い。その分修復が遅いが………だが数が減らないとなるとこのまま進んでは危険か………?)

「桐谷………?」
「ああ悪い、迷ってた。進むべきか戻るべきか………ヴィータはどう思う?」
「私?私は………」

そう言って俯き考えるヴィータ。そして少し経った後意を決した顔で桐谷を見た。

「私は進むべきだと思う。ここまで来て戻っても外の助けに間に合うか分からない。他のみんなもまだ戦ってるかもしれない。だったらもう決まってるだろ答えは!」
「だが今まで以上に抵抗が激しいかもしれないぞ?」
「舐めるなよ!私はヴォリケンリッターの鉄槌の騎士ヴィータだ!!こんなおもちゃみたいな敵に負けるわけない!!」

小さい体ながら桐谷には頼もしい騎士に見えた。

「………そうだな、星達やバルトさんには悪いが一番美味しいところは俺達が頂こう」
「おう!!」

互いに覚悟が決まり進もうとした時だった。

『困るなぁ………まさかそこまで来てしまったなんて。……まあそれなら1人こちらに招待するとしよう』
「何?………なっ!?」

いきなり桐谷を包む様に光の円が出現し、桐谷を包み込む。

「桐谷!!」
「くっ………!!ヴィータ無茶するなよ!!」
「桐谷待っ………」

桐谷を引きずり出そうとしたがその前に桐谷は消えてしまった。

「転移させられた……?くそっ、また分断された………くっ!?」

そしてタイミングを見計らったかの様に再び出現するガジェットとブラックサレナ。

「ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士を舐めるなよ!!!」

そんな不利な状況でもヴィータは臆することなく敵に向かって行くのだった………












「………ここは?」
「ようこそ加藤桐谷」

光が収まるとそこは少々広いスペースがある部屋で正面に鎧を着た男が居た。
桐谷はアルトアイゼンを解き相対する。

「クレイン・アルゲイルか?」
「いかにも。初めましてだね」

と薄ら笑いで答えるクレイン。その笑みを見ても桐谷の態度は変わらず直ぐにアルトアイゼンを展開出来る様に準備する。

「まさかあそこまで来るとは私も思っていなかった。あのまま進まれると動力部に行ってしまうからね、悪いけど分断させてもらったよ」
「動力部!?じゃあそこを破壊すれば………」
「無駄だよ、現在聖王の力もあり稼働しているゆりかごは言わば2つのエンジンで動いている様なもの。片方止めたとしても多少進行スピードが弱まるだけさ」
「なるほど……じゃあヴィヴィオと動力部の問題をクリアすれば最悪の事態だけは回避できるわけだ」
「まあそう言うことだね」
「………」

ペラペラと簡単に情報を話すクレインに桐谷は不審に思った。

(幾ら何でも簡単に話すぎる……それ程俺を始末する自信があるのか………?)

「難しい顔で悩んでるね。別に難しく考えることは無い。単純に君に勝つ自信があるだけさ。見てごらんあれを」

そう言われクレインの指示した方向を見てみると………

「なっ………!?」

そこには血を流し倒れ伏すバルトマンの姿があった。

「バルトマン!!」

慌てて桐谷が駆け寄る。

(まだ息がある!!)

弱々しいが確かに息をしていた。その事に安堵しながらも最早猶予は無かった。

「応急処置かい?流石管理局の魔導師だね」
「本当にお前がやったのか……?」
「気になるなら試せば良い。私は全力で君を葬らせてもらうだけだ」

そう言って構えるクレイン。

「その武装………!!」

桐谷は一番最初に両腕に付いた魔力刃に目がいった。

「この双剣かい?そうだね君の戦闘スタイルに近い形で真似させてもらってるよ」
「コピーってことか」
「そうだね、そしてそれはこれだけじゃ無いってことも分かるかい?」

そう言うと魔力刃が光り出し、気がつけばクレインの手には魔力で出来た刀と鞘があった。

「抜刀術?であってるのかな?」
「お前………!!」
「さて、それじゃあ始めようか」

そう言って向かってくるクレインに対し、桐谷はセレンを展開し対するのだった………












「………さて、一旦少し話を止めよう。星達もいきなり色々と言われて戸惑っているだろ?」

エリスと名乗ったところで今まで静かに成り行きを見ていたウォーレンが話を止めた。

「ラグナル………じゃなくてエリスって呼んだ方が良いか?」
「ラグナルで良いわ。出てくるつもりは無かったし、このままバレないようにラグナルを演じるつもりよ」
「待ってください!!」

