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本気になっていく恋

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第一章


第一章

                     本気になっていく恋
 最初は遊びだった。
 海川匠馬は黒髪を右のところで奇麗に分けている。それも浮かした感じでだ。大きい口元は一直線で優しげなものであり奥二重の目は穏やかな光を放っている。その目は少し切れ長であり横に一直線である。太く黒い眉もこれまた一直線だ。背は一七五程で締まっている。均整が取れていると言うべきか。
 その彼はだ。この時所謂合コンに参加した。これはたまたまだった。
 友人の一人にだ。こう声をかけられたのだ。
「御前今フリーだよな」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「そうか、じゃあいいよな」
 彼は匠馬の言葉を聞いて確かな顔で頷いた。
「一緒に行ってもな」
「一緒?何処か行くのか?」
「ああ、これから合コンに行かないか?」
「合コンか」
「どうだよ、それ」
 あらためて彼に問うのだった。
「これからな。バイトがあるんなら別だけれどな」
「幸いか?今日休みだよ」
 こう返す匠馬だった。
「今日はな」
「じゃあ丁度いいな。行くか」
 そこまで聞いてまた言ってきた友人だった。
「その合コンにな」
「ああ。それでな」
「何だ?何かあるか?」
「相手は誰なんだ?」
 それを友人に対して問うのだった。
「相手は?俺達と同じ大学生か?」
「ああ、文学部の娘達なんだけれどな」
 そこだというのだ。しかもどうやら同じ大学であるらしい。
「そこの娘達だけれどな」
「文学部か」
「ああ、ここも女の子は多いけれどな」
「まあな」
 二人がいるのは芸術学部である。匠馬は美術科であり友人は音楽科だ。そこでそれぞれの教員免許を手に入れようと頑張っているのである。
「結構な」
「それでも他の学部の娘と会うのもいいだろ」
「そういうものか」
「まあ彼女が見つからなくてもいいさ」
 友人は笑いながら話してきた。
「それでもな。合コンって多分に遊びだしな」
「遊びか」
「遊びだよ。女の子と話して面白いことやる遊びだよ」
 その笑顔には何の屈託もない。心から言っていることがわかる顔だった。
「だからな。気軽に行こうぜ」
「ああ。じゃあ遊ぶか」
「向こうもその気だしな。気楽に、気楽にな」」
 こんな話をしてだ。その合コンに行く匠馬だった。その場所はだ。
 場所はカラオケボックスであった。そこの入り口に入ると小柄で顔立ちは整っているが非常に憮然とした顔の女の子がいた。カウンターに立って頭には横浜ベイスターズの帽子がある。後ろには野球のスコアがある。見れば横浜が広島に十点差で負けてもう八回だ。
「うわ、今日も酷いな」
「ああ。ここまで負けるか」
 友人も匠馬もまずはその点差に驚いた。カウンターを飾るベイスターズグッズが悲しく見える。
「相変わらず弱いな」
「どうしようもないな」
「いらっしゃいませ」76
 その女の子が憮然とした声で言ってきた。
「何名様でしょうか」
「四人な」
「四人か」
「ああ、四人な」
 店の女の子ではなく匠馬への言葉だった。
「四人なんだよ」
「俺達が二人で向こうも二人か」
「ああ、もうすぐ来るからな」
「そうだな、待つか」
「四名様ですね」
 ここでまたベイスターズの帽子を被った女の子が尋ねてきた。
 
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