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アスタロト

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第二章


第二章

「発明の才能がある人とじゃなければ付き合えないって」
「それで私を呼んだのか」
「確か貴方の得意分野だったよね」
 またアスタロトの顔を見てその彼に問うた。
「発明とかそういうのって」
「確かにな」
 アスタロトもそのことを隠すことはなかった。
「わかっているようだな。発明やそういった類のことは私の得意とするところだ」
「だからさ。力を貸して欲しいんだ」
 彼はあらためてアスタロトに告げた。
「その力。僕に発明の力を授けて」
「御前にか」
「できるよね。そうしてもらいたくて呼んだし」
「まず結論から言おう」
 アスタロトは冷静な口調になって前置きからはじめた。
「できる」
「そう、よかった」
「何度も言うが発明は私の得意分野だ」
 このことも強調する。
「従って御前にその才能を授けることも可能だ」
「そう。だったら」
「すぐに教えてやろう。発明の才能をな」
 召還した要求に関すること自体はすぐに話がついたのだった。
 榮一はこのことにまずは安心して喜んだ。しかしアスタロトはその彼に対して不機嫌な顔に戻ったうえでこう言ってきたのである。
「しかしだ」
「どうしたの?」
「御前の魂はいらん」
 何故かこう言うのである。
「御前達日本人の魂は魔界では断ることになった」
「あれっ、どうしてなの!?」
 これには榮一も驚きを隠せなかった。悪魔と契約したならば自分の魂をその代償とする、これは黒魔術を行ううえでの基本であるからだ。それを向こうから断られて榮一も驚きを隠せなかった。
「魂はいらないなんて」
「日本人は我々を悪とは思っていない」
 またこのことを言うアスタロトだった。
「そしてその魂が魔界に行ってもだ」
「うん」
「御前は知っているかもしれないが悪魔に魂を売ったならばその者は我々の世界である魔界において我々に永遠に仕えることになっている」
「そうだったよね、確か」
「我々もそのつもりで日本人と契約した」
 アスタロトは言う。
「ところがだ」
「ところが?」
「彼等は魔界で我々に仕えはする」
 そのこと自体は問題がないようである。
「しかしそれについて何も思わない」
「そうなんだ」
「御前も間違いなく同じだ。魔界に生まれ変わったと思ってそこでもこれまで通り暮らしている。我々に仕えはしているがそこに恥とか罪悪感といったものは全くない」
「悪魔に生まれ変わったってだけじゃないの?」
 榮一はこういうふうに考えていた。悪魔に魂を売ることを。
「奴隷っていっても高価な存在だから邪険にはしないだろうしね」
「まあそれもあるが」
 実際に奴隷は何時の時代もかなり高価な存在であった。ローマ帝国でもそうであるしアンクル=トムの時代でも本当はそうであった。だから無下に虐待するということはまずなかったのである。
 
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