そんなエリスの答えに星が待ったをかけた。

「言わないってどう言うことですか!?」
「どう言うことも何も、元々私は表に出るつもりは無かった。だけど幸運な事にまだ孝す……零治にはバレていない。だったら今まで通り私の存在は思い出さないままの方が良いに決まってるわ………」
「それ本気で言ってるの?」
「当たり前よ」

ライの問いに迷いなく答えたエリス。

「何が当たり前だ。本当はレイに名前を呼んで欲しいのだろう?気づいてほしいのだろう?」
「そんな事無いわ」
「強がらなくたっていいです。だって未練タラタラじゃないですか、本当に申し訳ないだけならわざわざ封印してもらわなくても良いはずです」
「いいえ、ただそれは私自身の罪の意識で………」
「ううん、違うよ。本当はレイと一緒に居たかったんでしょ?僕達も気持ちは分かるよ」
「分かるですって?」
「だって僕達と同じ人を好きになったんだもん」

ライの言葉にエリスはポカンとした顔で固まってしまった。

「だからこそ、無理をしていると我等には分かる」
「だけど零治は零治であって孝介とは………」
「そう自分に言い聞かせているだけですよね?こんなにレイ…孝介を思っていたならたとえ罪があったとしてもバチは当たりませんよ」
「貴女達………」

笑顔でそう答えた星達を見て揺れるエリス。

「自分を責めるのは止めて素直になってみたらどうだ?」
「ウォーレン…………」

暫く決めかねていたが、意を決したのか覚悟を決めた顔で………

「強引なのね………」
「そんな事無いです、素直になれない誰かさんを後押ししてみただけです」
「あっ、でもいくら前のレイ………じゃなくて孝介と同じでもレイは駄目だからね!!」
「それは諦めてもらうぞ」

そんなライと夜美の言葉に驚き、そして声に出して笑った。
そして………

「分かった。私、会って見るわ………」

そう決意したのだった。

「………よし、それじゃあ最後にもう一つ。ホムラの事についてだが………」

ウォーレンが次の議題に差し掛かろうとした時だった。

「………なるほどね、彼の身体を支配するのに手間取ったのは貴方がいたせいだったのね………」

いきなり自分達以外の人の声が聞こえ、驚いて入口の方を振り向いた。

「やはり来たか………」
「ええ。あのユニゾンデバイスのせいで時間がかかったけど、もうほぼ体の支配を取り戻せたわ。貴方達の頑張りも無駄に終わる………」
「あっ………」

ライは思わず声が漏れた。

「私も今の今まで全く気がつかなかったわ、彼の異常な自己回復は貴方のせいだったとはね」
「クレアさん………ですよね?」
「!?」

話を星に遮られそうになり、聞き流そうとしたが、聞こたえ言葉に思わず驚いてしまった。

「その反応、どうやら間違いでは無いようだな」
「何故私の名を………」
「ここに来た時に見たんだ。多分大昔の戦争の光景だと思う。今みたいにゆりかごがあって戦争が終わったってヴィヴィオそっくりな人が現れて、そして貴女も………」
「そして貴女はヴィヴィオにそっくりな女性、オリヴィエに真実を話し、絶望したところで殺した」

「……そうよ」

ライと星の細かい説明にクレアは小さく頷きながら答えた。

「その後私はキルレントに殺されたわ。それでもその時のオリヴィエの絶望した顔を今でもハッキリと覚えてる。あの時の顔と言ったら本当に滑稽だったわ………」

そう恍惚した表情で語るクレア。

「最低………!!」

そんなクレアにエリスが吐き捨てる様に言うが、星達3人の反応は違った。

「それで本当に満足できましたか?」
「………?何を?」
「貴方の好きな人を自分で殺して、そしてその人が好きだった人を殺して。本当に満たされたの?」
「そんなの………」
「当たり前か?いいや、違うな。きっと終わった瞬間虚しさで何もかもどうでも良くなったはずだ。だからこそお前は簡単に殺された。………違うか?」

夜美の指摘にすかさず反論する事が出来ず押し黙るクレア。

「あなたは後悔しているんじゃないですか?本当はオリヴィエの事もそこまで嫌いではなかったのではないのですか?」
「バカな事を………それにさっきから何を根拠に言っているのよ、戯言も大概に………」
「じゃあ何でそんなに悲しそうな顔をしているのだ?」

