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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第1部 ゼロの使い魔
  最終章 フリッグの舞踏会

学院長室で、オスマンは戻った4人の報告を聞いていた。

「ふむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」

「いったい、どこで採用されたんですか?」

隣に控えたコルベールが尋ねた。

「街の居酒屋じゃ。わしは客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」

「で?」

コルベールが促した。

「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと言ってしまった」

「なんで?」

ほんとに理解できないといった口調でコルベールが尋ねた。

「カァーッ!」

オスマンは目を向いて怒鳴った。

年寄りとは思えない迫力だった。

それからオスマンは、こほんと咳をして、真顔になった。

「おまけに魔法も使えるというもんでな」

「死んだ方がいいのでは?」

コルベールがぼそっと言った。

オスマンは、軽く咳払いをすると、コルベールに向き直り重々しい口調で言った。

「今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐ私の前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売り売り言いおって……。終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?なあ?ねえ?」

コルベールは、フーケの気を惹こうとうっかり宝物庫の壁の弱点について語ってしまった事を思い出した。

あの一件は自分の胸に秘めておこうと思いつつ、オスマンに合わせた。

「そ、そうですな!美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!」

「そのとおりじゃ!君は上手いこと言うな!コルベール君」

ウルキオラとルイズ、そしてキュルケとタバサの4人は呆れて、そんな2人の様子を見つめていた。

生徒たちのそんな冷たい視線に気づき、オールド・オスマンは照れたように咳払いすると、厳しい顔つきをして見せた。

「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、『破壊の剣』を取り返してきた」

誇らしげに、ウルキオラを除いた3人が礼をした。

「フーケは、城の衛士に引き渡した。そして『破壊の剣』は無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」

オスマンは、3人の頭を撫でた。

「君たちの、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

3人の顔がぱあっと輝いた。

「ほんとうですか?」

キュルケが驚いた声で言った。

「ほんとじゃ。いいのじゃ、君たちはそのぐらいのことをしたんじゃからな」

ルイズはウルキオラを見つめながら言った。

「……オールド・オスマン。ウルキオラには何もないんですか?」

「残念ながら、彼は貴族ではない」

ウルキオラは言った。

「別にいらん」

オスマンは、ぽんぽんと手を打った。

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、『破壊の剣』も戻ってきたし、予定通り執り行う」

キュルケの顔がぱっと輝いた。

「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

3人は、礼をするとドアに向かった。

ルイズは、ウルキオラをちらっと見つめた。

「先に行ってろ」

ウルキオラは言った。

ルイズは心配そうに見つめていたが、頷いて部屋を出て行った。

オスマンはウルキオラに向き直った。

「なにか、私に聞きたいことがおありのようじゃな」

「ああ」

「言ってみたまえ。できるだけ力になろう。君に爵位を授けることはできんが、せめてものお礼じゃ」

それからオスマンは、コルベールに退室を促した。

わくわくしながらウルキオラの話を待っていたコルベールは、しぶしぶ部屋を出て行った。

コルベールが出て行ったあと、ウルキオラは口を開いた。

「あの『破壊の剣』は、俺の世界の剣だ」

オスマンの目が光った。

「本当かね?」

「ああ」

オスマンは目を細めた。

「あれをどこで見つけた?」

オスマンはため息を着いた。

「あれを持っていたのは、私の命の恩人じゃ」

「そいつは今どこにいる?」

ウルキオラは思った。

もし、奴がこの世界にいるのなら、あの時感じた不思議な感情…心について聞きたい。

そうすれば、心の意味がわかるかもしれないと。

しかし、オスマンの言葉は予想のはるか上だった。

「それが、忽然とわしの前から消えてしまったのじゃ…30年前の話じゃ」

「なんだと?」

「30年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『破壊の剣』の持ち主じゃ。彼は、『破壊の剣』でワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。凄まじい怪我を負っていた。私は彼を学院に運び、手厚く看護した。しかし、気づいた時には…」

「消えていたのか?」

オスマン氏は頷いた。

「誰がこの世界に奴を呼んだ?」

「わからん…。どんな方法でこっちの世界にやってきたのか、最後までわからんかった」

「そうか…」

ウルキオラは嘆いた。

オスマンは、次にウルキオラの左手を見た。

「お主のこのルーン……」

「ああ、これも聞きたかった。この文字が光ると、身体能力が向上し技の威力も上がる。本来、扱うことの出来ないあの剣を扱うことができ、尚且つそのあらゆる情報が頭の中に流れこんできた」

オスマンは話すかどうかしばし悩んだ後、口を開いた。

「これなら知っておるよ。イーヴァルディーの印じゃ」

「イーヴァルディー?」

ウルキオラは、ルーンは読めたがその意味はわからなかった。

「そうじゃ。そのイーヴァルディーはありとあらゆる『武器』を使いこなし、その原理を知るそうじゃ。『破壊の剣』を使えたのも、その情報が流れ込んできたのも、そのおかげじゃろう」