夜美にそう指摘され自分の顔をさわり確認するクレア。

「悲しい顔………ね………」
「………ねえ良かったら僕達にクレアの事を教えてくれない?何であんな事になったのか?どうしてあなたの好きな人、そしてその人が好きだった人を殺す事になったのかを………」

ライの言葉に返事をせず、暫く黙っていたクレア。

「………いいわ、少し戯れに付き合ってあげましょうか」

そう言ってクレアは近くの椅子に腰かけた………




















「コーヒー飲むか?」
「全く、人の精神の中で何をしているんだが………」
「あんたには言われたくないけど………」

そう呟きながらコーヒーを渡すウォーレン。

「………美味しい。だけどせっかく手に入れた体にいつまでも居続けられても困るわね」
「レイの身体だ!」
「後でちゃんと返してもらうわ」

そんな夜美とエリスの言葉に返事はせず、コーヒーを静かにすする。

「さて、それじゃあ話を始めましょうか………あの頃の時代は何処でも戦争が絶えない時代で、何処に行っても戦いが続いていた中、私はとある小さな国の孤児だった」

思い出すように語るクレア。

「もう国は荒れ果てて、子供だった私にとっても生きるのに必死だった。そんな中、同じ境遇のみんなを集めて私達は小さな組織を作って傭兵に近い仕事をこなすようになった」
「傭兵………」
「レイと同じだね」

ライの呟きにクレアは小さく頷き、話を続けた。

「そう。実際にやっていたウォーレン・アレストもそうだし、有栖零治もそうだけど傭兵の仕事は時代が違っても同じく過酷だった。多くの仲間を失い、ボロボロになっても戦い続け生きてきた。そんな生活をしている中、私達は生きるために傭兵から盗賊団へと変わって行った。人から物を奪い、人を売り、人を殺す。そんな生活をしていきながら私は大人になっていった。そしてそんな時、私は団長と会った………」
「団長って…………」
「ベルガント。あの人は実力で聖騎士の地位まで上がった人でその当時、まだ一部隊を持ったばかりのベルガントは自分の部隊の人間を集めていた。既に聖王家に国を奪われた私の国内では、敵国なのに治安回復に凄く力を入れていた。国民にとっては嬉しい限りだろうけど、私達にとっては仕事がしづらくなる一方だった。聖王家の騎士達には私を除いて誰もが実力不足で、討伐されるのは時間の問題だった。私は時期を見て逃げようと思ってたわ。奪ってきた金銀財宝のお蔭でお金には困らなかったし、聖王家の人間に負けない自信もあった。………だけどそんな自信は直ぐに折られてしまったわ」
「嬉しそうだな………」

ウォーレンの言う通り、クレアは当時の事を思い出しながら笑みを溢していた。

「そうね………あの時は衝撃的だった。男にだって負けた事が無かった私が手も足も出なかった。悔しかったけどその時からね、私は団長に惚れていたのよ」

恍惚とした表情でにこやかに笑うクレア。

「そして負けたその日から私は団長の部隊の副隊長として一緒に戦果を挙げてきた。私は団長の右腕の自負もあったし、団長もそう思っていてくれていた筈、そして正式に聖騎士としてその地位に着いた翌年、私も聖騎士に選ばれる事になった」
「すみません、ちょっと良いでしょうか?」
「何?」

話の途中、不意に星が手を上げ、問いかけた。

「話を聞く限り聖騎士とは戦果を得てなる様ですが、完全な実力主義だったのですか?」
「そうよ。聖騎士は家系やその人の地位も関係無く、実力とそれに伴う戦果を挙げたものがなれたの。私も団長の名前を汚さない様にと精一杯頑張ったから聖騎士に選ばれた。私は嬉しかったわ、また団長と一緒に肩を並べて戦えると。そして何時か自分の本当の気持ちを伝えようと。………でも………」

言葉を濁らせながらカップのコーヒーを見るクレア。
あまり思い出したくなかった光景だったのか、再び話始めるまで少し間が空いた。

しかしその間で何を言いたいのかを分かってしまった。

「………ベルガントとオリヴィエが一緒に居る所でも見たの?」
「………ライの言う通りよ。その時、初めて見る団長の姿に私は動揺した。初めて会ってからずっと一緒に居たのに、私が今まで見た事の無い表情。それを引き出しているオリヴィエに私は嫉妬した。妬ましかった。そこからかしらね、私はオリヴィエから団長をどう引き離そうかと考え始めたのは………」

そこからあまり話したくないのか俯きがちで話し始める。

「色々と考えたわ。あの女を出し抜きために本当に色々と………だけどそんな思いとは裏腹にあの2人の気持ちは固まりつつあった。………だから私はいっその事オリヴィエを殺してしまおうと思ったのよ」
「普通じゃ無いわよそんなの………!!」
「「「………」」」

エリスが呟く中、星達3人は何か思う事があるのか、特に何も言わず話に集中していた。

「そんな中ふと思ったの。どうせ殺すならオリヴィエの絶望する顔が見たくなってきたからベルガントを殺してみる事にしたのよ。そうすれば彼女から団長を奪える。団長は私の中にも残ってるし寂しくはないからね」
「歪んでるな………」
「「「………」」」

ウィーレンの呟きにも星達3人は特に何も言わずただただ黙っていた。

「3人共どうしたの?」

さっきから何も話さない3人を見て不思議に思ったエリスが声を掛けた。

「えっとですね………」
「僕達もクレアの気持ちがね………」
「全部では無いが分かる部分があるのだ………」

「私の気持ちが分かる………ですって?」

星達の言葉に苛立ちを感じたのか強い口調で聞き返すクレア。

「はい。確かに貴女みたいに相手を殺したいと思った事はありません。私達の場合は自ら手を引いたんです」
「手を引いた………?」
「僕達はあのマリアージュ事件の後、桐谷とレイが話している話を聞いていたの」

ライの説明に、その時から零治の中に居た残滓のウォーレンとデバイスの中で封印されていたとはいえ、その光景を見ていたエリスはその時の事を思い出していた。

「話?」
「加奈はレイの事が好きで、ずっとその気持ちを持っていたと言う話だ」
「加奈って零治の妹ね。確かにそんな話をしていた光景があったわ。でもそれが貴女達とどんな関係があったって言うの?」
「………私達はどうすればいいか迷いました。レイとは離れたくは無い、でもきっとレイも加奈のずっと抱いていた気持ちに答えたら私達はどうすれば良いのかと言う感じで色々と考えさせられました」
「何故悩む事があるの?加奈に零治を取られたくないなら抵抗すればいいじゃない!」

理解出来ないのかイライラしながらそう答えるクレア。

「それじゃあ駄目だよ」
「駄目!?一体何が!!」

ライの言葉に声を荒げるクレア。

「レイが幸せになれないだろうが」

夜美の一言に呆気にとられ何も言えなくなるクレア。

「私達はレイに助けられました。そしてそこからレイにたくさんの幸せを貰いました。家族として、平凡だけど毎日が楽しくて、最初こそ上手くいかなかったり苦労した事も多かったですけど、それでも私達は幸せでした。でもだからこそレイには本当に幸せになってほしかった」
「だから僕達はレイから距離を取る事を選んだの」
「まあレイは我等の事を迎え入れてくれたのだがな」

嬉しそうに言う夜美にウィーレンやエリスは苦笑いしながら見ていたがクレアだけ違っていた。

「………何故」
「えっ?」
「何故よ………幸せを貰った?それで満足できたって言うの?他の女が自分の好きな相手にくっついてても良かったって言うの!?」
「それは………分からないです」
「もしかしたら僕達も耐えられなくてクレアみたいに動いたかも………」
「それでも………我等はレイに幸せでいて欲しかった。クレアには無かったのか?自分の事では無く、ベルガントの幸せを想った事は………?」

「………」

その質問にクレアは答えを返す事が出来なかった。
そんなクレアを見て、ウォーレンは口を開いた。

「………これは俺の持論だけど、誰かを好きになってその人に好きになってもらいたかったら、好きだって気持ちだけじゃなくて、相手を想い、考える事も大事だと思う。お前の場合はただただ好きだって言う想いだけが先走りしてそれが相手に伝わりきらなかったんじゃないのか?」
「………そんな事無い、私は彼の片腕として………」
「それは仕事のパートナーとしてだろ?他には無いのか?」

夜美にそう問われるが先ほどと同じく答えられず黙り込んでしまった。

「クレア………貴女はオリヴィエを殺した後、貴女は満たされた顔をしていましたが、貴女の中にいるベルガントは笑っていましたか?」
「………」

星のその問いにもクレアは俯いたまま答えられず固まっていた。

「やっぱり後悔しているんじゃないの?」
「そんな事………」

ライの言葉にハッキリ否定出来ないクレア。

「そして今回の事件をクレインと起こしたのはその時の鬱憤を晴らすためか?上手くいかなかったのは全部世界のせいだ、破壊してやり直さなくてはいけないとか考えたのではないのか?」
「………」