ウルキオラは疑問に思った。

「なぜ俺が?」

「わからん」

オスマンはきっぱりといった。

「そうか」

「すまんの。ただ、もしかしたら、お主がこっちの世界にやってきたことと、そのイーヴァルディーの印は、なにか関係しているのかもしれん」

ウルキオラは目線を床に落とした。

すっかりあてが外れてしまった。

ウルキオラは退室しようと、オスマンに背を向ける。

「失礼する」

「ちょっと、待ちたまえ…」

オスマンはウルキオラを引き留める。

「なんだ?」

「いや、実はの…私の命の恩人が残していったものがもう一つあるんじゃ」

オスマンは引き出しを開け、一冊の本を取り出す。

「奇妙な文字で書かれておっての…」

それをウルキオラに差し出す。

ウルキオラは驚愕する。

「これは…」

「どうしたのじゃ?」

表紙には『鬼道全集』と書かれていた。

ウルキオラはオスマンに言った。

「貰っていいか?」

オスマンは笑みを浮かべながら言った。

「よいよい。わしが持っていても、何の役にもたたんからな」

「感謝する」

ウルキオラはしばしその本を見つめたあと、思い出したようにオスマンに言った。

「最後に聞きたいことがある」

「なんじゃ?」

オスマンはきょとんとした顔で答えた。

「この本とあの剣を持ってきた奴の髪の毛はオレンジ色だったか?」

「いや、黒髪じゃったが…」

「そうか…」

ウルキオラはそういって退室する。

(黒崎一護ではないのか…ではなぜあの斬魄刀が…)

ウルキオラは片手に本を持ち、学院長室を後にした。




アルヴィーズの食堂の上の階が、大きなホールになっている。

舞踏会はそこで行われていた。

ウルキオラはバルコニーの枠にもたれ、華やかな会場をぼんやりと見つめていた。

中では着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。

ウルキオラのそばには、シエスタが持ってきてくれたケーキと、紅茶が置かれていた。

ウルキオラは紅茶を入れ直した。

「お前、よく飲むな」

バルコニーの枠に立てかけられた抜き身のデルフリンガーが、驚いたように言った。

ゴーレム戦のときに、自分が使われなかったため、一時は拗ねていたが、ウルキオラの実力をまじかで見たこともあり、すぐに機嫌を取り直した。

「別にいいだろう」

さっきまで、綺麗なドレスに身を包んだキュルケがウルキオラのそばにいて、なんやかんやと話しかけてきたが、パーティーが始まると中に入って行った。

ホールの中では、キュルケがたくさんの男に囲まれ、笑っている。

キュルケはウルキオラに、後で一緒に踊りましょ、と言ったが、ウルキオラは断った。

黒いパーティードレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘している。

それぞれにパーティーを満喫している。

ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。

門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜〜り〜〜!」

ルイズは長い桃色がかった髪を、バレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。

肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さを嫌になるぐらい演出し、胸元の開いたドレスが作りの小さい顔を、宝石のように輝かせている。

主役が全員揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。

ルイズの周りには、その姿と美貌に驚いた男たちが群がり、盛んにダンスを申し込んでいた。

ホールでは、貴族たちが優雅にダンスを踊り始めた。

しかし、ルイズは誰の誘いも断ると、バルコニーにいるウルキオラに気づき、近寄る。

ルイズはウルキオラの前に立つと、顔を赤らしめ、手を差し伸べた。

「私と一曲踊ってくださいませんこと?ジェントルマン」

「断る」

ウルキオラはきっぱりといった。

「なんでよ!」

ルイズは小さく怒鳴った

「俺がダンスなど踊ると思うか?」

「う…確かに…」

「それに、沢山誘われていただろう」

「わ、私はあんたと踊りたいの!」

ルイズは真っ赤になりながら言った。

「世話の焼けるご主人様だ」

ウルキオラはふらふらとルイズの手をとった。

2人は並んで、ホールに向かった。




ウルキオラは無表情でステップを踏んでいる。

ルイズは俯きながら言った。

「ねえ、ウルキオラ…」

「なんだ?」

「帰りたい?」

「帰ろうが帰るまいがどちらでも構わん」

「ほんと?」

「ああ」

ルイズはちょっと顔を赤らめ言った。

「今日はありがとう」

「礼を口にできたのか?」

「うっさいわね!」

ルイズは怒鳴った。

それから、誤魔化すように呟いた。

「その……、フーケのゴーレムに、潰されそうになったとき、助けてくれたじゃない」

「気にするな」

ウルキオラはそう言って、ダンスを続けた。




そんな様子をバルコニーから眺めていたデルフリンガーが、こそっと呟いた。

「おでれーた!」

2つの月がホールに月明かりを送り、ロウソクと絡んで幻想的な雰囲気を作り上げている。

「相棒!てーしたもんだ!」

踊る相棒とその主人を見つめながら、デルフリンガーは、おでれーた!と繰り返した。

「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」 
 

 
後書き
第1巻終了しました(^O^)

普通に疲れますね…

鬼道全集という3つめのオリジナルを出してみました!

個人的に鬼道大好きなので、使わせたい願望もありましたが、これからの話に役に立ちそうなので思わず。はい。

これからもよろしくです! 
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