夜美の言った事全てが合っているわけでは無いのだが、それでも否定出来ない部分があるクレアはまたも何も返せず黙ってしまった。

「まあ全て夜美の言う通りとは思いませんが否定出来ない部分もあるから反論出来ないって所ですかね」

呆れながら話す星に同意するライと夜美。

「………じゃあどうすれば良かったのよ!?私はああする事しか団長を手に入れられないと思った!!確かに貴女達の言う通り思うような感覚は得られなかった!!だけど!!だったらあの時私はどうすれば………」
「知らん」

内に溜めたものを全て吐き出すように叫んだクレアの想いは夜美のたった一言によって片付けられてしまった。

「えっと………」
「夜美、お前な………」

苦笑いしながら答えに困るエリスと呆れながら頭を抑えるウォーレン。

「ならば2人は何が正解だと思うか?」

しかし夜美の問いにどちらもハッキリと答えられなかった。

「実際の所、恋愛はどうなるかなんて答えは無いと思います。だって相手の気持ちがどうなっているのかなんて分かりませんから。もしかしから仲良さそうに見えた2人ですが、実際に交際しているって当人達に伝えられましたか?」
「………いいえ」
「立場上隠していたって事の方が確率は高そうですけど、それでも結果が決まっていた訳じゃ無かった。なのに貴女はそれを確かめず、心の中だけでもいいから手に入れようと考えた。それは逃げです。相手の答えを聞くのが怖くて逃げた結果だと思います」
「そしてそれは僕達も同じ。僕達もレイの答えを聞くのが怖くて先に家出したの。やっぱり否定されるのって怖いよね………だからこそクレアの気持ちも少し分かるんだ………」

「………」

そうライに言われ、何かを話そうと口を開くがパクパクと動くだけで言葉が出ない。

「クレア、もう止めませんかこんな事は。世界を終わらせても貴女には何も訪れない。貴女の心も癒えないし、ベルガントが帰ってくる訳じゃ無い」
「………」
「そして我等に返してほしい、我等の事を想い、大事にしてくれる大切な人を………」
「………」
「クレアなら分かってくれると思うんだ………だから………」

そう言って3人はクレアの前に立つ。

「「「お願いします、レイを返してください………!!」」」

3人揃って頭を下げた。

「ちょ!?敵に頭を下げる必要なんてないわよ!!」

慌ててエリスが3人を止めようとするが、3人は頭を下げたまま動かない。

「クレアどうなんだ、お前の答えは………?」
「………」

ウォーレンにそう問われても何も答えないクレア。
しかし暫くして………

「………私にはどうする事も出来ないわ。もう零治の意識は無い、完全に死に、消え去った。いわばこの体は抜け殻、もう手遅れよ………」

俯きがちに申し訳なさそうな顔でそう答えた。

「そんな………」

希望を持ってここまで来た星達にとっては絶望へと叩き落される答え。

「でもウォーレンは………!!」
「彼は零治の中に居た残滓に過ぎないし、零治が消えてもまだ残っていたってだけよ。だから彼が居る事が零治が無事だって保証にはならない」

そんな冷酷な言葉は星達の心の奥に深く突き刺さる。

「レイ………」

今にも泣きだしそうな顔で呟くライ。

「いいえ、零治はまだ生きている」

しかしそんなクレアの答えにエリスはハッキリと否定した。

「何を言ってるの?私が今の状況を作り出したのよ?その私が………」
「分かるわよ。だってあなたが破壊した零治の記憶は言わば零治に付け足した佐藤孝介の記憶でしかない。あなたは零治のトラウマはあれが一番強いと思ったみたいだけど、あの時の死は実際に零治本人が体験した物じゃない」
「確かにそうね。………だけどだからって彼がまだ無事だって保証できる訳じゃ無いわ」
「確定じゃないのなら私はそれに賭ける。私もやっと覚悟を決めたの、彼にちゃんと全てを話すって………だからまだ間に合う。泣いている場合じゃないわみんな!!」

エリスの力強い想いに呼応するように涙を拭き、立ち上がる3人。

「クレア、教えてください、レイの場所を………」
「………分かったわ、だけど期待しないで頂戴ね………」

諦めない4人の顔を見て、クレアも重い腰を上げたのだった……… 
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